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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年08月05日

レスター・ブラウン氏「終焉に向かう石炭時代」〜日本の既存エネルギー税の税率をCO2ベースで見ると(2008.08.05)

温暖化
 

昨日にひきつづき、米国での石炭火力発電が「終焉を迎えつつある」動きのレポートです。2008年4月2日に出されたレスター・ブラウン氏らのプレスリリース文を実践和訳チームの翻訳でお届けします。

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終焉に向かう石炭時代
〜米国石炭産業史上の長い1年

http://www.earthpolicy.org/Updates/2008/Update70_timeline.htm

レスター・R・ブラウン、ジョナサン・G・ドーン

気候変動への不安が高まるにつれて、米国の石炭火力発電の時代は終焉を迎えつつあるのかもしれない。2007年初め、米国のエネルギー省は計画段階にある151カ所の石炭火力発電所を報告書に掲載した。

しかし2007年中に、そのうち59の建設計画が州政府の許可が下りなかったり、いつの間にか立ち消えになっていった。加えて、50カ所近くの石炭火力発電所の建設計画が現在裁判で争われており、残りの発電所計画も許認可の段階で問題になる可能性が高いだろう。

地方の数カ所で始まった石炭火力発電所に対する反対運動のさざなみは急速に広がり、著名な気象学者や州政府、環境、保健、農業、そして地域の団体による全国的な反対運動の大きなうねりとなった。

炭素排出を規制する法整備の遅れに対する懸念が高まり、金融市場で不安感が広まっている。大手金融グループは現在、石炭関連株の格付けを下げてきており、石炭火力発電所建設のための資金調達を求める電力会社に対し、経済的持続性の証明にあたっては、炭素排出にかかるコストを含むことを要求している。

2008年3月11日、カリフォルニア州選出の下院議員ヘンリー・ワックスマンは、温室効果ガス抑制のための連邦規制が整備されるまで、炭素排出抑制の措置がとられていない石炭火力発電所の新規建設を禁止するという法案を議会に提出した。

もしこの法案が成立すれば、米国の石炭火力発電の将来にとって致命的な打撃となる。しかし、建設凍結の法的規制がなされなくとも、新たな石炭火力発電所計画への財政的支援は段階的に縮小しており、建設中止と同然の状態になってきている。以下の年表は、米国における石炭火力発電所が終焉に向かい始めたことを物語っている。

米国石炭産業史上の長い1年 ―― 年表
参考サイト www.earthpolicy.org/Updates/2008/Update70_timeline.htm.
 
2007年2月26日―米国航空宇宙局(NASA)のゴダード宇宙科学研究所の所長であり、著名な気象学者でもあるジェームズ・ハンセンは、数年後に跡形もなく破壊しなければならなくなるであろう時に、こうした発電所の建設は無意味であると、炭素を捕捉できない石炭火力発電所の建設の停止を求めた。

2007年2月26日 - 環境保護団体からの高まる圧力のもと、ダラスに本社を置く電力会社のTXU社は、建設を予定していた11カ所の石炭火力発電所のうち8つの計画を破棄した。このことがきっかけで、テキサス州でのエネルギー開発が石炭依存から再生可能エネルギーへと転換することとなった。

2007年4月2日―米国最高裁判所は、米国環境保護庁(EPA)が二酸化炭素を規制する権限を有しており、二酸化炭素ガスの排出規制を行っていないことに対する同庁の現在の論理的根拠は不十分である、との判決を下した。

2007年5月3日―ワシントン州知事のクリスティン・グレゴワールは、新設の発電所に対し、発電による二酸化炭素排出量の上限を1メガワット時あたり約500キログラムに規制する法案に署名した。これにより同州における石炭火力発電所の建設が事実上一時停止されることとなった。

2007年5月30日―米国南東部の約310万世帯に電力を供給するプログレス・エナジー社(Progress Energy)は、石炭火力発電所の新規建設を2年間中止すると発表した。

2007年7月2日―フロリダ州公共サービス委員会は、将来の炭素コストの見通しが不透明なことを理由に、フロリダ・パワー・アンド・ライト社(Florida Power & Light)に対して、1,960メガワットの大規模石炭火力発電所であるグレーズ・パワー・パークの建設を進めるのに必要な許可申請を却下した。

2007年7月13日―フロリダ州のチャーリー・クリスト知事は、「電力会社に対する温室効果ガスの最大許容排出量」を規定した行政命令に署名した。この排出枠のもとで、フロリダ州に新たな石炭火力発電所が建設される見込みはほとんどない。

2007年7月18日―シティグループは、ピーボディ・エナジー社(Peabody Energy Corp)、アーチ・コール社(Arch Coal Inc)、ファウンデーション・コール・ホールディングズ社(Foundation Coal Holdings Inc.)などの米国大手石炭会社の株を格下げした。この決定は、米国における石炭の将来に関して高まりつつある不安を反映している。

2007年8月18日―米国上院多数党院内総務のハリー・レイドは、ネバダ州における新たな石炭火力発電所の建設計画に抗議後、今後一切の石炭火力発電所の建設に対して反対の立場をとることを表明した。

2007年10月18日―カンザス州保健環境局は、二酸化炭素は大気汚染物質であり、規制するべきであるという考えに基づき、サンフラワー・エレクトリック・パワー社(Sunflower Electric Power Corporation) に対して、計画中である700メガワット規模の石炭火力発電所2カ所の大気質(ガス排出)許可を却下した。

2008年1月3日―メリルリンチは、米国石炭会社大手のコンソール・エナジー社(Consol Energy Inc.)とピーボディ・エナジー社の投資格付けを引き下げた。

2008年1月22日―カリフォルニア州検事総長、東部6州、コロンビア特別区がそろって、サウスカロライナ州保健環境管理局に対して、計画中であった1,320メガワットのピーディー石炭火力発電所の建設に反対する意見書を提出した。意見書の中で、この発電所からの排出ガスは「地球温暖化に取り組む多くの州の協調努力を無にする恐れがある」と言及している。

2008年1月30日―ブッシュ政権は、コスト高騰を理由に、フューチャージェン(電力会社と石炭会社の計13社が参加する、炭素を捕捉・隔離する石炭火力実証発電所を建設する共同事業)への連邦政府の補助金を打ち切った。

2008年2月4日―投資銀行であるモルガン・スタンレー、シティ、JPモルガン・チェースは、石炭火力発電所への融資は、将来的な炭素コストを考慮した上で電力会社が採算性を実証することを条件とすると発表。採算性の実証には、リスクのある投資を行いながら、将来的なコストを推測する必要がある。

2008年2月8日―米国控訴裁判所は、環境保護庁(EPA)が制定した石炭火力発電所を対象とする2つの水銀規則を覆し、新たに建設される石炭火力発電所に対して、適用可能な最も厳しい水銀規制を行うよう要請した。この規制を順守することによって、すでに建設中のものを含め、計画中である32カ所の石炭発電所のコストが大幅に引き上げられることが予測される。

2008年2月12日―バンク・オブ・アメリカは、電力会社からの融資申請を評価する際のリスク分析において、炭素排出量1トンあたり20ドルから40ドルのコストを今後計算に入れることを発表した。

2008年2月19日―連邦政府は、新たに建設する石炭火力発電所への支援を求める地方の電力会社に対する低利融資プログラムを一時中止した。

2008年3月11日―米国下院議員のヘンリー・ワックスマン(民主党、カリフォルニア州)とエドワード・マーキー(民主党、マサチューセッツ州)は、環境保護庁(EPA)及び州政府に対して、最先端の炭素捕捉や貯留技術を持たない新たな石炭火力発電所に許可証を発行できないようにする法案を提出した。

この技術の実用化は早くても10年先であるため、この法案が可決されれば、新たな石炭火力発電所は事実上、しばらくの間一時中止状態に追い込まれることになる。

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出典:2008年4月、アースポリシー研究所のウェブサイト、www.earthpolicy.org

詳しい情報や資料については以下のサイトを参照のこと。
www.earthpolicy.org/Updates/2008/Update70_timeline2.htm

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2020年までに世界中で石炭火力発電を段階的に廃止する戦略については、『プランB3.0(Plan B 3.0:Mobilizing to Save Civilization)』第11章、12章を参照のこと。

原書はwww.earthpolicy.orgにてオンライン閲覧可能。

詳しい資料については、アースポリシー研究所のウェブサイトを参照のこと。
www.earthpolicy.org

問い合わせ先:

メディア関連の問い合わせ:
リア・ジャニス・カウフマン
電話:(202) 496-9290 内線 12
電子メール:rjk @earthpolicy.org

研究関連の問い合わせ:
ジャネット・ラーセン
電話:(202) 496-9290 内線 14
電子メール:jlarsen @earthpolicy.org

アースポリシー研究所
1350 Connecticut Ave. NW, Suite 403
Washington, DC 20036
www.earthpolicy.org

(翻訳:藤津、西垣)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

日本では残念ながら、「石炭火力発電をやめよう!」という動きは大きく広がってはいません。地域の議員さんに伝える・新聞に投書するなどして、政治家に働きかけていくことがひとつ。

もうひとつは、税金の仕組みを変えるなどして、「安いから石炭へ」という流れを食い止めること。日本の「石油石炭税」をみると、

●原油、石油製品
 税率:2,040円/kl ⇒  約780円/t-CO2(原油)

●石炭
 税率:700円/t   ⇒  約290円/t-CO2(一般炭)

●LPG,LNG
 税率:1,080円/t  ⇒  約400円/t-CO2(LNG)

※CO2ベースに換算した既存エネルギー税の税率について、英国・ドイツとの比較も含め、こちらにまとめたものがあります。

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圧倒的に石炭への課税が安くなっています。これに原料の輸入価格の違いを加えると、石炭は天然ガスの3分の1の価格になっているそうです。「コスト」だけを考えれば、石炭へのシフトが起きてしまいます。そうではなく、二酸化炭素の排出量に応じた課税(=炭素税)などをかけていく必要があります。

また、米国では、大手金融グループが、石炭関連株の格付けを下げていることや、「将来的な炭素コストを考慮した上で電力会社が採算性を実証することを条件とする」「炭素排出量1トンあたり20ドルから40ドルのコストを今後計算に入れる」という動きが、大きな「脱石炭火力発電」へのうねりを作っていますが、日本の金融業界の動きはどうなのでしょうか?

日刊温暖化新聞の「あの人の温暖化論考」で、末吉竹二郎氏がこのように述べています。
http://daily-ondanka.com/thoughts/sueyoshi_01.html

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アメリカの大手金融機関シティ・バンク、JPモルガン・チェース、モーガン・スタンリーは、石炭火力発電所への投融資基準を厳しくする『炭素原則』を宣言した。バンク・オブ・アメリカのCEOは、二酸化炭素は「債務」であるという認識で 貸出審査を行うと公言した。二酸化炭素が、融資される側にとっても融資する側にとっても、大きなリスクファクターになってきたのである。

私はこの新しい時代を、『CO2本位制』と名付けている。金本位制の時代には、国が持っている金保有高が貨幣の通算発行量を決めていた。その貨幣の総体が、結果的に経済活動や社会活動の大きさを規定してきた。今、CO2(二酸化炭素)がさまざまなものを規定するようになりつつあると言えないだろうか? 

空気はもう無限の資源ではない。しかも、「タダ」ではない。逆に言えば、空気はお金になる。我々が規制の中で二酸化炭素排出量をいかに有効に使うかが重要になってくる。企業であれ、組織であれ、個人であれ、自分が使える二酸化炭素量の中で、最も豊かだと感じる生活をいかに築くか、ということでもある。許された二酸化炭素排出量でベネフィットを最大にできる国、地域、企業、組織、人が栄えていくだろう。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

日本の金融機関でも、「炭素原則」や「CO2は債務であるという認識」をとりいれるところがでてきているのでしょうか?(ご存じの方、ぜひ教えて下さい〜!)

 

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