ホーム > 環境メールニュース > 月刊「ガバナンス」2008年7月号より「低炭素社会への自治体政策」(2008.0...

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年08月12日

月刊「ガバナンス」2008年7月号より「低炭素社会への自治体政策」(2008.08.12)

温暖化
 

月刊『ガバナンス』という雑誌があります。
http://www.gyosei.co.jp/home/magazine/gover/gover_08070.html

この月刊『ガバナンス』の2008年7月号に「低炭素社会への自治体政策」という題名で寄稿をしました。その原稿の転載を快諾いただきましたので、以下にご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

月刊「ガバナンス」2008年7月号 特集/低炭素社会へ--自治体からのアクション

「低炭素社会への自治体政策」

(リード) 今年から京都議定書の第一約束期間が始まり、国内外で地球温暖化をめぐる動きが活発化している。その中で、「世界のルールが変わりつつある」ことを痛感している。自治体運営もその例外ではない。


●世界のルールが 変わり始めている  

2007年3月に、欧州連合(EU)が2020年までに二酸化炭素を1990年比20%削減するという目標を打ち出した。国レベルでも野心的な温室効果ガス削減目標が次々と出されている。フランスは2050年までに75%削減、英国は当初60%削減といっていた目標を80%に引き上げることを検討中だ。  

米国でも、ブッシュ政権は京都議定書から離脱しているが、州や都市レベルでは先進的な取り組みが進んでおり、カリフォルニア州は2050年に1990年比80%温室効果ガスを削減すると目標を設定している。

また、米国西部や北東部の州がそれぞれ連合体をつくり、独自に削減目標を設定し、排出量取引をおこなうことになっている。大企業も非政府組織(NGO)と協働してUSCAP(米国気候行動パートナーシップ)を設立し、連邦政府に温室効果ガス削減を義務付ける法制度を求めている。  

次期大統領候補はいずれの党も、野心的な削減目標を掲げており、上院には2050年に米国の排出量を05年比60%以上削減することを義務付ける「リーバーマン・ワーナー法案」が提出されたように、米国も大きく先へ進んでいくだろう。
 
世界経済のルールも変わりつつある。たとえば、これまでは考えられなかったことだが、炭素に価格がつくようになってきている。欧州を中心に、炭素税や排出量取引など、炭素の排出に価格をつける手法によって排出量を削減する動きが出てきている。

05年から「EU域内排出量取引制度(EU─ETS)」が域内の排出量の半分をカバーして実施されており、近い将来、EUや米国、カナダ、オーストラリアなどの排出量取引制度が連動し、国際的な炭素市場が形成されることが予想されている。

●先に行く自治体、 置いていかれる自治体  

このように国際競争力を規定するルールや世界経済のルールが変わってきている中、温暖化対策や低炭素社会づくりを進めるうえで、従来のやり方を積み上げていくだけでは大きな変化は望めない。「あるべき姿」としての高い目標を設定し、その目標達成のために社会のシステムやルールを変えていく「バックキャスティング」の手法が必要だ。  

日本では、国レベルでは思い切った目標を設定することなく、「マイナス6%」をあたかも最終目標であるかのように標榜するだけという時期が長く続いていたが、その間にも、地方自治体や企業、市民のレベルでは先進的な取り組みが出てきている。  

福田総理の肝いりで立ち上げられた「地球温暖化に関する懇談会」には、「環境モデル都市・低炭素社会づくり分科会」が設けられており、私も委員のひとりとして、全国から集まった80を超える応募事例の審査にあたっている。意欲的な目標を掲げ、実現のための思い切ったしくみを考えている自治体からの書類を見ながら、「日本でも、自治体が国を引っ張る時代がやって来た!」と実感している。
 

同時に、先を見て大きく動き出している先進的な自治体と、「お金がないからできない、国がやらないからできない、ほかにやるべきことがたくさんあるからできない」という後追い型の自治体の差が大きく明確になりつつある。

●遠くを見つめ、 足下のしくみを 変えつつある自治体  

日本の地方自治体の先進事例を調査するため、08年3月に私は「地方自治体の温暖化対策目標と政策に関する調査」を実施した(報告書は「日刊温暖化新聞」のウェブサイトhttp://daily-ondanka.com/からダウンロード可能)。その結果、国の目標をはるかに超える意欲的な目標を掲げ、その実現に向けて動き始めている自治体がいくつも出てきていることが明らかになった。  

短期目標を見てみると、静岡市が「温室効果ガスを2010年度に1990年度比37%削減」という高い目標を設定しているほか、名古屋市が「温室効果ガスと二酸化炭素を2010年度に1990年度比10%削減」、京都市でも「温室効果ガスを2010年度に1990年度比10%削減」との目標を掲げている。  

長期目標では、広島市が「温室効果ガスを2030年度に1990年度比50%削減、2050年度に1990年度比70%削減」と野心的な目標を掲げているほか、千葉県柏市が「温室効果ガスを2030年度に00年度比25%以上削減」、東京都千代田区が「二酸化炭素を2020年度に1990年度比25%削減」、横浜市は「市民1人当たり温室効果ガスを2025年に04年比30%以上削減、50年に04年比60%以上削減」など、国のお手本になるほど高い目標を設定している。  

高い目標を設定すると同時に、その実現に向けて実効性のあるしくみを導入する必要がある。日本では意識啓発や技術開発を重視する傾向がとても強いが、低炭素社会に向けて大きく進むためにはそれだけでは足りない。意識が高まれば自然に行動につながるというものではないからだ。技術が開発されても、それが広く普及して使われない限り、実際には役に立たないのである。  

つまり、社会のルールを変えることによって、市民や企業が進んで温暖化対策に「取り組みたくなる」、もしくは「取り組まないとソンする」しくみをつくることだ。そうして、人や組織の行動を変え、望ましい変化を作り出していくという「攻めのアプローチ」が不可欠なのだ。  

国の動きを待たずに、目標達成のためのしくみを導入している自治体もある。再生可能エネルギーの促進でいえば、滋賀県では、太陽光システムで発電した電力の売電量に応じて、1年目は10円/kWh、2年目は7円/kWh、3年目は5円/kWhを支払うという「太陽光発電設置促進モデル推進事業」を進めている。  

佐賀県でも、太陽光発電の「環境価値」を「グリーン電力」として県が買い取り、自家消費分に1kWhあたり設置者に40円を支払う「太陽光発電トップランナー推進事業」を導入している。電力会社による太陽光発電の余剰電力買い取りによる環境価値は約10〜15円だが、それより高い環境価値を設定することで、太陽光発電の導入を促進することができる。佐賀県の住宅用太陽光発電の普及率は全国でもトップレベルである。

●低炭素社会とは どのような社会か
 
温暖化は大きな問題だが、自治体にとっては「温暖化対策だけをやっていればよい」というものではない。温暖化対策とは、それ以外にも考えなくてはならない多くの問題のひとつだ。ほかにも、エネルギー価格の高騰や食糧の価格高騰や不足といった問題が、これからの自治体運営にますます大きな影響を与えるようになってくるだろう。  

このような問題はどれも重要なものだが、大きく2つのタイプに分けて考えることができる。「グローバルな問題」と「ユニバーサルな問題」だ。 「グローバルな問題」というのは、すべての人が影響を受ける問題で、かつ、その解決には国際的な取り組みが必要なものだ。温暖化はこちらのタイプの問題になる。  

温暖化が進行すれば、世界中の人々がその人自身が排出する二酸化炭素の多寡にかかわらず影響を受ける。また、たとえある国や地域が必死に取り組んで効果をあげても、ほかの国や地域が取り組まなかったら、温暖化の進行は止めることができない。「自分の自治体はがんばったから、ここは温暖化の影響を受けない」というわけにはいかないのだ。  

もう一つの「ユニバーサルな問題」は、やはり、すべての人に影響を与えるものだが、それぞれの地域や個人の行動によって、局地的な解決がはかれる問題だ。エネルギーや食糧の問題は、こちらのタイプになる。  

日本で取り組みを進めれば、ほかの国がエネルギー問題にとても困っている時にも、日本はそれほど困っていないという状況をつくることができる。自治体も個人も同じだ。自分たちできちんと考えて石油などの化石燃料に頼る割合を下げておけば、たとえほかの人たちが石油価格の高騰によって暮らしに支障が出るような状況になったとしても、自分たちはそれほど影響を受けずにすむことができる。
 
このように考えると、エネルギーや食糧の問題に対しては、「他の国が」「政府が」「企業が」と、あたかも「みんなでやらなくては助からない」と考える必要はない。「日本が」「この地域が」「自分が」何ができるかを考え、実行していくことだ。そうすれば、そうしなかった国や地域、個人が大変な状況に陥ったとしても、対策を実施した分だけ、打撃を抑えることができる。  

エネルギー問題に対する対策は、域内のエネルギー自給率を引き上げていくことであり、食糧問題に対する対策は、域内の食料自給率を引き上げていくことだ。それはとりもなおさず、地域にあるエネルギー源(再生可能エネルギー)を使うことになり、地産地消によって輸送エネルギーやそれに伴う二酸化炭素を減らすということになる。これらは、温暖化対策そのものなのだ。  

つまり、社会を低炭素化していくとは、単に二酸化炭素排出量を削減して温暖化を防ぐというだけのことではない。どんな危機にもしなやかに強く、住民が幸せに暮らせる社会をつくるということなのだ。  

今後ますますエネルギーの価格は上がっていくだろう。世界の人口増加、温暖化や水不足などの問題の深刻化、エネルギー価格の高騰などの影響を受けて、食糧が不足する時代がやってくるだろう。

そのようなエネルギー危機や食糧危機の時代が到来しても、自分たちの地域が低炭素社会になっていれば、それほどの悪影響を受けずに、平穏で幸せな暮らしを続けることができる。そのような地域をつくることこそが、自治体としての大きな役割であり責任なのではないだろうか。  

日本はエネルギー自給率も食料自給率も危機的なほど低い。しかし、国の政策を待たずに、自治体レベルで自給率を上げていくことはできる。たとえばエネルギーに関していえば、現在すでに、全国で76の自治体が家庭用の電力はすべて地域の再生可能エネルギーによる発電のみでまかなっている。  

また、自動車中心の従来型の都市づくりから、自転車や公共交通機関を中心とした「コンパクトシティ」化を進めることも低炭素社会づくりには欠かせない。都市の規模を小さくすることで、都市内外での人やモノの移動を減らし、また公共交通機関を中心とした都市づくりによって自動車利用を減らし、化石燃料の使用量と二酸化炭素排出量も減らすことができる。  

そして、「コンパクトシティ」化も、単なる温暖化対策として考えるのではなく、これから人口が減少していく日本の地域において、どのようなまちづくりをすることが住民も暮らしやすく幸せで、自治体の財政その他の負担が大きくならなくてすむか、という大きな全体像の中に位置づけることができる。  

都市のコンパクトシティ化をはかる一方で、地域と地域のつながり、自治体間の連携を進めることも低炭素化および暮らしやすい未来づくりへの一歩だ。東京都新宿区と長野県伊那市が08年2月に「新宿区が伊那市の森林整備を行うことで、新宿区の二酸化炭素排出を削減する」という協定を締結したのもその一例だ。

●おわりに  

自治体が国を動かすのは、いまや世界的な流れになっている。スペインでは、バルセロナ市が00年に新築建築に対し太陽熱給湯を義務づけたのをきっかけに、70自治体もそれにならい、06年には国の法律となった。米国でも、850以上の市長が「連邦政府は離脱したが、自分の市は京都議定書を遵守する」ことを誓約し、ブッシュ政権に圧力をかけている。  

日本でも、自治体が国を動かす時代が来ている。内外の先進的な自治体の事例や考え方から学び合いながら、ぜひ「地域から国を変える」低炭素社会に向けた大きなうねりと変化を生み出していってほしい。

「月刊『ガバナンス』2008年7月号より転載」

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

具体的に、自治体はどんなことを考えていくべきなのか。"持続可能な自治体"のモデルをどう創っていったらよいのか。

5月に、集中ゼミ「持続可能なビジネスモデルを考える力をつける」を開催したとき、自治体からの参加者が、まさにそうしたことを考えるために受講してくれて、とてもうれしく思いました。

この集中ゼミ、その後、温暖化懇談会で学んだことや、内外の最新事例などを取り込んで、さらにパワーアップして、9月10〜11日に開催します。

自治体の方、企業の方、ぜひいらしてください。いっしょに、「本当にいま何を考えなくてはならないか」「どうやって、陥りやすい落とし穴を見抜いて、避けることができるか」考えつつ、持続可能なモデルを創っていきましょう!

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ