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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年10月05日

環境モデル都市の選定結果〜レスター・ブラウン氏より「都市交通を再設計する」(2008.10.05)

新しいあり方へ
 

ときどき聞かれるのですが、福田総理が立ち上げられた「地球温暖化問題に関する懇談会」は、総理が替わっても続いております〜。

先日も、この秋にはじめる国内排出量取引について議論する「政策手法分科会」が開催されました。残念ながら、日程が私の出張中だったため、メモの提出のみで、議論には参加できず、残念でした。(この日は、私だけではなく、末吉さんや植田先生も参加できない日だったようです、、、)

もうひとつの「環境モデル都市・低炭素社会づくり分科会」も続いています。
議事要旨などはこちらにあります。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/index.html

第2回での自分の発言は、まえにメールニュースでお届けしましたが、こちらにアップしています。
http://www.es-inc.jp/lib/archives/080423_072322.html

7月22日に6つの「環境モデル都市」が発表されました。
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/dai04kankyo/04kekka.pdf

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

環境モデル都市のの選定結果について
                     内閣官房 地域活性化統合事務局

標記については、総理大臣が有識者の参集を求めて開催する「地球温暖化問題に関する懇談会(座長:奥田碩 トヨタ自動車株式会社取締役相談役、内閣特別顧問)」の下に設けられた「環境モデル都市・低炭素社会づくり分科会(座長:村上周三慶應義塾大学教授)」の助言を得て、全国82件の提案の中から、提案内容が5つの選定基準 (①大幅な削減目標、②先導性・モデル性、③地域適応性、④実現可能性、⑤持続性) を満たす下記6団体を「環境モデル都市」として選定することとした。

大都市
: 横浜市、北九州市

地方中心都市
: 帯広市、富山市

小規模市町村
: 下川町(北海道)、水俣市

また、いくつかの基準で課題があるもののアクションプランの策定過程で解決し、基準を満たし得る下記7団体を追加選定の候補(「環境モデル候補都市」)とし、アクションプランの検討状況を見つつ改めて選定を行うこととした。

大都市
: 京都市、堺市

地方中心都市
: 飯田市、豊田市

小規模市町村
: 檮原町(高知県)、宮古島市

東京特別区
: 千代田区

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

また進捗をお伝えしていきたいと思っています。

私も環境モデル都市の選定に関わったわけですが、82都市からの応募書類を読みながら、自分の中では3つの軸がより明確になってきました。

「エネルギー」「交通」「行動変容を促すしくみづくり」の3つが持続可能な都市(または都市の温暖化対策)を考えるうえでの重要なポイントで、ひとつでも欠けていると「足りない」、ということです。

都市の機能を維持するための電力やガス、人やモノの移動のためのエネルギーをどのエネルギー源からどのように供給するのか、人の移動をどのような手段で提供するのか、行動を変えてもらう必要のある対象者(工業地帯なら企業でしょうし、横浜市のように市民の排出が多い都市なら市民)に対し、単なる呼びかけや意識啓発ではなく、が行動を変えたくなるような、または変えざるを得なくなるような「しくみ」をどう作るのか、ということです。

ちょうどこの「交通」にあたる部分の参考になる文章があります。 スター・ブラウン氏のアースポリシー研究所から届いた『プランB3.0――人類文明を救うために――』より「都市交通を再設計する」を、実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

都市交通を再設計する
http://www.earth-policy.org/Books/Seg/PB3ch10_ss3.htm

レスター・R・ブラウン

世界の都市は今、前例のない問題に直面している。メキシコ市、テヘラン、コルカタ、バンコク、上海、そのほか何百もの都市の空気は、もはや安全に呼吸できる状態ではない。呼吸器疾患も蔓延している。米国では、車での通勤者が市街地や幹線道路で渋滞に巻き込まれ、イライラしながら車中で過ごす時間が年々長くなる一方だ。

こうした状況に対応するために、先進的な考えで都市計画に携わる人々が、車ではなく人間のことを考えて都市を再設計する方法を模索している。そんな彼らにまず分かってきたことがある。鉄道やバスの路線、自転車用道路、それに歩道の組み合わせで成り立つ都市交通システムは、移動能力や低コストでの輸送手段、健康的な都市環境をもたらす上で、最高に優れたしくみであるということだ。

鉄道網は、都市交通システムの基盤となりうる。地下であろうと地上であろうと、線路は土地に固定されたものであり、人々にとっていつまでも頼りになる移動手段を提供してくれる。このような交通システム上の結節点(複数あるいは異種の交通手段の接続地点)は、一度整備されれば、あとは言うまでもなく、オフィスビルや高層アパート、店舗などが集中する場所になる。

最も革新的といえる公共交通システムもある。膨大な数の人々の移動手段を車からバスに切り替えたしくみで、ブラジルのクリチバとコロンビアのボゴタで発達しているものだ。トランスミレニオ(TransMilenio)と呼ばれるボゴタのバス高速輸送(BRT)システムでは、バスが専用の高速レーンを走行し、利用者は街の中を短時間で移動できる。

このBRTシステムは成功を収め、ボゴタ以外のコロンビアの6都市のほか、メキシコ市やサンパウロ、ハノイ、ソウル、台北、キト(エクアドルの首都)、アフリカの数都市などで導入されている。中国では北京など20都市でBRTシステムの開発が進み、さらに先進国でも、オタワ、トロント、ミネアポリス、ラスベガスなどの都市が、そして誰もにとって非常にうれしいことにロサンジェルスもBRTシステムを開始しているか、検討中だ。

また、市街地に乗り入れる車に料金を課し、交通渋滞と大気汚染が緩和された都市もある。シンガポール、ロンドン、ストックホルム、ミラノなどがその例だ。2003年、ロンドンでは、午前7時から午後6時半の間に街の中心部に乗り入れるすべての車の運転手に対し、5ポンド(約1,060円)の支払いを義務付ける制度を導入したところ、即座に自動車の交通量が減った。

その後1年も経たないうちに、バスの利用者数は38%増加し、運行の遅れも30%緩和された。2005年7月、料金は8ポンド(約1,700円)に引き上げられたが、全体的に見ると、この渋滞税が導入されて以来、市街地に入る車と小型タクシーが36%減少し、自転車は50%増加した。

フランスでは、2001年にパリ市長に選出されたベルトラン・ドラノエ氏が、欧州の中でも最悪の部類に入るといわれるパリの交通渋滞と大気汚染の問題に直面し、「2020年までに交通量を40%削減する」と決意した。まず取り組んだのは、パリ首都圏地域の住民すべてが質の高い公共交通機関を確実に利用できるよう、パリ中心部から離れた地域の交通システムの改善に予算を投入することだった。

次に、大通りにバス専用レーンと自転車専用レーンを整備し、自動車用レーンの数を減らした。さらに、2007年末までにパリ市内1,450カ所にレンタル自転車置き場を設置し、市民が2万600台の自転車を利用できるというレンタル自転車事業を確立した。安く設定された1日、月間、あるいは年間のレンタル料をクレジットカードで支払うだけで自転車を借りられるため、レンタル自転車は大好評だ。今のところ、ドラノエ市長は「交通量40%削減」の目標達成に向かい順調に進んでいる。

多様な都市交通システムの開発で欧州にかなり遅れをとっている米国では、「道路を自動車だけでなく歩行者や自転車にも優しいものにしよう」と訴える、「完ぺきな道(コンプリート・ストリート)」という動きが広がっている。同国では歩道や自転車用レーンが十分整備されていない地域が多いため、歩行者や自転車利用者が安全に通行するのが難しく、特に交通量の多い道路ではそれがひどい状況なのだ。

天然資源保護協議会(NRDC)や全米退職者協会(AARP:3,800万人の高齢者が会員の団体)、地方や全国規模のサイクリング団体などの市民団体で構成される強力な組織「全米『完ぺきな道』同盟
(National Complete StreetsCoalition)」は、現行の「自動車専用モデル」を問題として提起している。

この同盟は「完ぺきな道」政策を実現するために積極的にロビー活動を展開しており、同政策は今日、14の州と40の大都市圏・市・郡で実際に実施されている。2008年の初めには、アイオワ州選出のトム・ハーキン上院議員とカリフォルニア州選出のドリス・マツイ下院議員がそれぞれ、全米で適用される「完ぺきな道」法案を連邦議会に提出した。

都市交通システムが十分に発達し、自転車のためのインフラが充実している国は、世界的に石油生産量が減少しても、移動の選択肢が自動車しかない国に比べ、ずっとその重圧に持ちこたえやすい状況にある。徒歩や自転車で利用できる道が十分そろっていれば、自動車による移動回数を簡単に10〜20%減らせるのだ。

自転車には魅力的な点が多い。交通渋滞は緩和され、大気汚染は少なくなり、肥満も減る。気候を乱す二酸化炭素も排出しないし、舗装する面積も少なくて済む。そしてその価格は、自動車を買えない数十億の人々にも手の届く範囲にある。

また短距離の移動に車ではなく自転車を使うことほど、効果的に炭素排出量を減らす方法はあまりない。自転車は、工学的に見て驚くほど効率が良いのだ。金属とゴムでできた約10キロの製品を買えば、個人の移動能力は3倍に跳ね上がる。私の自転車なら、ジャガイモ1個を食べたエネルギーで優に11キロは移動できるだろう。一方自動車は、1人の人間を運ぶために少なくとも1トンの物質が必要で、極めて効率が悪い。

自転車がいかに低所得層に移動能力をもたらす力を持っているかは、中国の例を見れば明らかだ。1978年の改革により市場経済が開放され、所得水準が急速に向上すると、自転車の生産、所有台数が上昇し始めた。中国では1978年以降自転車所有者が5億人に急増したことにより、人間の移動能力がかつてないほど拡大したのだ。

多くの都市で、自転車がさまざまな用途に活用されるようになってきた。米国は現在、人口5万人以上の地域を管轄する警察署の約75%が毎日のパトロールに自転車を利用している。自転車による配達サービスは、世界中の大都市で普及している。小さい荷物を届けるには車より速く、コストもかからないという単純な理由からだ。

自転車の潜在能力を活かす上で重要なのは、自転車に優しい交通システムを構築すること、つまり自転車専用道を造り、さらに車道には自転車用レーンを設けることだ。これをすでに導入している先進国には、オランダ、デンマーク、ドイツがある。オランダでは、自転車の役割に関する展望を自転車基本計画に盛り込んでおり、すべての都市に自転車専用道や自転車用レーンを整備するだけではなく、多くの場合自転車は通行の際や信号で車に優先される。都市部の移動に占める自転車の割合は、米国が1%であるのに対し、オランダは約30%に上る。

オランダも日本も、自転車利用と電車通勤を結びつけるために関係者が一丸となって取り組んできた。駅に駐輪場を設置して、自転車利用者が電車で通勤しやすいようにしたのだ。日本では、電車通勤のために駅まで自転車を利用する人の数があまりにも多くなったため、立体駐車場ならぬ立体駐輪場を設置した駅もある。

鉄道と自転車を組み合わせること、特にそれを一つの総合的な交通システムに組み入れることにより都市は、自家用車以外に頼れる移動手段がほとんどない場合より格段に住みやすくなる。騒音、環境汚染、渋滞、イライラがすべて軽減され、人間も地球も、もっと健康になるのだ。

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出典:レスター・R・ブラウン著、『プランB3.0:人類文明を救うために』
(Plan B 3.0: Mobilizing to Save Civilization)第10章「持続可能でウェルビーイングな都市を設計する」2008年、W.W.ノートン社(ニューヨーク)より刊行。www.earthpolicy.org/Books/PB2/index.htmにて無料ダウンロード及び購入可。

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アースポリシー研究所
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Washington, DC 20036
ウェブサイト:www.earthpolicy.org

(翻訳:荒木由起子、丹下陽子、山田はるみ)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

日本の地域公共交通機関や自転車促進について、少し調べてみました。
次号をお楽しみに!

 

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