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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2009年03月19日

日経エコロジー3月号より「国民総幸福(GNH)で議論 理念から指標化と実践へ」(2009.03.19)

大切なこと
新しいあり方へ
 
長らくお待たせしました!  11月に出張したブータンのGNH国際会議のレポートを、日経エコロジー2009年3月号への寄稿「ビジネスリーダーのための新環境学 〜ブータンの幸福指標に関する会議」からご紹介させていただきます。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 国民総幸福(GNH)で議論理念から指標化と実践へ ブータンの幸福指標に関する会議
文/枝廣淳子 環境ジャーナリスト ブータンでは前国王が国民全体の幸福を中心に考えようと提案。
この考えを指標化し、実践するための会議が開かれている。
同国政府は幸福を測るため72項目で国民調査を実施した。
  2008年11月24〜26日の3日間、ブータンの首都ティンプーで第4回GNH国際会議が開催された。  GNHとはGross National Happiness(国民総幸福)。GNP(国民総生産)やGDP(国内総生産)といった「生産」ではなく、「幸福」で国の力や進歩を測ろうというもの。この考え方は、1976年にブータンの第4代ワンチュク国王が「GNHはGNPよりも大切である」と、ブータンの開発哲学・開発の最終目標に据えた。  GNHについての考え方や指標化、実践を進めるGNH国際会議は、2004年にブータンで第1回が開かれた後、2005年に第2回がカナダで、2007年にタイで第3回が開催されている。  第4回となる今回のテーマは「実践と測定」。理念や哲学としてのGNHから一歩出て、実際にどのように政策に反映し、実践していくか、現状や進ちょくを測るためにどのように測定していくかに焦点が移りつつあることがわかる。 (第4回GNH国際会議が開催されたブータンの首都ティンプーにあるユース・センター。開会式では壇上にブータン政府の大臣や閣僚が並んだ。ブータン人は男女を問わず、いつも民族衣装を着ている) 72の変数で国民調査 会議には25カ国から90人が参加。ブータンの次に日本からの参加者が多く、総勢10人ほどだった。  初日の午前中、僧侶らによる儀式のあと、主催者の歓迎あいさつがあり、議会民主制に移行して初めての首相を務めているジグミ・ティンレイ氏が基調講演を行った。  首相は、その前の週の戴冠式で第5代国王が「GNHを進めていくことは自分の責任であり優先課題である」と明言されたことを挙げ、また自分の言葉でも国政の基礎にGNHがあることを繰り返し語った。  「貧困緩和のために経済成長が必要だと言うが、それはまるで症状を治すために患者を殺すようなものではないか。再配分を考えない限り、経済が成長しても貧困緩和にはならない」と力強く本質を語った。 そのあと全体会議が始まった。今回の大きな目玉はブータン研究所からのGNH指標の発表だ。GNHという考え方はわかっても、それをどのように測るのか?─。世界の注目が集まっている。  ブータンは、「公正な社会経済発展」「環境保全」「文化保存」「良い統治」をGNHの4つの柱として、国家運営の大原則としている。  今回、この4つを測るために、9つの領域に沿って72の変数が選定され、国民調査が行われた。9つの分野は「生活水準」「健康」「心理的・主観的幸福」「教育」「生態系と環境」「コミュニティの活力」「バランスのよい生活時間活用」「文化の活力と多様性」「良い統治」である。  9つの分野について、どのような変数を取り上げ、測定した結果がどうであったかという発表がブータン側から行われ、他国からの参加者からもそれぞれの幸せの測定に関する研究や実践の発表などがあり、活発な議論が交わされた(指標や調査結果については、ブータン研究所GNHウェブサイトを参照。http://www.grossnationalhappiness.com/)。  政府がGNHを推進するといっても、国民に対して幸せを約束するわけではない。国家・政府として「個人がそれぞれGNHを追求できる条件を整える」ことを約束しているのだ。「ブータンに、GNH経済、GNH政治、GNH文化をつくっていかなくてはならない。GNHを考えれば民主主義ですら目的ではないことがわかる。民主主義はGNHのために必要な良き統治のための手段なのだ」という発言も聞かれた。 国王が一人ひとりと握手  GNHを提唱しているからといって、ブータンが理想郷であるわけではない。水道などインフラの未整備のほか、近代化にまつわるさまざまな問題もある。特にテレビが入ってきてから、若年犯罪の増加などが憂慮されている。加えて、GNH自体、現在の第10次開発計画には直接は入っていない。総括セッションでも「GNHは世界の問題を解決するためではなく、まずブータンの中でブータンの問題を解決するために使われなければならない」というブータン人からの発言もあった。  そして、「GNHをブータンの政治の主流に位置づけることで、ブータン社会をよりホリスティック(全体調和型・包括型)社会へと変えていく力とする」と、力強い言葉で3日間の会議が締めくくられた。次回の開催地はブラジルに決まった。  今回の会議では、首相が開会演説をしたほか、多くの大臣や閣僚も出席するなど、政府の力の入れ具合が伝わってきた。3日目には、海外からの参加者全員が国王主催の昼食会に招かれた。  戴冠式を終えたばかりの28歳の国王は、王宮の入り口に立って、一人ひとりと握手し、言葉を交わし、丁重に迎え入れてくれた。  私も握手し、お話させてもらったが、数十人もの相手をしなくてはならないというせわしさは一切なく、まるで澄み切った湖のように「いま・ここ」に100%の注意を集中し、私と一緒にいるこの時間を大事にしてくれていることが、ひしひしと感じられ、感銘を受けた。  ブータンに詳しい参加者によると、「先週の戴冠式では、新しい国王を一目見ようと、国中の村々から泊まりがけで人々がやってきて、何万人もが列をつくりました。待ちきれない人々が殺到しそうになったとき、国王は自らマイクを取って、『最後の一人までちゃんと握手をしますから、待っていてください』と言葉をかけられました。最後の最後に時間が足りなくなると、一人ひとりを迎え入れるのではなく、国王自らが動くことで、最後の一人まで握手をし、言葉を交わされたのです」  GNHの基礎をつくった先代の国王は、何もない質素な家で暮らしながら国政を執っていたという。阪神淡路大震災のときには、3日間、食を断ってお祈りをしてくださった。  ブータンの人たちが、第4代国王を心から敬愛し大事にしていることが会話の端々から感じられる。そして第5代国王も、父の先代国王と同じように、国民を心から大事にしようとしていることが伝わってくる。  お迎えのあいさつが終わった国王は昼食会場にふらりと入ってこられて、私たちと同じように皿にバイキングの食事を盛ると、テーブルの一つに腰掛けて、周りの人と気さくに話しながら食事を始められた。  そんな国王の様子に「GNHの真髄は、本当に国民の一人ひとりを大切にする国王と、その国王を心から敬愛する国民の心なのだ」ということが、すとんと腑に落ちたのだった。  GNHの指標化自体はまだ初歩的な段階だ。指標化・数値化することと、「測れないものにも大事なものがある」というホリスティックな考え方をどのように折り合いをつけ、ブータンにも世界にも役立つものにしていくのか─。これからの大事な作業に、少しでも日本の経験や知恵、システム思考的なアプローチを提供し、貢献していきたいと考えている。 (首都と近郊の町の市場の様子。ブータンの食べ物は世界一辛い(実感!)。唐辛子とチーズの煮込み料理など、唐辛子は香辛料ではなく野菜であり、どこでも山のように売られている) 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ほかにも、ブータンで感じたこと、考えたこともお伝えしたいと思います。
 

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