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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年01月28日

「GDPに代わる幸福を測る経済指標とは?-後編」 (2010.01.28)

新しいあり方へ
 

<内容>

■ツバルより

■日本電気労働組合広報紙「NWU-COM」2009年12月号より
 「GDPに代わる幸福を測る経済指標とは? 後編」

■余談〜南太平洋のワサビ


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■ツバルより

今朝7時にフィジーのホテルを出発して、空港へ。42人乗りのプロペラ機で2時間ちょっと、ツバルのフナフチ島の真ん中にある滑走路に降り立ちました。

空港を出て、目の前が政府の庁舎、そのすぐ後ろがホテルです。とても便利。ツバルは9つの島からなる、人口1万人ほどの国ですが、うち4500人はここ、フナフチ島に住んでいます。細いリボンを海に浮かべたようなこの島は、南北に12kmとか16kmといわれていて、干潮になるともっと遠くまで歩いて行けるそうです(が満潮になると泳いで戻ってくることになります。^^;)

島の幅は最大でも800mぐらいなので、ほとんどの場所が「オーシャンビュー」。標高は平均で1.5mぐらい、いちばん高いところは4m(最高峰?にさっき行ってみましたが、高いところから島全体を見渡す、、、、というわけにはいきませんでした。^^;)

舗装道路をクルマやバイクが走っているし、ホテルの部屋からも24時間のネット接続ができちゃうし(ビックリ!)、お店をのぞくとネスカフェのインスタントコーヒーのびんが並んでいるし、冷凍庫にはでっかいアイスクリームの箱がいっぱい入っているし、あちこちにパラボラアンテナが立っていてテレビを持っているおうちもけっこうあるみたいだし、私も含め参加者が日本で意図せず形成してきた「ツバルのイメージ」を目の前の現実にあわせて調整しつつあるところです。

日本では話には聞いても実感がわからなかったけど、何よりも素敵なのは、島の人々がみんな(大人も子どもも)とても素敵な笑顔を向けてくれること。道で会う人にはみんな、家の中にいる人も、庭を走り回っている子どもでも、トラックの荷台に座っている筋肉隆々の男の人でも、「タロファ」(こんにちは)とにっこり声を掛け合います。それが私たち外国人でもいっしょ。私たちも目と目をあわせて「タロファ」と声を掛けたり、家の中の子どもに手を振ったり。自然に笑顔になっちゃう島なんですねー。何だか懐かしい気持ちさえしてくる場所です。

今日はお昼前に空港・ホテルについて、お昼を食べてから、島の見学やタウンカウンシル(町役場かな)への表敬訪問など。小さな島・町ですから、ぶらぶらと歩いているとすぐにどこにも着いちゃいます。帰りは、1.5kmの滑走路のど真ん中を歩いて戻りました。飛行機の発着は週2便しかないので、それ以外は、サッカー場になったり、地元の若者のデートスポットになったり、野良犬が歩いていたり、みんな自由に使っています(滑走路のまわりには柵もありません)

ツバルは日本より3時間進んでいるので、もうじき夕食の時間です。夕食時には、ツバル政府から環境問題の担当者が来てくれてレクチャーをしてくださるとのこと。COP15にも行かれていた方だと言うことなので、いろいろなお話がうかがえそうです。

そうそう、ツバルではみなさん、英語が話せます。ツバル語と英語が公用語とのことで、小学校1〜2年生はツバル語で授業を受けますが、3年生からは英語で授業を受けるそうです。だから、だれでも英語が話せる。とても助かります。

天気は残念ながら荒れ模様です。団長のNPO法人ツバル・オーバービューの遠藤さんは「2004年以来の荒れ方だ」とのこと。低気圧のせいらしいですが、月末の大潮とこの風が重なると、けっこう大変なことになるのではないか、と。

私たちのホテルも波打ち際に立っています。荒れがひどいと1Fの部屋には水が入ってくることもあるそうで、私は2Fですが、1Fの参加者はちょっと戦々恐々という感じです。ホテルのダイニングスペースにも水が入ってきそう。ま、サンダルなので、濡れてもだいじょうぶですけど、スリリングな夕食になるかもしれません。(^^;

今日から4泊5日、ツバルでいろいろな場所を見に行ったり、話を聞いたり、ボートで他の島にも行ったり、楽しみな予定がいっぱいです。天気が回復してくれるといいのですが。またレポートしますね!


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■日本電気労働組合広報紙「NWU-COM」2009年12月号より
 「GDPに代わる幸福を測る経済指標とは? 後編」

前号では、「GDPはどんどん増えても、私たちの幸せは増えていない」ということを、GPI(真の進歩指標)という指標などで説明しました。それでも、いまだに、政治家も経済界も、「GDP成長」しかないという、GDP至上主義から脱却できていません。

でも、このようなGDP至上主義に対して、ユニークで本質的なアプローチをしている国があります。ブータンです。ブータンでは、GNP(Gross National Product:国民総生産)ならぬ「GNH」を国の進歩を測る指標にしようとして、近年注目を集めています。GNHとは、Gross National Happiness のこと。「国民総幸福度」です。

国の力や進歩を「生産」ではなく「幸福」で測ろうというこの「GNH」の考え方は、1976年の第5回非同盟諸国会議の折、ブータンのワンチュク国王(当時21歳)の「GNHはGNPよりもより大切である」との発言に端を発しているといわれています。物質的な豊かさだけでなく、精神的な豊かさも同時に進歩させていくことが大事、との考えです。

1960年代〜70年代初め、ブータンでは先進国の経験やモデルを研究しました。その結果、ワンチュク国王は「経済発展は南北対立や貧困問題、環境破壊、文化の喪失につながり、必ずしも幸せにつながるとは限らない」という結論に達したそうです。そこで、GNP増大政策をとらずに、人々の幸せの増大を求めるGNHという考えを打ち出しました。「開発はあくまで、国民を中心としておこなわれるべき」――GNHとは、ブータンの開発哲学であり、開発の最終的な目標なのです。

このGNHという概念のもと、ブータンでは、1)経済成長と開発、2)文化遺産の保護と伝統文化の継承・振興、3)豊かな自然環境の保全と持続可能な利用、4)よき統治 の4つを柱として開発を進めることになりました。

もともとは、幸福という概念は主観的なものですし、国際的に一律の尺度で測れるようなものではないため、GNHはあくまでも概念的なものとして考えられていました。しかし、GNHという考え方が知られるようになり、「GNHのように、指標として数値化できないか」という声が高まったこともあって、1999年にブータン研究センターが設立され、具体的な研究がスタートしています。

現在、まずはあくまでもブータン国内で通用する指標をめざして、幸福という概念を9つの要素に分けて検討しているそうです。その9つの要素とは、living standard(基本的な生活)、cultural diversity(文化の多様性)、emotional well being(感情の豊かさ)、health(健康)、education(教育)、time use(時間の使い方)、eco-system(自然環境)、community vitality(コミュニティの活力) good governance(良い統治)だそうです。

人々がどのように時間を使っているか、地域社会はどのくらいイキイキしているか――こういったことは、GDPにはほとんど影響を与えないでしょう(いえ、逆に、GDPの世界で、ただゆっくりしたり、地域社会のためのお金にならない仕事に自分の時間を使えば、それはGDPの足を引っぱる「不経済」な行動だと見なされてしまうでしょう!)。

でも、「本当の意味での国の進歩を測るのはどちらなのだろう?」と思いませんか? 自分の子どもや孫が大きくなるころ、あなたは「自分の国のGDPが増えていてよかった」と思うでしょうか、それとも「自分の国のGNHが増えていてよかった」と思うでしょうか?

ブータンは、国民一人当たりのGDPは低い発展途上国です。でも、ブータンの国土の26%は自然保存地区で、72%は森林地区になっています。ホームレスや乞食もいないそうです。ブータンでは「あなたは幸せですか?」という質問に対して、国民の97%が「幸せ」と答えたそうです(日本で同じ質問をしたら、何%の人が「幸せ」と答えるでしょうか?)。

「お金や物質的な成長を追い求めることは、本当に幸福のために役立つのか? 逆に、損なっていることはないか?」――ブータンのGNHの考え方は、私たちに「本当の目的」の問い直しを投げかけています。

私は昨年11月にブータンの首都ティンプーで開催された「第4回GNH国際会議」に出席しました。会議には25カ国から90人が参加しました。

会議の初日には、議会民主制に移行して初めての首相を務めているジグミ・ティンレイ氏が基調講演を行いました。首相は、その前の週の戴冠式で第5代国王が「GNHを進めていくことは自分の責任であり優先課題である」と明言されたことを挙げ、また自分の言葉でも国政の基礎にGNHがあることを繰り返し、力強く語りました。

「貧困緩和のために経済成長が必要だと言いますが、それはまるで症状を治すために患者を殺すようなものではないでしょうか。再配分を考えない限り、経済が成長しても貧困緩和にはならないのです」。

政府がGNHを推進するといっても、国民に対して幸せを約束するわけではありません。国家・政府として「個人がそれぞれGNHを追求できる条件を整える」ことを約束しているのです。

会議の大きな目玉はブータン研究所からのGNH指標の発表でした。「GNHという考え方はわかっても、それをどのように測るのか?」に世界の注目が集まっているのです。先述の4つの柱、9つの要素について、72の変数を選んでおり、国民調査の結果の発表や議論が行われました。

もっとも、GNHを提唱しているからといって、ブータンが理想郷だというわけではありません。水道などインフラの未整備のほか、近代化にまつわるさまざまな問題もありますし、特にテレビが入ってきてから、若年犯罪の増加などが憂慮されています。

GNHの指標化も、まだ初歩的な段階です。指標化・数値化することと、「測れないものにも大事なものがある」というホリスティックな考え方をどのように折り合いをつけ、ブータンにも世界にも役立つものにしていくのか─。これからの展開に大いに期待して見守っているところです。

そして、日本でも、会社設立の本来の目的である真の幸福を実現するために、事業を拡大しないことを決め、「成長しない方針」を採り入れている会社がいくつも出てきています。

このような動きが、日本社会の大きな変革につながるのかどうかは、まだわかりません。しかし、環境破壊や地球環境問題を引き起こしてきた「より速く、より多く、より大きく」という成長至上主義に対する大きなポイントとして、日本のスロームーブメントやユニークな企業の取り組みから目が離せないことだけは確かです。

そして、他の先進国でも、同じような動きが出てきています。英国政府の組織である「持続可能性委員会」はこの3月に、「Prosperity without Growth(成長なき繁栄)」というレポートを出しました。これは「経済成長に頼らない持続可能な繁栄のモデルを作ろう」という試みです。

また、フランスではサルコジ首相が、「人々の日常的な幸せの感覚と、政治家や統計学者が経済について語っていることのギャップが大きくなっており、それが世界中で政府や政治家への不信を生み出している。それは民主主義にとって極めて危険なことだ」という問題認識から、2008年2月にノーベル経済賞を受賞した経済学者を含む20人ほどのチームを作って、調査・研究を委託、そのレポートが今年の9月に発表されました。

このプロジェクトが始まったときには、だれもその後に、金融危機・経済危機が起こるとは予測していませんでした。しかしこの危機があったがゆえに、この委員会の活動がさらに重要なものとなりました。なぜなら、世界は、より持続的なやり方で成長する方法を求めるようになっているからです。

レポートでは「経済の主眼を、単なるモノの生産から、より幅広い全体的な幸福へ広げることが重要である」としています。それには健康、教育、安全といったものも含まれます。「政府が自国経済のGDPを膨らますことに中毒になっていることが、地球を危険にさらしている」とサルコジ氏。

主要国の政府や首相から、「単なる経済成長ではなく、その目的であったはずの、本当に大切な社会の幸福・福利について考えていこう」という動きが出てきたことは、とても心強いことです。

12月中旬に日本語版が刊行されるアル・ゴア氏の『不都合な真実』の続編、『私たちの選択』にも、ロバート・F・ケネディの40年前の言葉が引用されています。

「ダウ・ジョーンズ工業株平均や国民総生産(GNP)は、環境保全効果や家族の健康、教育の質などを考えに入れていない。GNPは、私たちの機知や勇気も測っていなければ、知恵や学び、思いやりや国への献身も測ってはいない。一言で言えば、GNPはすべてを測っているが、それは人生を価値あるものにしているもの以外のすべてだ」。

(完)


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■余談〜南太平洋のワサビ

余談ですが、南太平洋の島々では、日本のワサビが人気らしくて、あちこちで売っているそうです。オーストラリアやニュージーランドでもそうだとか。こちらの人々はお魚をよく食べますが、そのときにワサビとお醤油があうことがわかるそうです(胸張っちゃいたくなります。^^;)

「ツバルで、ワサビのこと、何て呼んでいると思います?」とこちらに詳しい方が教えてくれました。「カイ・カイ・クリーム」ですって!

かゆみ止めではなくて(^^;)、「カイ」とはツバル語で「食べる」という意味。ドンドン食べられちゃう、おいしいクリーム?という意味らしいです。

もっとも日本人や日本食に詳しい人は、「やっぱり日本のワサビがいい!」と、渡航者に頼んでもらってきてもらうとか。「色は確かに緑なんだけど……」って。

私たちの食事にも、カイ・カイ・クリームが登場するかな〜?(^^;

 

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