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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年09月13日

レスター・ブラウン氏「食糧事情最前線-世界が直面する新しい難題-「これまでのやり方」ではもはや通用しない」(2008.09.13)

食と生活
 

4月にレスター・ブラウン氏のアースポリシー研究所から届いた「プランB アップデート」を、実践和訳チームが訳してくれましたので、お届けします。日本でもひしひしと感じつつある問題の「構造」を理解し、根本的な対策を打っていく必要があります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

食糧事情最前線--世界が直面する新しい難題--
「これまでのやり方」ではもはや通用しない
http://www.earthpolicy.org/Updates/2008/Update72.htm

レスター・R・ブラウン

急速に進む食糧不足が、食糧価格を記録的な高値に押し上げながら世界全体を覆い尽くそうとしている。過去半世紀の間、穀物価格の高騰は、時に気候関連の事象によって引き起こされてきた。1972年にソビエトで起きた農作物の不作が世界の小麦、コメ、トウモロコシの価格を2倍に引き上げたのは、その一例である。

しかしながら、今日の状況はまったく違う。現在、穀物価格が2倍に跳ね上がっているのは世界の流れによるもので、「需要の増加を加速させる動き」と「供給の伸びを減速させている動き」がいくつか重なって起こっているのだ。

世界はこれまでに、このような状況を経験したことがない。上昇する食糧価格と広がる飢餓に直面して、社会秩序が崩壊し始めている国々もある。例えば、タイでは、いくつかの地方で、家畜泥棒が収穫を待つ田んぼから夜中にコメを盗んでいる。こうした事態を受けて、自宅から離れたところに水田を持つタイの村民は、夜間に実弾入りの散弾銃を携えて収穫時期のコメを守っているという。

スーダンでは、国連世界食糧計画(WFP)がダルフール難民キャンプで暮らす200万人への穀物供給を担っているのだが、控えめに言っても、その任務は困難に直面している。今年に入って3カ月の間に、穀物を輸送するトラック56台が乗っ取られたのだ。これまでのところ、戻ってきたトラックは20台にすぎず、およそ24人の運転手がいまだに行方不明である。国連によるダルフールへの食糧供給は、この脅威のために半減しており、供給ラインが確保できなくなれば飢餓が起きるのではないかという不安が広がっている。

小麦価格が2倍になったパキスタンでは、不安定な食糧事情に国中が不安を感じている。何千人もの武装した兵士が、大型穀物倉庫の警備や穀物の輸送トラックに同行する任務に当たっている。

食糧をめぐる暴動は今や、日常的になりつつある。エジプトでは、国の補助を受けた安価なパンを販売する店で、行列客が争う光景が頻繁に見られる。モロッコでは暴動を起こした34人が投獄され、イエメンでは暴動が激化し、少なくとも12人の命が奪われた。カメルーンでも多数の人々が死亡しており、逮捕者は何百人にも及ぶ。ほかに、食糧暴動が起きている国には、エチオピア、ハイチ、インドネシア、メキシコ、フィリピン、セネガルなどがある。(食糧価格がもたらした社会不安を表す事例は
www.earthpolicy.org/Updates/2008/Update72_data.htm を参照のこと)

世界の小麦、コメ、トウモロコシ価格が2倍になったため、食糧援助が急激に困難になり、WFPの緊急支援に頼る37カ国は危機にさらされている。今年3月、WFPは5億ドルの追加出資を緊急要請した。

世界中で、食糧不足がにわかに政治問題の様相を呈している。もっとも根本的な問題の一つは、自国での食糧価格の高騰を抑えたい国々が、穀物の輸出規制を行っていることだ。現在、政府が小麦の輸出を規制している国は、ロシア、ウクライナ、アルゼンチンなどである。コメの輸出規制を行っているのは、ベトナム、カンボジア、エジプトだ。こうした輸出規制は、当然ながら世界の食糧市場での価格高騰を招くことになる。

世界は今、慢性的な食糧供給の逼迫に直面しているが、それはいくつもの根強い動向があいまって引き起こされているもので、そうした動向は世界の食糧の需要と供給の双方に影響を与えている。需要に影響する動向としては、毎年7,000万人ずつ増え続ける世界人口や、およそ40億人が食物連鎖の階段を上り、多くの穀物を必要とする畜産物をもっと消費したいと望んでいること、さらに自動車燃料用エタノール生産のため、近ごろ米国で穀物需要が急増していることが挙げられる。2005年以来、このエタノールへの転換による需要が増えたため、世界の年間穀物消費量がおよそ2,000万トンから5,000万トンに増加している。

一方、供給側としては、アマゾン川、コンゴ川流域やインドネシアの熱帯雨林、あるいはブラジルのセラード、すなわちアマゾン熱帯雨林の南に位置するサバンナ地帯を開発しない限り、新たに耕作できる土地はほとんどない。あいにく、こうした土地を開墾するには、隔離された炭素の排出、動植物の喪失、降雨流出や土壌浸食といった、莫大な環境負荷がかかる。さらに、産業施設や住宅の建設、あるいは急成長する車社会を支える道路や駐車場の建設で、貴重な耕作地が失われつつある国も多い。

耕作地よりもさらに不足しているのが灌漑用の新たな水源だ。世界の灌漑地は、1950年の9,400万ヘクタールから2000年の2億7,600万ヘクタールへと、20世紀後半に3倍近く拡大した。以来ここ数年は、多少拡大しているとしてもごくわずかにすぎない。結果的に、一人当たりの灌漑地面積は、毎年1%ずつ縮小していることになる。

一方で、耕作地の生産性を高める農業技術の開発はほとんど頭打ちである。1950年から1990年にかけて、世界中の農家は穀倉地帯の生産性を毎年2.1%向上させたが、1990年から2007年の間、この成長率は1.2%に留まっている。さらに、原油高のため、食糧の生産費用と輸送費用の双方が引き上げられると同時に、穀物を食用から自動車燃料用に転換する方が利益が多くなるという状況を招いている。

こうしたこと以上に、気候変動が新たなリスクをもたらしている。農作物が枯れるほどの熱波や、さらに破壊力を増した暴風雨、アジアで乾期に主要河川の流量を維持してきた山岳地帯の氷河の融解が重なって、収穫量の拡大は一段と難しくなっている。これまでは異常気象による悪影響は一時的なもので、1、2年のうちには平年並みに戻っていた。しかし気候が常に不安定になり、戻るべき基準がなくなってしまったのだ。

このような動向が重なって、農家が需要の拡大に対応するのはますます困難になってきている。過去8年間のうち7年は、穀物の消費量が生産量を上回っている。この7年間で在庫は取り崩され、2008年における世界の穀物繰越在庫量は、全世界の消費量の55日分にまで落ち込み、記録的な低水準となった。

その結果、食糧の供給が逼迫する新時代に突入し、食糧価格が高騰し、政治不安を招いている。穀物在庫量が史上最低のレベルなので、一度でも凶作が起これば、世界の穀物市場は全面的に混乱しかねない状況である。

これまでのやり方は、もはや通用しない。人口の安定化、自動車用燃料製造用の穀物の使用制限、気候の安定化、地下水と帯水層の安定化、耕作地の保守と土壌の保護に向けて、先進国が共同で総力を挙げて取り組まなければ、食糧安全保障はさらに悪化の一途をたどるだろう。

このうち人口の安定化は、単に性と生殖に関するヘルス・ケアや家族計画の指導をすればよいということではなく、全世界が貧困撲滅に向けて努力することが求められている。また水不足の解消については、半世紀前に土地の生産性を向上させ、全世界の1ヘクタールあたりの穀物収量をほぼ3倍にしたときと同じように、水の生産性を上げるために世界中が努力できるかどうかにかかっている。

これらの目標のどれ一つをとってもすぐに達成できるものではないが、食糧安全保障の枠組みを回復するには、すべての目標に向かって前進することが大切である。

世界は今までに、これほど困難な状況に直面したことはなかった。課題は過去においてもあったような、単に一時的な穀物価格の高騰に対処するといったことではなく、数々の動向を迅速に改めることにある。そうした動向がもたらす影響は積み重なって、文明を支える食の安全保障を脅しているのだ。

食糧安全保障が迅速に回復されなければ、社会不安と政治的不安定が広まり、破綻をきたす国々が劇的に増加するだろう。そしてまさに文明それ自体の安定を脅かすことになるのだ。

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レスター・R・ブラウンはアースポリシー研究所の所長。

詳細については、『仮邦題:プランB3.0:文明救済のための動員』
(Plan B 3.0: Mobilizing to Save Civilization)を参照のこと。
オンライン上で無料ダウンロード可能。

データと情報源についてはwww.earthpolicy.org.


問い合わせ先:

メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290内線12
Eメール:rjk (at) earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
ジャネット・ラーセン
電話:(202) 496-9290内線14
Eメール:jlarsen (at) earthpolicy.org

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Ave. NW, Suite 403
Washington, DC 20036
ウェブサイト:www.earthpolicy.org

(翻訳:荒木由起子、小島和子、山口淳子)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

これを読むと、食糧価格の上昇を引き起こしているグローバルな構造がよくわかります。そして、そのそれぞれの要素(需要側も供給側も)が今後ともますますいまの傾向を強めていくであろうことも予想できます。

先日、自民党総裁選をめぐる新聞記事に、「物価高を解決できる人がよい」という町の人の声が載っていましたが、食糧やエネルギー価格の上昇は「解決」できる問題ではありません。だれかが引き起こしているというより(投機筋などの影響はもちろんありますが)、根本的には需要と供給をめぐる「構造」の問題だからです。

としたら、だれが総裁になろうと、だれが首相になろうと、部分的な痛みの緩和のために、補助金を出すことはできても、食糧やエネルギー価格の上昇自体を抑えることはできないでしょう。対症療法としての補助金をばらまくことは、根本的な対策に取り組むための財源を取り上げることになり、長期的には事態を悪化させます。

政治家やリーダーたちの役割は、人々が短期的な救いを求めたくなる状況になったとき、その根本的な構造を理解し、人々にきちんと説明しながら、まだ余力のあるうちに、本質的な対策(この問題で言えば、本気で日本の食糧自給率を高めるために必要な産業構造の転換を進めること)を進めていくことです。

もっとも、国全体で動かなくてはならないという問題でもありません。日本の食糧自給率は40%を切っていても、高い自給率を誇る地域や自治体もあります。国の政策や対策を待たなくても、自分たちの地域や家庭で「自分たちの食糧安全保障を確保するには?」を考え、実行していくことができますし、そうしなくてはならない時代になってきました。

そのうち企業も、「うちの会社は、これだけの田畑をみんなで耕しながら、製造業をやっています。社員の食糧自給率は高いですよ!」ということが、人材の確保などで大きなアピールポイントとなる時代がやってくるかもしれませんね!

(余談ですが、今日はインターン生が企画してくれたJFSのボランティアミーティングで、みんなで芋掘りに行きます。JFSの食糧自給率が少し高まるかも? ^^;)

 

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