ホーム > 環境メールニュース > 「あの人の温暖化論考」〜レスター・ブラウン氏(2008.01.04)

エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2008年01月04日

「あの人の温暖化論考」〜レスター・ブラウン氏(2008.01.04)

温暖化
 

元旦と2日の夜に、年末にお知らせしたNHK「未来への提言スペシャル 地球温暖化に挑む 〜世界のキーパーソンからのメッセージ〜」が放送されました。

「観ました〜」と感想を送って下さった方々、どうもありがとうございました!ぜひ番組を制作したプロデューサーにも伝えてさせてくださいね。NHKがさらにこういう番組に力を入れるよう、内部を説得する材料にしてもらえたら、と思っています。

なお、再放送がありますので、もしよろしかったらぜひごらん下さい。

宇宙飛行士の毛利さんが、ブッシュ政権と温暖化対策をめぐって戦い続けてきた反骨の科学者、ジェームズ・ハンセン博士(NASAの科学者)にインタビューされた内容と、私がスターン・レビューの著者ニコラス・スターン卿にお聞きした「低炭素社会」の未来のほか、世界の先進事例の紹介などもあります。

2つバージョンがあって、総合テレビで放映される番組は、上記の内容を、スタジオでの毛利さん、鎌倉アナウンサー、私のお話でつないでいきます。BSバージョンは、インタビューをじっくり聞いていただける構成です。どちらもぜひ。

★総合バージョン
総合テレビ 2008年1月14日(土)午後1:05〜2:05(再)

★BSバージョン
 第一部  NASA科学者 ジェームズ・ハンセン
 第二部   経済学者 ニコラス・スターン

BS1 1月20日(日)午後7:00〜9:00(再)


関連して、NHKの「未来への提言」サイトが立ち上がっています。

ここで、今回の番組に登場している
・毛利衛さん(日本科学未来館館長・宇宙飛行士)
・ジェームズ・ハンセン氏(NASAゴダード宇宙研究所所長)
・ニコラス・スターン氏(経済学者/ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授)
・レオナルド・ディカプリオ氏(俳優)
・アル・ゴア氏(前アメリカ合衆国副大統領)
・ラジェンドラ・パチャウリ氏(国連IPCC議長)
と私の短いメッセージが聞けます。

(余談ですが、自分の喋った英語の吹き替えを聞くのって、なんだかヘンな感じです〜。今度は、自分で吹き替え(同時通訳?)させてもらえないかなー。^^;)

さて、私の講演でいつもお見せしている「地球温暖化予測動画」(気温上昇のシミュレーション)は、国立環境研究所の江守さんに許可をいただいて使わせていただいているのですが、よく「あのシミュレーションを自社でも見せたい」とリクエストをいただき、江守さんにつないでいました。

より多くの方に見ていただきたい、考えていただきたいということで、江守さんが解説を加えた映像ができ、環境省 チーム・マイナス6%のホームページで公開されました。こちらから、ぜひご覧ください。
http://team-6.jp/cc-sim/

> ホームページ上で視聴できるほか、アンケートにお答え頂くと、映像のダウン
> ロードも可能です。教育活動等には、ダウンロードしたファイルをご自由にお
> 使い頂いて結構です。メディアでのご使用については、引き続き、個別にご相
> 談ください。

とのことです。

とても迫力のあるシミュレーションなのですが、これまで何十回とお見せしてきた経験から、これは「じょうずに使えばとても役に立つけど、考えずに使うとかえって逆効果をもたらす可能性がある」と思っています。ですので、気をつけて使って下さいね。

他の人(特に温暖化についてあまり知らない人々)に見せるときには、ぜひ、何のために見せるのかという目的と、ありうる反応にどのように対処するかについて考えてから、見せてほしいなと思います。

いたずらに恐怖を煽るためではなく、冷静に「このままだったらこうなってしまう可能性がある。そうはしたくない。だったら何をすればよいのだろう?」と考えてもらうために使っていただければ、と願っています。そうすれば、江守さんたち研究者のご苦労を望ましい人々の行動変容につなげられるでしょう。

さて、お待たせしました。先月オープンした「日刊温暖化新聞」には、「あの人の温暖化論考」というコーナーがあります。言ってみれば、署名つきの論考みたいなものですね。

(ちなみに、日本の新聞に署名記事があっても、そのほとんどはその新聞社の人が書いていますが、欧米では、社内に限らず、独立したジャーナリストも、能力と実績があれば新聞に署名記事や論考を載せることができます)

現在は、デニス・メドウズ氏の論考を掲載しています。本質に切り込む、とても大事な考え方ですので、ぜひお読み下さい。今後、内外のさまざまな方の論考をアップしていき、いろいろな意見や考え方を知った上で、「では自分はどう考える?」と、考えてもらうきっかけにしていきたいと思っています。

このコーナーで紹介させてもらうため、12月にワシントンに行った際に、レスター・ブラウン氏にも「温暖化論考」を取材させてもらったものをご紹介します。あとに、レスターの新しい書籍の紹介もあります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

レスター・ブラウンの「温暖化論考」


NASAの第一線の気候科学者であるジェームス・ハンセンら研究者たちは、「地球温暖化は加速しており、ティッピング・ポイント(それを超えると一気に加速する閾値)に近づきつつあるかもしれない」と考えている。気候変動が不可逆的な勢いをつけてしまう、そのギリギリの線を超えるまえに、状況を好転させるために使える時間はあと10年ぐらいだと彼らは考えている。私もそう思う。

「危険な気候変動」を避けるまでに、今後何十年間、もしくは2050年までに何をすべきかということを、私たちはよく耳にする。しかし、すでにその「危険な気候変動」に私たちは直面しているのだ。

中国の黄河と揚子江に水を供給している氷河が、このまま年に7%という勢いで溶けつづけてしまえば、その3分の2が2060年までには消えてしまう。氷河の科学者たちは、乾期にガンジー川に水の70%を提供している氷河は、数十年の間に影も形もなくなってしまう可能性があると報告している。

乾期の間、アジアの田や小麦畑に灌漑水を提供している大河に水を提供している氷河がなくなってしまうこと以上に、食糧安全保障を脅かすものがあるのだろうか? 世界の人口の半分が住むアジア地域で、乾期の水供給が大きく失われてしまうことは、単なる「飢え」どころではなく、「想像を絶する規模の飢餓」をもたらす可能性がある。

アジアの食糧安全保障は、耕作地である川のデルタや氾濫原が水に沈んでしまう可能性があるため、より大きな打撃を受けるだろう。世界銀行によると、「海水位が1メートル上がっただけでも、バングラデシュの水田の半分が水に沈んでしまう」。

1メートルの海水位上昇は、一夜のうちに起こるわけではないが、今日のスピードで氷の融解が続くとしたら、ある段階で海水位がそれほど上昇するという事態は、もはや防ぎきれないものになるかもしれない。このような影響を及ぼす氷の融解は、「地球の気温がさらに上がれば起こるかもしれない」というものではなく、現在の気温ですでに起こりつつあるのだ。

2007年の夏の終わりにグリーンランドから入った報告によると、氷河が溶けて海へ流入している量が、氷河の研究者の予測をはるかに超え、加速しているという。数十億トンもの重さの大きな氷が砕けて海へ流れ出し、そのたびに小さな地震が起こっているという。

氷が溶けた水は、氷河と氷河が載っている岩の間に、まるで潤滑油を差すような効果をもたらすため、氷の流出は加速し、1時間に2メートルの速度で海へ流れ出している。この流出の加速と地震を見ていると、氷床全体が割れて、粉々になって崩れる可能性すらありえないことではないと思われる。

世界は、すでに起こっていることだけではなく、フィードバック・メカニズムのいくつかがスタートするのではないかというリスクにも直面している。フィードバック・メカニズムにスイッチが入ってしまうと、温暖化のプロセスはさらに加速する。かつて「2100年には、夏の間には、北極海には氷がなくなるかもしれない」と考えていた科学者たちは、いまではそれは2030年までに起こるだろうと考えている。2030年という推定すら過小評価だという可能性もある。

このことは、科学者たちにとってとりわけ懸念の的だ。なぜなら、氷が溶けることによって、反射率の高い海氷の代わりに、色の黒い海水面に変わっていくと、太陽光から吸収される熱が大きく増えてしまうからだ。これを「アルベド効果」と呼ぶ。言うまでもないが、こうなると、グリーンランドの氷床の融解はさらに加速する可能性がある。

2番目に心配すべきフィードバック・ループは、永久凍土の溶解だ。永久凍土が溶けることで、その地下に埋まっている何十億トンもの炭素が放出され、メタンも大量に放出される。メタンは、二酸化炭素の25倍も温暖化効果を持つ、強烈な温室効果ガスなのだ。

こうして、気候変動は手がつけられなくなり、氷の融解や海水面の上昇のすう勢を止めることができなくなるかもしれない――このようなリスクに、人類は直面しているのだ。こうなってしまうと、文明の将来は危うくなる。

氷の融解、海水面の上昇、そして、それらが食糧安全保障と海沿いの低地の都市に与える影響が組み合わさると、政府の対応能力をはるかに超えてしまうかもしれない。今日、悪化する環境のもたらす圧力の下で、深刻な事態に陥り始めているのは、ほとんどが弱体な国家である。しかし、いま述べたような変化が起これば、強い国家ですら対応できなくなるかもしれない。こういった極端なストレス下では、文明そのものが崩壊し始める可能性すらある。

私の提案する「プランB」は、全面的な努力をして、「2020年までに二酸化炭素の排出量を実質80%削減」しようというものだ。目指しているのは、大気中の二酸化炭素濃度が400ppmを超えないようにすることだ。そうすることで、今後の気温上昇を抑えたいのだ。

これは途方もなく野心的な考えである。たとえば、そのためには、2020年までにすべての石炭火力発電所を段階的に停止させる一方、大きく石油消費量を減らさなくてはならない。単純なことではない。

しかし私たちは、現在すでに使うことができる技術を用いて、この転換を果たすことができる。この炭素削減努力には、3つの要素がある。「森林消失を止める一方で、炭素を吸収するための植林をすること」「世界中でエネルギー効率を向上させること」「地球の再生可能なエネルギー源を活用すること」である。

「プランB」は、照明や建物の冷暖房、そして交通輸送に対して、使用可能な最もエネルギー効率のよい技術を用いることを呼びかける。太陽、風力、地熱のエネルギー源を積極的に活用することを求める。たとえば、全面的に「プラグイン・ハイブリッドカー」に転換し、その電力の大半を風力発電でまかなう、ということだ。

「プランB」では、世界のエネルギー経済を全面的に再構築することが必要だ。しかも、戦時中のような緊急性を持って行わなくてはならない。米国は、第二次世界大戦開始後のほんの数カ月間に、米国の産業経済を大きく変えた。それと同じことが必要なのだ。

第二次世界大戦では、「それができなかったら?」という利害は、とても大きなものだった。しかし今日、「それができなかったら?」、もっと大きな害を被ることになろう。いま問われるべきは、「私たちのグローバルな文明を救えるだけのすばやさで動員ができるかどうか?」なのである。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

レスターの「プランB」の最新刊、米国では1月中旬に発売予定です。アマゾンで予約ができます。

Plan B 3.0: Mobilizing to Save Civilization (ペーパーバック)
Lester R. Brown (著)
http://www.amazon.co.jp/dp/0393330877?tag=junkoedahiro-22

または、レスターの研究所、アースポリシー研究所に注文して送ってもらうこともできます。郵送費は到着までの日数によって、1000円ちょっとから、いくつかのオプションがあります。
http://www.earth-policy.org/

アースポリシー研究所に注文する際に、コメント欄に「レスターのサインをお願いします」と記せば、レスターがサインをしてから送ってくれます。よろしければサイン入りでどうぞ!

 

このページの先頭へ

このページの先頭へ