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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年10月29日

レスター・ブラウン氏「プランB 地球修復予算」(2007.10.27)

水・資源のこと
 

今日はレスター・ブラウン氏の『プランB』からの抜粋の配信を和訳してお届けします。実践和訳チームが担当してくれました。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

プランB 地球修復予算
                        レスター・R・ブラウン

経済の健全性は、その経済を支える自然の維持システムの健全性と切り離すことはできない。世界人口の半分以上が、耕作地、放牧地、森林、漁場に直接依存して生計を立てており、さらに多くの人々が、林産業、革製品産業、綿織物業、毛織物業、食品加工業に従事して生活している。

経済を支える環境というシステムが崩壊状態にあれば、貧困を撲滅しようとするどんな戦略も成功することはないだろう。例えば耕作地の浸食による収穫高の減少、地下水位の低下が引き起こす井戸の枯渇、牧草地の砂漠化が招く家畜の減少、漁場の崩壊、森林減少、気温上昇による作物の生育不良。このような状況下では、どんなに慎重に策定された貧困撲滅プログラムがどんなにうまく実施されようと、成功の見込みはない。

地球を修復するには、膨大な労力と費用のかかる国際的な取り組みが必要となる。それは、戦争で荒廃した欧州や日本の復興に一役買ったとしてしばしば引き合いに出されるマーシャルプランよりもさらに大規模で困難なものになるだろう。

さらにその取り組みは、戦時下並みのスピードで着手されねばならない。そうしなければ、自然の限界を踏み越え、その最終期限をも無視したかつての古代文明がたどった運命と同じように、環境破壊が結果的に経済的衰退につながってしまう。

地球上に森林を再生させ、表土を保護し、牧草地や漁場を回復し、地下水位を安定させ、生物多様性を守るには、どれほどのコストがかかるのだろうか。およその額を見積もることは可能である。データや情報が不足している場合には、仮説によって補う。最終目的は、地球修復に必要な予算の正確な一連の数値を得ることではなく、妥当な見積もり額を知ることなのだ。

北半球の先進国では、森林面積がすでに拡大しつつあるため森林再生にかかる費用を算出する際に重点を置くのは、発展途上国である。こうした国々の増大する薪の需要を満たすためには、約5,500万ヘクタールの植林地が必要になり、土壌を固定し、水文学的に安定した状態を取り戻すには、発展途上国の何千もの分水界に位置する約1億ヘクタールの土地がさらに必要になるだろう。これらが重複する部分もあると考え、必要な土地の広さの合計を1億5,500万ヘクタールではなく、1億5,000万ヘクタールとする。これに加えて、材木、紙などその他の林産物を生産するために、新たに3,000万ヘクタールの土地が必要となる。

こうして植林する土地のうち、大規模な植林地の占める割合はごくわずかとなるであろう。むしろ、人の住む集落の周辺や、農場の境界線沿い、道路沿い、狭い上にあまり耕作に適さない土地、草木のない荒れた丘陵斜面などにおいて、植林活動が行われることのほうが多くなると考えられる。

破壊された森林を回復させた大きな成功例として挙げられるのが韓国だ。ここ40年で、地元の人々を動員して、一度は荒れ果てた山々や丘陵に森林をよみがえらせた。中国などほかの国でも、広範囲にわたって植林が進められている。だがそのほとんどが韓国の場合よりも乾燥した土地で行われており、成功の度合いははるかに低い。

トルコでは草の根レベルで、NGOの主導による大掛かりな植林プログラムが実施されている。労働力のほとんどがボランティアだ。また、ケニアにも同様の例がある。ノーベル平和賞を受賞したワンガリ・マータイ氏率いる女性グループが、3,000万本に上る植樹を成功させたのだ。

世界銀行の見積もりに基づいて、苗木の入手費用を1,000本当たり40ドルとし、また標準的な植栽密度が1ヘクタール当たり約2,000本であるとすると、苗木の入手費用は1ヘクタール当たり80ドルとなる。植林にはふつうかなりの人件費がかかるものだが、今回の見積もりでは、植林活動のほとんどを地元ボランティアの手で行うものと考え、苗木調達費用と人件費を合わせて1ヘクタール当たり400ドルとする。今後10年で植林すべき面積は、合計で1億5,000万ヘクタール。つまり1年当たり約1,500万ヘクタールとなり、1ヘクタール当たりの費用は400ドルなので、年間総費用は60億ドルという計算になる。

地球の表土を保護するに当たって、浸食の進むスピードを新たに土壌が形成されるのと同じ速さ、またはそれ以下に抑えるためには、基本的に2段階の取り組みが必要である。

まず第1段階として、非常に浸食されやすく耕作に耐えられない土地の使用をやめること。世界の農耕地のうち約10分の1がこのケースにあたる。地球全体の土壌浸食のうち半分は、こうした土地で起こっていると考えられるのだ。例えば米国の場合、1,400万ヘクタール(約3,500万エーカー)の土地での耕作をやめる必要がある。この措置を取るには、1エーカー当たり約50ドル、あるいは1ヘクタール当たり125ドルの費用がかかり、年間総費用は20億ドル近くに達する【※訳注】。

【※訳注】具体的には、対象となる土地を使用している農家に対し、耕作をやめて草木を植えることによる減収分や費用を十年契約で支払う、という措置にかかる費用。


第2段階は、上記以外の土地で、過度に浸食が進んでいる(つまり新たな土壌が自然に形成されるよりも速く浸食が進んでいる)ところを対象とした保護措置を取ることだ。こうした取り組みの例としては、等高線耕作、帯状栽培、また近年普及しつつある不耕起栽培(土地をなるべく、またはまったく耕すことなく農作物を栽培する)などといった保護措置を奨励するため、これらの措置を取っている農家を優遇することなどが挙げられる。米国ではこうした措置に年間約10億ドルの費用をかけている。

この推定値を世界全体に拡大して考えると、世界の耕作地のほぼ10%は土壌が非常に浸食されやすい状態にあり、木や草を植えなければ表土が流出して荒地になると推測される。

世界の穀物収穫量の3分の1を生産する二大食糧生産国の米国と中国は、全耕作地の10分の1で耕作を停止することを公式目標に掲げている。耕作の中止が必要な耕作地は欧州では10%未満と思われるが、アフリカやアンデス山系の国々でははるかに多いと考えられる。世界全体では浸食の可能性の高い耕作地の10%を草木地に戻すのが、妥当な目標だろう。必要となる費用は、世界の耕作地の8分の1を占める米国で約20億ドルであることから、世界全体では年間約160億ドルかかる計算となる。

米国と同じような土壌浸食防止措置が世界でも必要だと仮定すると、世界全体では、米国における支出額の8倍の80億ドルが必要になる。侵食の可能性が高い土地での耕作中止によって必要となる160億ドルと、土壌浸食防止措置の実施に必要な80億ドルを足すと、世界全体では年間240億ドルの出費となる。

放牧地の保護と回復の費用については、国連の「砂漠化対策行動計画」を参照する。この計画は世界の放牧地の約90%を占める乾燥地帯の対策を中心としたもので、土地の回復期の20年間で総額約1830億ドル、年間90億ドルの費用がかかると推定している。主要な回復策には、放牧地管理手法の改善、過剰放牧解消を促す奨励金、放牧を禁止して適正な休牧期間を設けることによる再緑化などがある。

費用のかかる事業だが、放牧地の回復に投資した1ドルは放牧地の生態系の生産性を向上させ、2.5ドルの収益をもたらす。社会的な観点から見ると、放牧に従事する人口が多く、放牧地の劣化が進んでいる国々は、常に世界の最も貧しい国に名を連ねている。行動を起こさず、劣化を放置すれば、土地生産性の低下を招くだけでなく、最終的には生活の糧を失った数百万人もの人々が難民となり、近隣都市や他国に流出するだろう。

海洋漁場を修復する取り組みの中心となるのは、海洋面積のおよそ30%を占める海洋保護区の世界的なネットワークを構築することである。これには、ケンブリッジ大学の保全生物学グループが綿密に算出した試算を利用しよう。その費用見積もりには幅があるが、中間値は年間130億ドルである。

野生生物の保護費用は、もう少し高くつく。世界公園会議の見積もりでは、現在公園に指定されている地域の管理と保護に必要とされる費用が年間約250億ドル不足している。それに加え、まだ公園として指定されていないものの、生物多様性が危ぶまれるホットスポットと呼ばれる地域とその周辺部を考慮すると、恐らくさらに年間60億ドルの費用がかかり、総額では310億ドルに達するだろう。

概算が不可能で、ただ推測するしかない取り組みが一つある。それは地下水位を安定させることだ。その鍵は水の生産性を上げることである。土地の生産性については、半世紀ほど前から、体系的に向上させる取り組みが世界各地で始まっており、その経験を通じてさまざまな知識や技術が蓄積されている。これに匹敵するような、水の生産性を向上させるしくみに必要とされる要素は、より水使用効率の高い灌漑の実施方法と技術を開発するための研究であり、これらの研究結果を農業従事者に広く伝え、さらにはこのように改良された灌漑の方法や技術が率先して採用され、使用されるような奨励金を出すことである。

国によっては、灌漑用水の無駄遣いを往々にして助長している補助金を打ち切ることで、水の生産性向上プログラムに必要とされる資金を捻出できるところもある。こうした補助金は、インドで見られるような電力に対するものであったり、また時には米国で見られるように、コストを下回る価格で水を供給するための補助金であったりする。農業従事者がもっと効率の良い灌漑の実施方法や技術を利用するよう促す奨励金をはじめ、世界規模でさらに必要とされる資金は、100億ドルに上るだろうと推測される。

これらすべてを合計すると、地球の修復には年間930億ドルの追加支出が必要になる。これには多くの人がこう思うことだろう。「世界には果たしてそれだけの費用を捻出する余裕があるのだろうか?」と。しかし、ここにふさわしい問いかけはただ一つしかない。「世界にはこれらに対して投資をせずにいられる余裕があるのだろうか?」

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Source: Earth Policy Institute, see
プランB予算――パート2:地球修復にかかる年間予算
拠出目標
地球の再森林化:60億ドル
耕作地の表土保護:240億ドル
放牧地の修復:90億ドル
漁場の修復:130億ドル
生物多様性の保護:310億ドル
地下水位の安定化:100億ドル

計:930億ドル

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出典:アースポリシー研究所 

これは、『プランB予算』概要全3部の第2部である。

出典:『邦題:プランB2.0 エコ・エコノミーをめざして』(PlanB 2.0、ニューヨーク W.W. Norton & Company 2006)第8章「地球の修復」より。

(翻訳担当:西垣、ヘレンハルメ、小林、長谷川)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

世界全体として、対応能力(環境問題であれ、贅沢を求めるニーズであれ、何であれ求められるものを提供する能力)は有限です。その対応能力は、上記の記事でもそうですが、金銭的資源で測ることができます。

世界全体として、お財布の中にはいっているお金は限られている。そのお金を、あっちに使えば、こちらには使えなくなる、という状況で、どこにどのように配分するのか?--これが人間の知恵と知性の見せどころであり、その結果が、人間と地球全体の未来を左右するのですよね。

 

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