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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2011年04月04日

「放射線に関する情報を(少しでも)自分で判断できる力をつけるために」(その3)放射線や放射能の「単位」に気をつけよう (2011.04.04)

 

[No. 1945] で、「放射線に関する情報を(少しでも)自分で判断できる力をつけるために」の最初の部分をお届けしました。

(その1)放射線って何?
(その2)「放射線」と「放射能」と「放射性物質」を区別しよう

自分の書いた内容を放射線の専門家の方に監修していただくことができ、とてもありがたく思っています。ということで、つづきをお届けします〜!

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「放射線に関する情報を(少しでも)自分で判断できる力をつけるために」

(その3)●放射線や放射能の「単位」に気をつけよう

放射線の人体への影響についてはあとで大事な区別を説明しますが、人体に影響があると分かっているのは100ミリシーベルト以上です(シーベルトは放射線の強さを示す単位です。)。

そこで、一般の人については、制御可能な放射線に対する線量限度は、生涯に追加で受ける線量が100ミリシーベルトを超えないレベルとして、年間1ミリシーベルトとされています。これは国際放射線防護委員会の勧告値で、日本をはじめ多くの国がこの勧告に従って線量限度を決めています。

一般の人の線量限度は「年間で」1ミリシーベルト、ということを覚えておきましょう。

報道などで、線量(シーベルトやグレイ)の数字を見ると、一時間あたりのシーベルトだったり、一日あたりのシーベルトだったり、時間の取り方がいろいろです。注意して見る必要があります。

記事などをよく見ると、「シーベルト」といっしょに「時間あたり」「一日あたり」などの説明がついていることに気がつきます。「マイクロシーベルト/時」「1日あたり○ミリシーベルト」などです。

また、単位はシーベルトだけではありません。たとえば、水道水の放射能の強さは「ベクレル/kg」などの単位で示されていす。これは、水1kgあたりにどのくらいの強さの放射性物質が入っているか(=どのくらいの放射能の強さか)を示しています。(放射線と放射能の違いについては、本シリーズ「その2」をご覧ください)

また、風などに乗って移動し、空から降ってくる降下物の放射性物質の量は「ベクレル/平方メートル」などで示されます。単位面積あたりの放射能の強さですね。

単位を意識していないと、ある数値や情報を読んだときに、間違った理解をしてしまうことがあります。間違った解釈を伝えかねない報道や情報には注意が必要です。

さきほど書いたように、「年間1ミリシーベルト」は、確実に人体に影響がないと言える線量の最小値でした。もし、記事に出ている数字や観測値を人体への影響という観点で考えたいとしたら、その観測値の単位を「年間」に揃えてみてください。

たとえば、官邸ウェブサイト(3月27日午前2時現在)の「東北地方太平洋沖地震への対応 > 放射線モニタリングデータについて」には、

==
*地点により増減はあるものの、全体として数値は横ばいです。
*宮城、福島以外の地域での最高値は、茨城県(水戸市)の0.264マイクロシーベルト/時でした(26日9:00〜10:00)。なお、同地域の値は、26日16:00-17:00には0.257マイクロシーベルト/時に下がっています。
※ なお、胸のX線検査は1回50マイクロシーベルトです==
と書いてあります。

ここで、水戸市の 0.264 マイクロシーベルト/時の環境に一年間(24時間×365日=8760 時間)いたと仮定すると、0.264 マイクロシーベルト/時×8760時間=2.31 ミリシーベルトの放射線をうけることになります。この数字は、1年あたりに許される量とされている1ミリシーベルトよりも大きい数字になります。

とはいっても、「現在の高いレベルの放射線が降り注ぐ環境に一年間いる」という前提は、おそらく現実的ではないですよね(現実になったらタイヘン!)。それまでに、防護措置や、最悪の場合はその場所から避難すると考えるのが現実的と思います。

さて、ではこの「データ」をどう考えたらよいのか?

この例から、報道記事などを見るときの注意点を2つ挙げられます。

1つは、単位に気をつけることです。発表されている時間あたりの測定値を「年間1ミリシーベルト」の線量限度と比べたいなら、「時間あたりの測定値×1年間の時間数(8760時間)」を計算することになります。

もう1つは、その数値をどう考えるか、それはそれぞれの判断になる、ということです。

「仮に1年間このレベルが続いたら確かに危険だけど、それはありえない。だから事態の推移を見守っていよう」と考える人もいます。「このまま高いレベルが続いたり、もっと高くなったら危険だから、早く事態が収拾するよう働きかけよう/避難しよう/ヨウ素剤などの予防策を手配しよう」と考える人もいます。

これはそのリスクをどう考えるか?という各自の判断になります。(リスクの考え方については、また別途説明したいと思います)

もう1つ、先ほどの官邸のウェブサイトからの引用(いまは削除されているようです)の最後に「なお、胸のX線検査は1回50マイクロシーベルトです」という、あたかも「それに比べたら、観測値は大したことないでしょ(だから気にしなくていいんだよ)」とでも言いたげな付け足しがありましたね。

でも、空気中の放射線や水道水の放射能を、X線検査と比べたりCTスキャン検査と比べたりするのはヘンですよね。だって、X線検査は一瞬のことですもの。もし50マイクロシーベルトのX線検査を1時間毎に1年間ずっと続けたら、タイヘンな被ばく線量になってしまいます!

私たちを取り巻く空気などの環境中にどのくらいの放射線があるかは、X線検査のように一瞬の影響ではありません。1日24時間、放射線がありつづける限り、その影響は続きます。すなわち、時間数や日数をかけあわせた値が影響の大きさを示す指標になります。

もう1つ、環境中や水道水中の放射線や放射能と、X線検査の放射線とをあたかも比較可能なもののように並べて論じることは不適切である場合があります。それについては、シリーズの次回に説明します。

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※メールニュースに掲載されている内容・情報はそれぞれのご判断の上、出所(枝廣淳子の環境メールニュース http://www.es-inc.jp)を添えて、引用・転載くださってけっこうです。ただ、どの情報も「その時点での情報」であって、のちに修正・追加等される可能性がある情報であることをご理解・ご明記いただければ幸いです。

 

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