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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年05月14日

第1回 政策手法分科会(2008.05.14)

温暖化
 

月曜日に開催された総理の「温暖化に関する懇談会」の「政策手法分科会」での発言録です。最初に一巡、5分ずつ、ということで全委員からの発言がありました。(自分の資料はまたウェブにアップします)

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ありがとうございます。枝廣でございます。日本の国として長期の目標を出していくという方針が出てきたようで、具体的にそれをどう達成するかという議論をこの分科会でできることを、わくわくと楽しみにしてております。

2つ目に「ポリシーミックス」というふうに書いてあるのですが、このように大きく、60〜80%であれ――私は70〜80%という数字を出しておりますが――大きく減らすとすると、どこかだけ表面的にやって済むという話ではありませんので、総力戦になってくると思っています。

アメリカの議員の方の言葉を借りると、アメリカでは「これはアポロ計画に匹敵するものだ」と、そのような意気込みで取り組んでいるという話も聞いております。

同じような形で、産業界だけとか民生だけではなく、まんべんなく、そして減らすだけではなく、再生エネルギーを増やしていく。そして吸収源である森林をどう強めていくか。そういった意味でもポリシーをミックスしていく必要があります。

また、いま植田先生からの話にもありましたが、新しい仕組みを入れるだけではなくて、すでにある仕組みをどのように修正していくか。もしくは逆効果の補助金があるとしたら、そのようなものを洗い出して廃止していく。このような幅広い形で進めていく必要があるというふうに思っております。

進め方のところ、「ホップ」「ステップ」「ジャンプ」という書き方をしておりますが、総量の上限は、洞爺湖サミットで、おそらく何%というのが出ると思っております。それを部門間でどのように分けるのか。

ヨーロッパで言えば、産業界は45、民生・運輸で55というふうに分けて、それぞれの減らし方を進めているわけですが、日本でも同じように、産業界がそのうちどれぐらい、民生・運輸がどれぐらいと決める。そしてたとえ民生がうまくそのとおり削減できなくても、その分を産業界に上乗せするような形ではなく、民生は民生としてしっかりと削減していく。そのような形を取る必要があると思っております。

では、実際に産業界の二酸化炭素を減らすことを考えたときに、手法に求められること、4点挙げておりますが、本当に減らせるということ、本当に長期的に減らすためにイノベーションが促進できる仕組みであること、そして実際につなぐかどうかは別として、グローバルに通用するスペックでつくっておくこと。このような点が大事な点かと思っています。

具体的に、本当に減らすという合目的性だけを考えれば、おそらくキャップという規制だけでも十分かもしれません。規制だけでは動きにくい、そこは市場の融通性を活かそうということであれば、それはキャップに加えてトレードが入ってくる。これが排出量取引という形になるかと思います。

それから、イノベーションを実際に促進していくためには、やはりリードタイムが必要だと思います。特に産業界、開発や新しい実用化に時間のかかるようなものもありますので、どのようにリードタイムを確保した形で産業界のキャップなりトレードをしていくのか。このようなことが大事かと思います。

それから日本の場合、導入コストという点で言うと、既存の仕組みがあり、かなりいろいろ、データ等そろっているものもありますので、たとえば改正省エネ法であるとか、今度始まります国内CDMといったものをいかに上手に活かしていくか、発展的に活用していくかという視点も大事かと思います。

産業界向けの手法で、いま言いましたように規制だけでも、もしかしたらいいかもしれない。しかし、より効率的に削減するのであれば、取引のメカニズムを入れるという形になるかと思います。

また自主的取り組みでも、経団連が自主行動計画で、最初に約束したように実際減らしているわけで、もしそれが有効なのであれば、それで60〜80%という削減ができるのであれば、それもひとつかもしれません。ただ、自主行動計画は、業界別ではなくて個別企業ごとにやったほうがいいのではないかなと思っています。

ひとつの、これは単なるアイデアですが、2012年までは自主行動計画の目標をキャップとして、国内CDMと独立系のクレジット――「自分の会社は独自に減らした。それを買ってください」という売買の仕組みができないかと考えています。この間に第三者認証そのほか制度設計を図っていく。そして2013年から2020年で、総量目標によるキャップを出して排出量取引を行う。2020年を目指してイノベーションや投資をするような、そのような制度設計が可能ではないかと考えています。

次に、民生をいかに減らすかということですが、民生の二酸化炭素の排出量というのは、ここに書いてあるように、活動量と活動量当たりのエネルギー、エネルギー当たりのCO2で計算できます。これまで民生の取り組みは、主に意識啓発をやっていました。省エネ家電に切り替えなさい。テレビを観る時間を少し減らしましょう。しかしそれだけはなかなか減っていないのが実情です。

これまで、私も含め、民生に対しては意識を啓発すれば、つまり意識が高くなれば行動するという無意識の前提があったのですが、実際はそうなっていないと思っています。

ですから、意識があってもなくても、実際に行動につなげるためには、それも早く多くの人の行動を変えるためには、やはり値札を変えることが大きな要因になってくると思います。レジ袋の削減でも、意識啓発だけでは10%程度の削減だったのが、5円、10円と有料化しただけで80〜90%という削減につながっているのも、ひとつの例だと思います。

今回の懇談会に先だって、800人ほどの一般の市民を対象にアンケートを行ったのですが、やはり周りの人や日本全国、全員を動かしていくには、やった人が得する仕組みを早くつくってほしいという声がたくさん出ていました。

最後の点ですが、再生可能エネルギーです。エネルギー消費量を減らすだけではなくて、排出係数を減らしていかないことには二酸化炭素は減りませんので、そちらについて、技術だけではなくて、普及を進めるための革新的な制度が必要だと思っています。

この点についても、800人を対象としたアンケートを見ていましたら、やはり太陽光発電など、「実際にやりたいのだけれども、導入のコストが高くてできない」、ですから、「最初のコストのところを何とかできないか」という声がたくさん集まっていました。

再生可能エネルギーも、これまではマージナルなものという位置づけがありましたが、今後のエネルギー危機や、原発も、日本は地震国ですので、たびたび止まるということを想定せざるを得ない以上、やはり再生可能エネルギーを基幹エネルギーとしていくような、そういった社会づくりを、この低炭素型社会をつくっていくなかでしていけたらいいのではないか、というふうに思っております。

以上です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

委員(特に産業界の代表の方々)から、排出量取引導入に対する反論や批判が相次ぎ、「日本の進んだ技術を世界に広めることこそ、日本の貢献だ」という主張が何度も繰り返されました。2回目の発言を求め、話した内容です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ありがとうございます。そもそものところかもしれませんが、細かい議論に入っていくときに、やはり危機感の共有を確認したいなと思います。

そもそも、福田総理も「危機感」「切迫感」ということをおっしゃっていましたが、温暖化は「このままではまずい」「早く止めよう」というところから始まっていることと、IPCC等、科学的知見を見ても、時間との戦いであるといった状況です。

時間が無限にある状況でしたら、いろいろ様子を見ながら、何がいちばんいいか考えていけるでしょうが、おそらくいまの状況では、走りながらより効果的にしていくことを考えざるを得ないであろうというふうに思っています。

日本の技術が素晴らしいのは本当にそのとおりで、私も日本の情報を世界に発信するNGOをやっておりますので、日本の技術に対する世界の期待は非常に高い。それを世界に展開することで、世界全体のCO2を減らしていくうえでの貢献、これは非常に大きな期待もあるし、実際にできるのだと思います。

しかしその一方で、やはり日本自体も減らす必要がある。これはおそらく誰も反論をされるものではないと思います。「2050年に世界で半減」と言ったら、日本としてもそれ以上の削減が必要であるというのは自明ですから、やはり日本が減らす必要がある。

その国内を減らすための経済的な手法、政策的な手法を考えているのではないかと。それを世界にどう貢献するか、世界とどうリンクするか。もちろんそれも大事ですが、日本の国内の現在の排出量をいかに60、70、80%減らすかということを考えなくてはいけないと思っています。

いまは、民生ではなくて産業界の排出を減らすというところに議論が集まっていると思うのですが、いろいろEUやほかでやられていることに関して、「問題がある」とか「実効性がどうか」という話はあるのですが、それでもやはり減らしていくということを考えると、EUの排出量取引制度は「壮大な実験だ」という
話がありましたが、あれは壮大な実験をして、いろいろ世界の人たちに役に立ってくれているわけで、日本もやはり、そういった意味では、何かしらの世界に役
に立つような壮大な実験をするのか。

やはり批評家だけではなくて、実際にやっていく必要がある。それがベストではなくて、セカンドベストかもしれない。しかしリーダーシップを取ってやっていく必要があると思っています。

具体的に、私は経済の専門家ではなく、この辺の手法を詳しく知っているわけではないのですが、先ほど茅先生がおっしゃっていた「一定年目標」で、京都議定書方式ですが、そういった形での排出量取引というのが可能かどうか。

たとえば2020年ということを目標年にして、2013年から入りますが、実際には2020年の段階で帳尻が合っていればよいという形であれば、おそらく産業界も技術革新のリードタイムが取れるであろうと思っています。

それと同時に、2012年までも、いま実際にある自主行動計画や国内CDM等の仕組みをもう少し発展させて、日本らしいやり方を行っていくためのいろいろな試行錯誤をやっていく必要があるのではないかと思っています。

排出量取引が唯一の方法だと思っているわけではないのですが、ほかに日本の60%、80%という削減を可能にする手法が、いまのところはっきと私には見えないので、おそらく排出量取引が、いまセカンドベストかもしれないけれども、これで進んで、ただ、決まってしまったものは変えられないというのではなくて、やりながら改善するような仕組みを入れ込んだ形でできないだろうかというふうに思っています。

以上です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

大きく減らさざるを得ない--そのときには、これまでのやり方や考え方を大きく変え、試行錯誤で改善するつもりで、それでも大きな一歩を踏み出す必要がある。それなのに、、、とやりきれない思いと、効果的に反論できなかった自分に忸怩たる思いです。(委員リストを見たときからわかってはいましたが、残念ながら劣勢です)

こういう場面では反論や批判を前面に出し、それでも首相なりの決断で導入が決まれば、「自分たちは最後まで反対したんだ」と自分たちの属する世界(業界など)に言うことができる、、、

そんなシナリオではなく、もっと前向きに「やるんだ」と取り組めない日本って、どういうシステムになっちゃっているんだろう……?

企業対象の世論調査では、「排出量取引制度の導入に賛成する」との答えがかなりの割合に上っているという事実と、主要排出業界である鉄鋼や電力の業界団体の代表の方々が展開する強硬な反対と、どう考えたらよいのだろう……?

この政策手法の分科会は、次回は21日に開催されます。登録制で傍聴できますから、ご興味のある方はぜひどうぞ。その案内も含め、懇談会と分科会の議事について(各委員の発言録も)、以下にあります。

地球温暖化問題に関する懇談会
環境モデル都市・低炭素社会づくり分科会
政策手法分科会
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tikyuu/kaisai/index.html

今の時点で、だれが何を述べたのか、きっちり記録を保存して、5年後、10年後に検証してみたいなと思います。発言に対して未来の時点での責任がフィードバックされるしくみがきっと必要なのだと。。。

 

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