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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2009年03月19日

ブータン・レポート、バージョン2 (2009.03.19)

大切なこと
新しいあり方へ
 

今度は、カジュアルバージョンのブータン・レポートをお届けします。
(カジュアルというか、小学生の作文というか……ま、お気になさらずに〜^^;)

が、そのまえに1つ、おうかがいです。バラトングループの仲間から「ウィーンにあるSustainable Europe Research Institute( http://www.seri.at/)が、持続可能性に注力してきたため、この経済不況下でも良好な業績を上げている企業を探しているのだが、日本にそういう企業はないだろうか?」と問い合わせが
入っています。

自薦でも他薦でも、もしそういう企業がありましたら、ぜひ教えてくださいな。どうぞよろしくお願いいたします。(このメールニュースに返信すると、私だけに届きます)


さて、ではブータン・レポート、バージョン2をどうぞ。

2008年11月24日〜26日までの3日間、ブータンの首都ティンプーで、第4回GNH国際会議が開催されました。この会議に参加をするため、私とチェンジ・エージェントの小田はペーパーを提出し、なかなかビザが来ないことにやきもきしながらも航空券の手配をし、初めてのブータン訪問を楽しみにしていました。

ブータンに詳しく、GNH研究所(http://www.gnh-study.com/)を主催する平山修一さんに、ブータンへの持ち物を聞いたところ、「暖かい衣類と暖かい靴下、そして日焼け止めとリップクリーム」というお返事。夏の格好をしてよいやら冬の格好をしてよいやら(^^;)。取りあえず、冬は寒いと聞いていたので、防寒具をスーツケースに詰め込んで、バンコク経由でブータンのパロ国際空港に降り立ったのでした。

空港の建物も瀟洒な伝統的なつくりで、とても素敵でした。空港からバスに乗り込んで1時間半ほど、首都ティンプーのホテルに到着。ホテルで少し休憩したあと、会議前夜の歓迎夕食会に参加しました。

ブータンの料理はどれも辛いと聞いていたし、ガイドブックにも「野菜は唐辛子しかない」「唐辛子も日本のものには比較できないほど辛くて、どの料理にも入っている」と書いてあったため、辛いものがそれほど得意でない私は、すっかり痩せて帰れるかしらと、半ば楽しみにもしていたのでしたが、ブータンの食事はとてもおいしくいただきました。

とびきり辛い唐辛子をチーズで煮込んだ名物料理は毎回出ており、ブータン人はおいしそうに食べていましたが、私のような外国人にも配慮して、辛くない種類のお料理も何種類もありました。お醤油は使っていないはずなのに、とてもなじみがあって、なつかしい味付けのおいしいお料理についつい手が伸びます。

体重計のないブータン出張だったので、帰ってからが怖いと思いつつも、おいしくいただきました(ブータンでは何種類ものビールも造っていて、輸入ビールもありましたし、毎食違うビールが飲めるほど楽しむこともできました!)。

またブータンでは、小学校に上がる前からブータンの国語と歴史以外は英語で教育しているというだけあって、レストランやお店の人でも、ほとんどの人が英語をしゃべります。

会議に出ていた研究者や政府官僚、そして現在の第5代国王も、欧米の大学や大学院への留学経験を持つなど、とても流ちょうに英語をあやつります。どこへ行っても英語が通じるので、ブータンで不便を感じることはありませんでした(町の表示もほとんどが英語です)。

ブータンにとっての英語は、日本にとっての外国語のように、「嗜好品」や「贅沢品」ではなく、「生き残りのための重要なツール」です。ブータンは中国とインドという大国に挟まれた小国で、地域の力の均衡を見定めながら、政治的にも商業的にも生き延びていく必要があるため、英語の力は不可欠なのです。またブータンには、もともとたくさんの言語があり、お互いの間での共通言語として英語が使われている部分もあります。

私は、ブータンへ行く前は、幼児期からの英語教育について「しっかりと自分の国の言葉が身についてからのほうがよい。歴史や文化、アイデンティティなど、外国のものを入れる前に、子どもたちには教えるべきことがある」と考えていましたが、日本人などよりもずっとしっかりとアイデンティティを持ち、文化や歴史を大切に守っているブータンの人々が流ちょうに英語をあやつるのを見聞きするにつれ、外国語教育と自国の文化、歴史を大事にするのは両立し得るのだと知りました。

このような経験をしながらの3日間の会議、そしてその後3日間のあちこちへの見学は、とても有意義な日々でした。

GNH国際会議は、2004年に第1回がブータンで開催されました。その後、2005年に第2回がカナダのハリファックスで、2007年にタイで第3回が開催され、今回第4回目が再びブータンで開催されることになりました。今回の大きなテーマは「実践と測定」です。基本的な理念や哲学としてのGNHから一歩出て、実際にそれを政策にどのように反映していくか、どのように実践をしていくか、そして現状や進捗を測るためにどのように測定していくかに焦点が移りつつあることがわかります。

今回の会議には、25カ国から90人が参加しました。外国からの参加者が最も多かったのは日本です。日本からは、GNHの実践や研究をしている大阪大学の草郷先生、GNH研究所を主催する平山さん、麗澤大学の大橋先生など、大学からの参加者のほか、日本ブータン友好協会の方や民間企業からの参加もありました。

1日目、まず開会セッションでは、ブータンの僧侶による儀式を執り行ったあと、主催者の歓迎のあいさつがあり、議会民主制に移行して初めての首相を務めているジグミ・シンレイ氏が基調講演を行いました。首相は素晴らしい英語で、ウイットを効かせながらお話しになりました。

冒頭、緊張し、静まり返っている会場を見回して「Are you happy?」と問いかけたのです。みんながニコリとするのを見て、このようにスピーチ原稿にはない話を続けました。「大学でGNHの話をしてほしいと言われたときのことです。一生懸命説明をしていたら、『もっと笑顔で話をしたらどうですか?』と言われました。そこで私は、『ハピネスというのはシリアスなビジネスなんですよ』と答えました」

会場がふっとゆるむのを見て「さて、皆さんもにっこりされましたね。では、シリアスなビジネスの話をしましょう」とスピーチに入りました。とても素敵なスピーチでした。首相のスピーチ原稿はあとでいただくことができ、直接ご本人から、日本語への翻訳と配信の快諾をいただいたので、別途翻訳してお届けしたい
と思っています。

首相は、先週の戴冠式で第5代国王が、GNHを進めていくことは自分の責任であり優先課題であると明言されたことを挙げ、またご自分の言葉でも、国政の基礎にGNHがあることを繰り返し語りました。

「貧困緩和のために経済成長が必要だと言われるが、それはまるで症状を治すために患者を殺すようなものではないか。再配分を考えない限り、経済成長をしても貧困緩和にはならない」など、「そのとおり」と膝を打ちたくなる、力強いスピーチでした。

そのあと全体会議が始まりました(会議の様子は、前号をどうぞ!)。

今回の3日間の会議中に、新しく調べたり考えたりしたいきっかけをたくさん得ることができました。これらについては今後、調べたりまとめたりしながら、このメールニュースでも、少しずつお伝えしていきたいと考えています。

ちなみに、さまざまな各国からの発表を聞きながら、たくさんのシステム思考のループ図を描くことができました。エコビレッジの取り組みにしても、あることをきっかけに、どのようにエチオピアのリンゴを栽培していた村がバラバラになってしまったかも、ループ図で表すことができます。

改めて、さまざまなものを、つながりでつなげて全体図を見ていこうというシステム思考が役に立つこと、そして特に幸せや持続可能性は、さまざまなものと密接に(外から見えるかどうかは別として)つながっていることがよくわかりました。

ブータンは、とにかく空がきれいです。お天気だったせいもあると思いますが、空がきれいで、山がきれいで、川がきれい。どこもそうでした。夜になると、空は星でいっぱいです。空気も澄んでいて、とてもきれいな所でした。

何日かいる間に、「人と動物との距離感が全然違うなあ!」と思いました。ブータンには、日本でいうところの野良犬が、町にも村にも山の中にもたくさんいます。でも、日本の野良犬と違って、みんなおとなしくてやさしい目をしています。

ブータンの人は生まれ変わりを信じているので、絶対に動物をいじめないそうです。いじめないから動物も全然怖がらずに近寄ってくるし、道の真ん中を牛が歩いていて、車がクラクションを鳴らしてもどかないぐらいでした。

会議後の2日間は、ブータンのガイドさんがついてくれたのですが、ホテルにお昼ご飯をつくってもらって、川辺などでピクニックをしました。すると、ご飯のにおいをかぎつけて、野良犬が2、3匹やって来ます。日本では、野良犬が寄ってくるというと怖いですが、ブータンの野良犬はやさしい目をして、ちょっと離れた所で座ってじっと待っているですね! こっちが知らん顔をしていると、ちょっと場所を変えて私たちが見えるような所に来て、またじ〜っと待っています。

食事の残りを、ガイドさんが「あげていいですか?」と言うので、「どうぞ」と言ったら、犬たちはおとなしく食べました。その中に、唐辛子をチーズで煮込んだものもあって、犬は食べられるだろうか?と見ていたのですが、3頭のうち1頭だけが食べました。あとの2頭は嫌いだったようで、犬にも好みがあることがわかりました。(^^;

そうして、食べ終わると、犬たちはそのまま去っていきました。生まれ変わって犬になるんだったら、絶対にブータンで生まれたい!と思います。

町でも村でも、やせ衰えた犬など一匹もいなくて、みんなが、誰の犬でもないけれど、多分残り物を分け合っているのだろうなと思いました。ブータンは、GDHの国でもあるのですね!(Gross Dogs Happinessです、もちろん!)

もう一つ、「人と人との距離も全然違うなあ!」と思いました。人口があまり多くないこと、特に地方はそうですが、おじさんとかおばさん、おいっ子など、拡大家族がみんなで住んでいること、コミュニティの力がとても強いことから、困っている人がいても誰かしらが面倒を見るという社会なので、ホームレスとか食べ物に飢えているような人はいません。

ガイドさんの様子を見ていると、知っている人、知らない人の関係なく、とても親しく誰にでも声をかけます。うちのガイドさんだけかと思いましたが、見ていると、みんながそうなのです。

私たちは、知らない人にはなかなか声をかけませんが、たとえば道端でモノを売っている人などとも言葉を交わしたり、向こうから言葉をかけたりして、知らない人でもごく普通に話をするので、「いいなー」と思って見ていました。

ガイドさんはノブさんという人で、ティンプーで政府の関係の仕事をしていますが、時々ガイドの仕事もしているそうです。思いが重なる人だったので、話が合って、いろいろな話をしました。

ノブさんは、ティンプーではなくて、東のほうの、山岳地帯にある農村の出身です。いま、みんな地方から首都に出てこようとしているそうです。「地方には仕事がないので、首都に出てきて仕事をしようと思っても、実はあまりありません。だから何とか地方に仕事をつくりたい。そうしたら、都会に出てこなくても、そこで幸せに過ごせる。そういうプロジェクトをやりたいと思っています」と自分の夢のプロジェクトについて話してくれました。

ブータンは手織りの織物が有名で、いま、織り手を組織して売れないかということを考えていて、いくつか試みをしているそうです。でも、ブータンではみんなが織っているので、国内で買う人はあまりいないわけで、買い手がうまく見つからないとのこと。

私はフェアトレードの話をして、「日本で一緒にできるかな?」という話をしました。日本の場合、消費者の質への要求が高いので、それに応えられるようなものをちゃんとつくってからでないと売れませんが、そこまでやるつもりがあれば一緒にやることは可能性があるという話をしてきました。

私はこれまでもよく海外に出張しています。たとえばスウェーデンに行くと、「よかったね」「また行きたいね」と、「また行きたい」という言葉を使います。

でも、ブータンは、なぜかわかりませんが、「戻りたい」と言いたくなるのです。ブータンに「行く」のではなくて、「戻りたい」。ガイドさんのノブさんにも、「あなたのカルマはブータンにある」と断言されましたし(^^;)、きっとブータンにご縁があるかもしれません。

またブータンに戻りたいな〜と思っています。

 

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