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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2012年11月29日

デンマークのある風力発電のお話(2012.11.29)

 
『100%再生可能へ! 欧州のエネルギー自立地域』 http://www.amazon.co.jp/dp/4761525304/ref=as_li_tf_til?tag=junkoedahiro-22 デンマークの章にこのような記述があります。 > 政府は今後、風力発電の割合を大幅に増やしていく予定だが、外部からの資本投 資による陸地への風力発電の計画が >あっても、地域住民の拒否にあうことが多い という。そのため大手電力会社は、発電コストは陸地の倍であっても大規>模洋上 発電に進出している。 > > 一方、多くの住民は各自がオーナーシップを持つことができる自治体による風力発電導入には積極的である。売電によ>る収益が自治体の懐に入れば、その恩恵は 住民に平等に還元されるからだ。こうした実質的な利益が地域のイニシアチ>ブを促進している。 日本でも北海道や東北など風教の良いところを中心に風力発電が増えてきましたが、「地域の外からの資本投資によるもの」がその大多数を占めると聞いています。地元の人々が自分たちで投資をして利益も得るしくみがもっと広がれば、と願っています。 たとえばこれから増える洋上風力も、漁業者が投資することで、海では魚、その上空では風車という二毛作?ができるようになったら、建設への抵抗や反対もかなり変わってくるのではないでしょうか? デンマークでは風車の8割以上は地元の人々が所有していると聞いています。バラトンメンバーに、エネルギーの分野で著名な研究者であるノルゴー氏がおり、毎年の合宿でご一緒しています。著作の1冊は翻訳されていますね。 『エネルギーと私たちの社会―デンマークに学ぶ成熟社会』 http://www.amazon.co.jp/dp/4794805594/ref=as_li_tf_til?tag=junkoedahiro-22 ノルゴー氏に「デンマークでは風車の多くが地元の所有なのですね? どういうしくみになっているのですか?」と聞いたところ、古い記事だけど、まさに自分が地域で関わった事例があるからどうぞ、と『Wind Directions』2000年9月号の掲載記事を渡してくれました。かいつまんでご紹介します。 ~~~~~~~~~~~~ここから引用~~~~~~~~~~~~~~~~ 『Wind Directions』2000年9月号より 事業紹介:ハーベン風力発電協同組合 デンマークの海岸沖にある風力に恵まれた島では、1986年以来、協同組合所有の風力発電所が稼働を続けています。このベンチャー事業の歩みと、それが社会的、経済的に収めた成功について、ヨルゲン・ノルガードとベント・リス・クリステンセンが語ります。(ここでのノルガード氏=バラトンの仲間ノルゴー氏です) (本文) 1989年1月、デンマークのハーベン村で農業を営んでいたハーディング・アンダーセンは近隣の人たちを集めて集会を開きました。「風車小屋」と名づけられた彼の家は、1920年代に風車を利用する発電が始まった頃、風車発電を試みた場所の一つでした。13kwのディーゼルエンジンとかなり大きな鉛のバッテリーを使ったこの風車は、エーア島の北西先端に位置するこの村に初めて、最大出力20kwの電力を供給したのです。 アンダーセンが集会を呼びかけたのは、同地区での風力タービン建設の可能性を討議するためでした。この村に住むこの記事の筆者の一人は、エネルギー技術者として選択案を提出するよう求められました。 入手し得る風力データに基づいた試算は、この投資は少なくとも年15%の利益を生むことを示しました。出席者15人のうち十分な人数が熱心に風力発電建設を求め、数ヶ月の準備期間の後、近隣の小さなセビの町に協同組合が設立されました。組合のメンバーは27世帯です。 ●協同所有権(Cooperative ownership) 当時の政府の規定では、組合メンバーは自分の世帯の電力消費量に応じた持分に加えて35%の持分を持つことができました。ということは、年間4000kWhを消費する世帯の持分は5口です(持分1口は1000kWhの予想風力発電電力量に対する権利を持つ)。この規定は、人々の節電意欲をそぐことになったため、後に改定されました(以下参照) 風力タービンは、Nordtank製の出力99kW、回転ローターの直径20メートル、回転部の中心の高さ25メートルのものが選定されました。これが選ばれたのは、100kW以上の風力タービンを設置するには特別な建設許可が必要だったからです。 ひと夏かけて組織の整備や実際的な事柄等をすべて整え、村の近くの草原の中の、樹木やその他の障害物等風を妨げる物が一切ない、風の強い場所が設置場所として選ばれました。その土地はハーディング・アンダーセンの所有で、彼は穏当な額の補償で土地を提供しました。 地元の土建業者がコンクリート基礎スラブを流し込んで数週間後、いよいよタービンの建設です。良いお天気で、珍しくも風のない穏やかな9月のある日、村人たちが総出で見物する中、風力タービンが運び込まれ、クレーンを使ってたった一日で組み立てられました。 いよいよ稼働開始!でしたが、風がなく、試運転はその数日後になりました。正式なオープニング祝賀会が、地元の町長をはじめテレビ局も参加して、70人が出席して10月に開かれました。 ●出資と持分所有者 風力タービンにかかった費用は、総額で1986年のデンマーク通貨で766,000クローネでした(以下の価額もすべて1986年当時のものです)。風力発電への投資に対しては政府補助が15%あり、持分所有者たちに実際にかかったコストは650,000クローネでした。 ハーベン風力発電では268,000kWh(年)の発電量が予定されていたので、持分一口あたり1000kWhとして、268口の割り当てが可能でした。27の持分所有者が参加して、それぞれ、個々の電力消費量によって上限が決まっているものの、1口から20口までの間で持分を取得し、出資額は1口あたり2,600クローネとなりました。これは銀行から低利で借りることができ、そればかりか、税控除措置が受けられました。 ●稼働と収益 ハーベン風力発電は、事業開始以来、社会的にも経済的にも成功を収めました。 セビの小さなホテルで毎年、年次総会が開かれ、それ以外にも電力生産高100万kWh、200万kWhの到達記念祝賀会や10周年記念祝賀会が開かれました。 経済的には、投資に対する収益還元利率は、当初予想されていた年15%どころか20%近くにまでなりました。 政府の規定に従えば、電力供給会社は、他から電力を買うことで減少した生産コスト(主として燃料の節約分)に応じたレートですべての電力を買い入れなければならないことになっており、その買い入れ価格は1986年価格で1kWHあたり0.24クローネでした。 政府が、二酸化炭素排出ゼロという風力発電の利点を支援するために、これに更に0.27/kWhを補助したので、1986年での電力会社への売り渡し価格は合計で0.51/kWhになりました。 グリーン電力事業に満足のいく収益をあげさせるという目的で、デンマークではずっと、国内すべての風力発電電力は上記の価格で電力会社に売られてきました。 一方、持分所有者のほうは、必要な電力をすべて1.00/kWh前後の値段で買っています。管理上からいえば、このやり方のほうがそれ以前のやり方よりずっと簡単になりました。以前は、組合員は自分の必要とする電力をある程度、この風力タービンが生産する電力で満たすことになっていたのです。 ●修理と規則の改定 14年間の稼働中、タービンにはたびたび修理する必要が出てきましたが、なお回転の調子は良く、収益を上げていました。最も深刻な問題は騒音でした。風力タービンに備え付けのギアボックスがかなりの騒音を出したのです。しかし、この問題にもうまい解決法が見つかりました。新型のギアボックスに取り替えることで、騒音がきわめて低レベルまで下げられるばかりか、発電量も増加したのです。 この取替えにかかるコストは170,000クローネと試算され、この費用については、生産能力の予想年60,000kWh増という見通しに基づき、持分1口あたり3,200クローネで新たに持分60口分の所有者を募って賄いました。 一方、各持分所有者の所有し得る口数についての規定が1988年に改訂されました。 現在、各メンバー世帯は年6,000kWhにあたる持分を保有することができ、それ以上の電力を消費している世帯は消費分に応じた持分を所有することができます。そして、これらの所有限度額にさらに35%を上乗せできるのです。このため、新たに増資された60口の持分のほとんどは、協同組合内の既存の持分所有者に売ることができました。 この技術的な変更のために組合の組織構成は少し変わりました。こうして、持分の口数は、推定平均年間生産能力328,000kWhに応じて328口となりましたが、実際の生産能力はずっと、ほぼ毎年この推定生産能力を超えています。 修理は他にもまだ何回か必要となりました。そのうちの一つ、1993年の発電機の故障による修理には60,000クローネかかりましたが、これは落雷による故障だったため、保険でカバーされました。 しかし、基本的には、修理にかかるコストがこれまで風力発電の経営収支にそれほど大きな負荷になったことはありません。ただ、1999年に起きた発電機の破損事故は例外と言えるかも知れません。修理に70,000クローネかかり、そのコストは収入の3分の1近くに達しました。 ●電力生産と経営収支 ハーベン風力発電所の所有者にとって、最初の投資への利益還元はこれまで好成績をあげています。投資に対する配当はこれまでずっと年に約20%で、1992年の大修理があったにもかかわらず総投資額の2.5倍が戻ってきています。5%の減価償却(寿命20年として)を差し引いても、投資に対する利益率は15%ですが、これは、デンマークの税制で免税対象になっているので、だいたい30%程度の利率にあたります。 2点、強調しておかなければならないことがあります。 一つは、この風力タービンは、たぶんデンマーク中で最良の立地条件をもつ場所に建設されているということです。どの方向からの風も受けることができ、沖合いとほぼ同じ立地条件です。 一方、もう1点は、この風力発電機は稼働開始から14年経っており、現在生産されている新しいタービンはずっと生産性が高いということです。 ●新しい法規制と広がる将来展望 1999年以来、デンマークでは風力発電の経済面に関係する規定が全面的に変わりつつあります。一般的にいえば、補助金が切り下げられ、風力発電事業の収益が減少する方向に向かっています。このハーベン風力発電の経済状況から判断すると、その変化がそれほど不当だとは思えません。もっともハーベンは例外的に立地条件に恵まれているのですが。 風力発電もまた、デンマークに再生可能エネルギーシステムを生み出すための重要なステップを代表するもので、私たちは風力発電がもたらす恩恵に対して対価を払うにやぶさかではありません。 ハーベン風力発電は、家屋の暖房に電気を利用する数世帯を含む約30世帯の電力消費をカバーします。家屋暖房に電気ではなくもっとコストのかからないエネルギー源を使用し、また、本腰で節電に取り組むようにすれば、ハーベンの発電容量で175世帯の電力消費をカバーすることが可能でしょう。いえ、もっと多くの世帯をカバーすることができるかもしれません。 電気製品をある程度改善することで、一般的な欧州の生活スタイルが世帯あたり年間750kWh前後で維持できるようになるでしょう。これは現在デンマーク人が消費する電力の平均の5分の1です。将来、そのようになれば、このハーベン風力発電の電力で500世帯近くが毎日を幸せ過ごすことができるようになるでしょう。 ~~~~~~~~~~~~引用ここまで~~~~~~~~~~~~~~~~ 私が聞いたところでは、特に外部からの資本投下を妨げたり、地域の所有を法的に後押しする施策があるわけではないようです。何よりも地域の人々が「地域の風は自分たち地域のために役立てる。そのためには他人に丸投げしたり頼ったりするのではなく、自分たちで考え、計算し、試行錯誤しながらでも自分たちでやっていく」という強い意思を持っていることが鍵のように思われました。
 

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