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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年06月03日

若手専門家による地球温暖化対策審議会からの提言(2008.06.03)

温暖化
 

先日、「若手専門家による地球温暖化対策審議会」から最終報告書の発表がありました。

今後、地球温暖化による影響を受ける世代であり、低炭素社会を築いていく世代でもある若い世代の専門家9人(平均年齢31.7才)が自主的に集まり、低炭素社会づくりについて議論し、12月から計7回の全体会合を通してとりまとめられた提言を最終報告書として公表したものです。

前にメールニュースにも登場いただいた国立環境研究所の江守さんをはじめ、研究者やコンサルタントなどの方々がメンバーです。

4章からなるとても読みやすい報告書です。報告書を読みながら、疑問やさらに知りたいこと・考えたいことを確認しつつ、自分自身の考えをつくっていくという読み方もできます。審議会の方のご快諾を得て、ここから第1章をご紹介します。続きはウェブからダウンロードしてどうぞ!(要約版もあります)
http://wakateshin.exblog.jp/8889779/

★構成と主な提言
【第1章】低炭素社会をつくる「心・技・体」
低炭素社会をつくるためには、「心・技・体」が必要不可欠。
「心」低炭素社会に向かう意志と価値観の転換、
「技」温室効果ガス排出量を減らす技術、
「体」低炭素に暮らせる社会制度とインフラ
逆に3つが揃えば、相乗効果で低炭素社会を実現。

【第2章】低炭素社会のビジョンとロードマップ
低炭素型の技術を普及させて、工業製品の消費量と貨物輸送量を半分に、移動量を2割減らし、家庭や業務で使うお湯や光などを15%減らせば、2050年までに排出量を現在の半分にできます。

【第3章】日本の役割、戦略、政策
日本は、2050年までに現状比で約80%の削減を目指すことが必要。
社会全体が低炭素に向かうために、排出量取引制度と炭素税を組み合わせた経済的インセンティブが必要。
途上国を直接的に低炭素社会へ発展させるために技術移転を積極的に行うことが必要。

【第4章】あなたにできること
生活者にできること:モノやエネルギーの豊かさでなく、ココロの豊かさを求めること。
政策立案者にできること:低炭素社会のビジョンをもって、低炭素社会をつくるための社会の仕組みをつくること。
企業経営者にできること:社会の低炭素化への変化をビジネスチャンスにすること。

【付録】
Ⅰ基礎理解編
Ⅱ低炭素社会の試算
Ⅲ国際枠組の選択肢


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

第1章
低炭素社会に向けた「心・技・体」

本審議会からのメッセージは、ずばり「心・技・体」です。低炭素社会は、「心」―低炭素社会に向かう意思や価値観の転換、「技」―温室効果ガスを削減できる技術の開発、そして、「体」―社会を低炭素にしていく社会の仕組みとインフラの3つが揃うことで実現できるのです。

地球温暖化を止めるために温室効果ガスの排出量を削減することと、より多くの人がより豊かに暮らせる社会へ発展させていくこととは、相反するように思われがちです。それが国際レベルでも、日本国内レベルでもあらゆる主体が同じ方向に向かっていかない原因だと考えられます。そのジレンマを突破する鍵が「心・技・体」の相乗効果です。「心・技・体」それぞれが一歩ずつ低炭素社会に向かうことで、お互いにその歩みを強くし、より低炭素社会に向かっていけるようになります。

そこで、本報告書では、目標とする排出量について考えをまとめ、その上で、安定した気候と豊かな暮らしの両方を手に入れるため、低炭素社会をつくることができる「心・技・体」を提案します。

●世界全体の目標排出量
2007年に公表されたIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の第四次報告書では、近年の地球の温度上昇は、人為的な原因による温室効果ガスの排出増加が主たる要因であるとほぼ断定しました。また、これらの温度上昇に伴って異常気象の増加や農業への影響など様々な問題が人間社会に降りかかる可能性を指摘しています。現在、我々は生活のあらゆるシーンでエネルギーを消費し、それに伴って温室効果ガスを排出しています。気候を安定化させるために温室効果ガスの排出を削減し、エネルギーを多く消費する前提の下に成立している我々の社会を転換させることはそれほど易しいことではありません。

そこで、今後私たちがどの程度の温室効果ガスを排出することができるのか、先ず、世界全体の目標排出量について考えていきます。

●科学が示す究極目標
私たちの社会が持続可能であるために、また、文明が存続し続けるために、人類が排出を許される温室効果ガスの量とはいったいどの程度なのでしょうか?この問いに対して科学者たちの出した答えは比較的シンプルで明快です。「自然が吸収できる量」以下に抑えることができればいいというのです。現在、私たち人類は、自然が吸収できる量の倍以上の温室効果ガスを排出していると言われています。できるだけ早く世界の温室効果ガスの排出量を自然の吸収量以下にすることが、今求められているのです。

●求められる決断
では、「いつまでに」このような大幅な削減しなければならないのでしょうか?残念ながらこの質問に関しては、科学的に明確な答えがありません。それは、この質問の答えには人々の価値判断という要素が多分に含まれるためです。温暖化が進めば進むほど、私たちが受ける悪影響も大きくなりますが、一方で温暖化の対策にはコストがかかります。この悪影響の程度と対策コストを定量的に評価することは難しく、定量的に計算した場合も、どの程度のお金をかけてどの程度の影響を許容するかは、私たちの価値判断にかかっていると言えます。科学者が示す地球温暖化の様々な「影響」と、それらを緩和するための「対策コスト」、取り返しがつかない変化を引き起こす「リスク」、現世代と将来世代の「公平性」、さらには科学そのものの「不確実性」など、様々な要素を総合的に判断して、排出量を“いつまでに”抑制していくのか決断しなくてはならないところにきています。

●“2050年までに現状比半減”という目標
安倍前総理が2007年に発表した「Cool Earth 50」では、2050年までに世界全体で現状から温室効果ガスの排出量を半減させることを世界共通の目標にすることを提案しています。この目標に対しては、賛否両論があり、科学の不確実性や人々の価値判断を含めて今後も議論を続けていく必要があります。私たち若手審の委員の間でも、この目標について完全に意見が一致したわけではありません。しかし、程度の差こそあれ、現状から温室効果ガスを大幅に削減しなければならないことを明確にした点では方向性は間違っていないと考えています。さらに、今後50年間には発展途上国の人口爆発と経済急成長が予想されていることを考えると、いつまでも決断をせずに対策を怠っていては、後になって手の打ちようがなくなってしまうという大きなリスクをはらんでいます。その意味では、少なくとも暫定的に2050年までに半減させるという野心的な目標を地球に住む全ての人の共通目標とすることは、意義があるように思えます。その上で、今後新たな知見が得られ、地球温暖化の影響が現在の予想より大きかったり、小さかったりすれば、そのときに目標を見直せばいいのです。少なくとも将来に生きる人々に選択肢を残す必要があります。以上のような観点から、本報告書では、現時点で目指すべき目標として「2050年までに世界全体の温室効果ガスの排出量を現状比で半分にする」ことを前提に提案を構築することにしました。

ただし、この目標は非常に高い目標であり、生半可なものではないことを一言加えておきます。本審議会にて、この目標を達成するための技術試算を行いましたが、2050年までに普及可能な技術を野心的に導入しても不可能であり、工業製品の消費量や人の移動量、貨物輸送量、家庭や商業施設で利用している光やお湯などのエネルギー量といった物理的活動量を抑制することも必要になります。地球上のあらゆる主体が相当な覚悟を持つ必要性があります。

●低炭素社会に向けた「心・技・体」
2050年までの間に大幅な削減を実現し、低炭素社会を実現するためには、社会そのものが大きく変わらなければなりません。このような社会変革を起こすためには何が必要なのでしょうか?若手審では、低炭素社会を実現しようとする人々の強い意志(心)と、それを実現するための様々な技術(技)、そして低炭素社会の実現に向かって努力する人々や技術を支えるための社会の仕組みやインフラ(体)といった3つ、つまり「心・技・体」が必要だと考えています。これらは、どれかひとつがあれば低炭素社会が実現できるというものではありません。これら3つの要素が有機的に組み合わされ、お互いに相乗効果を持って進まない限り、低炭素社会という大きな目標を実現することはできないのです。

図1-1 低炭素社会に向けた「心・技・体」(ウェブをごらん下さい)


●心:低炭素に向かおうとする意志が社会を変える
低炭素社会を実現するために不可欠なもののひとつは、今までの社会構造から脱し、低炭素社会というまだ見ぬ新しい社会をつくり出そうとする人々の意志です。ここでいう「人々」とは、政治家、企業、メディア、学生、主婦、農家・・・などさまざまな立場の人であり、それぞれの人がそれぞれの立場でできることを考え、行動していくことが必要です。これはとても大変なことのように思われますが、実際は心構えを少し変えるだけでできることもたくさんあります。低炭素技術を開発する企業や低炭素社会を目指す政治家を応援する、商品を選ぶ際に環境負荷についても考えて選択する、移動する際はできるだけ徒歩や自転車、公共交通機関を活用する、食事はできるだけ旬のものや産地が近い食材を選んで食べるなど、今からできることも数多くあります。今すぐ全ての価値基準を低炭素のみに合わせる必要はなく、低炭素社会に移行することの重要性を意識しつつ、できることから少しずつ変えていけば、積もりつもって社会変化の大きな力となるのです。

●技:不可能を可能にするための有効な道具
私たちが目指す低炭素社会は、人々の活動が極端に制限されるような社会ではありません。一定の利便性や快適性を維持しつつ、人々が安心して暮らせる楽しい低炭素社会を実現するためには、やはり「技術」の存在は欠かすことができません。これまでも技術は様々な不可能を可能にしてきました。大切なのは、これまでの文明や技術を否定して全てを捨て去ることではなく、技術開発の方向性を低炭素社会の実現という目標に向けることなのです。エネルギーを効率的に使う省エネルギー技術、CO2を排出しない太陽や風力など自然のエネルギーを有効に使う再生可能エネルギー技術、今まで捨てられていたエネルギーを使う未利用エネルギー技術、人々のライフスタイルを低炭素化に導く「見える化」技術などなど、低炭素社会を実現させるための技術はたくさんあります。

●体:人や企業の努力に応える仕組みとインフラの整備
現在の社会では、省エネ製品を購入したり、外出する際に車ではなく電車で移動したり、CO2を減らすような努力をしても、あまり得をしません。それどころか、低炭素型の製品は一般的な製品よりも比較的高価な場合が多いため、余計にお金を支払っているケースの方が多いかもしれません。企業にとっても同じです。低炭素に向けた努力はイメージアップや社会的責任の域を出ておらず、追加的に投資をしなくてはならないため大きな負担となっているケースが多いのです。これでは一生懸命努力をしている人が報われず、一方でCO2を排出している人や企業の方が経済的に得をしてしまう可能性すら出てきます。低炭素社会を実現するためには、低炭素社会に貢献した人や企業が得をする仕組み、誰もが温室効果ガスの排出を減らしたくなるような社会制度が必要不可欠なのです。

また、社会インフラも変えていかなくてはなりません。いくら公共交通機関を利用したくても、自宅や目的地の近くに駅がなければ自動車を使わざるを得ない地域もあるでしょう。オフィスや住宅地、商店街などの配置も含めて街のデザインを工夫し、徒歩や自転車が安心して通行できる都市を作れば、移動距離を短縮したり、自動車から徒歩や自転車、あるいは公共交通機関へのシフトを後押ししたりすることができるはずです。また、太陽光発電や風力発電などの再生可能エネルギー技術を支える系統インフラ、産業や発電所などであまった熱を他の施設で利用するための熱供給インフラなどのエネルギーインフラも低炭素社会を実現するためにはなくてはならないインフラ設備です。低炭素社会を支える「体」なくしては、健全な「心」と「技」も宿らないといえるでしょう。

●「心・技・体」の相乗効果
一般の人々にとっては、「心」の部分はなんとか変えることができても、新しい技術を開発したり、制度やインフラをつくることは困難かもしれません。また、企業にとっては技術開発を頑張っても、それを支援してくれる「体」や人々の「心」がないと、経営が成り立たなくなってしまいます。一方で、制度を導入する立場にある国は、制度の導入に対して反対が強いため導入できないと主張しています。このように、これまでの「心・技・体」は、それぞれがそれぞれを言い訳にする関係にあったと言えます。

しかし、これらを裏返せば、「心・技・体」は相乗効果を持つといえるのです。例えば、人々の意識、つまり「心」が変わり、低炭素社会を実現することの重要性が本当に浸透すれば、「技」や「体」をよい方向に転換することができます。具体的には、消費者が低炭素型を好んで選ぶようになれば、企業にとっては低炭素技術開発に力を入れやすくなり、「技」が発展・普及しやすくなるでしょう。また、このような企業には金融機関からの投資も増えるでしょうから、技術開発はさらに促進されるかもしれません。また、低炭素政策を打ち出す政治家や企業経営者を支持する人が増えれば、社会の仕組み「体」の導入も進むことになるでしょう。

また、様々な低炭素技術「技」が開発され、それらが競争力を持つようになると、人々や企業にとって低炭素技術を選択しやすくなります。さらに、製品の製造時・使用時・廃棄時のCO2排出量が一目でわかる「見える化」技術が普及するようになると、努力の成果がはっきりとわかるようになるため、人々の「心」をもっと後押しすることができるかもしれません。また、CO2排出の責任の所在が明確になるため、みんなが納得する透明性ある制度「体」の導入もしやすくなるでしょう。

そして、低炭素社会に向けた努力を行う人が報われる(得をする)ような、新しい社会の仕組みやインフラ「体」が整備されると、排出量削減がそのまま人々や企業の利益につながったり、利便性の向上につながったりするため、「技」や「心」の後押しになることは言うまでもありません。

このように、「心・技・体」は三位一体であり、これらの相乗効果を巧みに利用し、「心・技・体」の全てを進めていくことができれば、低炭素社会の実現が可能になります。そのための第一歩は、一人ひとりが自分にできる「心・技・体」を意識して、行動することなのです。


☆若手審の提言
「心技体」で低炭素社会を実現させるための提言を第2章〜第4章にまとめています。

第2章では、「心・技・体」が目指すべき低炭素社会ビジョンについて提案します。その中で、低炭素社会に必要な技術等の目安を知るために技術や物理的活動量などの評価をし、2050年の温室効果ガス排出量を試算しています。また、1人当たり消費ベース排出の機会が平等になる社会を構築するために将来的な国際枠組についても提言しています。

第3章では、世界が低炭素社会を目指す上での日本の役割と日本のニーズから、日本が採るべき戦略と政策を提言します。特に日本は、どの国よりもコマメに省エネするという「心」とエネルギー利用効率の高い「技」を持っていますが、「体」である低炭素化を促進する社会制度がありません。低炭素社会を実現するために、日本に必要な政策について考えていきます。

第4章では、生活者、企業経営者、政策立案者がそれぞれの立場で低炭素社会へ向かう「心」を持ち行動することで、「技」も「体」も強め、低炭素社会を実現させるために、その主体ごとに行動できることを提案します。

<以上、第1章>

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

報告書はこちらからダウンロードできます。
http://wakateshin.exblog.jp/8889779/


【若手専門家による地球温暖化対策審議会とは】
地球温暖化や環境問題の若手専門家が個人の立場で集まり、地球温暖化対策について議論し、提言をとりまとめた自主的な会議です。

私たち委員(平均年齢31.7才)は、温暖化による被害を受ける世代であるとともに、2050年にかけて低炭素社会を構築していく中心となる世代です。まさに当事者である若い世代が自ら、低炭素社会への進むべき道を提言として発信しました。

【若手審ホームページ】
http://wakateshin.exblog.jp/7612170/

 

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