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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年06月23日

トンカツ弁当と「聞いてみる」ことの力(2008.06.23)

食と生活
 

1999年11月4日に思いつきではじめたこのメールニュースも、気がつけば1500号になりました。

99年には(2ヶ月しかないのに)いきなり49本配信し、そのころは数十人だった読者にびっくりされました。(現在は1万人を超える方にお送りしています)

2000年には1年間に311本(ほぼ毎日書いてました〜)、01年は257本、02年180本、03年146本、04年114本、05年は104本、06年は106本、07年は151本、今年08年はまだ上半期が終わるまえなのに、すでに81本(これが82本目)と去年を上回るペースです。

よっぽど好きなんですね〜。雑誌などの連載は「そろそろやめさせて下さい」とお願いしても、メールニュースだけは書き続けるのですから。

1本あたり2時間として、3000時間=125日。125日間メールニュースを書き続けているようすを想像すると、我ながら笑えます。(^^;

これからもマイペースで続けたいと思っていますので、それぞれのペースでおつきあい下さい〜。

さて、先月、富山県魚津市の市民大学で講演をした後、質疑応答の時間になりました。いくつかの質問の中に、「お総菜を買って帰ることがよくあるのだけど、そのプラスチックのトレイを洗ってリサイクルに出した方がよいのか、洗う水や洗剤のことを考えると、そのまま捨てた方がよいのか、迷っている」という質問
がありました。

そのとき私はこんなふうに答えました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

プラスチックのトレイを洗うのがいいのか、それともそのまま捨てて、その代わり水とか洗剤とか使わないのがいいのかというのは、いろいろなところで出会う問題ですよね。

たとえば、若いお母さんたちを対象に環境の話をするとよく出る質問が、紙おむつがいいのか布おむつがいいのかと。紙おむつはごみになる。でも布おむつは、洗うのに――今と同じですね――水も洗剤もいるし、という話になります。

それが、ほんとにどちらがいいのかというのは、「何に対して」ということを決めない限り、判断できません。たとえば水が少ない国だったりすると、やっぱり水のほうが大事でしょうということになるかもしれません。

日本の場合で言うと、いろんな考え方がありますが、たぶん、これから資源がますますなくなってくるので、やはり資源をリサイクルして、つまりできるだけ、洗って回収して、資源として使っていくのが大事ではないかなと思っています。

ただ、そのときの洗い方もきっと、いろいろ工夫できますよね。たとえば、最初から水と洗剤で洗うんじゃなくて---まずみんなでなめる!(会場、爆笑)

そうやって、できるだけ洗わなきゃいけないのを減らして、いらない紙でぬぐうとかすれば、きっと洗剤も水も最少で洗うことができるでしょう。

もうひとつ言うと、いま私の事務所でみんながやっているんですが、お総菜を買いに行くときに、自分のお皿を持って買いに行くこともできるでしょう。

事務所のみんなはお弁当を買ってきたりすると、やっぱりプラスチックのに入っているわけです。環境の仕事をしている事務所ですし、毎月の事務所のゴミも計量していますから、プラスチックの空箱がでることをみんな嫌がります。

なので、あるとき、私がスタッフに「じゃあ、お皿持って買いに行ったら?」って言ったら、ほんとにお皿を持って行きました。トンカツのお弁当屋さんに行って、普通だったら仕切りの着いた黒いプラスチックの箱に詰めてくれるのを、「このお皿に入れてください」と言ったら、ちょっとびっくりしたようでしたが、「はい」とごく普通に入れてくれた、と喜んで帰ってきました。

私も、お皿を持ってトンカツ弁当を買いに行きました。それで気づいたのですが、お皿に入れてもらったお弁当の方が、黒いプラスチックに入っているより、ずっとおいしいんです。不思議ですけど、本当です。

それから、スタッフはトンカツ屋さんにいくときは、必ずお皿を持っていきます。いまでは、トンカツ屋さんも、うちのスタッフが行くとお皿だというのがわかってくれています。

このあいだ、そのトンカツ屋さんに初めて買いに行ったスタッフが、「今日、私、初めて行ったんですけど、『いつもありがとうございます』って言われました」と言うので、「そりゃ、“顔なじみ”じゃなくて、“お皿なじみ”だね」って言ってみんなで笑ったんです。みんなで同じオフィスにあるお皿を使っているから。あのお皿持って行けば、あのオフィスの人だというのがばれている。(^^;

うちのスタッフはさらに、どこまで「お皿持参」が通用するか、実験をしています。牛丼の松屋さんというお店があります。持ち帰り用は発泡スチロールの丼に入れるそうですが、そこにもお皿を持って行って、「これに入れてくだざい」と頼んでみたそうです。ちょっと勇気がいった、と言っていましたけど。

そしたら、アルバイトのお兄ちゃんが、店長さんのほうを向いて、「これに入れてくださいと言われたんスけど、どうします? 店長」と。店長さんは、一瞬の間を置いて、「まあ、いいんじゃない」。アルバイトのお兄ちゃんは「まあいいそうです」と、持参のお皿に牛丼を盛りつけてくれましたそうです。

マクドナルドでコーヒーを買うときに、マイカップを持って行ったスタッフもいます。そのときは、最前列でお客さんの応対をしているアルバイトさんから、リーダーさん、それから店長さんまで、伝言ゲームで「マイカップに入れてほしいそうです」と伝わり、また伝言ゲームで「いいですよ」という返事が返ってきたそうです。それでちゃんと入れてもらいました。もっとも、持参したのがスタバのマイカップだというので、けっこういい根性です。(^^;

「これって、みんなの思い込みを変えていくってことなんだよね」とスタッフと話をしています。「お弁当は使い捨ての容器に入れるもの」と、みんなが思い込んでいる。お店の人も思い込んでいるし、お客さんも「そういうもの」だと思っている。でも、「そうじゃなくてもいいかもしれない」って思うと、けっこういろいろと変えていくことができます。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

この「そういうもの」っていうのが「思い込み」です。システム思考でいう「メンタルモデル」です。

私たちはいろいろな思い込みを持って生きています。たとえば、「自分とはこういう人間だ」とか、「自分にはこれはできない」とか、もしくは「他人とはこういうものだ」とか、「うちの会社はこういう会社だ」とか、「社会はこういうものだ」とか、意識していないのですが、いろいろな思い込みや前提を持っています。

このような前提がないと、何にしても考えることが難しいですから、前提があること自体はかまわないのですが、その前提が自分や活動の足を引っ張るものになっていることもよくあります。

たとえば、「自分はどうせ何をやっても失敗するんだ」という強い思い込みがあったとしたら、それに合わせようとするので、本当に何をやっても失敗します。「うちの会社は○○を作っている会社だ」とみんなが思い込んでいたら、その会社はそれを超えたビジネスモデルをつくっていくことは難しいでしょう。それだけ「思い込みの力」は強いのです。

でも、思い込みは、気づけば変えていくことができます。たとえば、「自分はうまくいかないこともあるけれども、うまくいくこともある」というように、自分に関する自分の前提を変えれば、うまくいくことが出てくるはずです。

ただし、思い込みは「気づく」のが難しい。だって、無意識のうちに前提にしていることなのですから。その思い込みに気づくための一つのポイントは、「問う」ことです。

「どうしてそのやり方でやっているのですか?」「どうしてそう考えるのですか?」「別のやり方じゃだめですか?」と、ナイーブに問われてはじめて、「あれ、確かに『そういうものだ』と思っていたけど、そうでなくてもよいのかもしれない」と気づくことができます。

(トンカツ屋さんも、牛丼屋さんやマクドナルドのアルバイトさんも店長さんも、きっとそうだったことでしょう)

自分たちはどういう思い込みを持っているんだろう? その思い込みや前提が、現在の状況に合わなくなっているとしたら、どうやって変えていけばいいだろう?こういったことを考えるのは、組織にとっても個人にとっても、とても大事なことです。

ちなみに、このメンタルモデルに気づいてもらうことは、集中ゼミ「持続可能なビジネスモデルを考える力をつける」の中心的なテーマの一つです。

前回5月の参加者の感想から、参加者にとっての意義も伝わってきます。

○「思い込み、メンタルモデルというものに気づけて良かった。今まで知識として知っていたことの根底にある、構造・パターンを見抜くことの大切さを知った。」

○「客観的に自分の、自社の現状を確認できたのが、まず大きな収穫でした。在籍してわずか半年で凝り固まった自分のメンタルモデルに愕然です・・。けれど、本質を見る力を養っていけば可能性はいくらでも広がる期待感にも満ちています。世界の現状、仕組み、捉えかた、対策(ビジョン)の立て方、コミュニケーションと総合的に学べたので、より具体的に動いていけそうです。」

次回の集中ゼミ「持続可能なビジネスモデルを考える力をつける」は、9月10〜11日に開催します。ご自分や会社のメンタルモデルを問い直そう、という方も、ぜひどうぞ!
http://change-agent.jp/news/000142.html

大きく社会が変わっていく時代です。これまでの「前提」が「前提」ではなくなっていきます。その流れを加速していきましょう。そのために、お互いにいろいろと「聞いてみる」ことをぜひ。責めたり批判したりするのではなく、ナイーブに「どうして?」と聞いてみる。

「どうしてそうしているの?」「そうする必要は絶対的なものなの?」「そうじゃなくてもよいかも?」「別の方法でも可能だったりしない?」など、「問う力」の強さを活かしていきましょう!

今度、お皿を持ってお弁当を買いに行ってみませんか?

 

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