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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2010年01月22日

翻訳に興味のある方へ〜環境と翻訳の交差点より(2010.01.22)

コミュニケーション
 

<内容>

■環境と翻訳の交差点より〜「枝廣淳子の環境翻訳入門」

■翻訳者をめざす方へ、エダヒロが提供しているトレーニング

■翻訳者コラム「枝廣淳子のNext Stage」


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■環境と翻訳の交差点より〜「枝廣淳子の環境翻訳入門」(『翻訳事典2011年度版』(アルク刊)より)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

●翻訳という仕事

翻訳という仕事は、本当に奥が深くて、面白くて、やりがいがあるなあ!と、日々感じています。私はこれまで、20冊以上の本を翻訳してきましたが、毎回新しいチャレンジがあり、勉強できることがあって、次の翻訳へのステップになってくれます。

どんなジャンルの翻訳をするにしても、翻訳者として大事なことが3つあると考えています。『あなたも翻訳家になれる』(ダイヤモンド社)にも書きましたが、この3つが満たされていないと、使いつづけてもらえるよい翻訳者にはなれません。

その3つとは、(1)正確さ、(2)読みやすさ、(3)自分マネジメントの力です。

まず、原書の意味を正確にとらえ、"何も足さず、何も引かず"日本語にするのが翻訳の原点であり、醍醐味でもあります。どんなに読みやすくても、あちこちに誤訳があったり、訳抜があったりすると、残念ながら翻訳者としては失格となってしまいます。

ただ、書籍の読者は、原書と付き合わせて、正確かどうかを確認しているわけではありません。最初から日本語で書かれた本と同じように、その本だけを読んでわくわくしてくるか、次にどんどん読んでいきたいと思うか――こういった「読みやすさ」がなければ、読者はパタリと本を閉じて置いてしまうでしょう。「正確であり、かつ読みやすい翻訳」という2つが、欠くことのできない要素なのです。

そして、プロの翻訳者とアマチュアの翻訳者を分けるのが、「自分マネジメント力」です。トライアルのように分量が少なく、ある程度の時間がかけられるものは、アマチュアとプロの差はそれほど出ないかもしれません。

しかし、翻訳のプロとして活動するには、「ある限られた時間で、かなりの量を、高い質を保ったままこなしていく」力が必要です。アマチュアの翻訳者は、量が多くなると、途中でがくっと質が落ちてしまいます。体力も集中力も含めて、自分の力を長期的に効率よく、効果的に発揮する自分マネジメント力を鍛えていく必要があります。

●高まる環境翻訳のニーズ

翻訳の中でも、最近注目を集めているのが環境翻訳です。地球温暖化や生物多様性の喪失をはじめ、地球規模での環境問題が人類の存続を脅かす存在として明らかになりつつある今、この分野でのさまざまな情報や意見の交換があらゆるレベルで盛んになっています。それに伴い、書籍を翻訳する出版翻訳でも、文書やウェブサイトを翻訳するビジネス翻訳でも、環境問題にかかわるものが非常に増えています。

私はちょうど今、アル・ゴア氏の『不都合な真実』に続く新著、『私たちの選択』を訳し終えたところです。苦労しながらも、この本の翻訳をすることができて本当に幸せだなあ!と何度も思いました。世の中の注目を集める、まさにホットなテーマであるとともに、自分も大事だと思う事柄について、世界の情報や知見をいち早く日本に伝える――これほどやりがいのある仕事はないのではないか、と思うからです。

ここ最近、環境翻訳の分野で見られる大きな傾向として、「専門化」と「広がり」の2つが挙げられます。

温暖化の仕組みにしろ、再生可能エネルギーにしろ、次世代自動車にしろ、一般的な啓蒙書よりも一歩踏み込んだ書籍や文書が増えてくるにつれ、専門的な用語やその分野での考え方を知らないと、適切な訳ができないものが増えてきました。
もっとも、私も含め、翻訳者は文系出身であることが多く、たとえ理系出身だったとしても、すべての分野に通じているわけではありません。この「専門性」をいかに身につけ、補うか――これがよい環境翻訳者とそうでない環境翻訳者を分けるひとつの鍵となりつつあります。

もう一つの「広がり」とは、特に環境に関心のあるわけではない一般の人々を対象とした書籍も増えているということです。たとえば、エコを主題とした小説が欧米でブームになり、それが日本語にも翻訳されることが増えてきました。

こうなると、硬い環境問題を硬く訳せばよいというのではなく、硬い環境問題というテーマを柔らかく扱った小説を、面白く、楽しく、柔らかく訳さなくてはならないというチャレンジが出てきます。これまでの環境分野に多かった技術系や工学系の訳し方では、ハラハラドキドキの小説にはならないでしょう。そういう意味では、翻訳者になりたい方々が環境翻訳に参入するひとつの可能性と言えるかもしれません。

●環境翻訳者に必要な資質とは?

環境翻訳を志す人が増えていますが、先述した翻訳者全般に必要な資質に付け加えて、環境の分野の翻訳をするためには、どのような資質が必要なのでしょうか?

まず、環境問題全般および各専門分野の知識や用語に精通している必要があります。そのためには、日本語で環境問題を解説したり、情報提供したりしているものを読むなどして、ふだんから新しい動向や使われている用語に慣れておく必要があります。新聞や雑誌のほか、メルマガやウェブでの情報をいくつか定期的に見るようにしておくとよいでしょう。私が出している環境メールニュース(不定期)も、そのような勉強のために読んで下さっている方が多いようです。

2番目は、環境に関する確かな知識や情報がどこにあるか、という情報源を知っているということです。環境問題の分野は新しいため、単語を引こうと思っても、辞書や英辞郎にも載っていないことが多々あります。そういったときに、どこで調べればよいか、しかも、そこにある訳語を使ってもよさそうな確かなウェブサイトはどれかを知っておく必要があります。

3番目は、専門家とのネットワークです。私も今回の書籍の翻訳にあたって、地熱の章は日本地熱学会の方に、温暖化のしくみの説明は温暖化専門の科学者に、自分の訳文を読んでもらって、「その分野ではどのような言い方をするか」を教えてもらいました。

これから環境翻訳を志そうという方なら、このようなネットワークを育てていくことが何よりも大事だと思います。自治体や企業、NGOなどが主催している環境セミナーに足を運べば、発表者やパネリストなどその分野に詳しい人が見つかります。終了後に名詞交換をして、挨拶などの連絡を入れておくなどして、必要なときには助けてもらえるような関係性をつくっておくことをお勧めします。

たとえば、「compact fluorescent light bulb」という単語は、今のところ、英辞郎にも載っていません。しかたなくそのまま「コンパクト蛍光電球」と訳してこのように「この分野ではふつうこう呼ばれる」という訳語があるのです。
「tree planting」は、日本語にするときは「植林」なのか、「植樹」なのか、または「緑化」なのか――その文脈によって訳し分ける必要があります。同様に、「convert」という単語も、エネルギーなのか電力なのか、何を扱っているのかによって、「転換」と訳す場合もあれば、「変換」と訳す場合もあります。このような「その分野では常識」という言葉や表現は、やはりその分野の人に見てもらうのが確実です。

●環境翻訳の今後

毎回勉強の連続ですが、とてもやりがいのある環境翻訳を、私はこれからも続けていきたいと思っています。仕事分野としては(環境問題は残念ながらすぐには解決されないので)これからも大きくなっていくことと思います。

世界にある情報や知見や洞察で、日本語になっていないがゆえに、まだ日本で知られていないものがたくさんあります。もっともっと環境翻訳者を増やしたい!と心から思っています。ぜひ、がんばってトレーニングして下さい。いつか一緒に仕事ができる日を待っています!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

(ご参考)
『あなたも翻訳家になれる!―エダヒロ式 [英語→日本語] 力の 磨き方』
(ダイヤモンド社)


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■翻訳者をめざす方へ、エダヒロが提供しているトレーニング

自分が試行錯誤してきたトレーニング法を少しでも役に立ててもらったり、研鑽の場を提供したりすることで、一緒に翻訳のできる「環境翻訳者」を増やしていきたいと思い、コミュニティやトレーニングコースを開催しています。(私の夢は「力のある環境翻訳者を250人育てること」です。そうしたら、ひとり1ページずつ担当して、1冊の原書の翻訳を1日で終えることができますから!)

●翻訳者のたまごさんたち、及び翻訳者として活躍中の元たまごさんたちのコミュニティ

「トラたまコミュニティ」

「トラたまコミュニティ」は、これまで数々の翻訳者をめざす方向けのセミナーや道場、通信講座、メール講座などを開催してきた経験と成功体験からの学びをベースとした、「安心して試せる場」「次につながる機会」「カツをいれてくれる刺激」を提供するコミュニティです。月々にすればコーヒー1杯分の会費で、さまざまな翻訳力アップのトレーニングや自己成長の機会に参加いただけます。

トラたまコミュニティの詳細はこちらです。http://www.es-inc.jp/toratama/

現在、または今後開講する講座内容はこちらからご覧いただけます。

また、トラたまコミュニティで開講中のオンライン講座以外にも、自学自習用に編集した「効果抜群! いつどこ自主トレメニュー」もご用意しております。

ご参加をお待ちしております。

●週1回のチャレンジで「正確で読みやすい」翻訳力を身につける! 夢に一歩近づくための翻訳力アップ自己トレ「メール講座 Next Stage」

「ほぼ正確な翻訳はできるようになったけれど、何かが足りない」「もっと上手な翻訳ができるようになりたい」「いつかは翻訳で生計をたてていけるようになりたい」と思う多くの方々が、「ネクスト・ステージ」に進むためのトレーニングコースです。

週1回、本当の力をつけるために考え抜かれたプロセスに基づき、メールで課題が配信されます。丁寧な学習の手引きと専用ウェブサイト上の資料を活用しながら、"正確"かつ"読みやすい"翻訳の力を身につけていきます。
同時に、自分でトレーニングを進め続けるコツを身につけることができ、「こういう翻訳がしたい!」という理想的な翻訳力を自分で鍛えていくことができます。

全10回で受講料は5,000円です。スタートは随時。「思い立ったが吉日」です!

こちらの講座以外にも、多数ご用意しております。


●「実践型トライアルを兼ねての翻訳道場」

ときどき「実践和訳チームにはどうやったら入れますか?」というお問い合わせをいただきますが、中級〜上級者のみのチームであるため、年に数回のトライアル(テスト)の合格者に参加していただくシステムになっています。

現在は、年に2回ほど開催している少人数制の「翻訳道場」でじっくりトレーニングをしていただき、その仕上げとしてトライアルを実施しています。

今後の翻訳道場の開催のお知らせなどは、メールニュースの盛り合わせや、イーズ、トラたまコミュニティの新着情報に載りますので、ご興味のある方はぜひチェックして下さい。イーズにお問い合わせをいただければ、開催が決まった段階でお知らせをお送りしていますので、よろしければご連絡ください。
イーズ 翻訳道場 担当 瀧上 tra-tama@es-inc.jp 

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■翻訳者コラム「枝廣淳子のNext Stage」
http://www.hicareer.jp/trans/nextstage/

イーズのウェブサイトでも読めます。

最終回 「夢に向かって、進み続けよう」
第11回 「翻訳を仕事にするための3つのステップ」
第10回 「翻訳を仕事にするために」
第9回 「出版翻訳への道」
第8回 「翻訳者のたまごさん」のための「トラたま」コミュニティ、オープンします!
第7回 「おしゃれとエコって、両立するの?」
第6回 一石二鳥で進もう! メタ・トレーニングのススメ
第5回 「翻訳の勉強に必要なのは、量?それとも質?」 
第4回 ツイッター実況中継 アル・ゴア氏の新刊『私たちの選択』翻訳格闘記 
第3回 アル・ゴアさんの新著、ただいま翻訳中! 
第2回 6年越しの夢が叶った翻訳書 
第1回 トレーニング方法も進化することが大切です

 

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