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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年05月09日

レスター・ブラウン氏「3つの社会変革モデル」(2010.05.09)

新しいあり方へ
 

レスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所から届いた『プランB 4.0』よりという配信を、実践和訳チームのメンバーが訳してくれましたので、お届けします。(同書の日本語訳はもうじき出版されるのではないかと思います)

社会が大きく変わるとき、どのようなパターンがあるのか、温暖化をはじめとする現在の環境エネルギー危機に対して、私たちや日本はどのパターンで対応しようとしているのか……いろいろ考えさせられます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

3つの社会変革モデル
http://www.earth-policy.org/index.php?/book_bytes/2009/pb4ch10_ss5

レスター・R・ブラウン

私たちは十分なスピードで変わることができるのだろうか? 世界経済を持続可能な軌道に乗せようとする際、社会変革の必要性が非常に高まることを思うと、さまざまな社会変革モデルを考察するのが有益だと分かる。

ここで浮かび上がるモデルは三つ。一つ目は大惨事発生のモデルだ。私が「真珠湾モデル」と呼ぶこのモデルでは、劇的な出来事が私たちの考え方や行動を根本的に変えてしまう。

二つ目は、社会がある特定の問題において転換点に達するモデルである。長期にわたって考えや行動が徐々に変化した後、転換点を迎えることが多い。このモデルを「ベルリンの壁モデル」と呼ぼう。

三つ目は、社会変革の「サンドイッチモデル」である。このモデルでは、社会上層部の強力な政治的指導力で全面的に支持されている特定の問題に対し、強い草の根運動が変化を推し進めている。

1941年12月7日の日本による突然の真珠湾攻撃は、劇的な警鐘だった。その攻撃で、米国人の戦争に対する考えが一変したのだ。もし12月6日に、「国は第二次世界大戦に参戦すべきかどうか」と米国人に尋ねていたら、おそらく国民の95%が「ノー」と答えただろうが、12月8日月曜日の朝には、それが「イエス」に変わったかもしれない。

真珠湾モデルの弱点は、私たちが自らの行動を変える大惨事を待たなければならない場合、それでは遅すぎる可能性があるということだ。そうなれば、社会が崩壊するほどの緊張をもたらしかねない。

「気候変動の最前線には、どのような『真珠湾』シナリオがあり得るか」と問われた科学者がよく指摘するのは、西南極氷床崩壊の可能性だ。氷床から比較的小さな塊が崩れ落ちるようになって、もう10年以上にもなるが、その氷床の大部分が崩壊して海に滑り落ちる可能性があるのだ。

この崩壊により、数年以内に約60〜90センチメートルという、恐ろしいほどの海面上昇が起こることが考えられる。残念だが、そうなってからでは遅すぎる可能性がある。残りの西南極氷床やグリーンランドの氷床――グリーンランドでも融解が加速している――を救える速さで、炭素排出量を削減することは、もうできないかもしれないのだ。こうした真珠湾モデルは、気候変動についての社会変革を起こすために、私たちが目指したいものではない。

ベルリンの壁モデルは興味深い。なぜなら、今から20年前の1989年11月、壁の崩壊は、真珠湾攻撃よりもずっと根本的な社会変革が目に見える形で表れたものだったからだ。モスクワでの変化に勇気付けられた東欧の人々は、ある時期から、一党独裁制で国家の中枢が計画経済を行うという壮大な社会主義を試みることを拒否していた。そんな東欧が、予測されないまま、政治革命を経験したのだった。

それは、本質的に血を流すことなく、東欧各国の政治形態を変えた革命だった。転換点には達していた。しかし、革命は予期されなかった。1980年代に発行された政治学の雑誌の中に、「東欧に政治革命が迫っている」と警告している記事を探しても見つからない。米国政府においても、中央情報局(CIA)は「1989年1月の時点で、歴史の大きな波が私たちに押し寄せようとしているとは考えていなかった」と、元CIA長官で現国防長官のロバート・ゲーツ氏は、1996年のインタビューで振り返っている。

社会が変化するのは多くの場合、社会が転換点に達したときか、重要な閾値を越えたときである。一度このどちらかが起これば、たちまち変化が到来する。そして多くの場合、それは予測できない。最もよく知られている米国の転換点の一つは、20世紀後半に起こった喫煙反対の高まりだ。

この反喫煙運動が熱を帯びたのは、喫煙による健康への悪影響についての情報が絶えず流されたからだ。1964年、米国公衆衛生局総監は初めて喫煙と健康に関する報告書を発行した。それをきっかけに出回った一連の情報量が、あるとき、たばこ業界が巨額の資金を投じて流した偽の情報量をついに上回った。それが転換点だったのである。

ほぼ毎年刊行されている米国公衆衛生総監報告書は、喫煙が健康に及ぼす影響に関して分かりつつあることに世間の注目を集めると同時に、喫煙と健康の関係性について、数え切れないほど多くの新しい研究プロジェクトを生み出した。1980年代から90年代にかけて、喫煙に関連した健康への影響が次々と分析・実証され、新たな研究が数週間ごとに発表されているかに思える時期があった。やがて喫煙は、15種以上のがん、心臓疾患、脳梗塞と関係があると考えられるようになった。

喫煙が健康に悪影響を及ぼすという社会認識が高まるにつれ、飛行機、オフィス、レストラン、その他の公共の場で喫煙を禁じる、さまざまな対策が講じられるようになった。こうした社会全体の変化の結果、一人当たりの喫煙量は1970年ごろにピークを迎えた後、今日にいたるまで長期にわたって減り続けている。

この社会変化における決定的な出来事の一つは、州政府がこれまでに負担してきた、喫煙の犠牲者へのメディケア(高齢者向け医療保険制度)医療費の補償に、たばこ業界が同意したことだ。さらに最近では、2009年6月、広告を含め、たばこ製品を規制する権限を米国食料医薬品局に与える法案が、圧倒的多数で議会を通り、オバマ大統領が署名したことだ。これは、喫煙による健康被害を減らす取り組みの、新たな時代の幕開けとなった。

多くの点で最も魅力的なのは、サンドイッチモデルの社会変革だ。一つには、急激な変化をもたらす可能性があるからである。2009年後半の現時点で、炭素排出量の抑制や、再生可能なエネルギー源の拡大に対する市民の強い関心が、オバマ政権の利害と重なりつつある。その結果の一つとして、新たな石炭火力発電所の建設が、ほぼ事実上凍結された。

1960年代の公民権運動のときもそうだったように、米国が気候問題の転換点に向かって進んでいる可能性を示す兆候がいくつもある。その中には、不況の反映でもある指標もいくつかあるが、米国の炭素排出量は今や、2007年のピークを境にして、長期にわたる減少に向かい始めたようだ。炭素排出の主な原因である、石炭や石油の燃焼が減少している可能性がある。また、2009年に廃棄される自動車の数は販売数を上回る見込みで、米国全体の保有台数はすでにピークを過ぎ、減少に向かっているかもしれない。

ガソリン価格の高騰にも後押しされ、ここ2年間で低燃費車への転換が進んできたが、自動車の新しい燃料効率基準や、自動車メーカーに燃費向上を求める救済策によって、その傾向がいっそう強化された。自動車の効率基準をさらに厳しくし、その上で公共輸送への資金拠出を飛躍的に回復させ、より低燃費のガソリン電気ハイブリッド車だけでなく、プラグインハイブリッド車と電気自動車の両方への転換を奨励すれば、ガソリンの売り上げを大幅に減らせるだろう。過去に米国エネルギー省は、石油消費の実質的な成長を予測していたが、近ごろそれを下方修正した。今問題なのは、「石油の消費を減らすのか」ではなく、「いかに速く減らすのか」である。

風力エネルギーや太陽エネルギーが急成長し、石炭や石油が減少しているというエネルギー分野での転換は、根本的な価値観が変わる兆しでもある。やがて、すべての経済分野に変化を起こすような価値観の転換である。もしそうなれば、新たに生まれつつあるこうした価値を共有する国の指導者と力を合わせることで、今はまだ想像し難いような規模やスピードで、この転換が社会や経済の変化を引き起こす可能性がある。

三つの社会変革の中で、圧倒的にリスクが高いのは真珠湾モデルに依存することだ。社会変化を招くような大惨事が起こるころには、手遅れかもしれないからである。

ベルリンの壁モデルは、政府の支援がなくても機能するが、時間がかかることも確かだ。共産主義者が東欧各国の政府を支配するようになった後、抑圧的な政権を打破するほどの強力な反体制派が広がり、民主的に選ばれた政府に移行するまでには、およそ40年かかっている。

迅速かつ歴史的な進歩に向けた理想的な状況が生まれるのは、変化を起こそうという草の根運動の高まりに呼応して、国の指導者もまさにその変化に向けて全力で取り組もうとするときなのだ。米国の新しい指導者に世界中から大きな期待が寄せられているのは、こういうわけだとも言えるかもしれない。

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出典:レスター・R・ブラウン著、『仮邦題:プランB4.0:人類文明を救うために』(Plan B 4.0: Mobilizing to Save Civilization)第10章「私たちは十分なスピードで総力を結集できるのだろうか?」 2009年、W.W.ノートン社(ニューヨーク)より刊行。www.earthpolicy.org/index.php?/books/pb4にて無料ダウンロード可。

その他のデータや情報源は、www.earthpolicy.orgを参照。

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