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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年06月18日

生産性新聞への寄稿「日本から環境情報の発信を」(2008.06.18)

コミュニケーション
 

すこし前に、生産性新聞に、「日本から環境情報の発信を」という原稿を寄稿しました。許可を得て、その原稿を紹介します。
http://www.jpc-sed.or.jp/paper/index.html

海外への情報発信だけではなく、つねに考えている「伝えるということ」について、いつも思っていることを書きましたので、何かのご参考になればうれしいです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
日本から環境情報の発信を
                                 枝廣淳子


同時通訳者、翻訳者、環境ジャーナリストとして仕事をするなかで、環境の分野でも、情報の輸入過多状態--日本にはたくさん海外の情報が入ってくるけれども、日本の情報はほとんど海外に出ていっていない--であることをつねに実感していました。

「スウェーデンでは」「アメリカでは」と通訳をしながら、「日本にもいい取り組みがあるのになぁ」と思っていました。海外にとって、「日本からの情報がない」ということは、「日本では何もやっていない」ということです。

もちろん日本にも、英語版の環境報告書を作成している企業はたくさんあり、英語ページを用意している政府や諸団体のホームページもたくさんあります。しかし、「情報が存在している」ということと、「その情報が使ってもらえる人に届いている」ということは、別です。英語情報があっても、きちんと伝えるための戦略と活動がなければ、せっかくの英語情報も生かし切れません。

「せっかく日本ではよい取り組みがたくさんあるのに、世界に伝わっていないのはもったいない」――そうした思いから、2002年8月に仲間とNGOジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)を立ち上げました。多くの法人会員や個人サポーター、ボランティアの方々の支援や協力を得て、189ヶ国に情報を配信するなどの活動をしています。
http://www.japanfs.org/index_j.html

JFSは、「こういう社会になってほしい」=持続可能な社会を垣間見せてくれるポジティブな情報を毎月30本発信しています。ちょうどパッチワークのキルトの一片一片のように、私たちの望んでいる持続可能な社会に向かう動きや取り組みのスナップショットです。このような取り組みがあちこちで広がり進めば、ジグソーパズルのように「持続可能な社会」の姿が完成していくことでしょう! 毎日、発信する情報の準備をしながら、ワクワクしています。

JFSの活動から、日本から世界への効果的な情報発信のベースとして、3つ必要なことがあると思っています。

(1)わかりやすく検索し、読むことができる情報が英語で用意され、きちんと更新されていること。

(2)問い合わせ等への窓口を明示し、可能な範囲で対応をすること。

(3)情報を読みにくるのを待つだけではなく、自ら積極的に情報を届けるとともに、そのような情報源があるということを知ってもらうこと。

(JFSでは、配信先開拓チームというボランティアチームが、インターネットで日本からの環境情報に興味を持ちそうな人々を調べ、「このような情報を受け取りませんか?」とセールス(?)しています。このように積極的に情報を届けにいくということは、日本の情報発信にとって、特に重要です)

海外への発信に限りませんが、どのような情報発信であっても大切なのは「伝え方」です。情報を伝えるとは、人にモノを渡すことに似ています。手の小さな人に大きなモノをそのまま渡すことはしないでしょう? 小さく砕いて渡してあげます。小さな子どもには、かがんで目線を合わせて渡してあげるでしょう?情報発信も同じように、「どうしたら受け取りやすいか?」を考えながら差し出すこと――これが伝え方のポイントです。

個人でも組織でも、「伝える力」は、意識し、練習していくことで、向上します。今回はどのように伝えようか?と「計画」し、それを「実行」したあと、何がどこまで伝わったかを「振り返り」をし、次の伝え方を計画するというPDCサイクル(Plan-Do-Check)を回していくことで、より効果的に効率的に伝えられるようになっていきます。

また、伝えるときには、氷山の一角のような単なる「出来事」だけではなく、その出来事を含め、どのような「傾向やパターン」があるのか、そしてその傾向やパターンをつくり出している「構造」はどのようなものなのか――そこまで切り込んでいく分析や解説も併せて出していくことが重要です。特に異文化間の情報のやりとりは、文脈がわからないと、その情報が正しく伝わらなかったり、役に立たなかったりする場合がよくあります。

日本と世界との情報のやりとりには、3つの段階があると考えています。最初の段階は「輸入」です。日本は明治時代以降、海外から情報を輸入するというモデルをつくり上げてきました。いまでも大部分の組織や人々は、無意識のうちに「輸入」中心の情報のやりとりを考えています。
 
第2段階は、日本からの情報を伝えたり、海外からの情報へのフィードバックを返すといった、日本からの発信です。日本ではほんの少しですが、この段階の活動も見られます。

そして、今後求められる第3段階は、単なる「教えてもらったり教えたり」を超えて、それぞれが持てるものを持ち寄って、新しいパラダイムや価値観をつくり出していく「共創型コミュニケーション」です。いま自分たちはどの段階にいて、どの段階を目指しているのか、そのためにどのような取り組みが必要かを考えながら進めていく必要があります。

環境問題に関して言うと、残念ながら、これから温暖化をはじめ、状況は悪化していくでしょう。そのなかで、あきらめたり絶望感に陥ったりする人が出てくる可能性があります。それでも日本からは毎日ポジティブな動きが伝わってくる――「混迷を深める世界にあって、いつも希望と夢と元気がこんこんと湧き出している泉」のような活動を続けていきたいと思っています。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

JFSのボランティアにご興味のある方は、事務局へメールを下さい。折り返し、「ボランティア・メニュー」をお送りします。お好きなチームに入って活動していただくことができます。 info@japanfs.org


それにしても、「伝えること」って、面白く難しく、奥が深いなあ、といつも思います。

私は、もともとは、大学・大学院のときに、カウンセラーになる勉強を通して、相手の心に耳を傾けること、そして、聴いた自分の心を「伝えること」を、ずいぶん考え、試行錯誤したのでした。カウンセラーは、目の前のその人の心にいかにつながることができるか、が勝負なのです。

その後、やはり「伝える」商売である通訳という仕事を通して、同じようにスピーチしても「伝わる人・伝わらない人」がいること、その違いは何か、そして、通訳者として、文化や背景を超えていかに「伝えるか」--自分の「伝える力」を鍛えつつ、他人の「伝える力」の有無からもずいぶん学びました。

そして今はこうやって、講演や執筆、発言、メールニュースといったチャンネルで、やっぱり「伝える」仕事をしているのですものね、よっぽど「伝えること」にまつわることが面白いのでしょうね〜。いやー、本当に面白いです。(^^;

 

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