ホーム > 環境メールニュース > 「あの人の温暖化論考」〜スバンテ・ブデイン氏「温室効果ガスの排出と経済成長の連動...

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2009年01月11日

「あの人の温暖化論考」〜スバンテ・ブデイン氏「温室効果ガスの排出と経済成長の連動は、止めることができる〜スウェーデンの成功事例から」(2009.01.11)

 

日刊温暖化新聞のニュース、元旦から元気よくアップを続けています。
http://daily-ondanka.com/news/index.html

ちょうど1ヵ月まえに、

> 持続可能な形でこの「日刊 温暖化新聞」を運営していくとともに、企
> 業の取り組みを一般の方々にも広く伝え、「本当に企業が考えるべきこと」を一
> 緒に考えながら取り組んでいこうと、「企業・団体パートナー」の募集を始めま
> した。
> http://daily-ondanka.com/partnership/index.html

とご案内しました。100社・団体ほどが参加して下さると、ウェブサイトの運営は持続可能になると思っています。現在40社・団体ほどが参加を決めて下さって、取り組みの情報掲載をはじめています。
http://daily-ondanka.com/partnership/partner_list.html

この企業・団体パートナーは、単にウェブでの情報発信だけではなく、「本当に必要な温暖化対策は何か」「それをどう進めたらよいのか」「温暖化リスクをいかにチャンスに変えていくことができるか」、そして「どのように伝えたらよいのか」という環境コミュニケーションについても、2ヵ月に1回程度のセミナーや勉強会で学びつつ、いっしょに考え、取り組んでいくグループとして活動していこうと考えています。

その第1弾として、今月、温暖化の研究者といっしょに「企業にとっての温暖化リスク分析」のセミナーを、パートナー企業・団体限定で開催し、温暖化が進行したら、自社の事業領域にどのようなリスクが出てくる可能性があるのかを「温暖化リスク評価マトリックス」を用いて評価し、その予防や対策はどのように可能かを考えていきます。

なぜこのようなセミナーを開催するのか、私の問題意識をお伝えしたいと思い、企業・団体パートナーへのご案内を、ご参考まで載せます。(申し訳ありませんが、上記の趣旨から、参加は企業・団体パートナーに限定していますこと、ご了承下さい。企業・団体パートナーについてはこちらをごらんください。
http://daily-ondanka.com/partnership/partner.html )

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

【「日刊 温暖化新聞」企業の温暖化リスクセミナー】

現在、企業にとって「温暖化」といえば「イコール 削減」、つまりどうやってCO2を減らすか、ということになります。

もちろん、これは大事な取り組みです。企業が事業活動をすることで温暖化を悪化させてしまう。この悪影響を減らすにはどうしたらいいか、ということです。

しかし、残念ながら温暖化はもう始まってしまっています。とすると、企業にはもうひとつ考え、手を打つべきことがあります。温暖化が進むと自分の企業やビジネスはどのような影響を受けるのか? それに備えるためには、どのような手を打つ必要があるのか? ということです。

こちらも同時に考えなくてはいけません。「どうやってCO2を減らすか」だけではなく、「温暖化に対してどうやって備えるか」も考えないと、ビジネスリスクを回避できないのです。

企業にとっての温暖化リスクには、さまざまなものがあります。たとえば、新しく工場を建てるとしましょう。立地責任者が温暖化リスクを勘案せずに場所を選んでしまうと、数十年後に工場が倒れてしまうかもしれません。
 
温暖化研究者の研究によると、温暖化の進行によって、海水面が上昇しています。それに異常な降雨があわさると、地下水位がさらに上昇します。地下水位が上昇している場所で地震が起こると、液状化を起こす可能性が大きくなります。液状化を起こしやすい場所に、工場を建てたくはないものです。

ほかにも、温暖化のもたらす影響やリスクにはさまざまなものがあります。自社やビジネスにどのような影響を与える可能性があるか、備えるために何を考えるべきか--今回、企業にとっての温暖化リスクを考えるための枠組みを提案します。国立環境研究所の研究者とともに、自社の「温暖化への適応策」を考えてみませんか。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

これは「企業にとっての温暖化リスクと適応策」を考えるものですが、今後、一般の人々(私たちひとりひとり)にとっての「温暖化のもたらす可能性のあるリスクと、それへの備え」についても、考え、まとめ、発信していきたいと思っています。

さて、日刊温暖化新聞の「あの人の温暖化論考」から、昨年8月にアップされたスウェーデンの事例をご紹介します。日本では増え続けている「家庭部門の排出量」をどうやって大きく減らしたのでしょうか? どうやって「脱化石燃料」を実現できたのでしょうか? ぜひお読み下さい〜。
http://daily-ondanka.com/thoughts/sbd_01.html

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

温室効果ガスの排出と経済成長の連動は、止めることができる。
〜スウェーデンの成功事例から〜

スバンテ・ブデイン氏(スウェーデン環境省地球温暖化局 局長)

○GDPと温室効果ガス排出量のデカップリングに成功したスウェーデン

1990年から2006年にかけてスウェーデンの温室効果ガスの排出量は8.7%減少し、一方でGDPは44%増加しています。経済成長を遂げつつ、気候変動と戦う――これを同時に行うことは可能なのです。

1990年からの5年間は、基本的な気候変動対策が取られていたにもかかわらず、GDPと温室効果ガス排出量は連動していました。デカップリングが明確に起こったのは1996年以降です。

1990年以降の排出量を部門別にみると、住宅・サービス部門が排出量の最も減りました。家庭での暖房が高効率化できたということです。また、廃棄物部門も確実に下がっており、廃棄物の埋立地から発生するメタンの発生削減に成功したことがわかります。最大の排出は輸送で、1990年以降ずっと排出量が増えています。製造業並びに産業プロセスの排出量はほぼ横ばいです。産業は同期間に急成長を遂げていますから、これ自体がデカップリングを証明しています。

○家庭暖房用エネルギーを石油からバイオマス燃料へ

1970年当時、エネルギー総使用量の過半数は家庭が消費していました。スウェーデンではほとんどの家庭で地域暖房を使っていますので、地域暖房用のエネルギーを見ると、1980年まではほとんど100%が石油でした。その後多様化が進み、現在ではバイオマス燃料が大部分を担っています。現在バイオ燃料がエネルギー全体に占める割合は約37%になっていますが、この原動力は主に暖房部門なのです。

主なバイオ燃料である木材チップや木質ペレットは、根や枝など林業の不要物からつくられます。こうすることで、木を100%活用することができ、エネルギー回収ができます。

○経済の流れを変えた3つの手法(1)「Green Tax Shift」という税制の概念

スウェーデンでも何年か前までは化石燃料が支配的でした。これを大きく変えた主な手段は経済的手段です。最も重要な役割を果たしているのはエネルギー税、炭素税です。炭素税は、スウェーデンで使われている大きな概念「Green Tax Shift」の現れの一つです。

好ましくない行動やサービスに対しては少し高めの税額をかけ、経済成長に欠かせないような税率は下げます。例えば、所得税や法人税は下げられています。1991年の全体的な税制改革で、このようにさまざまな税率を組み合わせることでバランスをとりました。

1991年に炭素税が導入されました。実際に排出されるCO2の量ではなく、これだけ燃料を使うとどれだけCO2が排出されるのかという考えで、使われる燃料に対して課せられます。現在の値は1tあたり日本円で1万7,500円です。1991年当時は4,375円でしたので、4倍ほどに上がっています。

例えば、現在1Lのガソリン価格が約230円です。そのうち111円がエネルギー関連の税金ですが、これは(エネルギー税+炭素税)にさらに25%の付加価値税が乗ったものです。炭素税は指標によってコントロールされており、暖房や車両燃料に関する税率は上がってきています。

●家庭、サービス分野のエネルギー税100%、炭素税100%
●国際競争にさらされる産業界、農業などはエネルギー税0%、炭素税21%

ここで重要な点があります。炭素税は二段構えの税率になっているのです。一般家庭やサービス業に関しては高い税率が、産業界、農業、コジェネなど国際競争にさらされている部門には低めの税率です。

暖房に関する税率を見てみましょう。家庭、サービス分野、地域暖房に関してはエネルギー税が100%、炭素税も100%です。一方、国際競争にさらされている産業界――農業、コジェネ分野では、エネルギー税は0%、炭素税は最大で21%です。

さらに、産業界や農業の総売り上げの0.8%を炭素税が超えてしまう場合には、炭素税はさらに引き下げられます。この0.8%ルールは、エネルギー集約型産業にとっての一つの安全弁で、炭素税導入当時から設けられています。

このような仕組みの炭素税を数年間課してきた結果はどうなったか? 極めて明確な結果が出ています。計算によると、炭素税導入前の1990年レベルの税率のままだったとしたら、今日の二酸化炭素の排出量は現在のレベルより20%高かったことになります。

○経済の流れを変えた3つの手法(2)グリーン電力認証制度

「グリーン電力認証制度」(新エネRPS法)はスウェーデンでの経済的手段の中でも新しいものです。目標は2016年までには再生可能なエネルギーのシェアを17TWhまで引き上げることです。

電力システムに再生可能エネルギーを導入するためのスキームには、ドイツなどがやっている固定価格買取制度もありますが、私たちは市場のメカニズムを用いたコスト効果の高いスキームが好きなので、電力認証制度を取り入れています。固定価格買取制度はそれぞれの国の中で行う制度ですが、電力認証は取引によって国を超えた大きな市場をつくることもできます。

○経済の流れを変えた3つの手法(3)EUの排出量取引制度

重要な3番目の経済的手段が、EUの排出量取引制度です。この制度も市場メカニズムに基づいたものです。これからEUの全加盟国が排出量取引制度に組み込まれていきます。現在スウェーデンの排出量の30%はこの排出量取引制度の中に組み込まれており、2012年以降は50%以上がこの排出量取引制度に含まれることになるでしょう。

この制度では、まず排出枠が割り当てられます。それで十分でなければ、追加分は購入しなければなりません。逆に余ったら売ることができます。京都議定書のクリーン開発メカニズムや共同実施のメカニズムを活用することもできます。全排出量に対してキャップ(上限)を課す考え方で、その上限を減らしていきます。

2005年から07年に試行期間が置かれ、現在は京都議定書の約束期間と重なる第二フェーズにあります。欧州委員会が承認した国別割り当て計画に基づいて各国に対する排出枠が割り当てられ、それをそれぞれの事業所等に割り当てます。2012年以降のETSについては、新しい指令がすでに提案され、現在EUの欧州理事会で協議中です。

EUはすでに、1990年を基準年として20%温室効果ガスの排出量を削減することを表明しています。2005年比14%の削減になります。新しいETSでこのほとんどがカバーされます。ETSの仕組みの中で取引できる事業所が21%減、輸送部門等まだETSの仕組みに参加しない事業所が10%という割り当てで14%削減することになっています。

○気候変動は国が取り組むべき、最優先の課題

京都議定書ではヨーロッパの目標は8%減に対し、スウェーデンは4%増という分担でした。しかし、スウェーデン議会では、森林吸収をカウントせず、排出量取引などの柔軟性措置を使わずに「2010年までに4%減らす」という目標を立てました。EUで20%減という目標を達成すべきであれば、スウェーデンとしては2020年までにおよそ25%の削減が必要です。しかし、そのためにはさまざまな政策があります。

例えば、第二世代の車両用バイオ燃料に関するパイロットプロジェクトをサポートしていますし、食品産業や木材産業の材料とバイオ燃料のための材料との取り合いをいかに軽減していくかという研究も行っています。持続可能な都市というプログラムも立ち上げています。

新しい気候法案が今年9月に議会に提出されます。現在の気候変動法案は、前のスウェーデンの連立政権がつくったものです。新しい政府を率いるフレデリック・ラインフェルト首相は、気候変動について非常に強いコミットメントを示しており、気候変動は国にとって最優先の課題となっています。2009年秋からはスウェーデンがEUの議長国を務めることになります。ちょうどポスト京都議定書に関するさまざまな協定が最終段階を迎える時期です。

そのような状況の中、現政権は気候変動対策の見直しを行い、新しい法案を今年9月に上程します。ここでは、2020年ならびに2050年をめどに新たな全体的な目標と排出量削減の目標を設定し、その達成に必要な追加的な政策や施策も含まれます。また初めて気候変動への「適応」にも言及しています。

○2020年には1990年比で38%の削減が達成可能

スウェーデンでは、導入している政策手段は着実にプラスの効果を上げつつあります。こういった努力の結果として、温室効果ガスの排出と経済成長のデカップリングに成功したことは大変うれしいことです。国民一人あたりの排出量は、スウェーデンでは6tという低い値です。中国が5.6tです。

こういったよい結果は出ていますが、新たな長期目標をきちんと達成していくためには、大局的な方策をさらに追加していくことが必要です。今春政府に提出された報告書では、スウェーデンは追加的な措置を取った場合、1990年比で2020年には38%の削減が可能だと謳われています。しかも、「このような削減は経済的な成長を阻害せずに達成できる」と述べられているのです。


スバンテ・ブデイン
スウェーデン環境省地球温暖化局 局長

1979年ストックホルム大学にて気象学博士号を取得。同大准教授、スウェーデン気象水文研究所(SMHI)勤務を経て1989年環境省入省。オゾン層保護に関するウィーン条約およびモントリオール議定書、長距離越境大気汚染条約(LRTAP)など数々の国際条約や、欧州連合(EU)内の気候変動や大気汚染、水問題などの分野の交渉にスウェーデン代表として携わる。2007年より現職、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)などの交渉を担当。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「スウェーデンでは、導入している政策手段は着実にプラスの効果を上げつつあります。こういった努力の結果として、温室効果ガスの排出と経済成長のデカップリングに成功したことは大変うれしいことです」。

--早く日本でも、「導入している政策手段は着実にプラスの効果を上げ、温室効果ガスの排出量は減りつつあります」と言える日がくることを祈りつつ、「そのために自分ができること」をがんばっていきましょう!

(そして、そのひとつとして、「日刊温暖化新聞」をサポートしよう!と思って下さったら、個人サポーターはこちらです〜。どうぞよろしくお願いいたします。
http://daily-ondanka.com/partnership/supporter.html )

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ