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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2009年04月26日

アースポリシー研究所より「上昇する海面と激しい嵐が世界の安全保障を脅かす」〜コスト・リテラシーを高めよう(2009.04.26)

温暖化
 

<内容>

■海面上昇と激しい嵐の時代に世界はどうなる?
         アースポリシー研究所の「プランB最新レポート」より

■日本での被害予測は……?

■「コスト・リテラシー」を高めよう

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■海面上昇と激しい嵐の時代に世界はどうなる?
         アースポリシー研究所の「プランB最新レポート」より


アースポリシー研究所「プランB最新レポート」を実践和訳チームが翻訳してくれましたので、お届けします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

上昇する海面と激しい嵐が世界の安全保障を脅かす

http://www.earthpolicy.org/Updates/2008/Update76.htm

ジャネット・ラーセン

1987年10月の国連総会で、モルディブ共和国のマウムーン・アブドゥル・ガユーム大統領は、「危機にさらされている一国家」を代表して訴えた。その年に起こったインド洋初の「異常な高波」で、首都マレの都市部の1/4が浸水、農場にも水があふれ、埋立地も水で押し流されてしまったのだ。

訴えの中でガユーム大統領は、「人間の活動が地球を暖める温室効果ガスを放出している。氷河が融解し、暖かくなった海水が膨張するため、最終的には世界の海面が上昇する」という科学的な証拠を引き合いに出した。

問題は小さな島々を越えて拡大した。上昇している海面によって、米国のメキシコ湾沿岸部やオランダ、エジプトとバングラデシュの河川デルタに甚大な被害が及ぶ恐れのあることが複数の研究で明らかになったのだ。

海水の膨張と嵐の激化という20年にわたる急速な変化と大統領の訴えによって、私たちに必要なことが、「地球温暖化の研究」から「気候を安定させるための思い切った行動」へと変わった。

いくつかの小さな島国が危険にさらされる中、最近、ガユーム大統領は、「ネームプレートがなくなり、席に着く人がいない」国連の将来像を引き合いに出す。しかし大統領は一人でそんな話をしているのではない。

この秋、オーストラリア、カナダ、ニュージーランド、EU諸国に加え、多くの小さな島国を含む50余りの国が、国連総会に先駆けて、ある決議案を提出しようと計画しているのだ。国連安全保障理事会が「国際的な平和と安全保障のために、気候変動によってもたらされている脅威」に取り組むよう要請するものである。パラオ諸島のスチュアート・ベック大使は、「軍隊に侵略されそうになれば、どこの国だって同じことをするだろう」と述べている。

二酸化炭素のような温室効果ガスの排出量が劇的に減らなければ、今世紀末までに地球の平均気温は最大6.4℃、海面はおよそ1メートル上昇すると予測されている。驚くべきことに、ここのところグリーンランドと西南極大陸の氷床--この2カ所の氷を合わせると、世界の海面を約12メートル上昇させるほどの量になる--は速度を増して融解しており、海面は予想よりもずっと早く上昇する可能性があるという。

地球温暖化はまた、激しさを増した嵐にも拍車をかける。巨大化した嵐は、危険な相乗作用でわずかな海面上昇とでも一体化し、沿岸地域を破壊しうる、かつてないほど大きな高潮を引き起こす。

コルカタ、ロンドン、上海、ワシントンDCのような世界の主要都市に住む多くの住民をはじめ、多数の人々が脆弱な沿岸地域に暮らしているため、何億もの人々がまさに危機にさらされている。ニューヨーク大都市圏の大部分では、海抜が4.6メートルもない。つまり、カテゴリー3のハリケーンならマンハッタン南端部の1/3は簡単に浸水してしまう可能性があるのだ。

地球上の人間をすべて合わせると10人に1人は、海抜10メートルより低い沿岸部に住んでいる。もし海面上昇と異常気象によりこうした沿岸部に人が住めなくなれば、6億3,000万以上の人々が、安全な土地を探してその地域から離れざるを得なくなるだろう。

しかし世界のどこを探しても、大量の人口移動に備えているところや、何百万人もの気候難民を収容できるようなところは存在しない。すでに限界にきている脆弱な国々は、限界点を越え、国家が壊滅状態へと追いやられるかもしれない。英国のマーガレット・ベケット外相が国連安全保障理事会に警告したように、気候変動は経済の大混乱と、「空前規模の人口移動」を引き起こす危険があり、そのため安全保障を脅かす真の脅威となっているのだ。

大移動は既に始まっている。南太平洋バヌアツ共和国のテガ島では、沿岸部にある人口100人の村が移住を余儀なくされた。浸食と海面上昇により地下水面が上がるにつれて、住居が水浸しになり汲み取り式トイレがあふれたのだ。

海抜が一番高い所でも約1.5メートルしかない、パプアニューギニアのカータレト諸島では、住民2,000人を一度に10家族ずつ、船で4時間離れたブーゲンビル島へと移住させることが決まっている。モルディブ共和国とキリバス共和国の両国には、常に陸地に潮が押し寄せてくる危険があり、国は被害を受けやすい小さな島から大きな島へ住民を移動させることを計画している。

小さな島々より河川のデルタ地帯はさらに危険にさらされている。これは、2008年5月にミャンマーのエーヤワディ・デルタが、カテゴリー3のサイクロン「ナーギス」に見舞われたことで明らかになった。このサイクロンは、暴風と約3.7メートルもの高潮によって、13万5,000人の死者を出し、被災地は2万3,500平方キロメートルにも及んだ。この中には同国の6割以上を占める水田も含まれていた。被災者数も200万人を超え、その半数が5カ月経った後も食料援助に頼っている状態であった。

ベトナムは、人口の1/5に当たる約1,800万人が海面上昇の影響を受けやすいメコン・デルタに住んでおり、その危険にまともにさらされている。ベトナムの稲作の半分以上と魚類やエビの漁獲の大部分は、この地帯の雨期の洪水に依存している。

しかし海面の上昇が定期的に訪れる雨期の洪水の型を変えてしまい、塩水に浸る地域が拡大して農耕地としての利用ができなくなる恐れがある。海面が約1メートル上昇すると、デルタ地帯の面積の半分近くは、海水で覆われてしまうだろう。2000年には、メコン川の水位が約4.9メートル以上も上がり、少なくとも過去2世代の間では見られなかった最悪の洪水が起きた。それ以降、ベトナム政府は最低でも3万3,000世帯を最も洪水の被害を受けやすい地域から移住させる計画を開始している。

エジプトのナイル川のデルタ地帯では、海面が約1メートル上昇すると、800万近くの人々が移住を余儀なくされ、国の農地面積の12%が水浸しになる可能性がある。デルタを支えるはずの土砂の堆積物がアスワンダムによってせき止められているため、海水がデルタ地帯に浸水してくるのを防いでいた自然の機能が失われつつあるのだ。

海水は既に農地に入り込んでおり、小麦の生産に支障をきたしている。コンクリートの防波壁が、古都アレクサンドリアの入り江に一列に並んでいるが、それですべての波を防げるわけではない。

人口密度の高いバングラデシュでは、国民1億6,100万人の多くが、既に毎年起きる洪水に苦しんでいるが、海面の上昇は彼らにとっても悲惨なものとなるかもしれない。

海面が約1メートル上昇すると、この国では半分近くの水田が水没し、何千万人もが住む場所を追われることになるだろう。インド政府は不法移民を食い止めるため、バングラデシュとの国境に塀を立てているが、海面上昇が止まらない場合、コンクリートと有刺鉄線の塀では、気候変動による移民の流れをせき止められそうもない。

環境の変動が原因で移住を強いられるのは、まずは小さな島や低地にある発展途上国だと思われがちだが、先進国だから大丈夫というわけではない。2005年8月の終わり、ハリケーン「カトリーナ」は、既に地盤が沈下しているルイジアナ州沿岸に強風と8.5メートル以上の高潮を伴って襲いかかった。

結果、ニューオリンズとその周辺に住む100万人近い住民が避難を余儀なくされ、そのうち20万人以上は元の土地に帰ってくることはなかった。これらの人々は、米国初の大規模な気候難民の一波となり、よその土地に永住の地を定めたのだ。

被害総額1,250億ドル(約12兆3,000億円)のカトリーナの後、米国の主要な人口密集地は、熱帯性暴風雨による惨事を何とか免れてきた。2008年9月、ハリケーン「グスタフ」の襲来時には、ニューオリンズの住民に向けて一時避難勧告が出されたほどだったが、その後ハリケーンは進路を変え、風力を弱めた。

ハリケーン「アイク」は、その規模と風速で並外れた嵐だったが、幸い米国大陸上陸前に威力を弱めた。それでもテキサス州沿岸部のガルベストンには痛ましい被害をもたらした。この2つのハリケーンはキューバ全土(住民が避難しては戻ってくるということをずっと繰り返している典型)に壊滅的な打撃を与えた後、米国に到達している。キューバでは、44万軒を超える住宅を破壊し、一時的に100万人以上を強制避難させるほどの猛威をふるったのだ。

異常気象により、嵐はより一段と激しさを増し、さらに発生地域や時期が従来とは異なってきたことで、住民は、家を建て替えるか、より安全な場所に移住するか、という難しい選択に迫られている。米国では、被害を受けやすい沿岸地域において、移住してくる人が増えている一方、将来の気候災害による高額の支払いを嫌って、保険会社は撤退しつつある。

このまま手に負えない状況に陥るまで地球温暖化を進行させてしまったら、災害による疲弊で、金融制度や社会制度が完全に打ちのめされてしまうのも時間の問題かもしれない。現在、海面上昇による避難民の第一波は千人単位だが、温室効果ガス排出の増加を早急に抑止しなければ、いつかその規模は百万人単位になるかもしれないのだ。

# # #

アースポリシー研究所の気候安定化プランを読むには、下記のウェブサイトで、「プランB実行の時:2020年までに二酸化炭素排出80%削減」を参照のこと。
www.earthpolicy.org/Books/PB3/80by2020.htm


詳細については以下にお問い合わせください。

メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線 12
電子メール:rjk @earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
ジャネット・ラーセン
電話:(202) 496-9290 内線 14
電子メール:jlarsen @earthpolicy.org

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Ave. NW, Suite 403
Washington, DC 20036
ウェブサイト:www.earthpolicy.org

(翻訳:荒木、山口、長谷川)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

■日本での被害予測は……?

日本では(世界でもそうですが)、温暖化による海面上昇や台風の強大化、集中豪雨やそれらに伴う洪水などの被害の全体を予測することは難しく、全体像の数字は出ていません。

ただ最近、中期目標検討の分科会に、国立環境研究所など14機関の研究チーム「温暖化影響 総合予測プロジェクト」(代表、三村信男・茨城大教授)がまとめた試算が報告されました。

それによると、「現状を超えた温暖化対策を進めなければ、今世紀末には洪水による浸水被害額は最大年8兆7000億円に上る」というものです。そして「厳しい対策を取れば6兆4000億円に抑制可能」とのことです。


■「コスト・リテラシー」を高めよう

この計算に入っていない被害も多数考えられるため、この数字だけを考えればよいというわけではありませんが、これは、とてもわかりやすいひとつの「考えるポイント」を与えてくれます。

それは、何かをするときのコストつまり「作為のコスト」と、何もしなかった場合のコスト、つまり「不作為のコスト」です。

温暖化対策を進めるにはコストがかかります。そのコストが高いといってやりたがらない声もよく聞かれるのですが、「では温暖化対策をしなかったらどうなるか」というコストが、ここでは部分的にしろ明らかになっています。対策をしなかったら、年間2兆3000億円ずつ被害が増えてしまう、ということです。それだったら、しっかりしたコストをかけて温暖化対策を進めた方がよいではないか、という議論をすることができます。

温暖化をめぐっては、中期目標の設定もそうですが、これからもさまざまなコスト論や負担論がでてきます。そのときに、「何かをするときのコスト」だけではなく、「何もしなかったときのコスト」も同時に考えるクセをつけていきましょう。

だれだって「100円捨てますか?」と言われたら、「いやです」というでしょう。でも、「いま100円払わなかったら、あとで200円払うことになりますよ」と言われたら、違う考え方をするでしょう?

「コストが問題だというけど、でもそれをしなかったら、どういうコストがかかりますか?」と、まわりの人や産業界・政府にもそのような考え方を促しましょう。

「コスト・リテラシー」(コストに対するきちんとした考え方)を広げていかなくては!と思っています。これについては、またもう少し詳しく書きますね。

 

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