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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2012年08月14日

国民的議論の「整理」と「政策への反映」はこれから〜原発運用の自然体って? (2012.08.14)

エネルギー危機
新しいあり方へ
 

2030年の原子力発電への依存度を示すエネルギー政策について、おととい12日に締め切られたパブリックコメントには8万件を超える意見が集まったとのこと。

通常パブコメは千件を超えると「たくさん集まった」という感じらしいので、意識と関心の高さがうかがえますね。

これで、全国11箇所での意見聴取会、パブコメ、討論型世論調査のすべてが終わったことになります。

さて、このようにして集めた膨大な意見をこれから(1)整理し、(2)政策に反映させていくことになります。政府がそれをどのように進めていくのか、ぜひ見守りたいと思います。

(1)の整理については、昨日古川国家戦略相が「パブリックコメントや討論型世論調査で集めた国民の声を分析・検証する検討会合を設立する」と発表しています。週内にも初会合を開く。検討会合は統計学に詳しい学者やマスコミ関係者でつくる、とのこと。「政府が勝手に整理した」「誘導だ」という批判を避けるため、専門家を入れた、ということでしょうね。(本当はこういうプロセスでやる、ということを最初の段階から考え、発表しておくべきだと思いますが、、、)

その結果を(2)どのように政策に「反映」するのかは、政府にとっての難題です。すべての人を満足させることは不可能ですし、これだけ関心が高まっているので、単なる「聞きました」というアリバイづくりだという批判が起きない「反映の結果」と「そのプロセス」の透明性を高める必要もあります。

7月末に開催された国会エネ調準備会で、国家戦略室の担当者に「どのように反映するのですか?」と質問したところ、「反映の仕方もご意見をいただければ反映いたします」という答えに目がテンになったのですが、、、

さて、3つの選択肢の中でも「15シナリオ」がわかりにくいという批判が多くあります。

もともと基本問題委員会の中では「15シナリオ」はありませんでした。2030年に原発比率15%という案を出した委員がひとりもいなかったからです。「ゼロ」か「20%以上か」という大きな乖離のある選択肢群でしたが、「自然減(40年廃炉で新増設なし)だとどうなるかを参考ケースとして入れておいたらよいのではないか」という意見が出て、参考ケースだった15%が最終的には選択肢の1となりました。

基本問題委員会で議論していたときは、15%選択肢の位置づけはより明確でした。

・ゼロ=意思を持って原発をゼロにまで減らす

・15%=自然減でいき、2030年ごろにその先を考える

・20〜25%=意思を持って原発を維持する

というものだったからです。ゼロと20〜25%は先までのベクトルが明らかで、15%だけは「いますべて見通せない」などの理由で、判断を先送りする、という位置づけでした。

ところが、基本問題委員会が出したこの選択肢を閣僚のエネルギー・環境会議が最終的な選択肢にするときに、「どの選択肢にしても2030年頃、もう一度大きな見直しをする」という位置づけにしたのですね。

加えて、基本問題委員会のときには「ゼロシナリオは2030年をめどに、それより早期か、それより遅れたとしても、ゼロに向かっていく」という理解で話をしていたのに、「2030年までのなるべく早期にゼロとする」と明示されました。(これによって、「自然エネルギーの普及速度などから考えると、2030年にはゼロは間に合わないかも知れない。としたら、15シナリオしかないかな?」と考える人が増えているように思います)

「原発低減の考え方」としては、政府はこのように打ち出しています。

<ゼロシナリオ>
・2030年までのなるべく早期に原発比率をゼロとする。

<15シナリオ>
・原発依存度を着実に下げる。
・現存する原発に新しい安全規制の40年運転制限制度を自然体で運用した場合の数字にほぼ相当する。
・原発の新増設が難しい状況にあるという実情を踏まえている

<20〜25シナリオ>
・緩やかに原発依存度を低減しながら一定程度維持。
・ 新設・更新が必要。
・ 原子力及び原子力行政に対する国民の強固な信認が前提

15シナリオの「自然体で運用」って何だろう?と思いませんか?(原発運用の自然体って……?^^;)

政府の担当者に尋ねたところ、「自然体で運用とは、2030年時点で稼働が40年未満の20基を、稼働率70〜80%で運転した場合ということです」。

40年未満の原発がいくつかは数えられますが、稼働率に幅を持たせているので、どこで計算するかで「2030年に原発比率は何%?」が変わってきます。

その計算は、基本問題委員会に政府が資料を出しています。そこだけとりだして、こちらに載せましたので、ご覧ください。

稼働率・新増設の有無による原子力発電比率について
http://ishes.org/es/energy/2012/eng_id000642.html 稼働率80%で計算すれば、2030年には15%となります。しかし、稼働率70%で計算すると、2030年には13%になります。稼働率70%で2030年に15%にするには、新増設が2基必要になります。

ちなみに、この10年間の原発の平均稼働率は70%を切っています参考:原子力発電所の利用率の推移 
http://ishes.org/es/energy/2012/eng_id000506.html

もしこの10年間の平均稼働率で計算すれば、2基では足りないかも知れません。そこで、私が自分で計算した数字を出すときには、15シナリオのためには2030年までに2〜3基の新増設が必要となる、としています。

さて、8月5日に開催した第3回みんなのエネルギー・環境会議の討論のようすが動画でアップされています。

> セッション1(選択肢について)
http://www.ustream.tv/recorded/24481627

> セッション2(原発の事故リスク、核廃棄物について)
http://www.ustream.tv/recorded/24483432

> セッション3(国民的議論について)
http://www.ustream.tv/recorded/24484581

> 質疑応答(すべてのセッションの登壇者)
http://www.ustream.tv/recorded/24485160

このセッション3でも、情報の出し方や国民の声をどう反映するのか、という議論がおこなわれました。ドイツの倫理委員会が脱原発を決めたというプロセスの紹介とともに、「でもそれはそれまでの20年間にわたる国民とのコミュニケーションや議論があってこそ」という説明が印象的でした。

スウェーデンで原発の核廃棄物の最終処分地が決まったときにも、「30年間、地元の人々と丁寧なコミュニケーションと話し合いを続けてきたからです」との説明を聞き、なるほど、と思ったことを思い出しました。

日本でも、今回の国民的議論の結果を「整理」し、「反映」して「オワリ」、ではなく、これからずっと続いていく「エネルギーと政策に関する国民的議論と政策への反映」の最初の一歩として位置づけ、今回のさまざまな学びを活かしていってほしいと願っています。

 

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