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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年07月11日

スイスからのレポート「C2Cという現代消費社会のリデザイン」(2010.07.11)

世界のわくわくNews
 

ときどきスイスから興味深いレポートを送ってくださる穂鷹さんから、またまたとっても面白いレポートが届きました。

「従来のエコデザインは、効率をよくして環境負荷を少しでも減らす、というスタンスだが、悪いものを「減らす」のは、決して「良い」ことではなく、単に問題を先送りしているだけ。はじめから悪いものではなく、「良質」のものをつくるのではなくてはならない」。

そうした考え方をデザインの基礎として作られた多くの製品のなかには、「非常時には食べられる飛行機の乗客用座席」も! ご快諾をいただき、お届けします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「C2Cという現代消費社会のリデザイン」

穂鷹知美 スイス在住 gassner(at)d01.itscom.net(ご連絡いただきます際は、カッコと中身をアットマークに変換してください)

冒頭から私事で恐縮ですが、近年、環境とデザインの関係がすごく気になっています。ここでいうデザインというのは、優秀なデザイナーのクリエイティブな仕事ということにとどまらず、環境や環境問題の捉え方が大雑把に言えば環境思想だとすれば、より実践的、具体的な関わり方、表現としての環境デザインのことです。

デザインの在り方や内容が、どのくらい、現在の環境事情によって変容しているのか、それと同時に、デザインが環境問題にどうインパクトを与えているのか、というような、漠然としたことが、気になって仕方ありません。思想や政治という分野と違って、具体的な物やしくみであるデザインに、それぞれの時代のそれぞれの場所での、人々の環境についての志向が、解釈の相違の余地も少ない明らかで、端的な形で、あらわれてきているのではないか、もしそうであるのであれば、その志向の変化や傾向などの特徴を見い出すことで、表面化しにくい、環境ファクターと人とのインターフェース上での問題もみえてくるのではないか、と一人で勝手に、にらんでいます。

それで、デザイナーやアーティストがどのように環境問題に関わることが可能か、といったテーマの美術館の展示を、スイスでいくつか見に行ったのですが(環境テーマは、美術展示の新しい切り口として、最近ちょっとしたブームのように見受けられます)、今一ぴんときませんでした。

最初から環境問題ありき、という感じで、既存の環境問題イメージにからめとられ、その問題意識下で、これからはデザインや芸術分野からも貢献すべきであるというモラルが作品の意思としてあって、省エネ率やリサイクル率だけが唯一の、デザインの創造性と優秀さを計る尺度になっているような、狭義のエコロジカルデザインに収斂してしまっているものが多いように思いました。デザインというジャンルには、もっと実験的、あるいは豊かな発想を背景に、立ちのぼってくるものがあるのではないか、という気がしてなりませんでした。

そんな中で、最近、驚くような発想の環境デザインが、とりわけオランダで今、もてはやされていることを、新聞で知りました(2010年3月10日、5月7日のNeueZu"richer Zeitung それぞれFolio, Thema,日曜版44頁)。

発案者は、ドイツ人の化学者ブラウンガートMichael Braungart 氏と、アメリカの建築家のマクドノーフWilliam McDonough氏で、1990年代から、ごみが一切でない自然の姿を理想に掲げ、人が作り出すものも、使用後にごみになるようなものでなく、使用後もまた再利用できるものにするという、一見とてもシンプルな、しかし現代消費社会の総合的なリデザインとなる構想を提唱してきました。

工業デザインの分野にとどまらず、建築物や社会システムなど、社会横断的にこの考え方を適用させてリサイクルを再構成しようとするこの構想は、 2002年に「ゆりかごからゆりかごへ (原題 Cradle to Cradle. Remaking the Way We MakeThings)」という共著の本の形にまとめられ、これ以後、この構想は、本のタイトルの頭文字をとって短く「C2C」と呼ばれています。(ここでも以下、C2Cと表記することにします)

従来のエコデザインは、効率をよくして環境負荷を少しでも減らす、というスタンスですが、ここでは、悪いものを「減らす」のは、決して「良い」ことではなく、単に問題を先送りしているだけなので、はじめから悪いものではなく、「良質」のものをつくるのではなくてはならない、と言います。

具体的には、有機的な製品は、生態系のサイクルにもどすようにし、非有機的製品は、使用後に簡単に部品に分解し、中に含まれる有害物質を含めてすべて収集、再利用するような製品設計をしていきます。スポーツ用品メーカーのナイキや、クルマ製造メーカのフォードをはじめ、とりわけ多くの大手化学会社がこのコンセプトにそった製品の開発の研究に現在取り組んでおり、目下、C2Cの認証を受けた製品(C2C普及のため、1995年よりブラウンガート、マクドノーフ両氏により、認証やコンサルタント業務を行う会社MBDCが設立されました)は約600種に至っています。

製品は従来の発想に頼らないユニークなものも多く、例えば、現在のエアバスA380の乗客用の座席は、スイス企業が生産した自然素材でできており、非常時には食べることもできます。かなり有毒な含有物が部分的に含まれている窓を生産している企業では、窓を家の持ち主に売るのではなく、賃貸するという形をとることで、窓の材料の完全かつ安全なリサイクルを実施しています。アメリカのカリフォルニア州では、近年、C2Cの原則に見合う廃棄物処理法が提案されました。

現在C2Cブームが世界で群を抜いて、巻き起こっているのが、オランダです。オランダでは、2006年にテレビでC2Cが紹介されて以降、自治体でC2C のコンセプトを実現しようとする動きが高まりました。最近崩壊したオランダの連立政権も、C2Cを擁護する姿勢をとり、2012年からは公的機関は、 C2C原則に基づいた製品しか購入できなくなります。

マースリヒトを州都にするリンブルグ州の小都市フェンローでは、最近、C2C原則に沿った都市構想や予算を盛り込んだマスタープランを作成しました。これによって、C2Cを実現する世界初の自治体を目指そうとしています。

ブラウンガート氏は言います。私たち人間は、地球上に有害な生物であるとすれば、数が多すぎるが、地球に役に立つ生物であるならば、人口が増えても問題がないのだと。これまで作り続けてきたような物を消費し、罪悪感をもって生きていくのではなく、良いものをどんどん作り、これを消費していけば、人間は地球に貢献できるし、活発で創造的な活動を続けていくこともできる、というブラウンガート氏のメッセージは、残念ながら、目下、楽観的すぎるという根強い批判を免れずにいます。

ですが、人間として生まれて今どこにも逃げ場もなく、この地球に立っているわたしたちや、わたしたちの子供たちに、希望と勇気ももてるこのような一つの環境デザインが生み出されたことは、やはりすてきなことの一つに違いないと思えます。

C2Cにご興味のある方は、以下のサイトもご覧ください。C2C構想、認証に関するサイト
http://en.wikipedia.org/wiki/Cradle_to_Cradle_Design
http://www.mbdc.com/default.aspx
http://www.slideshare.net/wtempst/9153-krant-c2-c-engels-2
(両氏のスピーチや講演の録画は、ユーチューブでもいろいろと視聴できます 。)

オランダの事例(英語)関連サイト
http://www.duurzaamheid.nl/cradletocradle/Cradle_to_Cradle/C2C_in_the_Netherlands.asp
http://ivem.eldoc.ub.rug.nl/ivempubs/dvrapp/EES-2009/EES-2009-78M/
http://www.nzzfolio.ch/www/21b625ad-36bc-48ea-b615-1c30cd0b472d/showarticle/e9e86335-9e3b-4cc2-9a7f-2e3b0dce89d1.aspx

 

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