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2009年02月13日

「第7回 地球温暖化問題に関する懇談会」資料と報告(2009.02.13)

温暖化
 

昨日、18:30〜19:00、首相官邸にて「第7回 地球温暖化問題に関する懇談会」が開催されました。

主な議題は、中期目標と国内排出量取引の試行実施についてです。

今回は(も)時間が短く、「発言は2分で一巡かぎり」ということでしたので、自分の発言については、提出した資料をご紹介します。(資料に書いても、言及できなかったことが多かったので)

私も含め、資料を提出した委員の資料は、官邸のサイトにアップされています。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai07/07gijisidai.html

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

地球温暖化に関する懇談会 資料
                         2009.02.12 枝廣淳子

<1> 国内排出量取引について、<2> 中期目標について、<3> 全体について


<1> 国内排出量取引について

・多くの企業が参加を得て始まったことは素晴らしい
・今回は経団連のリクエストにより、自分たちで目標を決める方法(自主規制)
・本来はあるべき姿から上限(目標)を定める
・水質汚濁や大気汚染の規制をする際、減らすべき汚染物質の基準は法律で定める(各社に出してよい排水や排ガスの目標を好きに決めさせることはしない)
・国内排出量取引もCO2を減らすことが目的
・今回の方法で十分な効果が出ない場合は、排出量取引制度自体を否定するのではなく、やり方を変える必要がある

<2> 中期目標について
(1) 限界削減費用
・「限界削減費用」:単位削減当たりの費用が最も高い技術の削減費用。平均的な削減費用は、それよりもかなり安価
・最高コストを他国と比較するより、平均コストを考えるべき
(国立環境研究所の試算では平均コストはマイナス)

(2) 初期費用とエネルギーコストの削減分
・初期費用の大小の議論だけでなく、初期の投資によるエネルギーコストの削減分も勘案すべき

(※以下の例は、政府も推奨している電球形蛍光灯ですが、初期費用は高いが、そのおかげでエネルギーコストが大きく削減できるから切り替えを呼びかけている。同じことではないでしょうか、と申し上げました)

白熱電球(54W、寿命1,000時間) 電球形蛍光灯(10W、寿命10,000時間)
初期費用 100円 1,050円
毎月の電気代 214円 40円
2ヵ月目までの合計 528円 1,129円
6ヵ月目までの合計 1,483円 1,288円
54ヵ月目までの合計 12,547円 3,188円
(1日6時間点灯、1ヵ月30日、電気代:0.022円/Whとして、少数点以下四捨五入)

(3) コストを考える際の視点
・追加分のコストはいくらか(どのみち設備の更新はする)
・それによってエネルギーコストはどのくらい減るか
・やらなかったときのコストはどうなるか

(4) 初期費用・投資は雇用や産業振興につながる
・目標が高いほど、現状からの変化が大きいので、コストが高くなるのは当然
・初期費用が高くつくからといって投資をしなければ、国内市場は小さくなり、雇用、産業創出、国際競争力が損なわれる。どのようにお金を動かすかを考えるべきで、お金が動くことを恐れるべきではない。「安物買いの銭失い」になってはならない

(5) 世界が注目する日本の中期目標の検討
・世界的にも日本の中期目標は大きな注目を集めている。
・国際的な議論(IPCCなど)では、中期の目標として25〜40%という数字が出ている
・40%はおそらく無理だろうと最初からシナリオから外すと、「日本は検討もしなかった」というシグナルを世界に送ることになる
・40%削減がさまざまな負担増につながるとしても、国民の自覚を促し、気を引き締めるうえで、シナリオとして出すことは効果的
・また、そもそもの選択肢にもならないあまりにも恥ずかしいシナリオ(削減どころか増加など)は外すべき

<3> 全体として
・そもそもどのような日本にしたいのか(エネルギー、食糧、人やモノの移動)、「日本は何で稼いでいくのか」という全体像を念頭に政治的判断をする作業
・英国は排出量取引などに伴う金融で、ドイツやデンマークは自然エネルギー関連などの産業で、国際競争を生きていく考え
・「日本には技術がある」を「技術を売る」に変えていく必要がある。温暖化を上手に商売に利用するぐらいの考えがあってもよい
・EU:「気候変動対策のための官民投資は温暖化、エネルギーや安全保障、現在の金融危機に同時に対処するチャンスでもある」
・初期投資を避けるのではなく、負担に関する議論を進めるべき
・国民の広い議論をいかに進め、巻き込んでいくか

総理や政府は誰に対して責任を負っているのか
・現世代は、現状維持を望み、変えたくない人や産業が多い
・その中で、未来世代と現世代の世代間倫理をいかに打ち立てるか
・これこそが総理のリーダーシップであり、決断である


<*> 低炭素社会づくり(再生可能エネルギー導入)の負担について

(1) 日本の再生可能エネルギー導入量/目標値は諸外国に比べ大変低い
・日本のエネルギーに占める再生可能エネルギー(大規模水力除く)の割合は約2%
・日本の再生可能エネルギーについての唯一の制度であるRPS法で定める義務量は、2014年に電力の1.6%だけ

(2) 世界は大きく先へ進んでいる
・EUの目標:2010年に電力の21%
・アメリカの目標:2025年に25%
・オバマ大統領の「グリーン・ニューディール」:風力や太陽発電への積極的な投資

(3) 世界は固定価格買取制度(FIT)へ
・世界で最も使われている再生可能エネルギー拡大のための手法
・太陽光発電などの発電電力を電力会社が高値で買い取り、そのコスト増分を電力の消費者が薄く広く負担する制度。ドイツなど世界37カ国以上で導入。10年程度で元がとれるので、導入や投資が進む
・ドイツ:太陽光パネルの生産量世界No.1の企業が誕生

(4) 日本は?
・2005年の補助金打ち切り後、太陽光発電の設置量がどんどん減少
・世界的に大きな市場が生まれる太陽光パネルの分野でも劣勢に?
・日本には、爆発的導入につながる仕組みがまだない

(5) 提言(低炭素社会構築に向けた再生可能エネルギー普及方策検討会)
・10年でもとがとれる価格での固定価格買取制度(FIT)を日本にも導入
・10年でもとがとれ、それ以降は“儲かる”仕組みがあれば、太陽光発電を設置する人は爆発的に増える。
・15年間の買取保証を中心とすることで、2020年までに3700万kW(現状の25倍)、2030年までに7400万kW(現状の55倍)の太陽光発電を国内に導入できる。
・コストも下がり、輸出も増え、エネルギー自給率の向上やGDP増加にもつながる
・現在は一戸建ての約90軒に1軒が太陽光パネルを設置しているが、2020年には
7軒に2軒、2030年には3軒に1軒が設置するイメージ

(6) コストと負担
・コストは2030年までの累積で25兆円(太陽光発電だけでなく、全再生可能エネルギーについて同様の対策をとった場合)、経済的メリットは58〜64兆円、CO2削減量は1990年水準の8%に。
・電気代は標準世帯で月平均260円アップ
・日常生活に最低限必要な使用量(毎月120kWh程度)には上乗せしないなどの低所得者層への手当や、構造として電力を多く使う産業への減免措置も含まれている

(以上)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

福田前首相のときには、懇談会の会合時間は最低でも60分、多くは90分あり、洞爺湖で開催したときは120分もありましたから、2巡以上発言でき、議論ができましたが、麻生総理になってからは、前回は45分、今回は30分しかありません。

新聞を見ると、この会合で中期目標に関する6案が了承され、それがシナリオ検討のオプションに決まったかのように書いてありますが、実際には、福井委員(中期目標検討委員会の座長)から6案の説明があった後、委員が2分厳守で順番にコメント。環境大臣、経産大臣、外務大臣のコメントの後、首相がコメントを読み上げておしまいでした。「議論」もありませんでしたし、あれが「了承」になるの?とびっくりしました。

いまの6案には「削減どころか増加」のシナリオも入っているのですよねー。検討のための検討だと言うのでしょうけど、それだったら「到底むり」と外した40%削減だって入れるべきではないか。検討のオプションを眺めるだけでも、日本のスタンスや考え方が伝わるものです。世界にどう見られるのかを、考えているのかなあ?と思ってしまいます。

麻生総理は「中期目標は国民に受け入れられる必要がある」ということを強調していたので、「国民は何を求めているか」をきちんと伝えていくこと。そのためにどうしたらよいか、、、考えているところです。

それから、私の資料の最後に載せた「低炭素社会づくり(再生可能エネルギー導入)の負担について」は、2月10日に環境省の「低炭素社会構築に向けた再生可能エネルギー普及方策検討会」が出した提言の要旨をまとめたものです。
http://www.env.go.jp/earth/ondanka/conf_re-lcs/rcm.html

日本でもようやく固定価格買取制度の議論が始まりました。待っていました〜!ですね。国民が広く薄く負担する(標準世帯で月290円ほど)ことで、太陽光発電などの自然エネルギーを大きく普及していこうという制度です。早く制度化してもらえるよう、応援していきましょう!

 

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