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2012年01月28日

アースポリシー研究所より「ガンが現在中国の死因トップに」 (2012.01.28)

 

レスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所からのリリースを実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。あまり知られていないショッキングな内容ではないかと思います。。。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ガンが現在中国の死因トップに
http://www.earth-policy.org/plan_b_updates/2011/update96

ジャネット・ラーセン

中国では現在、ガンが死因のトップである。中国衛生部のデータでは、全国の死亡総数の1/4近くにガンが関係しているとのことだ。工業化が進む多くの国に共通して見られるように、心臓病や脳卒中、ガンなど豊かさとより密接につながっている病気が、貧困につきものの、伝染病や乳幼児死亡率を高める病気などに取って代わるようになってきた。

これは中国の中でも自転車から自動車への移行が急速に進み、食肉消費量が増えている豊かな都市での現象のように思えるが、農村地域にも当てはまることなのだ。事実、農村部からの報告では、「ガンの村」が脅威的な広がりを見せていることが明らかになっている。これは、爆発的な成長を遂げる中国経済を推進している産業そのものが時に引き起こす公害と関係しているのである。中国は経済成長を最優先することで、国民の健康を犠牲にし、結局のところ将来の繁栄を危険にさらしている。

肺ガンは中国で最もよく見られるガンだ。一般的に肺ガンは命に関わる病気だが、1970年代以降、死亡者数は5倍近く上昇した。上海や北京のように、中国の中でも成長が著しい都市は、大気中の粒子状物質がニューヨーク市の4倍に達することが多く、肺ガンがガン死亡者数の30%近くを占めている(www.earth-policy.orgのデータを参照のこと)。

大気汚染は数多くのガンだけでなく、心臓病、脳卒中、そして呼吸器疾患にも関係しており、これらを合わせると国内の死亡総数の80%を超える。中国疾病対策予防センターによると、中国の大半の地域で太陽を覆っている煤煙の70%、酸性雨やスモッグを引き起こす二酸化硫黄の85%、有害な地表オゾンの前駆物質である窒素酸化物の67%は石炭の燃焼に原因があるとのことだ。

また、石炭の燃焼は発ガン性物質や強力な神経毒である水銀の主要排出源でもある。放射性物質やクロム、ヒ素、鉛、カドミウム、水銀などの重金属を含む石炭灰は、中国の固形産業廃棄物の排出要因の一位だ。この有毒な灰は、基幹施設や製造で利用される場合を除いて貯蔵所で保管されており、そこから灰が気流に乗ったり、あるいは汚染物質が地下水に滲出したりする可能性がある。

中国の成長著しい産業からの排気物と国内で急増する自動車の排ガス、これに石炭公害が重なると、呼吸に支障をきたし、健康を損なうには十分すぎるほどである。しかし、だからと言って中国人男性の過半数を占める喫煙者が煙草をやめることはない。女性の場合、喫煙率ははるかに低く3%に満たない。それでも、中国で毎年喫煙関連の疾患で亡くなるおよそ100万人のうち、ほぼ10人に1人は本人は喫煙していないのに、ガンを誘発する副流煙にさらされている。

農村部では、肝臓ガン、肺ガン、胃ガンがそれぞれガン死亡率の20%近くを占めている。中国の農村部における肝臓ガンの死亡率は世界平均の3倍以上であり、胃ガンについては世界平均の2倍に達する。これらのガンは、化学物質や下水で汚染された水、またそれ以外の環境汚染物質と関係している。

工場やプラント、鉱山が汚染物質を排出するにつれ、川や湖は病的な色合いを帯びていく。地下水源ですら汚染されていくのである。政府のデータでは、国内の河川の半数および湖や貯水池の3/4以上については汚染があまりにもひどく、たとえ処理された後でも、飲み水としては安全でないことが示されている。それでも、多くの人にとって主要な水源であることに変わりはない。

2010年に雑誌『環境』(Environment)に掲載された地理学者リー・リュー(LeeLiu)の分析によると、中国全土で近年450カ所以上の「ガンの村」が出現しているとのことだ。同じ種類のガンに罹る住民が異常なほど多いこれらの村は、汚染された水路沿いや工業団地の下流のより貧しい地域に集中する傾向がある。中国で最初に産業が発展したのは大半が沿岸部だったが、最近は人件費が安く、環境面の規制が緩い地域に工場が設けられるようになり、内陸部にいわゆる「ガン汚染地帯」を作り出している。

かつてはほとんどのものを自給自足していた村々が、水と土壌の汚染によって甚大な被害を被っている。若く身体の元気な者は多くが村を離れ、ほかの土地で生活の糧を探そうとしている。高齢だったり、貧しかったり、あるいは病気にかかっている人は村を離れられず、そのまま残って汚染された土地を必死で耕している。

リュー氏は、河南省のHuangmengying村のように極端な例では「死亡率が出生率を上回り、そして急速に上昇している」ところもあるが、それは高齢化のせいではないと指摘している。特にこの村は、汚染が進んでいることで有名な淮河の支流から黒ずんだ水を取水しており、村の若者のおよそ80%が慢性病を患い、一歳児ですらガンと診断されている。

この村で1994年から2004年の間に亡くなった人の死因の約半数は肝臓ガン、直腸ガン、そして胃ガンだった。それ以降のデータは入手できていない状況だ。と言うのも、当初数字を公表していた政府関係者が「国家機密を漏洩した」と非難され、村の共産党書記の職を解かれ、今では発言したがらないからだと『環球時報』紙(Global Times)は伝えている。

ガンと診断されたりガンで死亡するまでには時間的なずれがあり、加えて、貧困や汚染がいずれも最悪である多くの地域では保健衛生が不十分なこともあって、中国でガンが広まる事態の深刻さは想像をはるかに超えているだろう。

それに、環境への負荷はすべて局地的に留まるだけではない。環境汚染は世代を越え、また世界各地にも広がっている。製品や穀物に含まれた有毒物質が、市場や貿易を通じて、あるいは地球を廻る気流に乗り、実に海を越えて運ばれている。

中国の若者たち、つまり、この国の将来が危機に直面している。近年、中国では奇形児の出生率が大都市のみならず、全国的に急激に上がっているためだ。政府の家族計画担当者は、この異常な増加には環境汚染が関連していると言う。

山西省の採炭・精製地域は奇形児の出生率が世界で最も高く、8.4%を超える。中国では毎年100万人程度奇形児が誕生するが、そのうち治療できそうなのはおよそ2〜3割、4割の子どもは一生障害を背負い、残りは生まれてもすぐに亡くなっている。

ここ数年、鉛の採掘場や精錬所、電池工場の近くに住む数千人の子どもたちに中毒症状が現れている。鉛を過剰に摂取すると命が危うくなるが、微量であっても血液中に入ると安全ではないとされる。鉛を摂取すると、認知神経機能の発達や身体の成長阻害、学習意欲や知能指数の低下を招く。高濃度の鉛に触れる環境にいたために、子どもたちが将来の可能性を奪われたという痛ましい話もある。そういった子どもたちは学校に通い続けることができなくなり、またごく普通の生活をすることができずにいる。

一人っ子政策を採る国でなら、環境汚染による健康被害者が出たことがきっかけとなり、政府が言う「集団事件」、つまり抗議行動が頻繁に起きても驚くにあたらない。抗議デモを受けて、環境を汚染している企業が工場を閉鎖するケースがあったし、また汚染元の企業が引き続き操業できるように、政府がその周辺の地域社会を丸ごと他の場所に移すケースもあった。それでも、多くのところで、汚染は依然として収まる気配がない。

環境汚染にそっぽを向く性質の悪い企業や政府役人を名指しすることはたやすい。しかし、中国に健康被害を与えるような環境を作り出した責任の一端は国外にもある。廃棄物は再三海外でコンテナ船に積まれ、直接中国に運び込まれている。より巧妙なのは、人為的に安価に設定された「メイド・イン・チャイナ」の部品や製品を欧米の消費者がやたらと買い集め、この世界の工場に汚染を肩代わりさせていることである。

今年初め、中国の「新5カ年」計画が発表される前に、ニューヨーク・タイムズは中国の温家宝首相の次の声明文を引用し新聞に掲載した。「我々は急速な経済成長と無謀な事業展開のために、もはや環境を犠牲にすることがあってはならない」と。公式声明ではこのように、中国政府は環境と人々の健康を守ることの大切さを認めている。

しかし中国政府が、環境保護の強化はおろか、既存の環境規制だけでも、情報公開と実施を確実に果せるようになるにはまだまだ時間がかかりそうだ。それを怠ると、中国は国内の有毒物質によって、過去60年間で勝ち取った健康面での劇的な成果、つまり、人間の平均寿命を45歳から74歳にまで引き上げ、また1,000人中122人であった出生後の乳児の死亡数を20人にまで減少させたその成果を、このままストップ、あるいは後退させてしまう恐れがある。経済的な成果にしても、生産性が低下し、膨大な医療費が支払われることになれば失われるだろう。しょせん、病んだ国家が繁栄できたところで、それはいつまでも続くものではない。

【表タイトル】2009年、中国の都市と地方における主要な死亡原因

都市(左側の数字)
地方(右側の数字)

【単位】10万人当たりの死亡者数

悪性腫瘍 167.6 159.1 
心臓病 128.8 112.9 
脳血管疾患 126.3 152.1 
呼吸器系疾患 65.4 98.2 
外傷および中毒の外的原因     34.7 54.1             
内分泌・栄養・代謝系疾患 20.3 11.3
消化器系疾患 16.6 14.6 
その他の疾患 10.7 7.7 
泌尿生殖器系疾患   7.3 7.2
神経系疾患     6.9 5.1                   
感染症(気管支結核は除く)      4.4 5.0       
診断未確定の疾患       4.1 2.8 
精神障害 3.6 3.1    
先天性奇形、奇形および染色体異常 2.3 2.2 
気管支結核 1.9 2.3
筋骨格系および結合組織の疾患 1.8 1.3
血液および造血器の疾患ならびに免疫不全 1.6 1.0   
周産期疾患 1.5 2.5 
寄生虫疾患 0.5 0.1 
妊娠、出産および産褥 0.1 0.2 

出典:中国国家統計局の中国統計年鑑(北京:中国統計出版社より2010年刊行)
を元に、アースポリシー研究所で編集。
www.stats.gov.cn/tjsj/ndsj/2010/indexeh.htm.にてダウンロード可。

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ジャネット・ラーセンはアースポリシー研究所の研究部長。
さらに詳しいデータ・情報についてはwww.earth-policy.org.を参照のこと。

メディア関連:
リア・ジャニス・カウフマン
電子メール:rjk@earthpolicy.org
電話:(202) 496-9290 内線 12

研究関連:
ジャネット・ラーセン
電子メール:jlarsen(at)earthpolicy.org
電話:(202) 496-9290 内線 14

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Avenue NW, Suite 403
Washington, DC 20036
ウェブサイト:http://www.earth-policy.org

(翻訳:小宗、酒井)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

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