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2012年09月17日

アースポリシー研究所より「二つの物語:天然痘とポリオ」 (2012.09.17)

大切なこと
 

レスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所からのリリースです。少し前のものですが、実践和訳チームが訳してくれたものをお届けします。考えさせられます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

二つの物語:天然痘とポリオ
www.earth-policy.org/data_highlights/2011/highlights19

人類は何千年にもわたって天然痘に苦しめられてきた。18世紀、フランスそしてスウェーデンでは子どもの10人に1人が天然痘で命を落としており、20世紀には、このウィルスが原因で世界中で3億〜5億人の死者が出た。有効な治療法がかつては開発されていなかったのだ。

この甚大な被害をもたらす病気を根絶したことは、公衆衛生上の最大の業績の一つである。根絶の際には、流行を追跡してまん延を防ぐために大規模な予防接種と監視が行われた。1977年、世界保健機構(WHO)が集中的な根絶プログラムを始めてから10年後、ソマリアで最後の天然痘の自然発生例が確認された。そして、1980年5月8日、世界保健総会で天然痘根絶が宣言された。

【グラフタイトル】世界の天然痘の症例数(1920年〜2010年)
【縦軸】報告された総症例数
出典:WHO

1988年、WHO、国際ロータリークラブ、米国疾病対策センター、ユニセフが、世界ポリオ根絶計画に着手したとき、予防接種と監視でポリオにも終止符を打てると楽観視されていた。1988年から2001年にかけて、世界のポリオの症例数は、30万件以上から483件にまで減少し、成功は間近に見えた。

【グラフタイトル】世界の野生型ポリオの症例数(1985年〜2010年)
【縦軸】推定および報告された総症例数
出典:WHO、GPEIによるEPI

けれども、それ以来支出額が増え、より効果的なワクチン開発などの医学の進歩があったにも関わらず、世界では概して1,000件以上のポリオ症例が認められている。

【グラフタイトル】世界の野生型ポリオの症例数(2000年〜2010年)
【縦軸】推定および報告された総症例数
出典:GPEI

ポリオはかつては125カ国で流行していたが、今では感染が途絶えていないのはアフガニスタン、インド、ナイジェリア、パキスタンの4カ国のみである。インド以外は、世界でも上位の「破綻しつつある国家」だと見なされている。

破綻しつつある国家とは、自国領土の一部または全体を支配する力を失い、もはや国民の安全を確保できなくなっている国のことであり、国際的にも人々の健康を脅かす恐れがある。最近ポリオ根絶の機会を逃したことから明らかなように、これらの国には、感染症のまん延を管理する国際的ネットワークに参加できるだけの高度な医療体制が整っていないのではないかと考えられる。

2003年、ナイジェリア北部のイスラム教の宗教指導者たちが、ポリオの予防接種プログラムはエイズと不妊を広める策略だと主張して、そのプログラムに反対し始めた。結果として、地域の予防接種の取り組みは頓挫し、ナイジェリアのポリオ症例数は続く3年間に3倍になった。

【グラフタイトル】ナイジェリアの野生型ポリオの症例数(2000年〜2010年)
【縦軸】確認された総症例数
出典:GPEI

その一方で、メッカへ毎年巡礼の旅をするナイジェリアのイスラム教徒が、インドネシア、チャド、ソマリアといったすでにポリオが根絶されたイスラム教国にポリオウィルスを再び持ち込み、この病気を広めている可能性がある。これに対して、サウジ当局は、ポリオの症例が報告されている国から入国する若者のすべてにポリオ予防接種を義務づけた。

2009年2月までに、ナイジェリアの州の知事たちは、感染を食い止めるため、ポリオワクチンが子どもたちに十分行き渡るようにしようと約束した。これによって、症例数が2009年のおよそ400件から2010年の21件まで全国的に減少した。2011年前半に国民の関心が病気の予防から選挙に移ると、ポリオの発生件数は増加した。

ナイジェリア同様、パキスタンでも国が安定していないことがポリオ根絶の大きな障害になっている。2007年の初め、パキスタンでの根絶も間近に思えたころ、北西辺境州で予防接種への猛反対が起きた。2009年には、タリバンの反対で衛生当局がパキスタンのスワト渓谷でポリオの予防接種ができなくなり、キャンペーンがさらに遅れた。その後、2010年に起こった壊滅的な洪水で何百万もの人々が移住し、予防接種戦略が中断し、ポリオをまん延させてしまった。

今年、パキスタンではまたポリオ発生件数が増え始めている。2011年8月の終わりには、パキスタンのポリオの症例は前年の同じ時期が43件だったのに対し77件に増えている。世界ポリオ撲滅計画の独立監視委員会は、「今のままで行くと、パキスタンは、世界のポリオ根絶を妨げる国になる危険がある」と述べている。

【グラフタイトル】パキスタンの野生型ポリオの症例数(2000年〜2010年)
【縦軸】確認された総症例数
出典:GPEI

ポリオがあらゆる場所で根絶されるその時まで、世界各国の不安が消えることはない。ポリオのまん延は、まさに、破綻しつつある国家の不安定さが、他の国々にリスクを与えていることを示す一つの例でしかない。これは、厄介な疑問を提起する。ポリオ根絶という目標は、かつては私たちの手の届くところにあった。破綻しつつある国家が存在する世の中では、もはやこの目標には届かないのだろうか?

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リア・ジャニス・カフマン
電話:(202)496-9290 内線12
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アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue NW,
Suite 403 Washington, DC 20036

(翻訳:小坂 由佳 チェッカー:小宗 睦美)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

文明は進歩するものだ、と思っていたのに、こうして後退していくこともある……。後退を食い止め、先に進むことができるのか? それとも世界はずるずるとさまざまな面で後退していってしまうのか……?

 

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