ホーム > 環境メールニュース > エコイノベーションで世界を変えよう! 後編(2008.01.20)

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年01月20日

エコイノベーションで世界を変えよう! 後編(2008.01.20)

新しいあり方へ
 

[No. 1425] で前半をお届けした、日立環境財団の「環境NPO助成」受領団体による活動報告会での基調講演「エコイノベーションで世界を変えよう!」のつづきです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

確かに技術のイノベーションは大事です。たとえば白熱灯じゃなくて省エネ型電球に替えただけで、同じように電気を使っていても二酸化炭素は減るわけです。技術の革新はとても大事です。

でもほかにも、もうひとつ大事なのは、社会的なイノベーションです。つまりそれは、政治や政策のイノベーションであり、経済の仕組みのイノベーションであり、そして文化のイノベーションでもあります。これもとても大事だと思います。

技術は見えやすいし、これまでの価値観を変えなくてもいいので、皆さんやりやすいと思います。でも、これからもっと本当に必要になってくるのは社会的イノベーション、もしくはこの組み合わせ、つまり技術と社会のイノベーションの組み合わせではないかと思っています。

この写真は、私が参加をしている活動のひとつの「100万人のキャンドルナイト」です。もうじき冬至なのでまたやりますが、冬至と夏至の夜に2時間電気を消して、ロウソクの明かりでスローな夜を送りましょう。それだけの働きかけです。

「100万人の」とつけたのは、それを始めるとき、私たち幹事は、「いつか100万人ぐらいやってくれたらいいね」と思ったのですね。ところがふたを開けてみたら、最初の年に500万人参加をしてくれたそうです。環境省と毎日新聞が調べてくれたのですが。いま参加者は、800万とも900万ともいわれています。全国でいろいろなイベントが行われ、多くの施設が消灯してくれます。キャンドルナイトは、ひとつの「社会的イノベーション」だと思っています。

「2時間電気を消したって、省エネにはならないじゃないか」などと言われることもありますが、私たちはそれよりも、立ち止まる時間、ちょっと振り返る時間、考え直す時間を提供したくて、やっているのですね。そういった意味で、文化的イノベーションだと思うのです。こういう社会的・文化的イノベーションって、これまであまり考えられてきませんでしたが、とても大事です。

温暖化でもほかの環境問題でも、環境以外の問題でも、何か物事を変えようと思ったときに、少なくとも3つ必要なことがあると、私は思っています。

ひとつは「意識啓発」。たとえば皆さんに温暖化のことを知ってもらう。何をすればいいかわかってもらう。これはいま、環境省もとても力を入れているし、日本ではとても進んでいるところです。もうひとつは「技術開発」です。たとえば、同じように使っても省エネ型の冷蔵庫などですね。

もうひとつ大事なのは、「行動をしたくなる仕組み」です。望ましい行動をしたくなる、開発された技術を使いたくなるような仕組みです。日本はここがとても弱い。ですから、たとえばソーラーパネルの太陽光発電の技術は世界一なのに、設置容量はドイツに抜かされています。それは技術がないからでも意識が低いからでもなく、「広げるための仕組み」がないからです。

この「広げるための仕組み」は、社会的イノベーションです。技術イノベーションがあって、それを広げるための社会的イノベーションがあって、はじめて実際に社会の中で使われ、広がっていくのです。

日本の政府は、この仕組みを作るのが弱いから、私たちがつくっていかないといけない。働きかけていかないといけない。ヨーロッパで環境が進んでいるドイツにしてもスウェーデンにしても、この仕組みづくりがとても上手です。ですから、特に日本では、イノベーションといってもこの社会的なイノベーションに切り込んでいく必要があると思っています。

イノベーションについて大事なことがいくつかあると考えているので、その話をしていこうと思っています。

まず、「役に立つものをつくる」というのが大事ですね。イノベーションって新しいものをつくるということですが、新しければいいかと言うと、そうじゃなくて、新しくかつ役に立つものでないと、やってもしょうがないわけです。

もうひとつは、「イノベーションを広げる」ことが大事。たとえば技術でも社会の仕組みでも、新しいライフスタイルでも、あるイノベーションができるということと、それが広がるというのは別物なのです。できていても広がらない限り、効果を生み出しません。

ですから、役に立つものをつくって、しかもそれを広げるという2段階が、イノベーションについては必要だと思っています。2段階とも同じ人がやる必要があるかどうかは別ですが、この2段階がないと、イノベーションが社会の役に立つことができません。

まず最初の、本当に役に立つものをつくり出す。そのために何が必要か。2つのことをお話ししたいと思います。

ひとつはビジョンを描くことです。このイノベーションができたら、どういう世界になったらよいと思っているの? どういう世界にしたいから、どういうイノベーションが必要なの? 

ビジョンを描くということでバックキャスティングの話をよくしますが、現状からスタートして「いまあれができる」「これができない」と考えるのではなくて、そもそもどうありたいの? そもそも何が理想像なの? というところを先につくって、そこから振り返って現状に足りないところを埋めていく。これがバックキャスティング型のビジョンのつくり方です。

恐らく、助成を受けていらっしゃる団体の皆さんも、「いまこれができる、あれができる」というよりも、「こういう社会にしたい」「こういう地域にしたい」「そのときに、いま自分たちは何ができるだろう?」という考え方をされているところが多いのではないでしょうか? バックキャスティング型で考えられているんだと思います。

本当は、国もこういったふうに考える必要があります。いま何ができる、という現状の延長線上で6%、「できる」「できない」という話をしているんじゃなくて、そもそも31億トンしか吸収できないのに72億トン出しているわけだから、70%減らさなきゃいけないというのは、物理的な厳然たる事実ですよね。

なので、「いつできる」とか「どうやってやる」というのはまず脇に置いておいて、まず「70%減らす」というあるべき最終目標を掲げて、そこからいまを見たときに、「じゃあまず何をやっていきましょう」と考えていくべきです。国だけではなく、地域もそうですし、企業もそうですし、NGOでもそうです。

私もNGOを運営しているのでよく思うのですが、NGOの運営そのものも同じ考え方だと思います。「いまの自分たちに何ができる」「この問題があるから、これはできない」--日々そういうことはたくんさんありますが、でも、「私たちの組織は何をつくり出したくてやっているの?」「30年後にこの国やこの地域をどういうふうにしたくて、この活動を立ち上げたの?」--その思いがとても大事になることがよくあるのだと思うのです。

もうひとつ、ビジョンと並んで大事なことは「全体像を把握する」ことです。私がいま力を入れているシステム思考という考え方です。私たちは問題があると、自分の見える範囲で問題の原因を考えますよね。そして、自分の見える範囲で、解決策を考え、その解決策に飛びつきますよね。

しかし、それが本質的な解決ではないことがよくあります。見えている解決策に飛びつく前に、「この問題は何につながっているんだろう? その先は何につながっているのだろう?」と、つながりをたどって全体像を見ることができれば、別の本質的な解決策が考えられるでしょう。このつながりをたどって、できるだけ全体像を見る--これがシステム思考のアプローチです--が、いまとても大事になっています。

たとえば、いまこのアプトーチを欠いているために問題を起こしそうなのがバイオ燃料です。バイオ燃料はとても大事なものですし、皆さんのなかでも活動されている団体があると思いますが、単に温暖化対策、ガソリンの価格対策でバイオ燃料を世界中が大量に使うことになると、いろいろな問題が出てきます。

たとえば、食べ物の値段が上がっていく。いまそうなっていますね。レスター・ブラウンによると、100リットルのタンクをバイオ燃料で満タンにすると、1人が1年分食べる穀物を使ってしまうといいます。

ですから、お金持ちの自動車の燃料を環境にやさしくするために、貧しい人がますます飢えるという別の問題が起きてしまう。もしくはブラジルあたりでは、いま輸出用のバイオ燃料を大量につくるために、熱帯雨林を切り開いて大豆やサトウキビを植えている。そうすると砂漠化が進んだり、生態系が破壊されたり、やはり別の問題が起きる。それだけではなく、熱帯雨林というのは、二酸化炭素吸収源として重要な役割を果たしているのに。それを切ってしまっては、吸収量が減ってしまいます。ですから、温暖化対策のためのバイオ燃料だったはずだったのに、逆に温暖化を悪化させてしまう危険性があるのです。

ですから、いま、政府や商社がやろうとしているような、「とにかくバイオ燃料だ」「大量に輸入しろ」ではなくて、日本でバイオ燃料をやるとしたら、どういうやり方が必要なのかを考える必要があります。たとえば間伐材とか建設廃材とか、稲わらとかごみとか、そういった日本にあって不要なものでバイオ燃料をつくればいい。日本にもそういう取り組みはあるのですが、主流派に応援されていないので、まだまだ小さい。私たちも応援していかないといけないですね。

私たちが何かをやれば、必ず何かに影響を与えます。私たちは、良かれと思ってやっても、良かれだけではない影響がある可能性もあります。これは、NGO、NPOが活動するときに、もちろん企業もそうですが、考えなくてはならないことです。「知りませんでした」「想定外でした」と言うわけにはいかない。つながりは必ずあるのですから。

私たち、エコイノベーションをやりたい人たちは、その問題があったときに、問題に正攻法で直接ぶつかっていくだけではなく、それが何につながっているのか?そして、一見離れているけど、ここを押せば、小さい力で、実はひっくり返せるというレバレッジ・ポイントはどこなのだろう? そんなことをぜひ考えていきたいなと思います。

もうひとつ、エコイノベーションに関して、私自身のことでも思っていることを話します。いまは、エコイノベーションの種に事欠かない時代です。やらなきゃいけないことはいっぱいあるし、できることはいっぱいあるし、環境は問題だと社会が認識し始めているから、あれもやってほしい、これも重要じゃないか、とあちこちから要請や要望などがいっぱい皆さんのとこに来ると思います。

そういう時代こそ、私たちは気をつけないといけない。つまり、こういう時代には、何をやっても役に立つんだと思います。でも、だからこそ、「本当に自分は何をやるべきか」を考えなくてはいけない。

自分にしても、自分の組織にしても、時間もエネルギーも限られているはずです。その限られたエネルギーや時間をどこに投下するのが、いちばん社会の役に立つのか? いちばん自分たちがやりたいことにつながるのか?--それを考え、ときには人々のお願いや依頼を断ってでも、守り抜く必要がある。そう私は思っています。

いろいろなことをやってほしい。これもいいんじゃないか、あれも役に立つんじゃないか--いろんなことをみんなが言う時代になっている。それだけ関心が高いのはうれしいですが、NGOやNPOは人々の依頼を満たすためにあるわけではなく、自分たちがやりたいことをやるために組織をつくったはずですよね。

なので、それをやって本当にどれぐらい役に立つのか? そしてそれは自分たちの特性や持ち味とどれぐらいマッチしているのか? それをいつも吟味しながら活動を選んでいかないと、あっちもやり、こっちもやりしているうちに、薄まっていってしまう。そして何がやりたいんだかわからなくなってしまう。いま活動への追い風が吹いているからこそ、そういった危険性が出てきているなと思うのです。

もうひとつ、最後に「広がる」という話をしておしまいにしようと思います。新しい考えや技術がどうやって広がるか--「イノベーション普及理論」が参考になります。

『イノベーションの普及』 エベレット・ロジャーズ (著)  翔泳社

新しい考えや技術などは、最初なかなか離陸しない。それで離陸してから浸透するというものですが、どうやって離陸させるかというのが、いちばん大事なところですね。私たちNGOでやっていても、普及期まで来たら、ほっといてもいいわけです。どうやって普及させるか。最初の離陸をさせるか。

よく思うのですが、これが大事、これを広めたい、これを伝えたい。でも、その熱い思いだけではつながらない、伝わらない、続かないと思います。どうやったら広がるのか。広がる構造をどうやってつくり出せばいいか。それは私たち広げたい人が、戦略的に考える必要があります。ただむやみやたらと、みんなに言えば広がるかというと、そういうものでない。

イノベーションはどうやって広がるか? まず最初につくる人がいます。「これがいいよ」もしくは「こういう技術をつくったよ」。ただ、最初につくり出す人は、コミュニケーションがあまり上手でないことが多く、特に研究者とか思想家はそうですが、それを通訳する人が必要なんですね。

「この人が言っているのはこういうことなんだよね」「こういうふうに役に立つんだよ」「要するにこういうことなんだよ」――このように推進してくれる人がいて、それで社会のなかでもフットワークの軽い、アーリー・アダプターと、マーケティングで呼ぶ最初に動く人たちがやってみる。その様子を見ていて「ああ、大丈夫そうだ」と社会の主流派は最後に動きます。

なので、皆さんがもしいま何か広げたいと思っているのであれば、いま自分はどこにいて、どこにアプローチしなきゃいけないか。それを考える必要があります。最初から社会の主流派を説得しようとしても、おそらく難しいことが多いでしょう。社会のなかでも動きやすい人は誰か。そういう人たちに伝えてくれる人はどこにいるのか。そういったことを考えて、戦略的にアプローチする必要がある。

しかも、世の中はそれだけでなく、保守派という、「新しいことはいや」と言う人たちもいるし、ひねくれ者という、「あんたがやることはいや」と言う人たちもいるわけです。こういうなかで、こういうひねくれ者とか保守派につかまってしまわないで--つかまると時間がかかってしまうだけなので--、自分のこの「広げる道筋」をどうやってつくっていくか。これを考える必要があります。

これは何でもそうですが、人が「知らない状態」では行動の起こしようがないですよね。たとえば皆さんが、お勧めしたいある環境技術やエコ・ライフスタイルがあっても、人々がその重要性を知らなければしょうがない。

でも、知っているだけでもだめです。環境に関しては、情報はほとんど誰でも知っていると思います。知っているだけでも動きません。知っているだけではなくて、興味や関心を持たせる。ここで多分、調べ始めるでしょう。それが自分にとって必要だと理解する。そのうえで、行動することを決めて、やっと行動します。

ですから、何かを買うとか、何かのやり方を変えるとか、ライフスタイルを変えるとか、結構複雑なこの道のりの歩まないと、人々は変わらないんです。ですから、いま自分の伝えたい相手はどこにいるのか。どの相手をどの次のフェーズに連れていきたいのか。それによってコミュニケーションのやり方がすべて違います。

知らない人に知らせるためのコミュニケーションと、興味を持っている人に必要だと感じさせるコミュニケーションと、「よし、やろう」と思っている人に本当にやらせるためのコミュニケーションと、みんな戦略・戦術が違うのです。このあたりは、伝える人が考えていく必要があります。

だいたい、環境をやっている人は(企業もそうですが)、「いいことをやっていれば伝わるだろう」とか、「大変だということを言えば、わかってくれるだろう」と思いがちですが、そんなに甘いものではありません。

誰に何を伝えたいのか。そのときに、本当に伝えるにはどうしたらいいのか。それを考えていく必要があります。ですから、環境をやっている人たちは、私も含めて、マーケティングをもっと勉強しないといいけないと、常々思っています。

環境について語るときにも、「理性に訴えるアプローチ」の仕方と、「これはお得ですよ」という「経済感覚へのアプローチ」の仕方と、幸せやつながりを大事にする「幸せ感へのアプローチ」という、少なくとも3種類のアプローチがあると思っています。

企業の男性にお話するときは、私はだいたい1番目のアプローチを前面に出します。お金を動かしている人たちに話をするときには2番のアプローチを増やします。市民や特に女性に話をするときは3番のアプローチを前面に出します。これは全部必要なのですが、やはり誰をどういうふうに動したいと思っているかによって、話の仕方や話の内容も変えていく必要があると思っています。

あとでちょっと考えていただければと思いますが、いま皆さんは、どういう目的で、どういう相手に、どのようなチャンネル、媒体を使って、どういう方法でコミュニケーションしているのでしょうか? そして、伝わったかどうかをどうやって測っているのでしょうか? あとでちょっと振り返ってみてください。そのうえで、今後変えていきたいとしたら、変えていけるとしたら、何をどういうふうに変えられるだろうか?

エコイノベーションというと、つくり出すところが大事だと思うのですが、それででもやっぱり、それを伝えていかない限り、それが広がっていかない限り、残念ながら、あまり社会の役に立たない。

ですから、こういう環境財団の助成を受けて、そこで発表会をする。もしくはお互いにホームページでいろんな情報を出し合っていく。JFSもそのお役に立てれてればと思いますが、そういった形で広げることも一緒にやっていきたいなと思います。

アル・ゴアさんが「温暖化はチャンスだ」と言っています。「温暖化はCrisis=危機だ。危機とはは、「危険」と「機会」という漢字を書く。なので、危険ではあるけれど、チャンスでもあるんだ」と。私もほんとにそう思います。

いまのように時代が動かざるを得なくなったとき、単に目の前の問題だけではなくて、これまでもずっと困っていたこと、これまで不都合だったことを含めて、大きく変えられるチャンスなのだと思うのです。たとえば社会の仕組みにしても、経済の仕組みにしても、地域のことにしても、教育にしても、何でもそうですね。

ですから、いまこそこのエコイノベショーンを技術的にも社会的にも広げていくことで、大きな変化をつくり出せるじゃないかと、私自身はわくわくしています。

私の話は以上です。ありがとうございました。

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ