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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2009年12月01日

大気は大きな「バケツ」である(2009.12.01)

温暖化
 

※前号で日付を間違えました。フライングしちゃいました〜。(^^;


<内容>

■クライメートゲート事件?

■大気は大きな「バケツ」である

■グローバル・カーボン・プロジェクトより「炭素収支と動向」


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■クライメートゲート事件?

国際的な温暖化研究の拠点のひとつである英イーストアングリア大学で、何者かが気候研究ユニット(CRU)のコンピューターに侵入し、1000通以上の電子メールをハッキングし、メールの内容を温暖化懐疑派のブログなどに知らせた結果、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が採用した、人為的な地球温暖化の有力な証拠とされるデータにねつ造の疑いがあるのではないかという騒ぎになっているそうです。

ウォーターゲートならぬ、クライメートゲート事件と呼び、アメリカでは政治問題化しようという動きがあるとのこと。

詳細はこちらにあります。
http://eco.nikkei.co.jp/column/kanwaqdai/article.aspx?id=MMECzh000025112009

日刊 温暖化新聞にも協力してくれている日本の温暖化科学者の江守正多さんは、このようなコラムを書いています。
http://eco.nikkei.co.jp/column/emori_seita/article.aspx?id=MMECza000024112009

一部だけ引用させてもらいますね。

> ただし、過去1000年の気温変動に関するIPCCの結論が万が一これに影響を受けた
> としても、いわゆる「人為起源温暖化説」の全体が揺らぐわけではまったくない
> ことに注意してください。第1回のコラムで説明したように、「人為起源温暖化
> 説」の主要な根拠は、「近年の気温上昇が異常であるから」ではなく、「近年の
> 気温上昇が人為起源温室効果ガスの影響を勘定に入れないと量的に説明できない
> から」なのですから。

実際に誰が何をどうしたのか、そして、誰が何のためにハッキングまでしてこのような状況を作り出したのか(COP15を目前としたこのタイミングで!)、いろいろな考えや憶測があると思いますが、江守さんが書いているように、それが「温暖化の科学」に影響を与えるのはどこなのか、どのくらいなのか、それがどうであっても揺らがないのは何なのか、しっかり冷静に見極めたいところです。


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■大気は大きな「バケツ」である

温暖化の科学(仕組み)を理解する上で、いちばんわかりやすいのは、大気を「バケツ」だと考えてみることです。

(システム思考的にいえば、「ストックとフロー」で考える、ということになります。バケツがストックです)

大気という「バケツ」の中に、私たち人間はいろいろな活動を通して、CO2を注れがまず大事なポイントです。(インフローですね)

そして、大気という「バケツ」から、CO2を汲み出してくれるものもあります。何がどのくらいCO2を汲み出しているか、これが2つめのポイントです。(アウトフローとなります)

さて、バケツがあふれては大変ですね! バケツの水位は何によって決まるのでしょうか? 言うまでもなく、注ぐ量と汲み出す量の差ですよね。インフローとアウトフローの差です。

インフロートアウトフローの量とその変化に注目するようにしましょう。その結果としての水位の変化ももちろんわかりますし、水位を好ましい方向に変化される(つまり減らしていく)には、それぞれをどうすればよいかも考えることができます。

この大気というバケツと、インフロートアウトフローというのは、みなさんのお財布(または銀行口座)とも似ていますね。いくら入ってくるか、いくら出て行くかによって、残高が決まりますよね。

このような関係を「収支」と呼ぶのは、お財布や口座ならよくご存じでしょう。同じように、大気のバケツも「炭素収支」と呼びます。大気というバケツに、炭素がどのくらい入って、どのくらい出て行くのか、バケツの水位は増えているのか、減っているのか、ということです。

というわけで、バケツに注がれている量と、汲み出されている量を、もう少し詳しく、種類ごとに見てみましょう。下の「炭素収支と動向」を見てください。


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■グローバル・カーボン・プロジェクトより「炭素収支と動向」

グローバル・カーボン・プロジェクトの「炭素収支と動向」を、実践和訳チームのメンバーが訳してくれました。
http://www.globalcarbonproject.org/carbonbudget/07/index.htm

どこからどのくらい「バケツ」に入れられていて、どこからどのくらい「バケツ」から汲み出されているか、その結果、「バケツ」の水位はどうなっているのか、考えながら(図に書いてみるとよいです)読んでみてください。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

今回の最新情報の引用について
今回の最新情報は「グローバル・カーボン・プロジェクト(2008):2007年の炭素収支と動向(2008年9月26日発表 www.globalcarbonproject.org)」として引用してください。出版物のための査読には、本報告書の「参考資料(http://www.globalcarbonproject.org/carbonbudget/08/references.htm)」に掲げている基礎的な分析とともに、今回の調査で参考にした分析結果をご活用ください。

●大気中の二酸化炭素(CO2)濃度の増加
2007年の大気中におけるCO2濃度は年平均で2.2ppm増加した。2006年の1.8ppmから増え、2000年から2007年までの平均2.0ppmも上回っている。1999年までの20年間は、年平均およそ1.5ppm増加した。この増加で2007年の大気中のCO2濃度は383ppmに達した。これは産業革命が始まった時のCO2濃度を37%も上回る数値である(革命前の1750年は約280ppmだった)。現在のCO2濃度は過去65万年で最も高く、おそらく過去2000年を見ても最悪の数字だろう。(ppm=100万分の1)

●土地利用の変化によるCO2排出量
土地利用の変化によって大気中に排出されたCO2の年間純排出量は約1.5 PgCだった。これは主に森林破壊によるCO2排出量と森林再生によるCO2吸収量との差である。2006年と2007年の土地利用の変化によるCO2排出量は、年間排出量1.5 PgCという過去25年間の動向から推定した。

主な排出原因は熱帯地方の国々における森林破壊で、地域別にみると、中南米が約41%、南・東南アジアが43%、アフリカが17%という内訳となっている。1850年から2007年にかけて、約160 PgCのCO2が土地利用の変化によって大気中に排出された。(1PgC=炭素換算で10億トン)

●化石燃料燃焼とセメント製造によるCO2排出量
化石燃料燃焼とセメント製造によるCO2の年間排出量は、1990年の6.2 PgCから2007年には8.5 PgCに増加した。京都議定書の基準年である1990年の年間排出量から38%の増加である。

2000年から2007年までに排出されたCO2の年間増加率は3.5%で、1990年から1999年までの年間増加率0.9%に対し、ほぼ4倍の増加である。2000年から2007年までの実際の増加率は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の「排出シナリオに関する特別報告書」(IPCC-SRES)で予測された2000年から2010年までの10年間における最悪の増加率を上回った。

これにより、排出量における現在の傾向はIPCC-SRESシナリオで想定された最悪の場合より悪化する。1850年から2007年までの化石燃料燃焼とセメント製造による大気中へのCO2排出量は約348 PgCだった。

●化石燃料燃焼による地域別CO2排出量
化石燃料燃焼によるCO2排出量を地域別に見ると、最も大幅に増加してきてい
るのが途上国、主に中国とインドである。一方、先進国の増加のペースは緩やかだ。地域的な観点から見た最大の変化は、2006年に中国が米国を抜いて、最大のCO2排出国となったことである。インドもまもなくロシアを抜き、3番目に排出量の多い国となるだろう。

現在、化石燃料燃焼による世界の総排出量のうち、半分以上が後発開発途上国で排出されている。これまでを振り返ると、世界人口の8割を抱える途上国では、1751年以降の累積排出量がわずか20%にすぎない。このうち、人口8億人が住む、世界で最も貧しい国々の累積排出量は1%にも満たない。

●経済における炭素原単位
世界経済における炭素原単位、つまり国内総生産(GDP)1単位当たりの炭素排出量は、長年にわたって減少した後、2003年から2005年にかけては横ばいだった。この変化の主な要因は、中国の経済生産高が世界で占める割合が急激に拡大し、同国の炭素排出量が急速に増加したことだった。中国の国家エネルギー局によると、同国では2005年以来、炭素原単位の基となるエネルギー原単位が改善しており、2005年比で、2006年には1.2%、2007年には3.7%減少したという。

●自然の吸収源によるCO2除去
2000年から2007年にかけて、陸域と海洋のCO2吸収源は、人間の活動で排出された全CO2量の54%を吸収した。自然の吸収源によるCO2吸収量は、大気中のCO2増加に比例して拡大しているが、そうした吸収源のCO2吸収効率は、この50年間で5%減少しており、今後も同じ状況が続く見込みだ。

50年前、大気中に排出されるCO2[1トン]につき、自然の吸収源は600キログラムのCO2を除去していた。それが現在では、CO2[1トン]につき550キログラムしか除去しておらず、CO2吸収量は減少しつつある。

●海洋のCO2吸収
2000年から2007年の間で、世界の海洋のCO2吸収源が除去したCO2は、総排出量の25%だった。年平均2.3 PgCのCO2が除去されたことになる。2007年のCO2吸収量は、2006年とほぼ同じだったが、大気中のCO2濃度増加を基に推定された増加量と比べると0.1 PgC少なかった。原因は、赤道付近の太平洋でラニーニャ現象が発生したことである。

2007年の南極海におけるCO2吸収量は2006年に比べて多かった。これは、風が比較的弱く、南半球環状モード(南極大陸と南半球中緯度域の間で発生する周極の圧力振動)も弱かった状況に呼応しての結果である。海洋のCO2吸収量の推移を長期的に見たある分析では、この20年間の吸収量が予測よりも緩やかに増加していることがわかる。

●陸域のCO2吸収
陸域のCO2吸収源は、2000年から2007年にかけて、人為的なCO2総排出量の29%を除去した。年平均にすると2.6 PgCを吸収したことになる。2007年に陸域生態系が吸収したCO2量は2.9 PgCで、2006年の3.6 Pgを下回った。この結果で主にわかるのは、陸域生態系の吸収量が年々大きく変化していることである。陸域のCO2吸収量の動向を長期的に追ったある分析によれば、陸域のCO2吸収量はこの50年間で見ると増加している。

●結論
京都議定書に署名した多くの国々が排出量削減に取り組んでいるにも関わらず、2000年以降の人為的なCO2排出量は、その前の10年よりも約4倍速いスピードで増加し続けている。2007年には、化石燃料燃焼と土地利用の変化によるCO2排出量が100億トンに達した。

自然のCO2吸収量は増加しているが、そのスピードは大気中に排出される速度よりも遅く、2000年以降、大気中のCO2濃度は年間2ppmずつ高まり続けている。この速度は1999年までの20年に比べると33%速い。こうしたすべての変化がつくり上げる炭素循環のもとでは、気候変動の強制力がますます強まり、しかもそのスピードは予想よりも速い。

(翻訳:荒木由起子  チェッカー:横内若香)


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ゴアさんが『不都合な真実』を出したあと、大変なバッシングに遭っていたとき、ある人が「メッセージを殺せないときは、メッセンジャーを殺しにかかるんだよ」と言っているのを聞いたことを思い出します。

温暖化は真実であるというメッセージをつぶせないときは、そのメッセージを伝えようとしている人をつぶしにかかる、ということですね。

今回のクライメートゲート?がどういう事件なのかまだよくわかりませんが、人々が動揺したり、マスコミが騒いだり、これ幸いと否定論や懐疑論を盛り上げようとしている人がいるのは間違いないでしょう。

そんな動揺の時こそ、しっかりと「基本に戻る」こと。どういう構造になっていて、いまどういう状況になっていて、間違いないのは何か、しっかり押さえておくことです。

 

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