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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2013年01月27日

ブータン便り その1「電気はあればいいけど、なくてもいい」 (2013.01.27)

新しいあり方へ
 

昨夜、バンコク経由でブータンに到着しました。

FBやブログ( http://www.es-inc.jp/ )にも書きましたが、バンコクの空港で、ブータン行きのカウンターで並んでいたとき、何人もの若い人たちが、ソニーやサムソンといった液晶テレビや炊飯器?など何台もの家電製品をチェックインしていたのにびっくりしました。

液晶テレビだけでも何台も積み込んでいたので、自家用ではないでしょう。近所中の分を頼まれたのか、持ち帰って販売するのかわからないですが、4年半前にブータンに来たときには見られなかった光景のような気がします。

消費文化の到来がブータンをどのように変えていくのか、変わらずに守り続けるべきもののために、国王や政府はどのように対応していくのか、これからもいろいろと学ぶことがありそうです。

昨夜は早めに休み、今朝はいつものように早朝(というより夜中?)に起きました。ブータンの人々は生まれ変わりを信じているため、動物をとても大切にします。ここ首都ティンプーにも野犬がとても多く、あちこちから遠吠えが聞こえます。

一緒に『GNH(国民総幸福): みんなでつくる幸せ社会へ』
を作ったGNH研究所の平山 修一さんたちが訳された本を思い出しました。

『ダワの巡礼―ブータンのある野良犬の物語』

> ヒマラヤの王国ブータンの野良犬ダワ。幼くして家族を人間の手によって奪われた彼が、母やきょうだいを慕って紡ぎ出す吠え声は、犬たちを魅了する不思議な力をもっていた。彼は首都ティンプ犬社会のリーダーとなるが、やがてある事情からその地位を捨て、ただ独り、奇跡の洞窟があるという聖地ブムタンへの旅に出る―。人間や犬たちとの出会いと別れ、そして生と死、老いと病...旅の間に遭遇するさまざまな出来事を一つ一つ乗り越えて、老犬となったダワがたどり着いた境地とは?ブータンから届いた智慧と勇気の物語。

とても不思議な、いろいろ考えさせられる物語です。

今回のブータン出張は、ブータン王国の国王陛下の勅令により設立された国際専門家作業グループに参加するためです。この国際専門家作業グループは、ブータン王国が提案した国連決議65/309「幸福:発展への全体的なアプローチに向けて(Happiness: Towards aHolistic Approach to Development)」(2011年7月19日に全会一致で採択)とともに始まった国際的な取り組みを発展させ、国民総幸福(GNH:Gross National Happiness)に着想を得た「豊かさと幸福:新しい発展のパラダイム」という取り組みを進めるために、幅広い専門知識をもつ経済学者や科学者、哲学者など世界の専門家50~60人をメンバーとして、立ち上げられたものです。ジグメ・ティンレー首相が委員長を務める運営委員会が運営にあたります。

今年の4月に、国連に対し、この新しい発展のパラダイムの究極の目標、目的、状況としての豊かさと幸福についてまとめた報告書(第1部)を発表し、2014年には同パラダイムの総合的な成果についての報告書(第2部)を発表する予定とのこと。

今回の会合は世界中から40名を超える専門家が参加します。二部構成となっていて、最初の3日間はWG1が「豊かさと幸福」についての土台となる報告書を議論し、次の4日間、WG2がそれを土台に、3本柱である「生態系の持続可能性」「公正な分配」「資源の効率的/効果的な利用」について議論することになっています。

私はWG2の「生態系の持続可能性」チームです。WG2参加者は最初の3日間は、ブータンとそのGNH思想についてよりよく知るためのツアーに参加します。1日目の今日は首都ティンプーからバスで2時間、そこから5時間のトレッキングコースで標高3000メートルを超える山頂にある寺院を訪ねます。

明日からは1泊2日で、絶滅危惧種のオグロツルが人里近くに飛来することで有名なフォブジカ渓谷を訪れ、民泊させてもらって、地元の方々ともお話ができることになっています。この渓谷のことは、以前に本で読んでぜひ訪問したい場所でした。

『もう一つの日本 失われた「心」を探して』 (ソフトバンク新書)

~~~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ツルを守る:「電気はなくてもいい」

 ブータンの首都ティンプーから車で約五時間。フォプジカという渓谷にある村を訪ねた。  標高約三千三百メートル。高さと寒さのため、米はもちろん、麦の栽培にも適さず、村人たちは広大な牧草地でヤクやヒツジを飼ったり、ジャガイモを作ったりして生活している。

 ここではまだ、電気のある生活が始まっておらず、宿泊先の観光客向けロッジでも夜は三時間ほどの自家発電があるだけ。午後九時過ぎには、何の予告もなくすべての照明が切れてしまった。

 街灯も、他の民家の明かりもないため、日本では、これほどの「真の闇」を経験することはまずない。部屋の中から窓の外の星空が砂をまいたようにくっきりと見える。唯一の明かりであるロウソクをつけると、その周りで蛾のような生き物が暴れ始めた。

 かつてこの村でも電気を入れる構想があった。

 が、実現しなかったのは、一帯がヒマラヤを越える渡り鳥「オグロヅル」の飛来地だからだ。渓谷に電線を引けば、そのコースを妨げることになり、ひっかかって命を落とす危険もある。

 冬の終わりから春先にかけてやってくるオグロヅルは開翼時に二メートル近くになる絶滅危倶種に指定された鳥だ。タンチョウヅルにも似ており、首の部分が黒いのが特徴。世界に数千羽生息するとされるが、大型の野鳥が、これほど人家に近い場所で見られるのは奇跡的なことだという。

 長い長い夜が明けて、緑の美しい村を散策すると、道端の停留所のような場所で女性たち数人が子供をおぶっておしゃべりしていた。都会からトラックで届く物資を待っているのだという。

 自給自足に近い生活を送るこの村の人々。電気がないのだから、テレビも炊飯器も冷蔵庫もない。日が昇れば田畑で働き、暗くなれば寝るという素朴な生活を、もう何世代も繰り返し続けてきた。

 その一人、ハーンさん(31)は子供三人と妹、夫の六人家族。下の子はよちよち歩きを始めたばかりで農作業や牛の乳搾りの合間も目が離せない。休む時間はほとんどなく、残った家事やチーズ作りの仕事は夜が更けてからロウソクの明かりの下でするしかないという。

「やはり電気が欲しいですか? それともツルのほうが大事ですか?」

 少々、意地悪な質問に、ハーンさんは、恥ずかしそうな笑顔でこう答えた。「電気はあればいいけど、なくてもいい。でもツルはそういうものじゃない。くると幸せな気分になれるから。子供のころからずっと見てきた烏だから」この旅で、最も心に残る言葉だった。

~~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「あればいいけど、なくてもいい」。考えさせられる、大事な言葉ですね。

この本は2008年の出版ですが、その後、「太陽光発電が設置されている」「政府がツルのために、お金を掛けて電線を地下に敷設した」などの情報を聞いています。実際にどのような感じなのか、見に行けることがとても楽しみです。またご報告できたら、と思っています。

ちなみに、ブログにはできるだけ写真も添えていますので、よろしかったらぜひご覧下さいー(^^;

http://www.es-inc.jp/

 

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