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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年10月29日

『成長の限界 人類の選択』より「なぜ、技術や市場だけでは行き過ぎを回避できないのか」(2007.10.29)

大切なこと
 

前号の最後に、

> 世界全体として、対応能力(環境問題であれ、贅沢を求めるニーズであれ、何で
> あれ求められるものを提供する能力)は有限です。

と書きました。これを書きながら、私の念頭にあったのは、デニス・メドウズ他の『成長の限界 人類の選択』に書かれていたことです。とてもとても重要なポイントだと思うので、抜粋してご紹介します。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『成長の限界 人類の選択』より
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478871051/junkoedahiro-22

(283ページ)

 なぜ、技術や市場だけでは行き過ぎを回避できないのか

 
ここまでのシミュレーションをまとめてみよう。まず、人間のエコロジカル・フットプリントは増大して持続可能なレベルを超える傾向があり、限界を超えると、今度は、そのことによって強制的に減少させられる。

通常この減少にともなって、食糧が手に入りにくくなり、世界の一人当たりの工業財やサービス財が減り、人間環境における汚染水準が高まって、平均的な生活の質が低下する。人間は通常、人口や経済をこれまでどおり成長させたいとの望みから、その制約条件を取り除こうと反応する。

 これまでの六つのシミュレーションから得られる一つの教訓は、複雑で有限な世界では、一つの限界を取り除いたり、引き上げたりして成長を続けようとしても、別の限界に突き当たるということだ。特に、成長が幾何級数的であると、あっという間に次の限界が出現する。言ってみれば「層状の限界」があるのだ。

ワールド3に含まれているのはそのごく一部であるが、「現実の世界」にはさらに多くの限界がある。そうした限界の多くは、明確かつ具体的な地域的な限界である。そして、本当の意味での地球規模の限界は、オゾン層や気候の変動に関するものなど、ごくわずかである。

 「現実の世界」では、さまざまな地域や国が成長を続けようとすると、それぞれのタイミングや順番で、さまざまな限界にぶつかることになるだろう。しかし、どこであっても、ワールド3での展開とほぼ同じように、「いくつもの限界が次々と生じる」という展開になるだろう。

しかも、相互関連のますます深まる世界経済では、どこかひとつの社会がストレスを受けると、その余波があらゆるところに伝播するだろう。さらに、グローバル化が進むということは、積極的に貿易に携わっている世界の各地域が、さまざまな限界にほぼ同時に達してしまう可能性が高まるということなのだ。

 また、これまでのシミュレーションの結果から、工業や農業が消費する物質やエネルギーを削減する技術を開発し、採用することで、人間のエコロジカル・フットプリントが下げられることもわかる。こうした技術が広く普及すれば、エコロジカル・フットプリントを大きくせずに、平均的な生活の質を高めることができる。これが、よく言われる現代グローバル経済の「脱物質化」である。

 二つめの教訓は、社会が経済的・技術的に適応することで、限界を先送りするのに成功すればするほど、いくつもの限界に同時にぶつかる可能性が高くなる、ということだ。本書に示していない多くのものも含め、ワールド3の大部分のシミュレーションでは、世界システムが土地、食糧、資源や汚染吸収能力そのものを使い果たしてしまう、ということはない。使い果たしてしまうのは、「対応能力」なのである。

 ワールド3での「対応能力」とは、いたって単純だが、「問題解決のために投資できる年間工業生産高」である。もちろん、「現実の世界」の対応能力は、ほかのさまざまな要因によっても左右される。たとえば、訓練を受けた人の数、その動機、政治的な注目や意思の程度、対処可能な財政リスク、新しい技術を開発し、普及し、採用する制度的な力、管理能力、マスコミや政治指導者が重要な問題から目を離さずにいられる能力、重要な優先項目についての投票者の合意、人間は問題を予期してどこまで先を見られるか、などである。

こうした能力はすべて、社会が伸ばしたいと思って投資をすれば、時間とともに伸ばすことができる。しかし、ある時点でのそうした能力は限られており、対応できる量は限られている。すると、複数の問題が幾何級数的に大きくなってくると、一つずつなら対応できる問題だとしても、対応能力を超えてしまう可能性がある。

 ワールド3モデルにおける究極の限界は、実は「時間」である。「現実の世界」でも同じではないだろうか。時間が十分にあるのだとしたら、人間の問題解決能力はほぼ無限といってよいだろう。

成長、特に幾何級数的成長が油断ならないのは、効果的な行動をとるための時間を短縮してしまうからだ。幾何級数的成長は、システムへの圧力を加速度的に強めていくため、緩やかな変化であれば十分に対応できてきた対応メカニズムも、最後には機能できなくなってしまうのである。

 変化がゆっくりであるなら、技術や市場のメカニズムはうまく機能する。しかし、幾何級数的な速度で、しかも相互に関連している限界へ向かって突っ走っている社会がつくり出す問題を解決することはできない。そして、その理由は、ほかに三つある。目標、費用、遅れという理由だ。

最初の理由は、市場や技術は、その社会全体の目標や倫理、時間枠に資する手段にすぎないということだ。もし、ある社会の暗黙の目標が、長期的なことを無視して、自然を搾取し、エリートを豊かにするというものなら、その社会は、環境を破壊し、貧富の差を大きくし、短期的な利益を最大化するような技術や市場をつくり出すだろう。つまり、崩壊を防どころか早めてしまう技術や市場をつくり出すことになる。

 二つめの理由は、調節メカニズムには費用がかかるということだ。技術と市場の「費用」は、資源、エネルギー、お金、労働力、資本として表れる。このような費用は、限界が近づくにつれ、非線型に増加する傾向がある。このために、システムは予期せぬ行動パターンを示すことになる。

 すでに図3-19と4-7で、資源の品位が下がるにつれ、再生不可能資源を採掘する際に排出される廃棄物と、採掘に必要なエネルギーが驚くほど急増する様子を見た。

図6-5は、別の費用増加曲線で、窒素酸化物の排出を一トン減らすために必要な限界コストを示している。排出のほぼ五〇%を除去するところまでは、比較的費用もかからない。八〇%近くまでの除去も、費用は上昇していくものの、まだ払える範囲である。しかし、そこに限界がある。つまり、そこを超えると、さらに除去する費用が莫大になってしまう閾値が存在しているのだ。

 技術の進歩によって、この二つの曲線を右にずらすことは可能かもしれない。つまり、より完全な除去が手の届く値段でできるようになるかもしれない。または、煙の排出をゼロにする技術が開発され、その技術を使うことから別の物質が排出されるようになり、ほかの除去コスト曲線につながっていくかもしれない。

そういったことがあったとしても、汚染除去曲線の形は、基本的にはいつも同じである。一〇〇%の除去(ゼロ・エミッション)を求めるにつれて、除去費用が急増する背景には、根本的な物理的理由があるのだ。

たとえば、煙突や配水管の数が増えると、必ずこうした費用が上昇していく。自動車一台当たりの汚染物質を半分にするのはコスト的にそれほど難しくないかもしれないが、車両数が二倍になったとしたら、同じ大気の質を保つために、一台当たりの汚染物質をさらに半減しなくてはならなくなる。車両数がさらに二倍になれば、七五%の削減が必要となり、さらに倍増したら、八七・五%の削減が必要だ。

 したがって、ある時点で、「成長すれば、汚染除去技術がまかなえるほど経済は豊かになってくる」という理論は真実ではなくなる。実際には、成長する経済は、非線形型の費用曲線をたどることになり、「これ以上の削減にはお金が出せない」という点に達するのである。そのとき、理性ある社会なら、その活動レベルのさらなる拡大はやめるだろう。それ以上成長しても、国民のさらなる福祉にはつながらなくなるからだ。

 そして、技術や市場があるだけではこうした問題を解決できない三つめの理由は、「遅れ」である。技術や市場は、フィードバック・ループを通じて機能するが、そのフィードバック・ループには、情報のゆがみや遅れがあるのだ。

市場や技術の「遅れ」は、経済理論やメンタルモデルが予想する時間よりもずっと長い可能性がある。技術と市場のフィードバック・ループそのものが、行き過ぎや振動、不安定さのもとである。世界中がその不安定さを感じた一例として、一九七三年以後の十年間の石油価格の変動が挙げられるだろう。

(後略)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

『成長の限界 人類の選択』は、ボリュームのある本ですが、本当に大事な「本質的なこと」が書かれている本なので、ぜひ!

時間がないなら、「1,2,4,6,7,8章」をどうぞ!
希望を感じたかったら、「8,7章」をどうぞ。
(ちなみに、上記の引用は第6章からです)

『成長の限界 人類の選択』
ドネラ・メドウズ・デニス・メドウズ他(著) 枝廣淳子(訳)
ダイヤモンド社 (2520円)

もっと時間のない方は、『成長の限界 人類の選択』のエッセンス本をどうぞ。
上記の引用部分についても、簡単にまとめてあります。

『地球のなおし方 限界を超えた環境を危機から引き戻す知恵』
ドネラ・メドウズ+デニス・メドウズ+枝廣淳子(共著)
ダイヤモンド社 (1260円)

 

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