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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2013年01月07日

スウェーデンはいかに核廃棄物の最終処分地を決めることができたのか?~鍵は対話と合意形成 (2013.01.07)

エネルギー危機
 

イーズの共創フォーラムウェブサイトの現在のトップ記事はこちらです。

【動画】スウェーデンはいかに核廃棄物の最終処分地を決めることができたのか?~鍵は対話と合意形成(1)
http://www.es-inc.jp/insight/2012/ist_id003477.html

スウェーデンには、放射性廃棄物の最終処分地を引き受けることを決めた自治体があります。

核廃棄物は言うに及ばず、震災がれきの受け入れをめぐっても拒絶反応の強い日本からみると、「えっ? 本当? どのようにして?」と思う人も多いでしょう。この背景には、長年にわたる信頼構築のための取り組みや対話がありました。

スウェーデンの核燃料・廃棄物管理会社(SKB)は、どのように市民とのコミュニケーションを進め、信頼を関係を築いていったのでしょうか?

私たち日本も学べきことが大いにあると思い、事情に詳しい、一般社団法人ナチュラル・ステップ・ジャパン(本部:スウェーデン)顧問 高見幸子さんにお話をお伺いしました。

<プレゼン資料「放射性廃棄物に関するスウェーデンの国民の意識」(約22分)>

関連リンク ※続けて、高見さんに質問にお答えいただきました:
【動画インタビュー】原発に関わる対話と合意形成について
~スウェーデンでの事例にまなぶ~(2) [映像:約9分30秒]
http://www.es-inc.jp/insight/2012/ist_id003475.html

動画はぜひ上記のサイトから見ていただくとして、ここ

> SKBは、最終貯蔵候補地を探す段階で自治体や市民から合意がまったく得られな
> いという経験をしています。
>
> 1980年代に国内で最終貯蔵に適した地層を探す調査の段階で、コミュニケーショ
> ンに失敗したのです。原発の放射性廃棄物は一般の人にとって非常に分かりにく
> い物質です。誰も、10万年もしないと安全にならない非常に危険なものを自分の
> 家の近くにもってきてもらいたくありません。SKBは、そういった市民の不安を
> 考慮せずトップダウンで一方的に調査を進めていたため、住民の不信感を買った
> のです。

現在の日本とまったく同じ状況だったのですね。そこからどうやってコミュニケーションをとり、信頼を築き上げていったのでしょうか?

~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~

スウェーデンでの放射性廃棄物をめぐるコミュニケーション

スウェーデンでも原発に関するさまざまな議論が数十年間行われてきています。今回は、放射性廃棄物を引き受けた自治体とのコミュニケーションはどのように進められてきたのかを中心にお話ししたいと思います。

まず、歴史的に見てみると、1970年代にオイルショックがあり、政府は脱石油対策として原発を導入しました。しかし、1979年にスリーマイルで原発事故が発生、国民に不安がひろがりました。そして、1980年に国民投票が行われ、原発を段階的に廃止するという案が過半数を取ったのです。

さらにその翌年、2010年に原発を全廃するという議決に至ったのですが、その後15年経っても再生可能エネルギーへの切り替えが進まなかったため、1年かけて議論を重ね、1997年に政策の見直しを図りました。

その結果、2010年までに全廃することは止め、長期的に持続可能なエネルギーシステムを目指すことにしました。それまで、スウェーデンに原発は12基ありましたが、デンマークに近い原発2基を1999年と2005年に1基ずつ廃止しました。

スウェーデンでは1997年に原発をつくる段階で、放射性廃棄物の長期的責任についての法律を制定し、1984年には廃棄物処理の研究や処分する実地費用を電力会社が積み立てていく資金に関する法律も制定しました。

そして、スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社(SKB)を設立し、さらにSKBを監視するための機関を設立しました。ひとつは、スウェーデンで一番大きい環境保護NGO自然保護協会の中に作ったMKGという環境NGOで、所長は原発専門家の学識経験者です。

もうひとつは環境省の管轄にある放射線安全庁(SSM)です。そして、科学者が委員をつとめるKarnkraftradet(原発委員会)という機関もあり、これら3つの機関が、SKBの放射性廃棄物最終貯蔵の解決策に対して意見を言い、監視をしています。

スウェーデンの低レベル放射性廃棄物(医療・産業関係用)の最終貯蔵所はすでに、オスターハンマー(Osterhammnar)自治体にあるフォーシマーク(Forsmark)という原発立地地域に作られて利用されています。

高レベル放射性廃棄物の貯蔵所は、まだできておらず、オシュカシハム(Oskarshamn)自治体にあるオシュカシハム(Oskarshamn)原発立地地域にあるCLABという中間貯蔵施設に貯蔵されています。

そして最近SKBは、最終貯蔵所の受け入れ自治体を決定し、政府にSKBの解決方法で最終貯蔵の実施開始の許可申請を出したのです。それが昨年、ちょうど福島原発事故が起きた日でした。

次に、コミュニケーションについてお話しします。

SKBは、最終貯蔵候補地を探す段階で自治体や市民から合意がまったく得られないという経験をしています。

1980年代に国内で最終貯蔵に適した地層を探す調査の段階で、コミュニケーションに失敗したのです。原発の放射性廃棄物は一般の人にとって非常に分かりにくい物質です。誰も、10万年もしないと安全にならない非常に危険なものを自分の家の近くにもってきてもらいたくありません。SKBは、そういった市民の不安を考慮せずトップダウンで一方的に調査を進めていたため、住民の不信感を買ったのです。

ある自治体では、市が調査の合意をしていましたが、環境保護団体のグリーンピースが、反対運動を起こした結果、住民投票になり、過半数の反対で調査ができなくなったというケースもあります。また、他の調査の候補にあがっていた自治体でも根強い反対運動がありました。そこで、SKBは、その後20年間、現地調査をせず、社会とのコミュニケーションを取ることに力を入れたのです。

SKBは、技術者がトップダウンで技術的な説明をするだけではコミュニケーションに失敗することを学びました。そこで、住民の不安や意見を尊重し、住民とステップバイステップで話し合い、信頼を築いていくことが大事なステップだと認識したのです。

それゆえ、放射性廃棄物の解決方法を説明する前に、放射性廃棄物とはまずどういうもので、どういう問題があるかを説明し、それから解決方法について話すようにしました。また、受け入れるかどうかの最終的な決定は自治体、つまり住民に一任したのです。

SKBは、大きい会場で100人、200人集めて一方的に説明するのではなくて、小さなグループや個人のレベルで話を重ねる、ダイアログ(対話)を重視しました。

また、放射性廃棄物運搬船というのがあるのですが、それを夏休み期間に一般市民に公開して、安全に運搬できることを実際に目で見て、理解してもらったのです。リスクと安全を実体験で、理解してもらうという方法で、コミュニケーションを取り始めたわけです。

また、CLAB中間貯蔵施設も一般公開をし、年間1万2千人の見学者が訪れています。見学舎には専門家だけでなく、一般の市民や学校の生徒、また、海外からの視察者もいます。

更にSKBは、地下貯蔵の方法を研究するためにエスポ岩盤研究所を作りました。実際に500メートルの地下に実験用の貯蔵所を建設したのです。長期に貯蔵した場合にSKBが考える貯蔵方法が安全かどうかを調査するためです。そして、この研究所も一般公開し、見学ができるようにしました。この場所で科学的な調査やSKBの取り組みを説明して、コミュニケーションを図っているのです。

SKBは、放射性廃棄物最終貯蔵所の立地調査のために自治体に交付金を支払っていません。なぜなら、交付金を出すと、住民側には「SKBは危険なものを押し付けようとしている、迷惑をかけるからお金出す」と受け取られかねないからです。

もちろん、最終貯蔵所ができると、そのためのインフラができ、雇用を生むメリットはあります。しかし、それ以上に重要なことはSKBが安全な方法で処理ができることを見せて住民に信頼を得ることです。

それゆえに、交付金を出すことを前提にせず、住民との対話を重視してきました。まずは問題を話し合い、解決策をみせ、そして最終処分の受け入れの決定については、住民の意思を尊重する、といった地道な対話を重ね、理解を深める活動をしてきたのです。

そして、SKBは2001年に政府から最終貯蔵の方法の承認が通り、そのサイト調査とボーリング調査を行う二つの自治体からも参加合意を得ることができました。1つはストックホルムから北116キロのオスターハンマー自治体のフォーシマーク原発とスウェーデン南部のオシュカシハム自治体のオシュカシハム原発です。

スウェーデン国内で、

「もしあなたの自治体に使用済の放射性廃棄物の最終貯蔵に適した場所が見つかったとしたら、受け入れに賛成しますか反対しますか?」という質問をしたところ、全国の平均は「賛成」は41%ですが、オスターハンマーは71%、オシュカシハムは76%というように、原発立地地域の住民は受け入れに賛成するという結果がでました。

それはすでに原発があり、雇用がそこにあるから、ということもありますが、SKBは原発立地地域のオスターハンマーとオシュカシハムに施設を持っており、現地の住民と20年間というスパンでコミュニケーションをし、信頼関係を築いてきた実績が賛成の大きな理由といえます。

またもう一つの質問で、「将来もっと良い技術ができるかもしれないから、将来の世代に任せよう」に比べ、「今の世代がこの問題を解決すべきだ」という回答は約8割支持の結果が出ています。(スウェーデンの全国平均、オスターハンマー、オシュカシハムいづれも)

SKBは彼らがコミュニケーションについて学んだことの結論をこう語っています。

それは、施設を一般公開することと、知識を地域のステークホルダーと共有することが非常に重要だということです。オシュカシハムでは、LKOという自治体議会に諮問組織があり、政治家も一般の市民と混ざって、勉強会を開催しています。

また、その勉強会の開催費用はSKBが支払うのではなく、原発の使用済燃料の貯蔵の研究や実施のために積め立ててある貯蓄資金から支払われます。それゆえ、SKBとは中立の立場の研究者を自治体が招聘できます。そのお陰で、参加者がいろいろな立場の人の意見、研究発表を聞くことができ、勉強や意見交換を重ね、知識レベルが非常に高くなるのです。

同様に、SKBを監視するNGOのMKGの二人のスタッフの給料もその資金から出ています。MKGが、SKBを監視する役割があるからです。そのため、MKGも住民に会って話もでき、住民側はSKBの意見だけではなく、研究者の意見やNGOの意見も聞けます。そうすれば、だんだんと自分たちの意見を持つことができ、自治体内で合意形成をしていくことができるのです。

それと、もう一つ大事なことは、ダイアログです。ダイアログは相手の意見を聞くことですが、そのなかでも個人か小さいグループで行うことが重要です。大規模集会や広告などの一方的なコミュニケーションをしません。自分が感じる不安や恐怖については個人や小さいグループであるからこそ話せるわけで、それを尊重することが信頼を築く上で大事だということを結論として出していました。

SKBの使用済核燃料処理の解決方法は33のバリアを作って貯蔵する方法です。まず、使用済核燃料を銅のキャニスタに入れて、その周りにベントナイトという粘土を入れ、その周りは岩盤というバリアシステムです。

使用済核燃料は、30年間、オシュカシハムのCLAB貯蔵施設で水槽の中で温度を下げ、それからオシュカシハムで建設予定の施設で銅キャスタに入れ、その後、オスターハンマーに運び最終貯蔵所で最終貯蔵する予定です。オスターハンマーもオシュカシハムもこのSKBの解決策に合意をしたのです。

SKBはこの案を昨年、政府に申請しましたが、申請審査のプロセスは数年かかるため、SKBの案が許可されるかどうかはまだわかりません。

まず、放射線安全庁と環境裁判所が審査をします。放射線安全庁は、放射線の安全について審査をし、環境裁判所は環境法典の視点から審査をします。それから、環境NGOや関連自治体、県当局、大学、他の行政当局の意見を収集し検討します。また、中立的な立場のOECD諸国の原子力国際機関NEAの専門グループの検査も受けます。現段階では「安全性に関して、不足している調査報告を補完することが要求されています。

そして、資料が補完された後に放射線安全庁と環境裁判所が政府に許可を出すべきかどうか検討し、提案をします。その提案を受けると、政府は、関連する二つの自治体に意見を聞きます。そして、政府が許可決議をした後も、最終的に建築許可を出す権利は自治体に与えられています。

参考として、NGOのMKGがSKBの申請した案について指摘している点を紹介します。一つは、最終貯蔵所がバルト海沿岸にあることを問題としています。その理由は、貯蔵のバリアシステムが何万年もつのかといった調査が不足しているということと、漏れた場合、貯蔵場所が海に近いため放射性廃棄物の物質が海水に漏れる問題があるというのです。

それで、漏出事故が起きたとしても海まで到達するまでに時間を稼げる内陸に貯蔵場所を探すべきだと指摘しています。また、地下500メートルではなく人間の生命線の地下水と関係ない何千メートルという深層に埋めてしまうという方法の調査もするべきだとも指摘しています。

このように、スウェーデンにおける高レベル放射性廃棄物の処理の方法は、まだまだ解決ができたとは言えないのですが、一応、オスターハンマーとオシュカシハムという2つの自治体がSKBの提案の方法で、オスターハンマーでは、最終貯蔵所、オシュカシハムでは、キャスタ施設の建設を受け入れるという合意形成ができたという点では、彼らのコミュニケーション、スウェーデンの監視システムと審査プロセスから学べることがあるのではないかと思います。

<参考:関連情報ページ >
※すべて英語ページです。

■SKB AB(スウェーデン核燃料・廃棄物管理会社)
http://www.skb.se/default____24417.aspx

■SSM(放射線安全庁)
http://www.stralsakerhetsmyndigheten.se/In-English/About-the-Swedish-Radiation-Safety-Authority1/

■NEA(Nuclear Energy Agency)
http://www.oecd-nea.org/

■MKG(核廃棄物を監視する環境NGO)
http://www.mkg.se/e

~~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~

日本では、政局のごたごたもあって、エネルギーに関する「国民的議論」は終わってしまったかのような感がありますが、原発依存度がどうなろうと放射性廃棄物の問題は残ります。

日本でも10年、20年という時間スパンで、逃げやだましではない、しっかりしたコミュニケーションをはかり、国民の理解や関心、議論を深めていくことしか、解決の方法はないのだと思います。

 

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