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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年10月04日

チューリッヒよりISIS評議員会レポート(2007.09.26)

コミュニケーション
水・資源のこと
 

今、スイスのチューリッヒで開かれているISIS評議員会(International Sustainability Innovation Council of Switzerland )に参加しています。

去年から始まったこの評議員会は、スイス連邦工科大学(ETH)とチューリッヒを本拠地とするサステナビリティ・フォーラムが共同で始めたもので、WWFインターナショナルの事務局長を12年にわたって務めたクロード・マーティン氏が議長を務めています。

評議員は20人ほど。「インターナショナル」とうたっているだけあって、スイス以外のヨーロッパ諸国、カナダ、インド、ロシア、ガーナなどから評議員が参加しています。東アジアからの評議員は私だけです。

去年の春に突然、クロード・マーティン氏から、評議員就任を依頼するメールが届き、びっくりしました。「面白そうだから、参加してみよっと」というノリで受諾し、昨年第1回の会合に出ましたが、昨年はあまりようすがわからずに、おとなしくしていました。(^^;

昨日のディナーの席で、マーティン氏の隣に座っていたので、「なぜ、そしてどのように私を発見してくれたのですか」と尋ねました。

(ちなみに、驚くべきことに、去年も今年も、評議員会に参加している女性は私だけです。アメリカで行われる会議であれば、このような状況はありえないと思うのですが……。紅一点ということで、記念撮影のときも夕食会のときも、真ん中の場所をもらって厚遇してもらっています)

「この評議員会をインターナショナルなものにしようと考えた時から、日本からの参加が必須だと考えていたんですよ。日本がサステナビリティの分野で、いろいろと進んでいることは、みんなよく知っていますからね。たとえば、国際エネルギー機関が出しているエネルギー効率の国別グラフを見れば、日本がダントツであることは、皆わかります。

でも、なぜ、どのように、日本がそのような、たとえば省エネを進めているのかは、日本の外の人にはほとんどわかりません。ですから、この評議員会では、世界有数の経済大国である日本からの参加を得て、日本の知見を活かすことが大事だと思ったんです。

日本からこのような評議員会に参加をしてもらう場合、多くは、年配の官僚が来ますよね。でも、私たちはそうしたくなかった。自分の言葉で話せる人、中立的な立場で、政府のみならず、さまざまな状況に通じた人に来てほしいと思ったんです。そこでわれわれは、いろんな人に聞いて回りました。その過程で、誰だったか忘れましたが、あなたの名前と活動について教えてくれた人がいたんです。

それで私たちは、インターネットであなたの英語のプロフィールを読んだり、活動について見せてもらいました。JFSの活動を見て、これだ!と思いましたよ。幅広いプラットフォームで、さまざまな日本の状況を把握している。そして、NGOとして、独立した活動をしている。運営委員会で、この人はどうだろうと検討した結果、最適な人ではないかと意見が一致し、それで招聘のメールを書いたんですよ」

そばからほかのメンバーも口を添えます。

「たとえば、気候変動の国際会議が開かれているとします。われわれは、各国の政府がどのようなスタンスでその会議に参加しているか、事前にいろいろと調べます。ヨーロッパ諸国はもちろん、北米、南米、アフリカ、中国をはじめアジア諸国のスタンスは、調べればしっかりわかります。

しかし、日本のスタンスは、いくら調べてもわからないのですよ。日本の情報は、本当にわれわれにとって手の届かないところにある。どうやってアクセスしてよいか、アクセスできるものなのかすらわからない、お手上げの状態なんです。

去年、あなたがこの評議員会に参加してくれてから、JFSのニュースレターを受け取っていますが、日本の内部で何が起こっているかを伝える、貴重な情報源だと思っていますよ」。

そう選んでもらったことを喜んでよいものか、日本がここまで世界に閉ざしていることを悲しむべきか、フクザツな胸中なのでした……。

さて、このISISの目的は、「サステナビリティのためのイノベーションをいかに進めるか」です。昨年開催された第1回の評議員会では、最初に取り上げるべき大きなテーマとして、気候変動にも多大な影響を与えるエネルギーを選びました。

昨年は、「7つのくさび」で世界的に著名な(しかし日本では残念ながら、まだほとんど知られていない)プリンストン大学のソコロー教授を筆頭に、そうそうたるメンバーをゲストスピーカーとして招聘し、2日間にわたってさまざまな議論を展開しました。(日本の情報が世界に届いていないのも問題だと思っているのですが、世界で熱い議論が展開されているトピックや情報が日本に入ってきていないことが多いのも、とても気になります……)

昨年の評議員会では、「イノベーションといったときに、単に技術的なイノベーションではなく、社会的イノベーションや経済的なイノベーションが必要だ。そしてそれらのイノベーションを進めるためのインセンティブは、正しいインセンティブが存在しているのか? どのように社会的、政治的な枠組みにしていけばよいのか? などの議論を展開したのち、今後、4つの重点分野を取り上げようということになりました。(1)エネルギー効率、(2)エネルギーの供給、(3)エネルギーに対する補助金、(4)新たなエネルギー源としての石炭です。

すべてを進めるのは無理なので、今年に向けて(1)と(3)の活動が展開されました。担当者がプロジェクトの提案書をつくり、資金集めをし、具体的なプロジェクトを進めてきました。その1年間の活動を評議員会の前で発表し、今後の方向をさらに決めるのが、今回第2回評議員会の目的です。(私をはじめ、プロジェクトを担当していない評議員は、年1度の会合で議論に参加するのが役割です)

「日本には、このようなしくみそのものがほとんどないよなあ」と思いながら参加しています。国際的なメンバーで、サステナビリティのために何を進めるべきか検討し、課題を抽出し、財団などと相談して資金を集め、大学や研究所に委託して実質的な研究を進め、その結果を受けて次の方向性を決めていくという、このプロセスそのものが、私にとってはとても新しく、勉強になります。

しかし、聞いてみると、マーティン氏もほかのメンバーも、このような評議員会やラウンドテーブルの議長や委員を多数務めているということですから、欧米ではよくある物事の進め方のひとつなのでしょう。

会合の始まりに当たって、マーティン議長をはじめとするコアメンバーの3人が、それぞれの分野から、この1年間の世界の動向を総括して話をしてくれました。世界の動向を感じることができる話だったので、ご紹介しましょう。(メールニュースで伝えてもよいか?と聞いたところ、ここで話し合ったことや聞いたことは、相談しなくてもどんどん発信してよいですよ、とのことでした)

「この12カ月を振り返ってみると、世界の人々の環境やサステナビリティに関する意識は、革命的といえるほど大きく高まりました。気候変動、エネルギー、食糧、水などの問題に対する意識です。アル・ゴア氏の映画が優れたコミュニケーションツールになったのは間違いないでしょう。

そういった世間の意識の高まりから、民間でも、サステナビリティ関係へのR&Dへの注目が高まりました。自動車メーカーは競って燃費を争っていますし、最近でも、ネスレが新会社を設立し、サステナブルな食品業界のリーダーになると宣言をしたばかりです。さまざまな取り組みが民間レベルで広がっており、UBSやドイツ銀行をはじめ、金融市場でもその方向への加速が顕著になっています。この会場をお借りしているスイス・リも、CO2取引に本腰を入れ始めました。(※ちなみに、スイス・リは大手の再保険会社。温暖化対策などに真剣に取り組んでいる。この会場は、Swiss Re Center for Global Dialogueという、とても瀟洒で豪華な宿泊施設付き研修センターです)

かつて企業のパンフレットで「サステナビリティ」といえば、社会貢献に結びつけて描かれていましたが、いまでは、「サステナビリティ=長期的な投資」という位置づけに変わっています。産業界もR&Dも投資も、どの分野を見ても、サステナビリティがメインストリーム(主流派)になってきたことが明らかです。これは、こういった課題に長年取り組んでいる私たちにとって、とても心強い動きです。

また、サステナビリティに絡んで、新しい市場が生まれつつあります。ひとつの例は、ドイツが太陽光発電で世界第1位という市場を築き上げたことです。7年前のドイツのソーラー発電の実情は、いまのスイスと同じ、つまり、ほとんど存在していませんでした。しかしこの7年間、政府が包括的な政策や補助金を投入した結果、大きく市場が育ったのです。

CO2の取引についても市場が生まれつつあります。スイスではいま、これをめぐって大きな議論が展開されています。スイスの経済省の経済大臣が、スイスは「CO2ゼロ」になるべきだ、それをCO2取引システムで実現すべきだ、市場につながるからだと、提案をしているのです。

このような動きを見ても、人々の意識、イノベーション、民間の動き、金融市場が大きく変わってきたことがわかります。

大学や学会をめぐっても、この12カ月に大きな動きがありました。IPCCのレポートや、アル・ゴア氏の映画などにより、アメリカの大学で特に、大きな変化がうねりのように起こっています。サステナビリティ(主に気候変動)を旗印に、さまざまな分野で取り入れているのです。

この春から動いている面白い動きがあります。これは、環太平洋大学同盟とでも呼ぶのでしょうか、太平洋をぐるりと囲む32大学が同盟を組んで、気候変動、将来の都市について、そして公衆衛生について、連携しながら研究を進めるというものです。(※日本の大学も入っていると聞いて、ほっとしました。あとで聞いたら京都大学のようです)

また、「サステナブル・キャンパス」を構築しようという動きも、大きく広がっています。学会でもいろいろな動きが出てきており、何よりも大学生や大学院生といった若い人たちが、サステナビリティの具体的なテーマに熱意を持って一生懸命取り組んでいる状況になっています。

アメリカのそういった動きを見ると、われわれヨーロッパの大学も、もっと動きを加速しなくてはならないと思うのです」と、スイス連邦工科大学の理事長でもあるZehnder氏が最後を締めくくりました。

議長側からの1年間の総括のあと、ロシアのメンバー、ガーナのメンバーからも、簡単な1年間の報告がありました。

私も、日本のこの1年間の動きを報告しようと、メンバーの発表を聞きながら一生懸命考えました。(^^;

皆さんだったら、この1年間の日本のサステナビリティへの動きや変化を、どのようにまとめますか? ごく短い発言の時間がなかったので、私はこのようにまとめました。

「この1年間を振り返ると、日本でも大きく人々の意識が高まったと思います。ゴア氏の映画も、大きな影響を与えてくれました。世論調査によると、日本人の96%が気候変動に懸念を抱いているといいます。しかしわれわれの課題は、その意識の高まりを行動につなげられていないことです。ここに取り組む必要があります。

産業界は、炭素税もなく排出権取引もない中で、本当によく努力をしていると思います。現場での省エネや再生可能エネルギーの研究開発などの取り組みを進めています。これについては、のちにまた詳しく述べようと思います。

先ほどの昼食を食べていた時に、「また日本は首相が代わりましたね」と言われたのですが、日本にとっての大きな問題は、政権がくるくると代わることもあって、サステナビリティや気候変動に関する一貫したしっかりした政策がなかなか打ち出せない、または打ち出しても、しっかり守り続けていくことができないということです。

それもあって、日本は、技術開発は進んでも、それを普及させるための、もしくは人々の行動を変えていくための、社会的な仕組みづくりがうまくいっていません。

先ほど「ドイツがソーラー発電で1位になった」という話がありましたが、技術的には日本がいちばん進んでいるといわれています。しかし、普及のための社会的な仕組みが上手につくれていないので、ドイツに抜かれてしまったのです。

しかし、このような政府の穴を埋めるべく、東京都などをはじめ、自治体が頑張り始めています。東京は日本の人口の10%抱える大都市ですが、CO2の削減や再生可能エネルギーの利用、建物の省エネ基準など、高い目標を設置し、日本全体をリードする役割を果たしつつあります。

来年、日本でG8サミットが開かれます。この日本でのG8サミットをひとつの契機として、日本でもサステナビリティに向けてしっかりした動きと枠組みをつくっていかなくてはならないと考えています」

あとでメンバーと話していた時に、「日本では政権がくるくる代わるからきちっとした政策が取りにくいというのは、本当に見ていてもそうだと思うよ。各国がしっかりとした政策を取り始めている中で、日本は大変だね」と言われてしまいました。。。

さて、このような1年間の振り返りと、この評議員会の位置づけや方向性の確認のあと、最初のテーマである「化石燃料への補助金」プロジェクトの発表がありました。

これまでは「補助金」というと、貿易との関係でWTO(世界貿易機構)などが力を入れてきました。農業への補助金が自由な貿易を阻害しているという立場です。しかし最近は、補助金は環境との関係で注目されるようになってきました。

しかし、各国でどのような補助金が、どこにどのぐらいつぎ込まれているのか、それがどのような影響を、貿易や環境に与えているのか、それを議論するための補助金の提議や共通の方法論がきちんと整っていない。その現状に対する研究を進めようというプロジェクトです。

「われわれは補助金に反対しているわけではありません。化石燃料に反対しているわけでもないのです。しかし、見えないところで化石燃料への補助金が出ていることが、どこでどのような影響を与えているかを明らかにしようとしているだけです」というのが、このプロジェクトのスタンスです。

その説明を聞きながら、「そうかー。この補助金プロジェクトは“虫干し”効果をねらっているのね」と思ったので、夕食会の時に、「日本には、悪い虫を追い払うには、日の光に当てるのがいちばん、というような意味の表現があるんですよ」と教えてあげたら、「まさにそうだよ」と大笑いになりました。

この化石燃料への補助金プロジェクトに関しては、また紹介する機会があればと思います。気になったのは、このプロジェクトを進めている組織が、これまでバイオ燃料に対する各国の補助金について調べ、ヨーロッパ、アメリカに関するレポートをすでに発表し、現在、中国、マレーシア、ブラジルなどについて調査を進めているというのに、日本に関する研究がないということです。

このプロジェクトは、各国の研究者と連携する形で進んでいるので、「もしかしたら、日本の補助金に関する研究者とのつながりがまだないのかな?」と思って尋ねたところ、やはりそのようでした。

もし日本で、化石燃料にかかわらず、補助金の影響について研究している研究者をご存じの方は、ぜひ教えていただければうれしいです。日本の研究者ともぜひ連携したいとプロジェクトリーダーからの伝言です!

休憩のあと、もうひとつのテーマである「エネルギー効率」について、IEA(国際エネルギー機関)、中国で多くの建設プロジェクトにかかわっているスイスの研究者、およびスイスを省エネ型社会に変えようという「2000ワット社会」のプロジェクトリーダーからのプレゼンテーションがありました。

2ヶ月ほどまえに、今回のテーマのひとつが「エネルギー効率」であることがわかったので、私は(要請されたわけではなかったのですが)、せっかく参加させてもらっているのだからと思い、日本の省エネへの取り組みをまとめた記事を書きました。

JFSニュースレター用の記事として、JFSの英訳チームに英訳してもらい、ネイティブにチェックしてもらったあと、参考資料として事務局に送ってあったのですが、議長をはじめ、メンバーはこのインプット資料に、まさに日本がなぜどのように高いエネルギー効率を実現しているのか、これで少しは垣間見ることができる!」ととても喜んでくれました。

明日2日目も、引き続き「エネルギー効率」の話をするのですが、そのときにぜひ日本の話もしてほしいとのこと。正式なゲストスピーカーではないのですが、参考資料が評価されたようで、少しばかり話す時間をいただけそうです。

参考資料では「トップランナー方式」などの政府の制度面でのとりくみを主に紹介しました。せっかく話す時間がもらえるなら、日本の高い省エネ活動を支えている(けど外部にはわかりにくい)仕組みとして、たとえば工場レベルでの小集団活動などについても紹介し、中国への、政府・業界・企業レベルでの省エネ技術の移転も進めつつあることも伝えよう、と思っています。

さらに、日本の話というより自分の意見ですが、エネルギーの消費量やCO2排出量を実質的に減らすためには、「効率を高める」(efficiency)ことによる省エネだけではなく、「足を知る」(sufficiency)ことによる省エネも必要だと考えていると述べてこようと思っています。

だって、いくらエネルギー効率を高めても、実際に使う数が増えている限り、全体的なエネルギー消費量は減りませんから! どんなに燃費のよい自動車をつくったとしても、走行距離が伸びている限り、または世帯当たりの台数が増えている限り、エネルギー消費量は増えてしまうのです。

IEAからのフランス人ゲストスピーカーのプレゼンにもありましたが、日本をはじめ、「エネルギー消費量」と「経済成長」をデカップリングに成功している国が増えつつあります。つまり、経済成長しても、その成長率ほどはエネルギーの消費量は増えていない、ということです。これはエネルギー効率の改善が大きな要因でしょう。

IEAからのゲストスピーカーは、「省エネを進めることは経済成長に役に立つのか?」について、熱心に議論を展開していました。

それを聞きつつ、私は、日本の一部企業がさらに進んで、「経済成長」と「企業価値」をデカップリングしようとしていること、その新しいビジネスモデルを模索している企業が出てきていることを話そう!と思いました。

「経済成長ありき」というメンタルモデルにどっぷり浸かっている(と思われる)欧米メンバーに対して、どこまで通じるかわかりませんが、明日、発言の機会をもらったら、そんな話もしてみようと思っています。

 

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