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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年08月04日

『NHK未来への提言 地球温暖化に挑む 世界の叡智が語る打開策』〜インタビューを終えて(2008.08.04)

温暖化
 

今年のお正月に、NHKで「未来への提言」という番組が放映されました。多くの方がごらんになったようで、企業の経営者の方々からも「見ましたよ」とお声をかけられました。日本の社会をプッシュする役割を少しでも果たしたのではないかと思います。

このときに放映された、宇宙飛行士の毛利さんがブッシュ政権と温暖化対策をめぐって戦い続けてきた反骨の科学者、ジェームズ・ハンセン博士(NASAの科学者)にインタビューされた内容と、私がスターン・レビューの著者ニコラス・スターン卿にお聞きした「低炭素社会」の未来のインタビュー、それに京大の植田先生がインタビューされた中国の現状や考え方を加えた本が出版されました。

『NHK未来への提言 地球温暖化に挑む 世界の叡智が語る打開策』
(NHK出版刊)

ぜひ多くの方に読んでいただきたい内容なので、以下に目次と、私の「インタビュー
終えて」という寄稿文をご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

NHK 未来への提言
地球温暖化に挑む 世界の叡智が語る打開策
目次

はじめに 3

Chapter1
温暖化はどこまで進んでいるのか 9
  科学者ジェームズ・ハンセン×毛利衛

人類が経験したことのない危機/1981年に発表した論文
アース・オブザービング・システムと地球の平均気温/ティッピング・ポイント
政治との闘い/石炭利用を減らせ/孫の世代のために/宇宙からの目で温暖化の解決に挑む

コラム1 地球温暖化と温室効果ガス 37 
コラム2 ティッピング・ポイントと海面上昇 40


Chapter2
低炭素社会をつくる 43
経済学者ニコラス・スターン×枝廣淳子

スターン・レビューの衝撃/炭素税と排出量取引/先進国と途上国/低炭素社会のメリット
先進国と日本の責任/いまただちに行動を起こすこと

コラム3 二酸化炭素に価格をつける 66
コラム4 二酸化炭素の価格化が促すクリーンテクノロジー 69
コラム5 温暖化対策とカーボン・オフセット 71


Chapter3
中国・環境汚染との戦い 73
法律家王燦発×植田和弘

深刻化する中国の環境汚染/社会体制と環境汚染の関係/環境保護のための法整備
日本の経験に学ぶ/被害者支援と地球温暖化防止

コラム6 〝ポスト京都議定書〟と中国 99 

インタビューを終えて
地球温暖化と科学者の役割 34
毛利衛(日本科学未来館館長・宇宙飛行士)

低炭素社会にしなかったときのコスト 63
枝廣淳子(環境ジャーナリスト)

中国の環境ガバナンス 96
植田和弘(京都大学教授)


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インタビューを終えて
低炭素社会にしなかったときのコスト
枝廣淳子(環境ジャーナリスト)


ニコラス・スターン氏からの大事なメッセージは、「何かを行うときのコスト」(cost of action)だけではなく、「それをしなかったときのコスト」(costof inaction)も考えるべき、ということだろう。

たとえば、太陽光発電や省エネ設備を導入しようと考えるときに、その設備を入れるコストを考えて、導入の是非を判断するのが普通だが、これから考えるべきは、「それをしなかったら将来どのようなコストがかかってくるのか」ということである。

では、日本にとって低炭素社会にしていくというのはどういうことなのか? 言い換えると、再生可能エネルギーの導入費用や省エネ家電への切り替えに伴う負担額等、日本を低炭素社会にするコストについては語られるが、一方であまり意識されていない「日本がいま低炭素社会にしなかったときのコスト」も考える必要がある。

日本社会の低炭素化が進まず、京都議定書で約束した「90年比6%削減」を守れなかった場合(現在90年比で6%以上増えている)、海外から排出権を買ってきて、帳尻を合わせる必要がある。1トン50ユーロとして、たとえば5%足らなかったら、約2兆5000億円、もし10%足りなかったら、5兆円以上のお金(わたしたちの税金)が国外に出ていくことになる。

さらに大きな問題はエネルギーコストだ。2007年に日本のエネルギー輸入コスト(石油・石炭・天然ガス)は約20兆円だった。2007年の原油平均価格は1 バレル77ドルだったが、原油平均価格が130ドルになると、消費量は同じ、石炭・天然ガスの価格は不変でも、支払うエネルギーコストは30兆円になり、1バレル200ドルの時代が来れば、43兆円を超える。

低炭素社会への移行を進めなければ、多額のお金が日本から海外に流出し続け、日本は貧しい国になってしまうのだ。これが、日本が「低炭素社会にしなかったときのコスト」だ。長期的に見て、社会を低炭素化していくためのコストよりもずっと大きなコストを将来にわたって払い続けなくてはならなくなる。

社会の低炭素化とは、エネルギーも食糧もできるだけ地産地消型にしていくことだ。つまり、単に温暖化対策だけではなく、エネルギー危機にも食糧危機にも強い社会づくりでもあるのだ。国の安全保障の問題でもある。

スターン氏が言われているとおり、低炭素社会は今よりもずっと魅力的な社会だと思う。CO2の排出は地球の吸収力の範囲内に収まり、温暖化の脅威も未来世代への罪悪感もなくてすむ社会。地産地消が広がり、将来の食糧不安もなく、再生可能エネルギーが社会の基盤となって、エネルギー価格高騰の心配もない社会。

住居は最高の省エネ性能が実現し、電車・バス・LRT(次世代型路面電車)などの公共交通や自動車、化石燃料に頼らない自動車で移動できる社会。農村や漁村、山村にも活気がよみがえり、地方にも都会にも笑顔が戻っている社会。

そんな今よりもずっと幸せな社会の実現を目指して、「何かを行うときのコスト」だけではなく、「それをしなかったときのコスト」を考えて、進んでいこう。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ニコラス・スターン氏のお話しになった内容も、毛利さん・植田先生のインタビュー内容も、考えさせられるものですので、よろしければご一読ください。(薄めで読みやすいつくりの本です。998円です)

『NHK未来への提言 地球温暖化に挑む 世界の叡智が語る打開策』(NHK出版刊)

 

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