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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年04月09日

エネルギー基本計画見直しのヒヤリング〜WWFジャパン小西雅子さんの意見提出(2010.04.09)

エネルギー危機
 

前号で、「エネルギー基本計画見直しのヒヤリング」での発言録をお届けしました。いろいろなご感想やコメントをいただき、うれしく思っています。ありがとうございます〜。

資料として提出したパワーポイントは、「日刊 温暖化新聞」の「エダヒロはこう考える」のコーナーにアップしましたので、よろしければごらん下さい。
http://daily-ondanka.com/edahiro/2010/20100408_1.html

さて、このエネルギー基本計画見直しのヒヤリングは、私たちが呼ばれる前に、以下の方々が招聘されて、何度かおこなわれています。

八田 達夫 政策研究大学院大学 学長
町田 勝彦 シャープ(株) 会長
寺島 実郎 (財)日本総合研究所 会長
小宮山 宏 (株)三菱総合研究所 理事長
宮本 洋一 清水建設(株) 社長
岡 素之 住友商事(株) 会長
佃 和夫 三菱重工業(株) 会長
進藤 孝生 (社)日本鉄鋼連盟 環境・エネルギー政策委員長
岡部 正彦 日本通運(株) 会長
香川 幸之 石油鉱業連盟 副会長
樋口 武男 (社)住宅生産団体連合会 会長
中垣 喜彦 (財)石炭エネルギーセンター 会長
青木 哲 (社)日本自動車工業会 会長
森 詳介 電気事業連合会 会長
大坪 文雄 (社)電子情報技術産業協会 会長
中西 宏明 (株)日立製作所 副社長
亀井 淳 日本チェーンストア協会 会長
市野 紀生 (社)日本ガス協会 会長
前田 昌男 (社)日本ショッピングセンター協会 副会長
藤吉 健二 (社)日本化学工業協会 副会長
天坊 昭彦 石油連盟 会長

業界団体の代表がずらり!というそうそうたるメンバーですねぇ。

私が呼ばれた回は、WWFジャパンの小西雅子さんも呼ばれていました。(なぜか、私たちの回から公開になったそうです)

小西さんはWWFジャパンの気候変動プロジェクトリーダーです。温暖化問題という視点からの問題提起はすべてお任せできると思ったので(事前に打ち合わせたワケではありませんが)、私はそれ以外の視点から話を組み立てました。

私の次にプレゼンされた小西さんのお話の内容も、とても大事なポイントがたくさんありました。以下のこと、ご存じでしたか?

●日本の排出増(1990年から2007年)は、石炭火力発電所増加とほぼ同じであったちなみに2000年から2009年におけるEUの発電所増設は、半分が再生可能エネ電力で、他半分は天然ガス火力発電である

●日本の家庭部門は、世界の中でも突出して効率がよいことは周知の事実である(ヨーロッパの半分、アメリカの3分の1)

小西さんに「みなさんにお伝えしたい」とお願いしたところ、ご快諾いただきました。

こちらに小西さんの意見提出があります。
http://www.wwf.or.jp/activities/upfiles/20100406WWF_climate.pdf

その内容を以下に転載しますね。グラフなどは上記のpdfでごらん下さい。(メールでの読みやすさのため改行を入れさせていただいています)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「エネルギー基本計画」見直しの骨子案 ヒアリングに際しての意見提出

WWFジャパン気候変動プロジェクトリーダー 小西雅子2010/04/06

国のエネルギー計画は、温暖化対策のコアといっても過言ではない。国際社会では2020年に向けての次期枠組み交渉が佳境に入っている現在、日本の2030年に向けたエネルギー計画を示すことは、未来の地球がどうあってほしいかを、日本が青写真を描いてみせるものである。その視点から見ると、今回のエネルギー基本計画骨子案は、新政権誕生を受けて旧来の路線から低炭素社会への舵を切り始めたところが評価できるものの、まだまだ従来型の考え方がメインであり、更なる低炭素社会へ向けた飛躍が必要である。

エネルギー安全保障は重要である。と同時に、気候安全保障は将来世代のために欠かすことのできない重要点であることに疑問をはさむ人はいないであろう。2005年のイギリスのエネルギー白書は、そのトップに、Energy and ClimateSecurity と掲げ、両方を融和させてエネルギー計画を進める意思が明確である。日本のエネルギー計画にも当然ながらそれが必要である。以下に大きく6つに分けて改善点を提案したい。

1.低炭素社会をめざすことを謳い、2030年のエネルギー需要減を明示する

日本はGHG排出量を2020年25%削減、2050年に80%削減を目標としている。当然ながら、エネルギー需要量は減少を前提とし、本来ならエネルギー安全保障の観点からも、国内エネルギー需要減はのぞましいはずである。しかし、p3には「国内エネルギー需要の縮小」が「資源エネルギーの安定供給確保を巡る制約条件」としてネガティブに記載されているのみである。本来は定量的にエネルギー需要減目標を明示し、省エネを第一義の目標として、低炭素社会への舵きりを明瞭にすべきであろう。

2.進まない原発の増設と利用率向上に頼らない計画を

日本の温暖化対策は、原発大幅増設と設備利用率の向上に頼りすぎ、それを口実として、省エネや燃料転換再生可能エネルギー普及策を先送りしてきた結果、温暖化対策の遅れにつながった。原発計画が事故や地元の反対などで予定通り進まず、石炭火力発電所の利用増加につながり、1990年以降の日本の総排出量の増加を招いたことは周知の事実である。太陽光や風力などの自然エネルギーはいっせいに止まるようなことはないが、原発は事故のたびにとめざるをえない不安定な電源である。しかし今回の骨子案には、相変わらず「2020年に8基増設(設備利用率85%)、2030年に更なる増設」が計画されている。少なくとも過去新設が大幅に遅れ、利用率が下がっている原発計画を、2030年に向けての温暖化対策のコアとする失敗は繰り返せない。

3.石炭火力発電所の増加を許さない計画を

原発に頼った計画は、温暖化対策に逆行する石炭火力発電所の増加を許した口実ともなった。エネルギー安全保障の名の下に石炭利用が拡大されてきたが、内実は石炭価格の低下が招いた石炭火力発電所増設ラッシュであった。石炭には、本来は環境負荷の高さがコストとしてかかるべきであり、炭素への価格付け政策が導入され、適切な価格帯で制御されるべきである。日本の排出増(1990年から2007年)は、石炭火力発電所増加とほぼ同じであった。今後計画的に縮小させていくことが必要である。

なお、化石燃料の中で最もCO2排出が少ない天然ガス利用は低炭素社会へのつなぎとして大変重要であるので、骨子案の「ガスシフトを推進」する方向性は歓迎したい。また「新増設・更新の際には最先端の効率」を追求することも歓迎すると同時に、トップランナー制度がそうであるように、最先端のさらに上を行くことを課すことが望ましい。

ちなみに2000年から2009年におけるEUの発電所増設は、半分が再生可能エネ電力で、他半分は天然ガス火力発電である(図1)。早くから低炭素社会を目指す方向性が明確であり、日本は早期に温暖化対策の遅れを挽回しなければ!

なお、CCSは、現存する石炭火力発電所を低炭素化し、2050年80%減社会実現に向けたつなぎの技術として重要である。

4.再生可能エネルギーの普及策について

【再生可能エネルギー目標の明示を】2030年に向けたエネルギー・気候安全保障の両立からいって、もっとも中心となるのは、再生可能エネルギーの推進であることは疑問の余地がない。ところが、原子力の増設計画が具体的であるのに対し、再生可能エネルギーの目標がないのはいかがなものか。新政権は2020年に1次エネルギーの10%という目標を掲げているが、本基本計画の目標は2030年であるから、それをさらに加速させた目標を明示すべきである。

従って骨子案3の「エネルギー供給構造〜電源のベストミックス」の順番としては、再生可能エネルギー、天然ガス、その他石炭や石油、原子力となるべきであろう。またなぜ再生可能エネルギーのところだけ「国民負担」の話があるのだろうか?原子力の税による国民負担は相当額に達するはずであるが、再生可能エネルギーだけ国民負担を強調するのはいかがなものか。また本来は負担ではなく、将来の経済成長、新規雇用創出への投資であろう。

【スマートグリッドの推進】 p18に「①再生可能エネルギーの大量導入を進めるとともに、あわせて、スマートグリッドなどの需給両面での対応を積極的に取り込んだ次世代エネルギーシステムの構築をはじめとして、交通システムや都市づくりも低炭素型に革新(スマートコミュニティの構築)すべき」とあるのは、再生可能エネルギーの大幅推進に欠かせないスマートグリッド構築を、政府が後押しする大切な分野で、それを明記したのは大変評価できる。

また、P21「エネルギー産業構造の変革を積極的に推進し、これを我が国産業の競争力として、雇用の確保をはかる」とあるのは、さらに「再生可能エネルギー推進を中心としたエネルギー産業構造」と明瞭化してもらいたい。この点は今までの日本のエネルギー基本計画からは抜け落ちてきた視点であり、今回入ったことを歓迎すると同時に、日本のエネルギー政策の根幹としてコア化していってほしい。

5.エネルギー需要構造を変革するのはエネルギー消費の大きさ順に優先度がある

骨子案4のエネルギー需要構造の項では、なぜか業務、家庭、運輸、最後に産業部門の順番となっている。これは、最終エネルギー消費の大きさ順に優先度があるべきであろう。まず最大の部門、産業部門ではBAT導入と燃料転換を進めて、定量的にエネルギー効率目標やGHG排出減少目標があって然るべきである。

業務、家庭部門の需要減をめざすのはもちろんであるが、そもそも業務、家庭は間接排出が主であり、電源係数次第でCO2排出量が変化する部門である。エネルギー転換に重きが置かれた上で、需要減対策と併用していくものであろう。また、家庭部門だけ「くらしのCO2を半減」と目標があるが、日本の家庭部門は、世界の中でも突出して効率がよいことは周知の事実であり(ヨーロッパの半分、アメリカの3分の1)、その他の部門に定量的な目標がない中、暮らしのCO2だけ強調されるのは、効率的なエネルギー需要構造の変革対策とはいいがたいのではないだろうか?

なお、運輸、業務、家庭の需要減対策も、強制力のある政策を入れて実効力をあげることが求められている。WWFではエネルギー転換、産業を対象とするキャップ&トレード型の排出量取引制度と炭素税を中心に、運輸、業務、家庭を対象とした独自の政策と組み合わせるポリシーミックス提案を2010年3月に発表した。議論に貢献できれば幸いである。
http://www.wwf.or.jp/torihiki

6.今後エネルギー政策は気候変動政策の前提の下に組み立てられるべき

【低炭素エネルギー技術が国内で改良・高度化されるためには、国内で需要が増えることが必要】再生可能エネルギーや省エネ産業を飛躍的に推進するためには、国内の政策整備が鍵となる。P22では、「規制の強化が避けて通れない道であり、産業界や国民各層に対しても、これらの政策への理解を求めていくことが必要」とネガティブに描かれているが、本来、環境規制は、新たなビジネスチャンスを産む宝庫であり、世界が低炭素社会へ向かう中、日本で早く関連産業を成長させることは国益にかなう。キャップ&トレード型の総量&直接排出型排出量取引制度(ETS)で、省エネと燃料転換需要を創出して、大水力以外の全再生可能エネルギー電力対象の全量固定価格買取制度(FIT)導入で、再生可能電力需要を創出し、日本の低炭素エネルギー産業の成長を飛躍的に推進することをプロセスとして明記すべきであろう。

【エネルギー産業の国際展開は、国内での発展あってこそのもの】低炭素エネルギー産業の海外輸出は推進すべきであるが、輸出市場のみでこれらの産業が発展することは考えにくい。日本は、高いエネルギー変換効率など単体機器の技術レベルは世界最高水準にあると考えられるが、太陽光発電や風力発電などに代表されるように、これまでの政策の失敗により、国内市場が脆弱で企業の納入実績が乏しい。現状では、海外勢との受注競争において劣勢といわざるをえない。

例えば、風力発電では、欧米企業の寡占状態となっており、日本最大の風車メーカーである三菱重工でも世界シェアは数%にすぎない。このような状況を打開し、世界のエネルギー技術や関連インフラ市場を牽引するレベルまで発展させるためには、前述のFITやETSなどの政策によって、国内の市場を活性化し、企業が据付やプロジェクト遂行などのノウハウを蓄積していく土壌をつくることが欠かせない。

また、海外案件では、計画段階から顧客にプロジェクト全体の提案を行うことなどが受注の成否に大きな影響を及ぼす。日本企業は単体機器などプロジェクトの一部を受注することはできるが、このようなコンサルティング的な側面を不得手としているため、官民支援体制を強化し、再生可能エネルギーなどの海外プラントの受注実績の拡大につなげていくことは大変重要である。

【自主エネルギー比率など危うい指標ではなく、真のエネルギー・気候安全保障を目指す】骨子案では、日本企業が権益を確保した自主開発資源をも含め、「自主エネルギー比率」という造語で広い意味での自給率を上げるというが、相手国や地域の安全さを問うこともなく、日本商社や資源会社の関与さえあれば安心というのは説得力に欠ける。

それよりも、価格高騰が予想され、安定供給が危ぶまれる化石燃料の輸入を減らし、純粋な国産エネルギーである再生可能エネルギーを普及させ、それを賢く使うためのシステム作りに先行的に投資を行う方向性を重視すべきであろう。それが化石燃料資源に乏しい日本が「エネルギー安全保障」と「気候安全保障」を最も両立できる道である。

最後にIEAのWorld Energy Outlook 2009からの引用で締めたい。「気温上昇を2℃に抑える排出量への移行が1年遅れるごとに、世界全体の必要投資額は5000億ドルずつ増加し、2010〜2030年の累計で 10兆5000億ドルに達する。おそらくほんの2〜3年遅れるだけでその目標を達成できる可能性は完全になくなってしまうだろう。そうなった場合、追加的 な適応コスト(注:被害軽減のコスト)はこの金額の何倍にも膨れ上がる。国連気候変動会議に出席する国々はこのことを忘れてはならない。」

(以上)

 

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