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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2009年07月03日

スイス最大のエコ土木プロジェクト〜スイスから見たヨーロッパの鉄道輸送(2009.07.02)

世界のわくわくNews
 

メールニュース&日刊 温暖化新聞のスイス特派員(?)の方から、面白い番組を観ました、とレポートをいただきました。

スイスの政治や国民の関わり、ヨーロッパでの交通輸送をめぐるコラボレーションなど、とても興味深いので、ぜひお読み下さい〜。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「スイス最大のエコ土木プロジェクト 〜スイスから見たヨーロッパの鉄道輸送」
穗鷹知美 gassner@d01.itscom.net

スイスの歴史上最大の土木プロジェクトといわれる、57キロの長さの世界最長のトンネルが、現在アルプス山脈の下で、着々と建設されています(2017年完成予定)。先日、一箇所を除き、すべてのトンネルの掘削作業(87パーセント)が終わり、いよいよ作業が終盤に入ったことが、スイスのニュース番組で一斉に報道されました。

この「世界一」の冠をいただく気の遠くなるような土木工事が、同じ「世界一」を競う高層ビルの建設競争と大きく違うところは、国家の威信や商業的な採算のためではなく、環境への配慮から生まれたグリーン・土木プロジェクトだというところです。

このトンネルができた背景はこうでした。スイスは、地図をみてもわかるように西ヨーロッパの中心に位置し、歴史的にみても、ヨーロッパの南北の交通の要所として重要でした。スイスが800年以上も前から、隣接する大国の脅威にも関わらず、自治国家を建国できたのも、13世紀に開通したゴットハルト峠の交易によるところが大きいといいます。

現在まで、ゴットハルトは、ヨーロッパ南北を結ぶ主要なルートですが、特に1980年車両用トンネルが開通すると(16.9キロあり、車両用トンネルとして、世界で三番目に長く、スイスで最長のトンネル)、交通量は増加の一途をたどるようになりました。交通量の緩和から、第二の車両用トンネル建設が政府と国会によってすすめられましたが、この時、スイス直接民主主義の底力が発揮されました。

アルプスの自然を守ろうとする住民たちによって、1990年に国民発議に必要な10万人の署名が集められ、1994年に政府や国会が進める第二車両用トンネルを拒否する議案が出され、これが国民投票にかけられた結果、可決に必要な過半数の住民賛成票(52パーセント)と過半数の州の賛成を得、可決されました。

これと同時に連邦憲法に、アルプス保護の内容が加えられました。一般に国民発議は否決されることが多いなか、劇的な成功をおさめたこの国民発議は、アルプス・イニシアティブとよばれ、以後のスイスの運輸政策の方向を大きく変えていくことになります。

その要となるのが、車両用に代わる、鉄道用のトンネルの壮大な建設計画でした。ゴットハルトを通過する車両の特徴は、スイスに立ち寄らず、通過する(南北の移動のため)だけの車両が多いということです。スイスアルプスを通るトラックの約半分は、スイスを通過してほかの国にいく車両です。

2008年には、127万台のトラックがスイスを通過しましたが、その85パーセントは、ゴットハルトに集中し通過しています。このような通過車両を、鉄道によってすみやかに南北の輸送することで、将来、スイスを通るトラックの数を年間、65万台にすることを目標に掲げています。

アルプス・イニシアティブは、その後もスイス国民の間でも広く受け入れられており、2000年に再び第二車両用トンネル建設が国民発案されましたが、国民投票で否決されています。

このようなスイス市民の意向を追い風に、2001年からは、可能な限りアルプスを横断する貨物輸送を、車両から鉄道輸送に移行させることを謳った法律が施行され、同年から、スイス全土でトラックに課せられた、重量やエミッション、距離に基づく税(LSVA)収入も、トンネル建設に当てられるようになりました。

そして、2007年には、ついに、ゴットハルト鉄道用トンネルに先駆けて、ゴットハルトにつながる36キロに及ぶ鉄道用トンネルである、レッシュベルク・トンネルが開通し、同年、3万3000の貨物と人をのせた電車が通過し、車両から鉄道輸送へ移行する新しい時代がはじまったかのように見えます。

ただし、トンネル建設は一国でできても、鉄道輸送を推進していくためには、鉄道輸送のコスト面での優遇など、ヨーロッパ全体で列車輸送を促進する政策が不可欠です。とくに、ゴットハルトのトンネルの場合、鉄道輸送のターゲットは、スイス国内のトラックではなく、スイスを囲むほかのEU国の、スイスをただ南北移動のために通過するトラックなのですから、スイス国内の政策でできることには限りがあります。

スイスがEU非加盟国であることから、EUとは政策上、齟齬をきたすことが、とかく多いのですが、幸い、車両から鉄道輸送への移行については、EUにおいても、環境政策の運輸面での重要課題にあげており、積極的に取り組む姿勢がみられます。

例えば、今年の5月には、ゴットハルトと並び、南北ヨーロッパの横断交通の重要な要所であるブレンナー峠をまたぐ55キロの鉄道専用のトンネルを建設することで、イタリア、オーストリア、ドイツの交通大臣が最終的に同意しました。建設費用の3分の1は、EUが負担し、残りはトンネル部分を領有するオースト
リアとイタリアが負担することになります。工事は今年2009年からはじまり2022年の完成が目標とされています。

今後も陸続きのヨーロッパならではの、自国の短期的な利害にとらわれず、ヨーロッパ全体を視野にいれた、それぞれの地域の、環境負荷を減らす運輸手段や、効率的な運輸政策がすすむことを、願うばかりです。

参考)6月20日付けのニュース(ドイツ語、写真つき)
http://www.bahnonline.ch/wp/11430/erfolgreicher-durchschlag-am-gotthard-bundesrat-leuenberger-gratuliert.htm

(以上)

 

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