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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2012年04月25日

レスター・ブラウン氏「5,000万ドルがティッピング・ポイント?」〜石炭火力発電について (2012.04.25)

エネルギー危機
 

日本の電力のうち、石炭火力発電の割合はどのくらいだと思いますか?その割合はこの30年間に増えてきたと思いますか? 減ってきたでしょうか?震災後はどうだと思いますか?

少し前のものになりますが、石炭火力発電に関するアースポリシー研究所リリースを実践和訳チームのメンバーが訳してくれましたので、お届けします。

レスターが来日した時も、「米国では、石炭火力発電の新規計画の中止や、既存発電所の廃止に向けての大きなうねりが進んでいる」と力を込めて話してくれた件です。

日本における石炭火力発電や世界の現状については、以下のリリースのあとに紹介しますね。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

5,000万ドルがティッピング・ポイント?
www.earth-policy.org/plan_b_updates/2011/update99

レスター・R・ブラウン

2011年7月21日の記者会見で、ニューヨーク市長マイケル・ブルームバーグは、シエラクラブの脱石炭キャンペーンに5,000万ドル(約38億円)寄付すると発表した。シエラクラブの最高執行役員であるマイケル・ブルーンは、それを「ゲームチェンジャー【訳注:状況を劇的に変える出来事】」だと言った。確かにそうだ。ただしこれによって米国、いや世界が気候問題のティッピング・ポイント【訳注:それを超えると一気に加速する閾値】を迎えることにもなりそうだ。

同じ石炭の廃止を訴えるのでも、マイケル・ブルーンとマイケル・ブルームバーグでは言葉の影響がまるで違う。シエラクラブにかかわりのない人は、ほとんどマイケル・ブルーンを知らないが、マイケル・ブルームバーグの方は同世代で最も成功した企業経営者の一人として、どんなビジネスマンにも知られている。

シエラクラブの脱石炭キャンペーンには二つの主要な目標がある。一つは新しい石炭火力発電所の許可、および建設を阻止することだ。これまでに153件の発電所建設計画が中止された。二つ目は、492の既存発電所の閉鎖である。シエラクラブは、全面あるいは一部閉鎖が決まった71の発電所をリストに挙げており、その大半は2016年までに完了する。

気候を安定させるさまざまな努力が実を結ぶか否かは、世界で炭素排出の最大要因となっている石炭にかかっている。石炭廃止への段階的な取り組みは、中国に次いで世界で2番目に石炭使用量の多い米国で、現在順調に進んでいる。

ブルームバーグの寄付は多くの波及効果をもたらしそうだ。まず何よりも、ほかの慈善家たちがこれに後押しされて気候の安定化のために投資する可能性がある。

石炭への投資の可能性はすでに下降線をたどっており、その流れは今後一段と速まるだろう。2010年8月のレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)の発表によると、バンク・オブ・アメリカやJ.P.モルガンをはじめとする米国の大手投資銀行数社が山頂除去採炭【訳注:炭層に達するために山頂を爆発物で吹き飛ばす採炭方法】に携わる会社への融資を打ち切った。また、ここへきてブルームバーグが反対意見を表明したことで、投資家たちは石炭に対してさらに慎重になるとみられる。

このブルームバーグとシエラクラブの取り組みはさらに、石炭の燃焼が引き起こす大気汚染により国内で毎年1万3,200人の命が失われている点にも目を向けている。黒肺塵症で亡くなる炭坑労働者を含めれば、その数はさらに多くなる。

こうした石炭がらみの年間死亡者数の前では、イラクやアフガニスタンの戦争で死亡する米国人の総数は小さく感じられるほどだ。中東にいる米軍兵士の命を守るために米国は莫大な金額を投じている。それは正しい判断だろう。ブルームバーグが言っている。同じことを国内の人に対してもしようではないか、と。

さらに、この脱石炭キャンペーンは、石炭の燃焼に伴って社会が負担する保健医療費への関心をも惹起している。その保健医療費は、現在年間1,000億ドル(約7兆7,000億円)以上と推定され、国民一人当たりだとほぼ300ドル(約2万3,000円)、一世帯(4人)当たりでは1,200ドル(約9万2,000円)に上る。これが現実である。しかし、これを負担しているのは石炭会社ではない、米国民なのだ。

石炭の段階的な廃止にさらに拍車をかけているのが、気候科学者がこれまで何十年間も警告し続けている異常気象の激化である。2011年の上半期、テレビのニュース番組はどれも気象報道で独占された感があった。異変の最初は、アラバマ州のタスカルーサが破壊されるなど、一ヶ月の間に記録的な数の竜巻が発生したことである。ついで、その数週間後、さらに激しい竜巻がミズーリ州を襲いジョプリンを壊滅状態に陥れた。

アリゾナ、ニューメキシコ、テキサスの3つの州では、干ばつや熱波により記録的な、あるいは過去の記録に迫るような山火事が発生し、ミシシッピ川下流では川が氾濫した。また焼け付くような熱波はグレートプレーンズの南部や中西部、東海岸の大地を焦がした。テキサス州では記録史上最悪の干ばつが一年間も続くなど、強烈な熱波は国中で干ばつの記録を更新し続けている。

石炭の先行きは明るくない。 2007年から2010年の間に米国の石炭消費量は8%減少した(参照データ: www.earth-policy.org)。これに対し、ウインドファームは新たに300カ所以上が稼動を始め、合計2万3,000メガワットを超える発電容量を有するまでになっている。これは23の石炭火力発電所が出力する電力量に相当するものだ。

「電気をどこから得たいと思うか」との全国世論調査の結果でも、石炭と答えた人は僅か3%と少なかった。石炭業界は「クリーンな石炭」をうたい文句にし、それに多額の投資をしているが、それでも一般の人が思っているのは石炭には勝ち目はないということである。

この脱石炭キャンペーンには、シエラクラブ、RAN、さらに非営利団体アースジャスティスの有能な弁護士グループに加えて、地球の友(Friends of theEarth) やグリーンピースなども参加している。

グリーンピースは一般の人々の目を環境問題に向けさせることにかけては高い能力を持った団体である。そのことが顕著に発揮されたのは、5月に同団体の8人の活発な活動家がシカゴにある高さ450フィート(約140メートル)のフィスク石炭火力発電所の煙突に上り、「石炭はやめよ」との文字を落書きしたときだった。彼らは発電所の煙によってシカゴの街がひどく汚染されることに、人々の関心を向けさせようとしたのだ。

米国が国内の石炭火力発電所を閉鎖することは、世界へのメッセージとなる。マイケル・ブルームバーグは石炭の段階的廃止を進めるシエラクラブの見事に組織化された計画に賛同し、私財の提供を申し出た。そのことから、今目に浮かべることができるのは、石炭のない社会に生まれ変わった米国の姿である。米国は再び世界のリーダーになれるだろう。そのときは地球の気候を安定させるリーダーとしてである。

さらに詳しいデータ・情報についてはwww.earthpolicy.orgを参照のこと。情報の友人、家族、同僚への転送を歓迎します!

メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線 12
電子メール:rjk @earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
マット・ローニー
電話:(202) 496-9290 内線 17
電子メール:jmroney@earthpolicy.org

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue NW, Suite 403
Washington, DC 20036


(訳:川嶋、酒井)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

日本で石炭火力発電の占める割合が1965〜2010年にどのように移り変わってきたか、震災後はどうなってきたのかなどは、基本問題委員会のこちらの資料の4〜5ページをご覧ください。
http://www.enecho.meti.go.jp/info/committee/kihonmondai/13th/13-7.pdf

この30年間に日本では石炭火力発電の割合がぐんぐん増えてきたことがわかります。震災後は、石炭も増えていますが、石油火力の伸びが著しいですね。

そして、6ページには、2009年の各国の電源構成が載っています。このとき、日本は電力の27%を石炭火力発電から得ていました。米国は45%、ドイツは44%、中国は79%です。

上述の資料の22ページには、「今後の石炭火力とLNG火力の建設計画」が載って
います。

2020年度までに運転開始が予定されている火力発電所は

石炭: 3基 220万kW
LNG: 30基 1590万kW
石油: なし

となっています。

原単位でみると、石炭火力は天然ガス火力に比べて、2倍ほどのCO2を排出しま
すから、温暖化対策の観点からも石炭火力の割合は重要な論点となります。

参考)コスト等検証委員会報告書(2011年12月)における試算の前提
2010年モデルプラント:
 石炭:  0.78kgCO2/kWh
 天然ガス:0.35kgCO2/kWh
 石油:  0.66kgCO2/kWh


基本問題委員会ではエネルギーミックスの選択肢を準備し、中央環境審議会のほうで温暖化対策の観点からの選択肢が出されることになっていますが、それぞれが部分最適だけに走らないよう、表裏一体として全体をみながら議論できれば、、、と願っています。

 

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