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2012年08月15日

レスター・ブラウン氏「食料問題で世界は窮地に」 (2012.08.15)

食と生活
 

米国では半世紀ぶりの干ばつで穀物が大打撃を受けているとの報道に、危機感を募らせている方も多いことでしょう。

この状況についてレスター・ブラウン氏が7月24日に出したプレスリリースを、実践和訳チームのメンバーが超特急で訳してくれました! お届けします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

食料問題で世界は窮地に

レスター・R・ブラウン

http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2012/update104

アースポリシー研究所リリース2012年7月24日

2012年の早春、米国では約9,600万エーカーの土地でトウモロコシの作付が順調に始まろうとしていた。これは過去75年間で最大の面積だ。早春の暖かい気温のおかげで、滑り出しは上々だった。アナリストは史上最大の収穫量を予測していた。

トウモロコシは世界中で飼料用穀物として使われている。米国はその主要生産国であり、主要輸出国でもある。国内では、穀物収穫高全体の4/5を占め、国際的には、中国における米と小麦を合わせた収穫高を超えている。小麦と米を含めた3大穀物の中で、トウモロコシは今やトップを走っており、小麦の収穫高をはるかに超え、米の収穫高の2倍近くに達している。

トウモロコシは生産性が高いと同時にデリケートな植物である。大量の水を要し、成長が速い一方で、高温と干ばつの両方に弱い。通常なら非常に生産性の高いトウモロコシが、高温でショック状態に陥っている。

春から夏に移る頃、コーンベルト(トウモロコシ生産地帯)一帯の気温が上がり始めた。コーンベルト南部のミズーリ州、セントルイスでは、6月下旬から7月初めにかけて、気温が摂氏37.8度を超える日が10日間にわたり続いた。ここ数週間、コーンベルトは干上がってしまいそうな暑さに覆われている。

ネブラスカ大学が毎週発行している干ばつマップによると、干ばつ地域は国中にどんどん広がり、7月半ばまでには、コーンベルトのほぼ全域を飲み込んだ。コーンベルトの土壌水分量は史上最低レベルを示した。

気温、雨量、干ばつが穀物成長条件の間接的指標である一方で、その実態については、毎週、米国農務省がトウモロコシの収穫に関する報告書を発表している。

今年初めの報告書では明るい見通しだった。5月21日、米国のトウモロコシの作況は77%が優か良の評価だった。翌週、優と良の割合は72%に下がった。さらに8週間後は26%にまで落ち、史上最低の比率となった。残りの74%は劣悪から並と評価された。トウモロコシの作況は現在も悪化の一途だ。

気候変動に伴ってさらに激しい異常気象が起こり、それがどれほど食料安全保障に影響を及ぼしうるのか、私たちは数週間で目の当たりにした。6月初めから、トウモロコシ価格は50%近く上昇し、7月19日には史上最高値を記録した。

危険なレベルにまで低下した穀物備蓄量の回復の切り札として、世界中が米国の豊作を期待していたが、もはや当てにできない。世界の穀物繰越備蓄量は今年の収穫期の終わりにさらに落ち込み、食料事情をもっと不安定にするだろう。食料価格は既に高騰しているが、トウモロコシの価格上昇に続いて、最高値を記録する可能性が大きい。

現在の食料事情だけでなく、世界の食料システムそのものが悪化している。世界の穀物価格が突然2倍に跳ね上がった後、2008年には破綻の初期症状が表れていた。食料価格の世界的な上昇につれ、輸出国は国内の食料価格を据え置くために穀物輸出を制限し始めた。それに対して、輸入国の政府は慌てた。輸入国の中には他国の土地を購入・貸借し、そこで食料の自力生産に乗り出す国もあった。

食料難の新しい地政学にようこそ。食料供給が厳しくなるにつれ、私たちは食料の新時代に移行しつつある。それは、どの国も「自分の分は自分で」という時代だ。

世界は食料問題で窮地に追い込まれている。しかし、今のところ政治の指導者が現状の深刻さを把握しているという形跡はほとんど見当たらない。ここ数十年かけて前進した飢餓撲滅の動きは逆戻りしてしまった。私たちが素早く行動して、人口、エネルギー、水に対する新たな政策を取り入れない限り、飢餓撲滅という目標は目標のままで終わるだろう。

残された時間は少ない。食料価格の高騰、食料不安の拡大、そして最終的には政情不安が次々に起こる―このような収拾不能な食料不足の事態に世界はまた一歩近づいたかもしれない―ほとんどの人が実感している以上に。

注釈:2012年7月24日(火)付ガーディアン紙掲載記事

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データやさらに詳しい情報はwww.earth-policy.orgを参照。
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アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue, NW
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(翻訳:小沢裕子  チェッカー:小島和子)


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


国連はこの状況を受けて、米政府にトウモロコシからのエタノール生産を止めるよう求めています。米国ではトウモロコシ生産量の約40%も、食料ではなく、自動車燃料用のエタノール生産の原料として使われているそうです。

「燃料より食料」というのはそのとおりですが、そもそもエタノール燃料が使われるようになってきたのは、石油価格高騰への対策と温暖化対策です(米国では農業振興策でもあります)。

エタノール燃料を止めれば、それだけ石油消費量が増え、石油価格がさらに上昇し、CO2がさらに排出されて温暖化が悪化し、今回のような干ばつなど異常気象を増やしてしまうかもしれません。

食料-温暖化-エネルギーのすべてが絡み合った問題構造となっていることがよくわかります。

あちらを立てればこちらが立たず……の状況のように思えます。そのそもどう考えたらよいのでしょうか?

そして、こういったことがこれからもどんどん頻度を増して起こってくるとしたら、私たち一人ひとりは、家庭や地域は、組織や社会は、どのように問題構造への加担を減らし、それとともに、どのような備えをしておく必要があるのでしょうか?

 

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