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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2011年12月11日

レスター・ブラウン氏「食料をめぐる新たな地政学」 (2011.12.11)

食と生活
 

明日12日18:30〜、基本問題委員会が開催されます。前回、論点整理の仕方にいろいろな意見・異論が出ましたが、それを踏まえて、どのように進めていくのか、ぜひ見守っていて下さい。

国民に開かれた議論を!という一環で、この委員会はすべてネット中継されており、国民から意見を寄せる窓口を作り、そこに集まった意見は2週間に1度の割合で、とりまとめ、公表されています。(事務局の方々、大変と思いますが、プロセス的には大きな改善だと思います〜!)

新しいエネルギー基本計画の策定に向けた意見募集
国民の皆様から寄せられたご意見 はこちらにあります。
     平成23年10月27日〜平成23年11月11日 に寄せられたご意見
     平成23年11月12日〜平成23年11月25日 に寄せられたご意見

どんな意見が寄せられているか、よかったらぜひのぞいてみてください。

そして、ぜひみなさんもご意見をお寄せ下さい。

さて、レスター・ブラウン氏のプレスリリースを実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。

食料をめぐる状況と、その状況をもたらしている構造としての問題、それによって、これまでになかった危機が台頭している......食糧自給率の低い日本に暮らす私たちにとって、決してヒトゴトではない情報と洞察です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

食料をめぐる新たな地政学
www.earth-policy.org/press_room/C68/foodgeopolitics_fp

レスター・R・ブラウン

※『フォーリン・ポリシー 』誌 2011年5・6月号の食料問題特集で、レスター・ブラウンは食料不足がもたらした新たな地政学について特別記事を書いている。以下はその記事の抜粋である。

世界の小麦価格が、昨年1年間に渡ってそうであったように、75パーセント上昇した場合、それが及ぼす影響は、米国では1斤2ドルのパンが2ドル10セント程度になるくらいのことである。

しかし、ニューデリーの住民にとっては、このような価格の急騰は切実な問題だ。小麦の国際価格が2倍になるということは、チャパティ用の粉に挽くためにマーケットで買って家に持ち帰る小麦の価格が実際に2倍になるということだ。このことはコメについても同じで、世界のコメ価格が2倍になれば、ジャカルタでは、いつものマーケットで買うコメの値段が2倍になり、インドネシア人家庭の夕飯の食卓に上る一杯のご飯にかかるコストも2倍になるのである。

さあ、そこで、2011年の最新の食料経済はどうなっているか見てみよう。価格は上昇を続けている。が、その影響はどの地域にも同じように及んでいるわけではまったくない。米国人の場合、日常の食料品に使う金額は収入の1/10に満たず、今年のここまでの食料価格の高騰は、頭痛の種ではあっても危機的な状況ではない。

しかし、収入の50パーセントから70パーセントを食に費やす地球上の最貧困層に属する20億人にとっては、このような価格の高騰は、1日2回だった食事が1回になってしまうかもしれないのだ。世界経済のはしごの下段に辛うじてつかまっていた人々がつかまりきれず落ちていく可能性がある。こういう状況は革命や社会変動を招きかねないし、実際に招いてしまっている。

2011年に入ってすでに、国際連合食料価格指数はこれまでの世界最高値を越えた。3月の時点で、上昇は連続8カ月に及んでいる。今年の穀物収穫量は減少が予測され、価格高騰は中東およびアフリカ諸国の政治情勢の不安を招いており、また、次々に受ける打撃によって市場が不安定になっていることもあって、食料は急速に世界政治を動かす影の要因になってきた。そして、こうした危機的状況はますます一般化しつつある。食料をめぐる地政学の新しい状況は、これまでに比べ、はるかに不安定ではるかに問題含みの様子を見せている。いまや「食料不足」は常態化しているのだ。

近年までは、価格の急激な上昇はそれほどの問題にはならなかった。というのは、価格が急激に上昇することがあってもその後すぐさま比較的低い価格に戻っており、そのため、20世紀後半は世界の多くの地域で政情の安定が保たれていたからである。しかし現今は、問題の原因もそれがもたらす結果も、以前とは異なる、危険な要素をはらむものになった。

いろいろな点で、この状況は2007年から2008年に起きた食料危機の再来だといえる。この時の食料危機がいったん収まったのは、穀物危機を根源的に解決しようと世界がなんらかの協調手段をとったからということではなく、世界不況が需要の増大を抑制し、それと同時に、気候に恵まれたおかげで穀物収穫が史上最高になったからである。

過去を見れば、価格高騰が起きた原因はそのほとんどが、インドでの雨季の雨不足、旧ソ連で起きた干ばつ、米国中西部での熱波のように異常気象によるものだ。こういう特別事態はいつの場合も社会混乱を招くことになるが、幸いしょっちゅう起きることではない。

しかし、残念ながら、現在の価格高騰は、一方で需要が拡大し、一方で増産がさらに困難になるという双方の動向に牽引されて起きている。例をあげれば、急激な人口の拡大、穀物を枯らす気温上昇、枯渇に向かう灌漑用井戸などだ。この地球では毎晩、夕食の卓につく人間の数が21万9,000人ずつ増加しているのである。

しかしさらに警戒すべきは、世界が食料不足の影響を緩和させる能力を失いつつあることだ。これまでの価格高騰時の場合は、世界最大の穀物生産国である米国がうまく舵を取って、起こり得た破局から世界を免れさせることができた。

20世紀半ばから1995年までは、米国には穀物生産の余剰があったり、あるいは、災禍に遭遇した国への援助に向けて穀物の栽培が可能な休耕地があったりしたのである。たとえば、1965年、インドで雨季に雨が降らなかったとき 、リンドン・ジョンソン政権の下で合衆国は自国の小麦生産の1/5をインドに向けて出荷し、インドは飢饉を免れることができた。しかし、そのようなことはもはや不可能だ。安全のための備えはなくなってしまった。

だからこそ、2011年の食料危機はまさに本物の危機であり、政治革命を伴う民衆のパン騒動がさらに引き起こされる可能性があるのだ。チュニジアのザイン・アル=アービディーン・ベン=アリーやエジプトのホスニー・ムバラク、リビア(穀物の90パーセントを輸入に頼っている)のムアマル・カダフィといった独裁者たちの上に起きた社会変動は、これで動きが終焉したのではなくスタートを切ったのだとしたらどうなるだろうか。農業従事者や外務大臣たちはみな、準備をしなくてはならない。世界中の食料不足がますます地球規模の政治を方向づけていく新しい時代に備えて。

下記のサイトで全文を読むことができます。
http://www.foreignpolicy.com:80/articles/2011/04/25/the_new_geopolitics_of_food

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アースポリシー研究所

(翻訳:古谷明世 チェッカー:長谷川浩代)

 

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