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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2011年10月16日

レスター・ブラウン氏「幸せ」について語る (2011.10.15)

新しいあり方へ
 

幸せ経済社会研究所のサイトには「インタビュー」コーナーがあります。
http://ishes.org/interview/index.html

レスター・ブラウン氏へのインタビューがアップされました。
http://ishes.org/interview/itv02_01.html

写真はサイトを見ていただくとして、内容をお届けします。長いですが、ご興味があればぜひ目を通してください。農業や食糧や温暖化がメインではなく、レスターが「幸せ」について語る稀少なインタビューではないかと思います〜。(^^;

最後に、「レスターはいつも幸せそうに見えるけど、何がレスターを幸せにするのですか?」と聞いてみました。その答えは……?

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アースポリシー研究所所長 レスター・ブラウン
(聞き手:枝廣淳子)

●何が問題を引き起こしているのだろうか?

枝廣:レスターさんは、農業のやり方や気候変動などの状況について話し、それを変えようと、長年、環境の分野で取り組まれていらっしゃいます。

私たちはより大局的に考え、取り組まなければなりません。人々の福利、社会、経済がいかに互いにつながっているか、また、その構造自体が多くの問題を引き起こしていることを認識しなければなりません。気候変動と生物多様性の損失などの問題は、実際のところ、問題ではなく、根本的な原因の「症状」です。私たちが直面している環境問題や持続可能性に関する問題の状況についてどうお考えですか?

レスター:明らかに、私たちが今していることを続けたら、大変なことになります。現在の私たちの消費形態や傾向では、地球がもたないでしょう。幸せとは何か? テレビのコマーシャルによれば「幸せとは消費すること」です。「消費すればするほど幸せになり、人気者になる」というわけです。

しかし、私たちが幸せを感じたり、満足感を得たりするのは、消費とはあまり関係ありません。十分な食べものと住む場所さえあればいいのです。私は幸せです。

実際のところ、たくさんのものを持っていないおかげで幸せです。ものがあるとそれを維持するために時間が取られます。大きな家やたくさんの電化製品や庭があると、本来、私たちを幸せにするはずのものの世話をするためにすべての時間を費やすことになり、実際にはいつも働かなければならなくなるのです。

枝廣:そうですね。

レスター:ですから、私たちは自分たちにとって本当の幸せとは何かについて考え始めなければなりません。その問いかけをし始めると、ほかの多くの質問への答えも見つかってくるでしょう。

枝廣:ええ、その通りですね。なぜ人々は消費することで頭がいっぱいになっているのでしょうか? 多くの人々が消費こそ、幸せをもたらすと信じています。

レスター:テレビのコマーシャルという、非常に効果的な刷り込みが原因です。幼い頃から目にするもので、すべてが私たちに「消費させよう」としています。

消費を思いとどまらせるテレビのコマーシャルはありません。すべてが消費を奨励しており、私たちは成長する過程で、「消費しなければならない」「これを持たなければならない」「あれを持たなければならない」というメッセージの攻撃に常にさらされるのです。

ですから、テレビのコマーシャルが私たちの生活を形作る強い力になりました。消費しなければならない、最新のファッションを、最新のモデルの自動車を、最新のおもちゃやゲームを持たなければならないという考えです。私たちは考え直さなければなりません。

●変化の兆しが見えはじめている

レスター:一方で、人々が疑問を感じ始めている兆しがあります。米国では過去数十年の間、新築の住宅は年々どんどん大きくなるばかりでした。それが今ではどんどん小さくなっています。自動車もどんどん大きくなっていましたが、今では小さくなってきています。

枝廣:興味深いですね。

レスター:自動車を運転するのをやめて、自転車に乗るようになった人たちがいます。駐車場を見つけなくてはならない、マイカーによる通勤よりも自転車で通勤するほうが、満足感があることがわかったそうです。

枝廣:なるほど。レスターさんは、テレビのコマーシャルの攻撃によって駆り立てられている過剰消費は、多くの環境問題の根本的な原因の一つだとお考えですか?

レスター:そうですね。間違いなくそうだと思います。私たちは自分たちのニーズを満たすためにとても多くのエネルギーを消費しています。例えば、休暇を過ごすためには、世界の裏側へ行かなければならない、さもなければ、休暇とは呼べないと感じているのです。だから、人々は欧州からカリブ海へ、あるいは、米国から世界のあらゆるところへ飛行機で出かけます。必ず、どこか「ほかの」場所なのです。

ですから、例えば、大量のジェット機燃料を使用せずとも、私たちがすることができる面白いこととは何か?と自分たち自身に問いかけなければならないのです。

●「私たちは正しい方向へ向かっている」

レスター:航空機による移動は将来的に大きく成長すると予測されていました。そうした予測はもはや目にしません。多くの場合、航空機による移動が減少するでしょう。

いま動きのある分野の一つは、欧州や、現在では中国での高速鉄道の開発の分野です。バルセロナ-マドリッド間、ブリュッセル-パリ間などの都市や、中国のいくつかの都市では、航空機により移動を実際のところ廃止しています。なぜなら商業区へ行くには電車に乗るほうが速いからです。安全検査もありません。

枝廣:本当ですね。

レスター:そう、変化が起きています。私たちは正しい方向へ向かっています。その他にも、例えばワシントンDCにも、今では、パリのような自転車システムがあります。自転車ステーションは100カ所近くあり、クレジットカードが利用できます。

枝廣:すごいですね!

レスター:それがとても好評でね、現在、拡張が進められています。すでにバージニア州郊外まで広がっていて、メリーランド州郊外にも間もなく拡大されるでしょう。

枝廣:そうですか。これによって市内の自動車の数は減りますか?

レスター:自動車の数はすでに減少傾向にあったのですが、それ以上に減るのは確実です。市内における自動車の数についてもう一つ留意すべきことは、人々が自転車で通勤できるように、よりよい公共の交通システムと自転車にやさしい専用道路をゆっくりと実現しつつあるということです。

●「車よりも電話」? ――変わりつつある価値観

レスター:さらに、人々の自動車に対する考え方も、新しい時代に入りつつあると言えるでしょう。私が若いころは、特に農村地帯に住んでいるならば、人と交流するには、自動車や小型トラックなど、持っている乗り物に乗って、ドライブして、ほかの友達を乗せたものです。それが私たちの交流のやり方でした。それしか人の集まる方法がなかったのです。しかし、ワシントンDCや東京に住んでいる若者が自動車に乗り込んで、ドライブしている姿は想像できません。

枝廣:そうですね。

レスター:つまり、今、何が起きているかというと、若者はインターネットで交流するということです。ドイツで、確か19歳から39歳を対象の調査が行われました。「スマート・フォンと自動車のどちらかを選ばなければならないならば、どちらを選びますか?」という質問です。圧倒的大多数が「電話」と答えました。

枝廣:そうですか!

レスター:人々の考え方のシフトが表れています。米国では、自動車の台数は、もはやあまり増加しないと思います。実際、現在、減少に転じるかもしれません。

枝廣:本当ですね。

レスター:なぜなら、多くの若者はわざわざ運転免許証を取得していないからです。自動車を運転することに魅力を感じていないのです。

枝廣:日本でも同じ状況だと思います。日本の自動車ディーラーは、若者に自動車を売ろうと必死になっていますが、多くの若者は自動車を持つことがかっこいいと思っていません。カーシェアリングやレンタカーがあります。だから、自動車を持たなくてもいいのです。特に若者の間では、基本的な価値観が変わってきていると思います。

人々が自動車から自転車へ切り替えれば、もちろん、地球への環境負荷が減り、同時に幸福度も上がると思うのです。なぜなら、レスターさんがニュースレターでお書きになったように、自動車を運転していると、ほかの自動車の人たちと会話することは難しいですが、自転車の場合、信号待ちで自転車を止めたときに、ほかの人たちと話すことができます。

レスター:本当に。イライラしてクラクションを鳴らすのではなく、おしゃべりできるのですよね!

枝廣:(笑)そうして、幸福度が高まります。

●幸福と消費とGDP

レスター:米国で見られることの一つに、「より大きな家が必要だ」という考え方があります。たくさんの部屋を持つという考えは、いわばステータスシンボルでした。でも実際には、たくさん部屋があっても使い切れないですよね。ですから、どんどん巨大化していた自動車は今では縮小され、どんどん巨大化していた家も今では縮小されています。価値観の変化があります。人々は疑問を持つようになりました。しかし、それは長期にわたるプロセスのほんの始まりに過ぎません。

枝廣:こうした動きについて、世界の多くの国々のなかではブータンが先駆者だと思います。ブータンはGDPやGNPではなく、国民総幸福量(GNH)が各国にとって最も重要なものだと述べました。これは、ブータンだけの考えではなく、近年、フランスの大統領も幸福についての報告書を作成しました。彼によると、フランス政府が、GDPだけでなく、進歩を測る一つの方法として、人々の幸福度に注目しているそうです。

同様に英国でも、持続可能な開発委員会が、「成長なき繁栄(Prosperitywithout Growth)」に関する報告書を作成しました。ですから、これはブータンだけの考えではなく、先進国の間でもますます見られるようになりました。福利と幸福に関する新しい概念です。なぜ今、こうした変化が見られるのでしょうか?

レスター:米国では、幸せか、幸せではないか、人々がどのように感じているかについての調査が行われています。興味深いことに、調査が開始されたのは1950年代なのですが、過去半世紀にわたり、米国では幸福度の高まりが見られないということです。米国人の消費量が2倍、3倍、4倍になったというのに、です。

ですから、消費が必ずしもより高い幸福度をもたらさないということが明らかです。餓死しそうであれば、もちろん消費は幸福をもたらします。あるレベルを超えると、幸福をもたらさないのです。

枝廣:一般の人々は、幸福と消費をますます区別するようになりました。しかし、こうした問題について、企業などの産業界の人たちと話すと、多くの人々が、GDPこそ追い求めなければならないものだと信じています。GDPやGDPの拡大への執着が、より多くの消費、生産、環境への負荷をもたらすので、多くの問題を引き起こしています。GDPの拡大という考えと、それに対する人々の執着についてどうお考えですか?

レスター:産業界にいて、成功していると見なされたいならば、企業は成長しなければなりません。収益を上げなければならないのです。つまり、ある意味、成長に依存したシステムに根本的な問題があるのです。ある程度の見直しが必要でしょう。システムにどのように取り入れていくかについて、具体的にはわかりませんが、もし、人々がすべてのものをより多く消費したくないと考えるようになれば、まさに人生を楽しむことができる、よりシンプルな生活を求めるでしょう。そうなれば、企業は、現在、操業している分野で「成長し続ける」という問題を抱えなくて済みます。

米国の自動車業界の例を見てみましょう。米国の現在の自動車生産能力は、5年前を大幅に下回っています。おそらく今後はさらに減少するでしょう。成長への執着に歯止めがかかっている一つの例です。もし、人々がもっと多くの自動車を欲しいと思わなくなれば、自動車会社は成長や自動車販売量の増加を継続することはできません。自動車業界は、この始まりが見られる主な部門です。6〜8年前の米国の新車販売台数は1,700万台でしたが、今年はこれが1,300万台になる見込みです。

枝廣:本当ですか?

レスター:ちなみに去年は1,150万台でした。1,700万台に戻ることはもうないと思います。米国の自動車数はまもなく減少し始めるでしょう。

枝廣:企業が、進歩や成功を測るために、古い基準に依存していては、あまりうまくできません。どうしたら変えることができるでしょうか? 別の方法はありますか?

レスター:どのような形になっていくかは明らかではありません。自動車部門については、米国と、もちろん日本や世界の大部分の国々には当てはまりますが、世界のすべての国々というわけではありません。例えば、中国では、自動車業界が急成長していますが、ある時点で終焉が訪れるでしょう。

数年前、北京の大学で大学院生向けのセミナーをしたときのことです。私は、「中国は米国のように4人につき3台の自動車を持つようには決してならないでしょう」と話すと、一人の大学院生が、「しかしこれは私たちの夢なのです。私たちはそれを望んでいるのです」と言ったのです。そこで私は「ここ中国で、いつか、4人につき3台の自動車を持つことに成功すれば、それは『夢』ではなく、『悪夢』になるでしょう」と言いました。

枝廣:(笑)

レスター:なぜならそのレベルに達すると、中国が所有する自動車の数は、現在の世界全体の自動車所有台数を上回るからです。交通渋滞は想像を絶します。ですからあり得ない話なのです。いま、中国での自動車販売台数は急増していて、その状態がずっと続くような印象を受けますが、そうではありません。日本や米国でわかったように、あるレベルを超えると、自動車の台数を増やし続けることは交通渋滞をもたらすだけで、何も解決しないということに気がつくでしょう。

●モノの時代からシェアやサービスの時代へ

枝廣:日本には、生産と販売のモデルから、サービスを中心としたモデルに着目するようになった企業があります。自動車を製造して、消費者に販売するのではなく、例えば、カーシェアリングやレンタカーなどのサービスに注目しているのです。これは、ある程度、環境負荷の低減につながるでしょう。さらに、販売台数を増やすのではなく、人々に恩恵やサービスを与えることによって、利益を増加させることができます。他のところでもこうした変化が見られますか?

レスター:ええ。最初、私たちはレンタカーに目を向けました。自動車が必要なときに借りるだけです。それが一つのステップでしたが、次に最も先端的なカーシェアリングを始めました。現在では、米国と欧州の大部分の都市で、カーシェアリングが実施されています。

カーシェアリングによって、道路を走る自動車の数の必要性が減ります。例えば、人口当たりの自動車総数が減り始めるので、必要な駐車場の収容可能台数も減ります。人々は必要なときだけ自動車を使うからです。多くの人々は、自動車を、週末の時々の外出などだけに使います。自動車に投資する意味はありません。ですから、支出が、モノから、教育や医療などのサービスへシフトしてきています。教育も医療も、製造部門ではなく、サービス部門になります。

枝廣:ええ、その通りです。

レスター:ですから、よりサービスを主体とした経済が誕生するでしょう。教育については、どれほどの成長が望ましいか誰もわかりません。しかし、世界の大部分は、教育という部門へのより多くの投資や成長から恩恵を受けることは確実です。

枝廣:とても興味深いですね。教育や医療などのサービス部門へのシフトによって、環境への負荷が低減されると同時に、雇用も増加させることができます。

●食も農もエネルギーもローカルに

枝廣:多くの企業はたくさんの大きな問題に直面していると思います。一つは消費者の消費の減少であり、もう一つは、炭素税や原料価格の高騰などの環境問題に起因するコスト的な要因です。多くの企業が解決策を模索しています。その一つが、サービス業界への移行ですが、もうひとつの可能性が、地域のビジネスに注目することです。全国規模で巨大な産業の製造拠点を持つのではなく、小規模で地域密着型のビジネスに注目しています。それはビジネスモデルとして成り立つでしょうか?

レスター:例えば、米国の農業部門には多くの例があります。米国では、評判のいいレストランはどこでもメニューで地元の食材の使用を強調しています。なぜなら、食材が長距離を移動するにつれて、劣化により栄養価が下がるからです。地元の食材はより体によいものです。

さらに、新鮮な果物や野菜や畜産品は、地球の裏側から運ばれたものよりおいしいですね。このシフトが起きていて、それはファーマーズ・マーケットにも表れています。米国では、ファーマーズ・マーケットの数が、過去10年間でおそらく2倍になり、今後もさらに倍増すると予測されています。現在では、全米各地で地元農家の市場を作り出すために、米国農務省によるファーマーズ・マーケット立ち上げへの支援も行われるようになりました。米国では、多くの小規模農園が作られているため、農園の数が増加している場合があるという興味深い現象が起きています。さらに、興味深いことに、その多くは女性が運営する農園なのです。

枝廣:そうなのですか?

レスター:はい。従来の農業についての考え方とは逆ですよね。

枝廣:ええ。

レスター:しかし、その理由は、地元の市場や地元のレストラン向けに生産していることにあります。スーパーマーケットのチェーンの中には、季節ごとに地元で食材を調達し始めているところさえあります。つまり、農業が再構築されているのです。それは、エネルギー経済の再構築を反映しています。

古い食料経済や農業経済は、新鮮な野菜や生花を世界各地へジェット機燃料を使って輸送するなど、大量の石油を消費することで成り立っていました。それが変わりつつあります。第一に、あまりにもコスト高になっています。第二に将来的には、ジェット機燃料用に使うための石油があまりないだろうということです。

ですから、エネルギー経済の地域化による農業の地域化が起きているのです。エネルギーの地域化は、農業の地域化にもつながります。

●3.11以降見えてきたことと、世界の動き

枝廣:それはとても重要な方向だと思います。日本では特に3月11日の大地震と原発事故以来、多くの人々が日本のエネルギー事情について考え直しています。現在のところ、エネルギー政策は政府と産業界のみによって作られています。一般市民の考え方や意見は反映されません。

政府や産業界は、原子力発電を擁する巨大で中央集約型のエネルギーシステムを考えていますが、多くの人々はそんな現状について考え直しを始めています。各地域でのエネルギー資源を活用できる、太陽光発電、風力発電など、より地域化されたエネルギーシステムを持たなければならないのではないかという声も多くあります。

しかし、日本の現在のシステムでは、地域分散型の発電システムを促進することはなかなか困難な作業です。世界のエネルギー事情の全体像を見ると、中央集約型の巨大な発電システムから、地域分散型のシステムへ移行していると思いますか?

レスター:さまざまなことが起きています。化石燃料から、風力や太陽光や地熱といった、再生可能エネルギー源への電力へ移行しています。さらに、こうした再生可能エネルギー源は、ほぼ必ずといっていいほど、本質的に地域的なものです。石油や石炭を地球の裏側へ運ぶことはできます。しかし、風力や太陽光エネルギーを、地球をぐるりと運ぶことは困難です。

枝廣:その通りですね。

レスター:それがいま起きていることの一つです。もう一つは、私たちはまだその初期段階にしかいないのですが、輸送システムの電化が進められています。プラグインハイブリッド車と全電気自動車の開発でもそれがわかります。これら二つはいずれも、私たちを、液体燃料、石油、つまりガソリンから、風力や地熱や太陽光などのエネルギーへ移行するように促しているのです。

例えば、米国では、ほぼ電気のみで自動車を動かす日が近づいてきました。1ガロン当たり1ドル(1リットル当たり26セント)以下のコストに相当します。経済的に考えてみれば、突如として非常に魅力的になります。

枝廣:そうですね。

レスター:また、例えば、風力の禁輸措置を行える人は誰もいません。だから、胸が踊るような可能性があるのです。莫大な潜在性が秘められています。米国だけでなく、日本や世界全体にとってもです。米中の科学者チームが中国の風力資源の国全体のインベントリーについて調査を実施しました。『サイエンス』誌で発表された報告によると、結論として、中国は風力のみで現在の電力消費量を16倍まで増やすことができるということでした。この例からも、規模の壮大さがおわかりいただけると思います。

●まだまだある! 日本の再生可能エネルギーの可能性

レスター:日本は、そうしたいと決めれば、全国にあるすべての原子力発電所を、地熱で置き換えることができます。

枝廣:はい。

レスター:小さな国のアイスランドは、現在、発電での地熱利用を大幅に拡大しています。アイスランドを思い出した理由は、アイスランドが日本のように地熱資源が豊かだからです。アイスランドは、現在、地熱発電による電力をスコットランドや欧州の他地域へ輸出するために、スコットランドまで海底ケーブルを引きたいと考えています。

枝廣:そうですね。その通りです。日本は地熱エネルギーの潜在可能性は世界第3位です。しかし、私たちは、そのわずかな一部しか活用していません。

しかも日本のエネルギー事情に関する政治的な課題によって、風力発電とほかの再生可能エネルギー源もまだ開発されていません。

レスター:それは変わりつつあると思います。

枝廣:ええ、変わるべきであり、変わっていると思います。日本政府と経産省がいわゆる「次のエネルギーの枠組み」について大きく変わりつつあります。よりよいかたちに変わってほしいです。また、そうあるべきです。

●再生可能エネルギーへのシフトは雇用ももたらす

枝廣:再生可能エネルギー源へシフトすることで、原子力と比べて雇用が増えるでしょう。

レスター:はるかに労働集約度が高いですからね。風力と太陽光は、例えば、石油や石炭よりもはるかに労働集約度が高いです。石油精製所の近くを車で通りかかると、たくさんのタンクと配管が見えますが、人間はいません。しかし風力発電所を見れば、それを維持するために常に作業する人がいます。風力タービンの設置は、労働集約度が高い一方、あまり多くの資本を必要とせず、設置にかかる時間もとても短くてすみます。風力発電の最も素晴らしいところは、1年、つまり12カ月以内に大きな風力発電基地を構築することができるということです。一方で原子力発電所は構築までに数年を要し、巨額の資本を要します。

特に新しいエネルギー技術など、新しい技術を評価しようとする場合、私が注目するものの一つに、米国金融市場があります。どういう研究に多額の投資を行っているか、です。米国金融市場では30年以上、原子力発電所への投資はありません。

枝廣:本当ですか?

レスター:はい、今後もないでしょう。例えば、風力や太陽光には数十億ドルを投資している一方で、原子力発電に投資をしない理由は経済的ではないからです。他方、米国内には開発中の地熱発電所が141カ所あると思います。

枝廣:それはわくわくしますね!

レスター:ですから、物事はようやく始まりかけているのです。

枝廣:日米政府にとっても、多くの各国政府と同じく、雇用が非常に重要です。なぜなら、社会には失業に関連する大きな問題があるからです。どうあって雇用を増やすかは、多くの各国政府にとって最大の課題の一つです。その意味では、欧州各国など多くの政府が再生可能エネルギーに注目しているのに、なぜ日本政府は計画していないのでしょうね? 政治家にとって再生可能エネルギー源への投資と促進は、環境面だけでなく、雇用の面でもよいはずです。雇用は人々に幸せをもたらします。言うまでもなく、失業している人は幸せではありませんから。

レスター:世界はより多くの雇用を切実に必要としています。雇用を増やすためには、化石燃料から脱却し、エネルギー経済を再構築するのも一つの方法です。化石燃料とは、資本集約度が高く、労働集約度は高くありません。一方で、太陽光、風力、地熱は労働集約度が非常に高いのです。開発及び保全の両方において、多くの雇用が創出されます。

●幸せの新しい指標は?

枝廣:私たちは、GDPで測るのではなく、進歩を測るために新しい物差しや基準を持たなければなりません。レスターさんの「公園と駐車場の面積比」(Parkto Parking lot)という指標は面白いですね。あれは、レスターさんがお作りになったのですよね?

レスター:ええ。

枝廣:これも幸せの要因に関連しています。こうした新しい基準がもっとあればと思います。

レスター:いま枝廣さんがお話されたことは、おそらく10数年前に思いついたことでした。当時、私はイスラエルのテル・アビブにいました。テル・アビブは新しく、巨大な都市です。イスラエル人の半分がテレ・アビブ市に住んでいるそうです。

ビジネスマンの団体を対象として話すために、ホテルから会議場へ移動するために自動車を運転していたときのことです。私はびっくりしました。自動車を停めることができるスペースにはすべて、自動車が駐車されていたのです。そこで、都市の暮らしやすさや、市内で感じる雰囲気の最善の指標の一つは、公園と駐車場の割合であると考えるようになりました。

もし、大部分が公園ならば、むしろ快適な場所になります。大部分が駐車場ならば、それほど素敵ではありません。結論として、私たちは自動車ではなく、人間のために都市を設計しなければならないのです。過去50年間、私たちは自動車のために、世界中の都市を設計してきました。その結果、私たちは大気汚染、交通渋滞、欲求不満を経験するようになりました。ですから、少なくとも、都市の設計について、私たちの考え方を根本的に変える必要性があるとわかるようになったのは、その一つの指標のおかげでした。

枝廣:私たちはこうした新しい測定方法をもっと多く持たなければなりません。GDPや企業の株価を見ると、人々はそれが本当に何を意味するのかわからずに、単にこうした変動する数字に注目しているのです。

レスター:そうですね。

枝廣:ですから、私たちは福利と幸福のための本物の指標を作って発表しなければなりません。

レスター:そうですね。もう一つ言えるのは、人間ではなく、自動車のために都市を設計すると、都市はもはや歩行者にやさしくないということです。運動をするための方法である自転車にもやさしくありません。現在は肥満の問題があります。交通渋滞と大気汚染と並ぶ兆候です。

しかし、電力によって主に駆動及び電源供給されている輸送システムがあり、自動車を置き換える非常に優れた移動手段と自転車にやさしいシステムがあれば、どのような都市になるか想像してみましょう。静かで、時折、自動車を運転するときに聞こえる電気モータのブーンという音がするだけです。大気汚染も話題になりません。今日、大気汚染がない静かな都市など想像すらできません。私たちの経験からは程遠いのです。そうしたタイプの都市こそ、将来的に構築する必要があります。

枝廣:そうですね。

●21世紀に必要なこととは

枝廣:まだまだお聞きしたいことはたくさんあるのですが、最後にあと二つ質問させてください。一つは私たちの新しい幸せ経済社会研究所について、レスターさんのお考えやご指導をいただけたらと思います。私たちは、本物の持続可能な社会を作るために、福利と幸福、経済と社会の関係について研究しています。本当の変化を起こすために、どのような研究を行うべきでしょうか?

レスター:去年のちょうど今頃、私は中国版『プラン4.0』を見ながら中国にいました。そして、中国が抱える問題の多くは、中国が西洋の工業国経済をまねようとしている結果、多くの問題が引き起こされたということが突然にわかりました。

さらに、「今日、20世紀ではなく、19世紀でもなく、21世紀向けの経済を設計するとしたら、どのような感じになるだろうか?」「その経済の中での暮らしはどのような感じだろうか?」と、自分に問いかけることは、わくわくして楽しいだろうと思いました。その答えは、土地不足、水不足、炭素排出量などを考慮しながら、現在の私たちの経済とは非常に異なるものになるように考えなければなりません。

おそらく今は、19世紀(石炭)と20世紀(石油)の経済をまねるのをやめて、「今日、私たちが望む経済はどのようなものでしょうか?」と新たに考え始める時期なのかもしれません。現在あって今後数十年先にも存在するとわかっている条件で、21世紀の経済を設計するだけです。「21世紀の経済を設計しようではないか?」、それが私たちの現在地です。私たちはもはや20世紀にも19世紀にも生きていないのですから。

枝廣:それは素晴らしい挑戦ですね。ありがとうございます。

●持続可能な未来へ

枝廣:最後の質問は、「何がレスターさんを幸せにしますか?」です。レスターさんはこの分野で何年も取り組んできました。実際のところ、問題は改善されず、悪化する状況を目にしてきました。しかし、レスターさんはいつでも幸せそうにしていらっしゃいます。何がレスターさんを幸せにするのですか?

レスター:(笑)そうですね、文明を救うために自分たちがすべきことが実践されているかどうかを示す進捗報告に耳を傾けることです。例えば、1ヶ月ほど前、英国のデビッド・キャメロン首相は、「私たちは2025年までに炭素排出量を50%削減する」と述べました。現時点までに国が表明した中で最も意欲的な目標でした。

アースポリシー研究所のプランBでの私たちの目標は、2020年までに炭素排出量を80%することです。2025年までに50%とは同じではありませんが、正しい方向への大きな一歩です。

また、コスタリカやモルジブなどのより小さな国々が2020年頃までにカーボンフリーにする計画です。小さな国々ですよね。英国ははるかに大きな先進国です。スコットランドは例えば2020年までに電力すべてをカーボンフリーにするそうです。

枝廣:なるほど。

レスター:徐々に増加するといった周辺的な変化ではなく、突然の飛躍的進歩が見られるようになってきました。地熱エネルギーを豊富に持つアイスランドは、地熱で発電した電気を欧州などへ輸出したいようです。

また、人口を安定化させた国が46カ国あります。日本はそうした国の一つです。ロシアを含む欧州の西部と東部のほぼすべての国々は、ほぼ人口を安定化させました。それは進歩です。まだ先は長いですが、中国と米国はそれほど長い道ではありません。この2カ国で実現すれば、世界にとっても大きな影響を及ぼします。

こうした、持続可能な文明に向かって前進しているという証拠に、私は最もわくわくし、喜びを感じます。

枝廣:ありがとうございました。

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