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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年01月31日

レスター・ブラウン氏「再び食糧生産を考える─80億の人口を抱える世界のために」(2010.01.31)

食と生活
 

<内容>


■レスター・ブラウン氏「再び食糧生産を考える─80億の人口を抱える世界のために」

■ツバルの「土」と、台湾農園


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■レスター・ブラウン氏「再び食糧生産を考える─80億の人口を抱える世界のために」

少し前のものですが、アースポリシー研究所から届いた『プランB3.0』からの抜粋を、実践和訳チームのメンバーが訳してくれました。ご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

再び食糧生産を考える─80億の人口を抱える世界のために
http://www.earthpolicy.org/Books/Seg/PB3ch09_ss1.htm
レスター・R・ブラウン

2005年4月、世界食糧計画と中国政府は、中国向けの食糧支援を年末に終了するという共同声明を出した。一世代前には数億の国民が慢性的な食糧不足にあえいでいたこの国にとって、これは画期的な出来事であった。中国は食糧援助に頼らなくなったばかりか、瞬く間に世界第3位の食糧援助国に変貌してしまったのである。

中国のこうした成功の鍵は1978年の経済改革にある。この改革で農業の集団体制、いわゆる「生産隊」が解散となり、家庭請負制が生まれた。個々の農村では、土地は戸別に配分され、土地に対して長期の賃貸契約が結ばれた。この方針転換は中国農民のやる気と創意を刺激し、穀物の収穫高は1977年から86年の間に50%増加したのだった。経済の急速な拡大による所得増加や、人口増加率の鈍化、穀物の収穫高上昇などにより、中国は食糧不足問題を10年以内でほぼ解消した。事実、過去にこれほどの速さでここまで食糧不足を解決した国はほかにない。

食糧不足は中国では解消されつつあるが、多くの発展途上国では蔓延している。特に顕著なのがサハラ砂漠以南の国とインド亜大陸の一部の地域である。その結果、発展途上国で飢えに苦しむ人々の数は、近年で最も少なかった1996年の8億から、今では10億を超すまでに増加している。こうした増加の一因には食糧価格の高騰や世界の経済危機がある。強力なリーダーシップ不在の中で、食べ物にありつけない人の数は、今後世界中でさらに増えていくだろう。その中でも最も被害を受けるのが子供たちである。

この問題を片付けるには、食糧需要の伸びが供給の伸びを上回るという長期的な傾向に対処する必要がある。1950年以降、世界の穀物収穫高は3倍に増えた。その一つの鍵は、収量の多い小麦やコメ(日本で最初に開発)、ハイブリッドトウモロコシ(米国で最初に開発)の導入がいくつかの発展途上国で急ピッチで進んだことである。

生産性の高い種子の普及は、灌漑農地が3倍に増えたことや化学肥料の使用が11倍にも膨らんだことと重なり、世界の穀物生産を3倍にも増やしたのだ。灌漑農地の拡大や化学肥料の増加により、世界中の多くの耕作地では土壌の水分や養分面での制約が根本から取り除かれることとなった。

しかし、今や見通しは変わろうとしている。灌漑用水の減少や、化学肥料をさらに追加しても伸びない収穫高、地球温暖化による気温上昇、農作以外への転用による耕地の減少、燃料費の高騰、収量を高める技術の開発余地が少なくなったことなど、農民はいろいろな問題に直面している。

それだけではない。毎年人口が7,900万人ずつ増え、農産品に対する需要は急速に高まっているし、畜産物をもっと口にしたいと思っている人がおよそ30億人もいる。さらに、ガソリンやディーゼル燃料の供給が逼迫していることを受けて、数百万の自動車利用者が燃料を穀物由来のものに切り替えている。農民や農業経済学者たちには今や方々から難問が突きつけられている。

世界中で、農業技術開発が行き詰まり、それに伴って耕作地の生産性を高める勢いに衰えが見られる。1950年から1990年の間では、1ヘクタールあたりの穀物の収穫高は世界全体で毎年2.1%ずつ上昇し、世界中の穀物生産高を急速に伸ばしていた。しかし、1990年から2008年では年間わずか1.3%上昇しただけである。その理由としては、化学肥料を新たに追加しても収穫が増えにくくなったことのほかに、灌漑用水が頭打ち状態になったことがある。

そこで必要となるのが、耕作地の生産性を上げるための新たな考え方である。その一つに、干ばつや冷害に強い穀物への品種改良がある。米国では育種農家が干ばつや冷害に強いトウモロコシの品種を開発した結果、トウモロコシの栽培が西側にも広がり、カンザス、ネブラスカ、サウスダコタ州でも栽培が可能になった。

米国最大の小麦生産地帯であるカンザス州は、トウモロコシの生産を増やすために、干ばつに強いトウモロコシを栽培するところと灌漑農法を行なうところを地域毎に分け、両者の組み合わせによって今では小麦よりもトウモロコシを多く収穫している。

土壌の水分に余裕がある場合には、1年に2回以上収穫する多毛作の耕地を増やすという、土地の生産性を上げるためのもう一つの方法がある。実際、1950年以降に世界の穀物収穫量が3倍に増加したのは、アジアでの多毛作が大幅に増加したためでもある。中国北部では小麦とトウモロコシ、インド北部では小麦と米の二毛作が、中国南部とインド南部では米の二期作または三期作が、よく行われている。

華北平原で冬小麦とトウモロコシの二毛作が普及したことにより、中国の穀物生産量は急増し、米国と肩を並べるまでになった。冬小麦の収穫量は1ヘクタールあたり5トン、トウモロコシも同じく平均5トンである。この2種類の作物を交互に栽培すれば、年間ヘクタールあたり10トンを生産できる。中国の米の二期作の収穫量は、年間ヘクタールあたり8トンである。

40年前にはインド北部では小麦しか生産されていなかったが、収穫時期の早い高収量の小麦と米の登場によって、稲を植えつける前に小麦を収穫できるようになった。この小麦・米の二毛作は、今ではパンジャブ州とハルヤナ州の全域、ウッタル・プラデシュ州の一部で広く行われている。この方法は、合わせて年間ヘクタールあたり5トン収穫できるため、インドの12億の人口を養うのに役立っている。

米国でも、早く収穫できる品種への改良と、多毛作を促進する栽培方法の開発を同時に行えば、収穫高は大幅に増加するだろう。中国の農家が広範囲にわたって小麦とトウモロコシの二毛作を行えるのなら、米国の農家も、農業研究や農業政策が後押しするようになれば同じことができるだろう。

そのほかにも、冬の気候が温暖で高収量の冬小麦が育つ西欧でも、夏のトウモロコシなどの穀物、または秋まきの油料種子との二毛作を増やせるだろう。霜の降りない生育可能期間が長いブラジルとアルゼンチンでは、広範囲にわたって小麦またはトウモロコシと大豆などの多毛作が可能である。
米国や西欧の大半の国、日本を含む多くの国では、肥料の使用量が、それ以上使
用量を増やしても収穫量がほとんど伸びないところまできている。しかし、アフリカの大部分など、肥料を追加使用すれば収穫量が一気に増える地域も残っている。残念ながらサハラ以南のアフリカでは、肥料を必要とする村に、低コストで輸送するインフラ設備がない。サハラ以南のアフリカ諸国の大半では、養分の枯渇によって穀物収穫量が低迷している。

アフリカにおけるこの問題への取り組みとして、穀物とマメ科の木を同時に植えるというひとつの有望な対策が行われている。木は当初はゆっくり成長するため、まず穀物が成長し、収穫される。それから苗木が急速に成長して1メートルほどの高さになり、アフリカの土壌に不可欠な窒素と有機物を含む葉を落とす。

その後、木は切られ、燃料として使われる。ナイロビの国際アグロフォレストリー研究センターの科学者たちが開発した、この単純で現地に適した技術によって、土壌が豊かになるにつれ、数年のうちに穀物の収穫量を倍増できるようになった。

地域によっては収穫量増加が見られるものの、全体的な食糧生産拡大の勢いが弱まっていることは否めない。したがって、人口の安定化や、食物連鎖の下位の食物の移行、既存の収穫物の生産性向上を真剣に検討せざるをえなくなるだろう。

世界全体で食糧と人口の好ましいバランスを達成できるかどうかは、できるだけすみやかに人口を安定させ、豊かな人々が不健康な、肉の大量消費をやめ、収穫物の自動車燃料への転換を制限することにかかっている。また、土地の生産性を上げたときと同じように水の生産性を向上させるとともに、収量減につながる気温の変動や頻繁な干ばつを防いで気候を安定させるための、協調した取り組みが必要なのだ。このような対策を組み合わせれば、全人類を養うに足る食糧の確保への道を切り開けるだろう。

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出典:レスター・R・ブラウン著、『プランB3.0:人類文明を救うために』
(PlanB3.0: Mobilizing to Save Civilization)第9章「80億人に十分な食べ物
を供給する」 2008年、W.W.ノートン社(ニューヨーク)より刊行。
www.earthpolicy.org/Books/PB3/index.htm にて無料ダウンロードおよび購入可。

人口の安定について詳しく知りたい場合には次のウェブサイト
www.earthpolicy.org/Books/Seg/PB3ch07_ss3.htm
水の生産性向上について詳しく知りたい場合には次のウェブサイト
www.earthpolicy.org/Books/Seg/PB3ch09_ss3.htm
気候安定について詳しく知りたい場合には次のウェブサイト
www.earthpolicy.org/Books/PB3/80by2020.htm
を参照のこと。


問い合わせ先:
メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線 12
電子メール:rjk@earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
ジャネット・ラーセン
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電子メール:jlarsen@earthpolicy.org

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Ave. NW, Suite 403
Washington, DC 20036
ウェブサイト:www.earthpolicy.org

(翻訳:酒井、小林)


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■ツバルの「土」は?

農作物をつくるのには「土」「水」「栄養(肥料)」が必要ですよね。日本で「土」というと、黒い土を思い浮かべますが、ツバルの「土」はかなり違うものです。

ツバルは環礁の島なので、地力豊かな「黒い土」はなく、基本的にはサンゴ礁のかけらが細かく砕かれた砂や有孔虫の殻などがツバルの「土」になります。

砂ということは、保水力も栄養分もないので、基本的にはそのような土でも育つバナナ、パンの木、ココナツ、マンゴー、プラカ(タロイモの一種)などしか育ちません。

キャベツなどの野菜も、リンゴやオレンジなどのフルーツも、ビタミン源となりそうなものはほとんどが輸入品です。

「うー、野菜が食べたい〜」という感じになってきますが、ホテルのレストランでは、時々青菜の野菜炒めなども出してくれて、ありがたい!です。

これは、ツバルに大使館まで置いて援助にも力を入れている台湾政府が、5年ほど前から滑走路脇に「実験農園」を展開しているおかげだそうです。(ちなみに、ツバルには日本大使館はありません。在フィジー大使館が兼轄しています)

見学に連れて行ってもらいましたが、ツバル人のスタッフが世話をする農園では、トウモロコシ、ほうれん草などの青菜、トウガラシ、その他多くの野菜が育てられていました。この農園のある場所も、高潮時には塩水が上がってくるとのことで、最初は苦労したそうですが、いまはすっかり軌道に乗っている感じで、毎週金曜日の早朝、収穫物の販売日には、早くから(前日の夜遅くから?)滑走路に寝ころんで並ぶツバル人も多いとか。

この農園がコンポストをつくって土を豊かにし、作物を作っているのがよいモデルになっているようで、ツバル人の家の庭にも、あちこちに家庭菜園が見られます。過去にはなかった光景とのこと。

インフラや箱モノの援助も、特にツバルのような、自力では難しいのだろうなあ、と思う国では大事ですが、「自分で野菜を育てる文化を育てる」みたいな、ソフト面での援助もとっても大事だなあ!と思います。

今日の夕食は、台湾大使館に招かれているので、そのあたりの話もうかがえるかな、と楽しみにしているところです。

ちなみに、こちらへ来てから、雨と暑さでジョギングもできず、かといって部屋の中で運動するのもおっくうで(ツバルの魔法……)、それでも食事はしっかり食べちゃっているので、、、帰国後の体重計が恐怖!です〜。(^^;

 

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