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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2009年07月03日

東海道物流新幹線構想(2009.07.02)

新しいあり方へ
 

前号でスイスやヨーロッパの鉄道輸送についてご紹介しました。人の移動ももちろん重要ですが、荷物の輸送(物流)も環境への影響はとても大きいです。前号でも、物流をトラックではなく鉄道でやろう、ということで、車両用ではなく鉄道用のトンネルを建設することになっているのですね。

日本にも、貨物輸送を現在のようにトラックに頼るのではなく、鉄道を使って行うことで、CO2を減らすほか、高速道路の渋滞やトラック関連の事故、物流業者の人手不足や労働条件の改善などにつなげられないか、という構想があります。

物流専用の新幹線を作ろう!という「東海道物流新幹線構想」です。

私はこの構想を検討する委員会に参加しています。この構想が主に環境面でどのような意味を持つのかを考えてもらったり、一般の人々はどのような印象や意見を持つのかなど、主に環境/市民サイドからの意見を伝えるためです。

この委員会で「東海道物流新幹線構想」を紹介するために作成したDVDがあります。そのナレーションのテキストをもらったので、ご紹介します。日本の物流や鉄道の現状や可能性について、考えていただくきっかけになれば、と思います。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

DVD ナレーション
東海道物流新幹線
ハイウェイトレイン構想
〜道路と鉄道の一体化〜
(東海道物流新幹線構想委員会)

08.11.23現在

1.プロローグ

現在、日本の物流は、"いつでも、どこでも、どんな貨物でも"、思いのままに運ぶことができる、"利便性に優れた"トラック輸送が主流となっています。

その、トラック輸送は、昭和40年代後半、高速道路網の発達と共に、車両台数、輸送シェアを、急激に増加させてきました。

一方、かつて、陸上輸送の主流を占めていた貨物鉄道は、国鉄時代、輸送ニーズに機敏に対応することを怠り、また、安定輸送を欠いたこともあり、昭和40年代にあった約30%のシェアは次第に減少、今では僅か4%になってしまいました。 

本来、鉄道は、"中・長距離の、定時、大量輸送"を特性としています。

しかし、距離帯別におけるトラックと鉄道のシェアをみると、鉄道は500キロ以上で僅かに7%、1000キロ以上においても34%にしか過ぎず、鉄道が果たすべき役割が十分に発揮されていないのが、現状です。

"結果として"、日本の物流は、トラック偏重となってしまい、各輸送モードの特性を生かせていない "バランスの崩れた物流体系"に、今あるのです。

さらにこの状況に拍車をかけたのが、平成2年の物流2法。トラック運送事業の参入規制が緩和され、当時、約4万社あった事業者は今では6万社を超えています。

しかし、近年、トラック輸送にかたより過ぎたために、新たな諸問題が生じてきています。

交通量増加に伴う、CO2排出量増大などの環境問題...

...その現状を見てみると、運輸部門におけるCO2排出量のうち、約35%が貨物自動車によるものです。

幹線道路における交通渋滞や重大事故の発生...

...例えば、東名・名神高速道路では、夜間は大型車混入率が高く、最大80%となっています。

また、これに連動するかたちで、大型貨物車による死亡事故も夜間に多発しています。

トラックドライバーの労働環境悪化と高齢化...

....少子高齢化が進むなか、トラックドライバーの平均年齢は42歳を超え、高齢化が加速しています。今後、物流業界では、トラックドライバーが大幅に不足すると言われています。

そこで浮上するのが、トラック輸送の一部を環境に優しく、長距離で大量輸送が可能な鉄道輸送などに転換していこうという、"モーダルシフト"です。

日本の貨物鉄道を代表するJR貨物は、平成16年3月、東京・大阪間に宅配便専用列車として、世界初の動力分散型の特急コンテナ電車、スーパーレールカーゴの運行を開始しました。

また、平成18年11月には、名古屋・盛岡間に自動車部品専用列車"トヨタロングパスエクスプレス"を運行するなど、様々な取組が行なわれています。

このようにモーダルシフトの取組は始まっていますが、こうした流れをさらに加速度的に、抜本的に推進する、新たな方策はないのでしょうか。

ここで、日本列島の中心である東京・名古屋・大阪の三大都市圏を結ぶ東海道ルートの輸送機関別シェアを見てみましょう。この東海道ルートは、人はもちろんのこと、物流においても日本の大動脈ですが、各区間ともに約6〜8割がトラック輸送で占めています。

しかも、東名・名神高速道路では、交通量の約6割をトラック輸送が占めるほどで、これは全高速道路の平均の約3倍にもなるのです。

鉄道輸送においても、東海道ルートが貨物輸送の大動脈であることに変わりはありませんが、現在、東海道線では旅客列車も密度が高く、貨物列車のこれ以上の増発は困難な状況にあります。

そこで、こうした様々な問題を解決し、"トラック偏重の社会"から脱却するためのプロジェクト、それが「東海道物流新幹線・ハイウェイトレイン構想」です。

2. 東海道物流新幹線・ハイウェイトレインの概要

東海道物流新幹線・ハイウェイトレインの概要を紹介しましょう。

東海道物流新幹線は、大量性・省エネルギーなどに優れた鉄道の特性と、利便性・機動性に優れたトラックの特性を融合させた、「環境に優しい、利用者のニーズに対応できる」"新しい幹線物流システム"をコンセプトとしています。

現在、建設、あるいは計画中の「新東名・新名神高速道路」の中央分離帯や使用計画の未確定車線などの"道路空間"を活用し、最先端の技術を駆使した「物流専用鉄道」を開設するものです。

運行ルートは、東京-名古屋-大阪の約600キロ。主要ターミナルは、東京、名古屋、大阪に設置します。

軌道は複線、サードレールによる集電方式を採用します。

駆動方式は、電車と同様の動力分散駆動。

急勾配区間は、リニアモータによる支援システムを採用します。

運行システムは、中央指令センターで全線一括制御する、自動・無人運転方式とします。

また、トラブル時は、約100キロ毎に配置された緊急センターから出動対応します。


列車編成は5両1ユニットを複数連結し、一列車あたり最大25両程度とします。これは10トントラック40台分に相当します。さらに、一日当りの輸送力は最大約20万トン、10トントラック2万台分の輸送を可能にします。

3. 施設整備

東海道物流新幹線・ハイウェイトレインは、どのように整備されるのでしょうか。

新東名・新名神高速道路は、大きく4つの構造に区分されます。

平野部など中央分離帯がある区間では、中央分離帯と片側各1車線に地盤改良などを行ない、鉄軌道として整備します。

橋梁区間では、各部に補強を行ない、3車線のうち1車線を鉄軌道として整備します。

山間部などのトンネル区間では、空間を確保し、3車線のうち1車線を鉄軌道として整備します。

地形上の制約により道路空間を活用できない区間については、別線を整備します。

このように、高速道路に対し、それぞれ必要な、補強・整備を行なうことはそれほど難しくはなく、東海道物流新幹線・ハイウェイトレインの運行は実現できます。

4. 走行イメージ

それでは、"東海道物流新幹線・ハイウェイトレイン"の走行イメージをご覧ください。

東京・名古屋・大阪地区などに整備する「インターモーダルターミナル」は、トラックと鉄道との、乗り換えを行います。荷役方式は、上吊式(うわづりしき)を採用、最先端の技術を駆使し、ターミナルにおける積替コスト、積替時間の最小化を図ります。

平野部では、中央分離帯や使用計画が未確定である1車線を活用します。

山間部などの橋梁区間及びトンネル区間では、片側3車線のうち、1車線を活用します。

このように、東海道物流新幹線、ハイウェイトレインは、「道路空間の多機能化・多用途化が図られ、まさに道路と鉄道が一体化できる構想」なのです。

5. .導入効果

東海道物流新幹線の導入により、様々な効果が期待されます。

エネルギー効率の向上...

....鉄道の場合、1トンの貨物を1キロ輸送するのに必要となるエネルギー量は、トラックの約1/7になります。

したがってエネルギー消費量は、軽油換算で年間約18億リットル削減でき、金額換算では約2,000億円になります。

モーダルシフトによる環境負荷の低減...

...輸送機関別のCO2排出量をみると、鉄道はトラックの約1/7となり、環境に優しい輸送機関でもあるのです。

したがって、CO2削減量は、年間約300万トンに達し、金額換算では約36億円になります。このほか、ディーゼル車からのNOx(ノックス)、SPM(エスピーエム)などの有害物質の排出も削減できます。

トラックドライバーの人手不足の解消、労働環境の改善...

....トラックドライバーは長距離の運転業務から解放され、1人当たりの年間平均残業時間が約33時間削減されます。労働時間でみれば、年間約3千万時間削減され、これを金額換算すると約460億円になります。

貨物自動車に関わる事故の減少・乗用車ドライバーの安心感の増大...

...これまで発生していた貨物自動車がかかわる事故が減少し、交通事故による死傷者数も、年間約1600人減少します。この減少数は、現在の東名・名神高速道路で発生している事故による年間の死傷者数の約6割に相当します。

こうしたメリットを合計し、金額に換算すると30年間で約4兆円にも達します。

一方、建設費などの総費用は約2兆円と見込まれ、費用便益比は2.0になります。

このように、東海道物流新幹線・ハイウェイトレイン構想は、国民経済的な効果からも、ただちに取り掛かるべき最重要プロジェクトであり、"技術大国・日本"を世界へアピールできる新しい物流システムの誕生といえるでしょう。

6. 結びi

今、地球温暖化やエネルギー高騰は、現実のものとして私たちに迫っており、解決に向けた動きはまさに世界を挙げて緊急性を要しています。

特に化石燃料に依存する物流業界においては、早急に解決しなければならない重要な課題です。

現在、欧米諸国では、環境問題、交通渋滞などの弊害を克服しようと、鉄道輸送を強化する政策が推進され、鉄道による貨物輸送の見直しは、今、世界の潮流となっています。

一方、わが国の物流は、トラック輸送が主流となっており、これらに起因する諸問題、少子高齢化によるトラックドライバーの労働力不足、高騰する原油価格、また迫りくる環境問題などを考えると、私たちは、将来の総合交通体系、物流システムについて、真剣に考えていく必要があります。

国土の狭い日本であるからこそ、「道路と鉄道の一体化」を実現できる「東海道物流新幹線、ハイウェイトレイン構想」を提案し、日本の総合交通政策・環境政策を世界に発信します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

大きなプロジェクトですから、考えるべき側面も多岐に渡ります。「やったときのコストや影響」も大きいですし、同時に、「やらなかったときのコストや影響」も大きなものとなります。このまま、物流をトラックに頼り続けたらどうなるか?ということです。

私はこの構想を諸手を挙げて賛成・推進するためではなく、環境や市民のアクセプタンス(受容)という側面にもついても考えてくださいね、というスタンスでこの委員会に参加しています。

もしみなさんのご感想やご意見をいただけたら委員会にも届けますので、何かありましたら、教えてくださいな!

 

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