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今回の震災・東電原発事故を受けてのさまざまな状況の展開から、私たちはいろいろと大事なものを学びつつあります。ふだんの活動領域が温暖化対策であれ、何であれ、今回の状況とその展開の仕方から、学び、今後に活かしていかなくてはならないと思っています。
情報の伝え方や受け取り方、特に、リスクコミュニケーションについて、いろいろと考えさせられ、(時に批判を受けるなど、痛い思いもしているので)転んでもタダでは起きたくない〜!と、「そこからの学び」をできるだけ自分の中に蓄積しようと努めています。
毎度のことですが、
「政府の国民不信(事実を伝えたらパニックを起こすのではないか」→「情報を出さない」→「国民の不安が高まる」→「政府の国民不信がますます高まる」→......
という悪循環の構造が、今回もあちこちで見られますね......。
国民の側も、ある不信レベルを超えてしまうと、今度は政府が仮に事実に基づいて「大丈夫」と言ったとしても、「本当? また何か隠しているんじゃない?」と疑心暗鬼で、「大丈夫」をそのままは受け取れない、「大丈夫」といえばいうほど不安になる......という感じになってしまいます。
今回のさまざまな状況の展開を構造図(ループ図)にして、みんなで構造に関する理解を深め、「効果的な介入点」を考えていけるよう、準備を進めています。
ただし、「効果的な介入点」がわかっても、そこを効果的に「押す」ことで、構造を変え、状況を変えることができるかどうかは、次の課題です。
そういう意味で言うと、温暖化対策でも何でも、「どうやって当局を動かすか」は大きな課題(壁?)の1つです。市民の会合などではよく「どうしたら、霞ヶ関を動かせるのでしょう?」と聞かれます。私自身、霞ヶ関の方々に同じ質問をしたことが何度もあります。
そういう意味で、今回、「ある重要な情報源があるにもかかわらず、国民にその情報が知らされていなかった」状態から、さまざまな働きかけを経て、「その情報が国民に公開された」状態に、展開したものがあります。(大きな一歩だと思います! 昨日公開されたばかりです〜)
私の知っている範囲で、となりますので、情報は限定的であり、全容を示しているわけではありませんが、この展開を追ってみたいと思います。
緊急時迅速放射能影響予測(SPEEDI)ネットワークシステムです。
メールニュース[No. 1935] で、3月21日付の日経新聞から「日本には緊急時迅速放射能影響予測(SPEEDI)ネットワークシステムと呼ばれるしくみがある。原発で放射性物質が放出されたとき、その広がりを瞬時に予測する。予測システムがあれば、周辺のどこがいつ危険な状態になるのか、シナリオが描ける。政府はシステムの存在を国民に知らせ、活用すべき」と紹介しました。
私はたまたま、放射線や原発に詳しくさまざまな活動をされている方々のネットワークに入れていただいているのですが、そこでは、東電原発事故の割とすぐあとから「SPEEDIはどうなっている?」というやりとりが始まったため、その存在を知ったのでした。
ところが、問い合わせてもつながらないなど、どうなっているかがなかなかわからない状態が続き、市民のネットワークの中から「どうなっているか、声をあげよう」「公開質問状を出そう」という動きも出てきました。
また、以下の記事にもあるように、研究者などからも批判や開示要求が出てきたようです。同様の記事は、読売新聞など他のメディアにも載っていました。
"国、国民の被曝予測公表せず 研究者らが批判"朝日新聞 3月21日23時45分
>http://www.asahi.com/national/update/0321/OSK201103210061.html
政治のレベルでは、22日の予算委員会で福島みずほ議員がこの点を含めて質問しました。
そのようすは参議院インターネット審議中継で、見ることができます。
http://www.webtv.sangiin.go.jp/webtv/index.php
※このページのカレンダーから「22日」を選ぶと、「予算委員会」1件ヒットとなります。この会議名をクリックすると、6時間余の審議すべてが見られます。
福島議員の質問とそれへの応答を見たい場合は、「収録時間」の右に「会議の経過・質問者等」というボタンが3つありますので、その真ん中かいちばん右のボタンを押すと、発言者一覧が出てきます。そのいちばん下にある
福島みずほ(社会民主党・護憲連合)
をクリックします。この質疑応答から、関連する一部を紹介します。
> 福島みずほ議員
> 「SPEEDIの結果が公表されていないのはなぜか」
>
> 斑目原子力安全委員会委員長
> 「SPPEDIというソフトウエアは原子炉施設からどのような放出があるかがわかっ
> ているとき、そのときの気象条件などを用いて、「どこの線量がどのような値に
> なるか」を予測するシステムである。
>
> 原子力施設からどのような形で放出されているかわからないため、現段階では予
> 測に使うことは無理だ。 むしろ各地でポイントとしてモニタリングをやってい
> るのが、それをモニタリングを面的に補足する手段としてSPEEDIを使っている。
> それについてであればいくらでも公表することは可能。しかし予測することは無
> 理だ」
>
> 福島議員
> 「国の様々なデータが公表されないために、国民は不安になっている。即時の公
> 表を求める」
そうしているところに、衆議院議員の河野太郎氏のメルマガが届きました。
河野太郎ブログ ごまめの歯ぎしり はウェブからも読めます。
http://www.taro.org/2011/03/post-957.php
「SPEEDI、公開できませんっ!?(2011年3月23日 14:03)」
メルマガは全文なら転載可ということなので、以下、転載します。内部の状況が伝わってきます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
......ごまめの歯ぎしり メールマガジン版......
衆議院議員 河野太郎の国会日記
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緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)というシステムがある。緊急事態が発生した際に、気象観測情報、アメダス情報と放出核種、放出量等の情報を入れることにより、六時間先までの希ガスによる外部被曝線量や甲状腺等価線量などをシミュレーションすることができる。
事故発生後から、この情報の開示を自民党の対策本部として政府に求めてきたが、全く開示されない。
その一方で、ある海外メディアからSPEEDIによる計算結果の二次元表示を見せられて(つまりリークか?)、なぜ、これが公表されないのかという質問を浴びる。
それが本物かどうかもわからないため、昨日22日は答えられず。
23日朝9時から、官邸、文科省、原子力安全委員会にそれぞれ電話するも、三者ともそれぞれ自分に公開する権限はないと力説するだけ。
このシステムを持っているはずの文部科学省に、「原発の緊急事態のSPEEDIに関する情報の担当部署をお願いします」と電話すると、「原発に関する情報はスピーディにお出しするようにしています」。思わず、頭に上っていた血が降りてきた!
十数分後に事務次官室に電話が回され、何度目かの「SPEEDIの担当部署をお願いします。」「少々お待ちください」と言われ、待たされていると、スピーディってどこの部署と電話の向こうで騒いでいる。ようやく回されると、「3日前から原子力安全委員会に移りました。」
その原子力安全委員会も官邸も誰が開示できるのかまるで把握していない。
あげくのはてに、「事故で情報が取れないので正しい数値を入力できず、どれだけ意味のある情報になっているか」。本来、事故のための「迅速」影響予測システムのはずなのに。
その一方で、アメリカの大手新聞の取材に「東京電力はよくやっている。日本の原子力は本当に安全だ」と能天気な受け答えをしている与党議員がいる。それで、また海外メディアの不信感が高まっている。どっちが与党だ!?
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〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
市民の側でも、たとえば、以下のようなアンケートで情報公開を求めようという動きが盛んになってきています。
【緊急】福島原発大事故にともなう情報公開に関するアンケート
http://www.kankyoshimin.org/modules/blog/index.php?content_id=86
政治家の声や働きかけがやっと届いたのでしょう、 原子力安全委員会は、3月23日に以下のプレス発表を出し、予測を公開しました。
http://www.nsc.go.jp/info/110323_top_siryo.pdf
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
プレス発表
平成23年3月23日
原 子 力 安 全 委 員 会
緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)の試算について
【経緯】
原子力安全委員会では、3月16日より、緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)による試算のために、試算に必要となる放出源情報の推定に向けた検討をしてまいりました。3月20日から陸向きの風向となったため、大気中の放射性核種の濃度が測定でき、限定的ながら放出源情報を推定できたことから、本システムの試算を行うことが可能となりました。
これをもとに試算した結果は、別紙のとおりです。
【評価】
○本試算は、福島第一原子力発電所の事故発生後、連続して一日中屋外で過ごすという保守的な条件を仮定して、甲状腺の被ばく線量を試算したものです。
○ただし、屋内では屋外と比べて4分の1から10分の1に放射線の影響を低減させることができます。
○本試算は、限定的な情報しか得られていない状況下で試算されたものであり、今後、この試算の精度を高めるために、モニタリング結果を充実させていくことが必要です。
(※pdfには、ここに地図上に「内部被ばく臓器等価線量」をプロットしたものが載っています
http://www.nsc.go.jp/info/110323_top_siryo.pdf )
「参考」国・地方公共団体は、SPEEDIネットワークシステムが予測した情報により、周辺住民のための防護対策の検討を迅速に進めることができます。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
公開されてなかった情報が公開されたこと、よかった!と思いますし、大きな前進だと思っています。
報道によると、このSPEEDIシステムは1979年の米スリーマイルアイランド原発事故を受け、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)が開発したもので、ふだんは各地の原発などを監視しているそうです。
「すばらしい技術がある」ということと、「その技術を国民のために役立てている」ことはイコールではないのですよね。「ある」→「役立てる」をつなぐために、いろいろな働きかけのおかげで、情報開示に至った、というのが(まだまだ足りない点はたくさんあると専門家は指摘していますが)今の状況のようです。
この件に関する一連の流れを見ていて、今のところの私なりの「学び」は、
・ふだんからそのテーマに詳しい市民のネットワークがいちばん情報が早く、詳しく、専門的なので、そういうネットワークや情報につながっていることが大事(他の件でも、市民のネットワークで話題になった数日後にマスコミでも取り上げられる、ということがよくあります)
・市民が市民に呼びかけることも大事だが、市民の心配や不安、活動の広がりやうねりを、こういうことを理解し、わかってくれる政治家に伝えて、政治の場面で動かしてもらうことが大事
・こういうことを理解し、わかってくれ、動いてくれる政治家を大事にしなくてはならないし、増やしていかなくてはならない
・こういうことの重要性を理解し、調べ、問いただし、マスコミで取り上げてくれるジャーナリストを大事にしなくてはならないし、増やしていかなくてはならない
・市民や研究者の動きを、マスコミを通じて、政治家を含め社会に広く伝え、世論を喚起することも大事
などなど。
もっとも、ただ情報を出せばよい、というわけでもありません。公開されたSPEEDIの情報をどうやって解釈し、判断につなげていけばよいのか? 「内部被ばく臓器等価線量」って何? どの線まではアブナイの?等々、私も含め、よくわからない人たちが多いので、情報やデータだけではなく、リスク判断につなげるための理解や解釈のサポートも必要となります。
ある方に、論語に「民は之に由らしむべし、之を知らしむべからず」とあります、と教えていただきました。民衆に何かを知らしめることはとても難しいが、きちんと知らせるには、施政者は「由らしむべし」で、結果だけでなく、その理由とか決定の経緯を説明する必要がある、という意味だそうです。
そこのところもぜひ力を入れてほしいと思います!
現状では、難しい状況になっています。。。データや事実は同じでも、その解釈やリスク評価は、専門家でも人や組織によってかなり異なるからです。
「東京都の浄水場で210ベクレルの放射性ヨウ素を検出」というデータ・事実に対しても、「これぐらいなら心配要らない」〜「すぐに東京から脱出すべき」まで、いろいろな意見や勧告が飛び交っています。でも、どれが正しいのか(自分にとって納得できるのか)を判断する枠組みや基準さえ、自分の中にない......。
私と同じような気持ちの方も多いでしょう。だから余計に不安になるのかもしれないですね。少しでも自分で理解でき、自分なりの判断の枠組みや基準が持てれば......と、私は自分の理解できる範囲で少しずつ勉強中です。
「専門外の人がそんなことをする必要はない、専門家に聞けばいいじゃないか」という意見もありますが、これまでそうやって、専門外だからと専門家に任せきりにしてきたから、こういう状況になってしまったのかもしれないという個人的な反省に基づき、遠い道のりですが、ほふく前進中です。。。
※メールニュースに掲載されている内容・情報はそれぞれのご判断の上、出所(枝廣淳子の環境メールニュース http://www.es-inc.jp)を添えて、引用・転載くださってけっこうです。ただ、どの情報も「その時点での情報」であって、のちに修正・追加等される可能性がある情報であることをご理解・ご明記いただければ幸いです。