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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年07月07日

「北極の氷がなくなる?」〜気象庁「気候変動監視レポート2007」(2008.07.07)

温暖化
 

温暖化の進行が「目に見える」ウェブサイトを教えてもらいました。カリフォルニア工科大学の研究所のウェブで、時間の経過とともに、氷の融解、海水面上昇、CO2濃度や気温が上昇しているようすがわかります。

http://climate.jpl.nasa.gov/ClimateTimeMachine/climateTimeMachine.cfm

先日、英国インディペンデント紙にも「北極の氷がなくなる?」という、心配な記事が出ていました。実践和訳チーム温暖化サブチームのメンバーがその概要を訳してくれたので、お伝えします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「北極の氷がなくなる?」〜極地の研究者たちが、気候変動の劇的な新証拠を報告
http://www.independent.co.uk/environment/climate-change/exclusive-no-ice-at-the-north-pole-855406.html

サイエンス・エディター:スティーブン・コナー
2008年6月27日

信じがたいことだが今年の夏、人類史上初めて北極から完全に氷が消え去ろうとしている。

北極の海氷が消失し、開水面を通って船で北極まで行けるようになれば、地球温暖化の影響の最も劇的かつ憂慮すべき例のひとつになるだろう。科学者によれば、夏までに北緯90度の氷が融ける可能性は十分にある。

「北極点は科学的には地球の端っこに過ぎませんが、象徴的な意味はとても重要です。北極点には開水面ではなく、氷があるはずなのです」とコロラドの米国立雪氷データセンターのマーク・セリーズ氏は言う。

もし現実となれば、北極海に面した国々が、それまで厚い海氷に覆われて掘削できなかった氷床の下の原油や鉱物を開発できるようになる。

経験豊かな極地の研究者たちは、今夏に北極の氷が完全になくなる確率は、50%より高いと考えている。通常北極を覆っている何年もかかって形成された厚い氷が消え、広大な面積が1年以内にできた薄い氷に変わっているからだ。

過去数週間の衛星データを見ると、夏に非常に融けやすいこの一年氷が、北極の海氷消失が史上最大となった昨年よりも早いスピードで融けている。

「問題は、私が知るかぎり初めて、昨秋・冬にできた広大な一年氷で北極が覆われているということです。北極の氷が融けるかどうかは五分五分でしょう」とセリーズ博士は語る。

海氷は毎年夏に融けて、北極の長い冬に再び形成される。ところが昨年は莫大な海氷が消失して北極海の大部分が開水面となり、氷と水の境界線が北極からわずか700マイル(約1,100キロメートル)にせまった。

これは、現在の海氷の約70%が昨冬にできた一年氷だということを意味する。科学者たちはこの一年氷の少なくとも70%-おそらくは全部-がこの夏に完全に融けると予想していると、セリーズ博士は言う。

「実際、北極全体で見れば、2007年よりさらに薄い氷で融氷期を迎えているため、昨年の海氷の最小値を下回ると懸念されています。どうなるかは、7月と8月の気候パターン次第でしょう」。

シアトルのワシントン大学の極地研究者であるロン・リンゼイ博士によれば、どうなるかは北極の風の動きと日照時間次第だ。「北極がすべて融ける可能性は十分にありますが、確実というわけではありません。」

地球温暖化によって北極と南極の平均気温は劇的に上昇しているが、より多くの海氷が融ければ、色の濃い海面が熱を吸収するため、さらに気温が上昇する。英国海兵隊の潜水艦で北極の海氷の下に潜った最初の民間科学者であるケンブリッジ大学のピーター・ワドハム教授によれば、北極の氷の未曾有の融解が起きる条件はそろっている。

「昨年、これまで前例のない広大な面積の氷が消失しました。今年もこの傾向が続き、北極まで拡大すると予想されています。今夏に北極が史上初めて丸裸になる可能性は十分にあります。」

北極の氷が崩壊しつつある兆しは他にもある。NASAのゴダード宇宙飛行センターの科学者たちは、通常アラスカとカナダ沖のバンクス島の付近に形成される北極のポリニア海域(氷に囲まれた広大な開水域)が、通常よりはるかに大きいと指摘している。ポリニア海域は太陽光の熱を吸収し、海氷の端を侵食する。

カナダとグリーンランドの間のバフィン湾近くに住むイヌイット族も、海氷が通常よりずっと早く割れはじめ、これまで安定していた氷にも大きな割れ目ができていると報告している。約30年間にわたって収集されてきた衛星データは、北極海氷の面積が大幅に減少しており、近年そのスピードが速まっていることを示している。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

上にある「より多くの海氷が融ければ、色の濃い海面が熱を吸収するため、さらに気温が上昇する」は、システム思考でいう「自己強化型フィードバックループ」です。

先週土曜日に、科学未来館で開催された、毛利館長のコーディネートによる「Miraikanフォーラム2008 〜最先端の科学技術をベースに地球温暖化問題を語り合う〜」に参加したときにも、山本良一先生と国立環境研究所の野沢徹氏が「北極の氷がなくなることで、温度はさらに0.5〜1℃上昇する」と話していました。

今日からG8サミットが始まりますが、先進国の首脳たちには状況の切迫感を共有してほしいものだと切に願います。

さて、気象庁から「気候変動監視レポート2007」が公表されています。
http://www.data.kishou.go.jp/climate/cpdinfo/monitor/2007/pdf/CCMR2007_all.pdf

その概要を見るだけでも、2007年の世界と日本の気候のようすがわかります。北極域の海氷域面積についても出ています。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

2007 年の主な監視結果
( )内は対応する章節番号。

第1 部 気候

第1 章 世界の気候
・ 年平均気温は、多くの地域で平年より高く、東アジアや東シベリア、ヨーロッパで異常高温となる月が多かった(1.1)。

・ 世界で発生した主な気象災害は、米国東部・西部の干ばつやバングラデシュのサイクロンによる被害が特に顕著(1.1)。

・ 2007 年の世界の年平均気温(陸域における地表付近の気温と海面水温の平均)の平年差+0.28℃で、1891 年の統計開始以降、6 番目に高い値(1.2)。

第2 章 日本の気候
・ 2007 年冬は冬型の気圧配置は長続きせず、全国153 官署のうち63 の気象官署で、冬の平均気温の高い記録を更新した。また、8 月は北・東・西日本では顕著な高温・多照となった(2.1)。

・ 日本の年平均地上気温の平年差は+0.85℃であった。長期的には100 年あたりおよそ1.10℃の割合で上昇。(2.3)

・ 1951 年から2007 年までの台風の発生数は年々の変動が大きく、長期的な傾向ははっきりしない。ただし、最近の数年は、発生数が平年を下回る年がほとんどとなっている(2.5)。

・ 関東地方と近畿地方の冬季のヒートアイランドについて解析したところ、都市化の影響による気温上昇が、夜間に最も大きくなることや、晴れて風の弱い日に顕著であることが確認された。(2.6)

第2 部 海洋

第1 章 世界の海洋
・ 2007 年の世界の年平均海面水温の平年差は+0.15℃で、1891 年の統計開始以降では9 番目

に高い値。世界の海面水温は、長期的には100 年あたりおよそ0.50℃の割合で上昇。(1.1)

・ 2007 年春からラニーニャ現象が発生。2007 年末現在も継続中。(1.2)

・ 北極域の海氷域面積は、2001 年5 月以降、平年より小さい状態が継続。2007 年の最小海氷域面積は、1979 年の統計開始以来最小を記録。(1.3)

第2章 北西太平洋・日本近海
・ 日本近海の年平均海面水温は、長期的には100 年あたり0.7〜1.7℃の割合で上昇。(2.1)

・ 沖縄周辺の海域などでは、7 月から8 月上旬にかけて海面水温が31℃を超える日もあり、1985 年以降では最も海面水温が高かった。(2.1)

・ 親潮は8 月以降大きく後退し、11 月から12 月にかけては1997 年以来の最小規模。(2.1)

・ 日本沿岸の海面水位は、1980 年代半ばを境として下降から上昇に転じ、1985 年から2007年にかけて3.2mm/年の割合で上昇。2007 年は平年値(1971 年〜2000 年の平均値)より3.6cm 高く、1960 年以降で5 番目に高い値。(2.2)

・ オホーツク海の積算海氷域面積は、2006 年に比べてやや増加し平年の84%。しかし、長期的には緩やかに減少している。(2.3)

・ 浮遊汚染物質(プラスチック類)の発見数は日本周辺海域で平均して10.3 個/100km であり、2006 年と比べてやや増加。(2.4)

第3 部 環境

第1 章 温室効果ガスおよびオゾン層破壊物質などの状況
・ 世界の大気中の二酸化炭素濃度は増加を続けており、2006 年の世界平均濃度は前年より2.0 ppm 増加して381.2 ppm であった。2007 年の日本国内の3 地点での年平均濃度は前年に比べて0.9〜1.7 ppm 増加した。(1.1)

・ 2007 年の夏季には、太平洋西部の赤道に沿った表面海水中の二酸化炭素濃度が大気中の濃度より約30ppm 高くなった。2007 年春季以降に発生しているラニーニャ現象との関連が考えられる。(1.2)

・ 日本における大気の混濁係数は、1996 年頃にはエルチチョン火山噴火以前のレベルに戻り、その後はわずかながら減少傾向を示している。(1.3)

第2 章 オゾン層および紫外線の状況
・ 2007 年の世界全体のオゾン全量は、1979〜1992 年の平均値と比較すると、ほとんどの地域で少なく、特に南半球の高緯度では平均からの偏差が-5%以下となったところが多かった。オゾンホールは過去10 年間では2002 年、2004 年についで小さいほうから3 番目の規模だった。(2.1)

・ 日本国内の3 地点(札幌、つくば、那覇)で観測された年積算紅斑紫外線量は1990 年代初めから増加傾向にある。(2.2)

第3 章 黄砂・酸性雨の状況
・ 2007 年の黄砂観測日数は、34 日、黄砂観測のべ日数は482 日であった。4月2 日には国内の観測地点85 地点中65 地点で黄砂を観測した。これは、一日当たりの観測地点数として、2002 年4 月10 日の64 地点を上回り、1967 年以降最多となった。なお、黄砂観測日 数および黄砂観測延べ日数は、2000 年以降多い傾向にある。(3.1)

・ 降水中pH の2006 年の年平均値は綾里(岩手県)がpH 4.8、南鳥島がpH 5.5 であった。(3.2)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

日本沿岸の海面水位が「1985年から2007年にかけて3.2mm/年の割合で上昇」していること、びっくりです。このままでは、多くの大都市が位置している海抜ゼロメートル地帯や、海沿いに立っている原子力発電所などへの影響や、その被害を防ぐための対策(緩和策)のコストがどんどん大きくなっていくことでしょう。

まえにもお伝えしましたが、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のウェブサイトで、北極海の海氷面積の歴年グラフと、現在の様子を見ることができます。
http://www.ijis.iarc.uaf.edu/jp/seaice/extent.htm

赤い線が今年2008年のデータです。大きく減少してしまった去年2007年の線をさらに下回る軌跡を描いてしまうのか……目が離せません。。。

なお、詳しい方にはいわずもがなですが、北極の氷が溶けても、海水面の上昇にはつながりません。北極は、もともと海に氷が浮かんでいるものなので、北極が溶けても(コップの中の氷が溶けても水があふれることがないように)、海面は上昇しません。

しかし、南極やグリーンランド、山岳氷河は「陸地の上に氷が載っている」状態なので、その氷が溶けると、海の水は増え、海水面は上昇します。

現在の海水面の上昇は、こういった陸地にある氷が溶けて海水が増えていることと、海水温の上昇による海水の膨張の両方が原因になっていると言われています。

北極と南極、同じようなものだと思っていたのですが、違うのですね。ときどき、講演後の質疑応答で質問が出るので、ひと言解説までー。

 

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