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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年09月25日

「成長の限界」とスローについて(2007.09.24)

新しいあり方へ
 

先日のベルリンでの国際会議のスピーチでは、日本の江戸時代が資源やエネルギーー循環型の持続可能な社会であったこと、戦後の高度経済成長時代に「追いつけ、追い越せ」とばかりに、消費を美徳とする社会・経済になり、そのなかで大事なものが失われてきたこと、現在の日本は、自殺者が多く子どもの笑顔が少ないなど負の大きな面と、新しく自分たちにとって大事なものを取り戻す新しい動きやうねりがあちこちで広がっている希望の面が両方あることを話してきました。

たとえば、として、GNPではなくGNH(gross national happiness)を国の進歩の指標にしようとしているブータンに刺激を受けて、GCH(gross company happiness)を会社の進歩の指標としている企業があること、成長至上主義から脱却する企業が出てきていること、モノを売るのではなくそのサービスや機能を売ることで環境負荷を下げる「グリーン・サービサイジング」に取り組む企業が増えていること、文化レベルでは100万人のキャンドルナイトをはじめ、スローライフを志向する人々が増えてきていること、岩手県では「がんばらない宣言」が出され、自治体ではスローライフシティサミットが開かれていること、などの例を話しました。「スロー」の話は、とても興味を惹いたようでした。

ベルリンのあとに参加したバラトン合宿では、あるセッションで「サステナビリティに関わっている人自身のバーンアウト(燃え尽き)の問題」が出ました。

アラン(アラン・アトキソン氏。バラトングループの若きリーダーで、デニス・メドウズからグループ代表を引き継いでいる。私は彼の「カサンドラのジレンマ」を翻訳出版しており、日本に招聘して、みなさんに彼の講演+音楽を聴いていただいた)とあとで、その話になりました。

ご参考まで、『カサンドラのジレンマ―地球の危機、希望の歌―』
(著者:アラン・アトキソン 監訳者:枝廣淳子 PHP研究所)

「温暖化は問題ではなく、問題の症状だよね。有限の地球の上で、成長を無限に加速すること自体が問題なんだよね。成長を加速するのではなく、スローを社会や経済に広げなくては。それも急いで! "スローを加速"しなきゃいけないなんて、おかしいけどね。そして、自分たちも含めて、残された時間が少ないことを感じてついがんばってしまう人たち自身のスローダウンも、大事なんだよね」

そんな話をしながら、2年前にアランがくれたメールを思い出しました。その夏に来日したアランは、日本のスロームーブメントについていろいろな学びがあったようで、その年のバラトンでもいろいろ話し、バラトン後にメールをくれたのです。メールニュースに載せる許可を得ているので、実践和訳チームのメンバーが訳してくれた内容をお届けします。2年前のメールなので古いですけど、「スロー」にお届けしました、ということで。(^^;

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ジュンコへ

僕は最近、「スローソサエティ」運動について思いがけず詳しく知ることになっ
た。先日の2人の会話を思えば、君も驚くかもしれない。でもこれは良い機会だっ
たと思うんだ。

何があったのかというと......。

君も覚えていると思うけれど、この間訪日した時僕は、日本で「スロー」運動が
急速に広まっていること、そして「主流」ともいえるその位置づけに、とても感
銘を受けたんだ。スローフード、スローファッション、スローカフェ、そしてス
ローインダストリーなんていうものまで登場していたからね! 

皆が皆「スロー」になっているわけではないけれど、日本では他の国々よりも明
らかに「スロー」が急速に広まっている。僕たちは持続可能性を促進する素晴ら
しい手段のひとつとして、「『スローソサエティ』実現の加速化」なんていう話
をよくしていたね。ちょっとヘンだけどね。

ここでは、スローの定義についてあれこれ説明するのは止めにして、僕たちは何
について話しているのか、もう分かっていることにしよう。心穏やかに、人生を
もっと楽しみ、身近な場所で生産された、環境に配慮した製品を、人間にも、自
然にとってもより良い方法で使おうという、あの世界的な運動のことだ。

これから、スロー運動の成り立ちについて僕が学んだことを簡単に説明する。で
も、その前になぜスローについて学ぶことになったのか、そのことから話そうと
思うんだ!

日本から帰国して、僕がコンサルティングを担当しているクライアントと話して
いた時のことだ。僕は日本で耳にした数々のスローなものについて話をした。す
るとクライアントは、「それは面白いですね!」 と興味を示してくれた。

次に会ったとき、そのクライアントからこんなことを言われた。「この間のスロー
に関する話を上司にしたら、とても興味を持ってくれたんです。少し情報を集め
て、私たちに説明してもらえませんか、もう少し詳しく知りたいんです」

このクライアントからはこのところ、多種多様なテーマについての説明を依頼さ
れていた。そこで、僕は情報を集め、報告書用のいつもの背景データを準備し始
め、導入部分を何段落か書き終えた......こんなふうにだ。 

「スロー」という言葉は、従来型の産業発展の方向性を意識的に拒絶することや、
手作りの製品および、等身大の経験への回帰を表す際に使われるが、これはもと
もと「スローフード」の概念から生まれたものである。

「スローフード」という言葉は、1986年にイタリア、具体的にはクーネオ県のラ
ンゲ地区、バローロ村で生まれたとされている。

国際的なスローフード運動が始まったのは、1989年にパリで行われた会議からである。当時の話については、www.slowfood.com(スローフード・インターナショナルのウェブサイト)もしくは、www.slowfoodusa.org(米国支部)を参照のこ
と。

もちろん、スローフードの国際的な事務局はイタリアにある。『スローフード』
の著者であるカルロ・ペトリーニが、ローマにマクドナルドが建設されることに
抗議し、1986年に運動を組織。彼はその後もファストフードに反対し続け、スロー
フード公式宣言を書き上げた。彼はそのことで今でもこの世界の重鎮である。ス
ローフード・インターナショナルのウェブサイトには、「カルロのコーナー」が
あるほどだ。

スローフードの基本理念は、環境地域主義であり、環境保護と人々の喜びとを結
ぶことにある。ウェブサイトには、「自らを『エコ・ガストロノミー』(環境に
やさしい美食家)と好んで呼んでいる」との記述もある。この運動は、環境や文
化といった食をとりまく状況だけでなく、食べる喜びと、その食べ物が収穫され
る健全な環境とのつながりとを明確に示すものなのである。生物多様性やもてな
しの精神は、新鮮なオレガノやバジルと同様にこの理念の中心を成すものなのだ。

スローフードは、それ自身を「味わう権利を守る運動」であると宣言している。
しかしながら、この簡潔な公式宣言に記された次の言葉からは、より広い意味が
込められていることが分かる。

>「われわれはスピードの奴隷となり、知らぬ間に広まるファストライフという
>名のウイルスにみんなが侵されている。このウイルスは生活習慣を破壊し、家で
>の食生活を脅かし、ファストフードに頼らざるを得ない状況へと追い込む」
>「ホモ・サピエンス(知恵のあるもの)という名に恥じない存在となるべく、
>種として絶滅の危機に瀕する前に、自らをスピードから切り離すことが必要であ>る」
>「静かな生活の営みを守ること、それが世界的な愚行であるファストライフに>抗う唯一の方法なのだ」

スローフードの組織は近年成長を続け、世界中でメンバーが約80,000人までになっ
ている。その半数がイタリアに住み、800の「コンビビア」と呼ばれる支部を組
織している。このほかに、米国、ドイツ、スイス、フランス、そして日本にそれ
ぞれ事務所がある。組織は書籍から議論、スローショッピングのためのアドバイ
スまで、さまざまなサービスを提供している。テーマはいつも持続可能な食べ物
に関すること、つまりどのようにそれを育て、買い、調理し、楽しむのかについ
てである。

しかし「持続可能な」という用語が使われることはめったにない(この持続可能
性という言葉は、米国支部において「指導指針」のひとつに取り上げられてはい
るのだが)。

「スロー」は今も生活のいろいろな次元へと広がっていっているが、スローフー
ドは組織として、食にフォーカスし続けている。そのロゴは小さなカタツムリで
ある。 

以上の内容に、スローシティに関する記述を少し加えたところで(ちなみにイタ
リアには33のスローシティがあって、一連の「スロー」で環境にやさしい政策と
その実施を推進する協定に署名している)、僕はクライアントにメールを書いた。

 「『スロー』に関するデータがかなり集まりましたが、最終的にはどのような
形での納品をご希望ですか? 2ページ程度にまとめましょうか? それとも10
ページの報告書にしましょうか?」

 1時間後に返事が来たよ。いやによそよそしい言い回しでこう書いてあった。
「どうやら私たちの間には行き違いがあったようですね。この件を、正式なコン
サルティングの仕事として貴方に依頼したつもりはありません。私はただ、上司
と共有できそうな情報をいくつかこちらにも回していただきたかっただけなので
す」だって。

 やられたね。半日がかりで資料を集めたというのに。君と話し合って、一緒に
報告書を書こうと決めて、プロジェクトも立ち上げたのに......。「了解しました。」
僕は返事を書いた。「いずれにせよ、私はこの件について個人的に興味がありま
したので、かかった時間は請求いたしません。」こういう顛末、コンサルティン
グの世界ではよくあることなんだ。

 でも結局は、災い転じて何とやらで、この「行き違い」のおかげで君とも話が
できたんだよね。これから僕らは、お互いに手紙をやりとりするなかで、さまざ
まな次元の「スロー」を探究していこう。この手紙はその第1信だ。そして、僕
らのやりとりはやがて本になって出版されるかもしれない......もちろん、ゆっく
りと、スローに、だけどね!

 ......ということでジュンコ、次は君の番だ。最近日本では何がスローになって
る? スローが流行っている理由も教えてもらいたいな。 

スロー過ぎない敬意を込めて(意識的に「スロー」の実践でもしない限り、僕は
生来のせっかち人間らしいね)、

アラン

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アランとの交換書簡は、残念ながら、私がスローすぎて(?)進んでいませんが、バラトン合宿のたびに、話を続けています。

私はシステム思考を学び、自分でも簡単なモデリングを勉強したりするなかで、スローに対する興味関心も、単なる「現象としてのスロー」を超えて、「構造としてのスロー」に広がりつつあります。

「温暖化をはじめとする環境問題は、有限の地球の上で、成長を無限に加速することが引き起こしている。この「成長の限界」を技術開発で解決しようとしても、ひとつの壁を技術力で突破するやいなや、次の壁が次々と出てきてしまう。これが「成長の限界」の構造なのだ。この「成長の限界」の構造に対するレバレッジ・ポイント(小さな力で大きく変えられる介入点)のひとつは、成長を加速するのではなく、ゆるめること、つまりスローダウンである」と考えています。

つまり、「成長の限界」の構造を本質的に変える可能性のあるものとして、スローの動きに注目し、また自分なりに展開を進めようと思っています。

さて、私にこのような「成長の限界」の構造についての理解をきちんとさせてくれたのは、いうまでもなくデニス・メドウズ氏です。彼の本を訳す中で、彼のワークショップに出る中で、バラトンで教えてもらうたびに、少しずつ理解が深まってきていることはとてもうれしいことです。

そのデニスに、11月の来日時に「ぜひ多くの人に「成長の限界」について教えてほしい!」とお願いしてワークショップを開催することにしました。前回ご案内した11月17日(土)のワークショップは、告知から5日もしないうちに満席となりました。私たちにもうれしい驚きです!

先日バラトンでデニスにお願いして、11月21日(水)にも同じワークショップを開催することになりました。アサヒビールさんがご厚意で会場を貸してくださいます。またとない貴重な機会となると思います。ぜひ一緒に学びましょう。


(注)お申し込みのメールは、下記の専用メールアドレスへお送り下さい。このメールニュースへの返信で送られる方が時々いらっしゃいますが、メールニュースへの返信は私にしか届きません。私はふたたび海外出張中なので、申し込みメールをキャッチして事務局に転送するタイミングが遅れてしまいます。専用メールアドレスでしか受付できませんので、ご注意下さい〜。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここからご案内〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

●●●「デニス・メドウズから学ぶ『成長の限界』」ワークショップ●●●

●日時 2007年11月21日(水)
13:00     開場(受付開始)
13:15-17:15  ワークショップ

●場所 アサヒビール スーパードライホールビル4F(浅草駅徒歩5分)

●講師
デニス・メドウズ氏(インタラクティブ・ラーニング研究所所長)

マサチューセッツ工科大学(MIT)教授であった1970年、ローマクラブからの依
頼を受けて、地球の人口、経済、環境などが相互にどのような影響を与えるかに
ついて研究するチームを率いる。1972年に、研究成果をまとめて出版された『成
長の限界』は世界的なベストセラーとなった。その20年後、新しいデータを盛り
込み、当初のモデルをその後の実際のデータを比較した『限界を超えて』を出版。
2004年には、『成長の限界』から30年たってわかったことや最新データを盛り込
んだ『成長の限界―人類の選択』を出版。

●コーディネーター
枝廣淳子(環境ジャーナリスト/イーズ/チェンジ・エージェント)

●コース概要
『成長の限界』の内容はもちろん、その背景や書かれた経緯について著者自身か
ら聞きます。参加型ワークショップで、頭と体と心で『成長の限界』のメッセー
ジを理解し、私たちがこれから何を考えるべきかについて、学びます。
(逐次通訳つき)

1.どのようにして『成長の限界』が書かれたか
2.なぜ『成長の限界』が書かれたか
3.『成長の限界』のポイント
4.体験的に学ぶ〜「行き過ぎと崩壊」とは
5.私たちの未来への意味合い
6.質疑応答


●参加費
15,000円/人(税込)

※受講費から必要経費を差し引いたお金は、デニスが力を入れている教育プログ
ラムの資金に充てられます。

●定員
約60人

●主催
有限会社イーズ/有限会社チェンジ・エージェント

●お申し込み
以下申込書フォーマットにご記入のうえ、申込専用e-mailアドレス:
1121dmws@es-inc.jp までお送りください。折り返し、お支払い方法のご案内を
自動返信メールにて送付いたします。

++++++++++++申込書++++++++++++++

デニス・メドウズから学ぶ『成長の限界』ワークショップ(11月21日)

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ご所属 :
備考  :

※この講座をどこでお知りになったか教えていただけると幸いです。
( ) a. 枝廣淳子のメールニュース(enviro-news)
( ) b. イーズメール
( ) c. 他のメールマガジンによるご案内 (          )
( ) d. イーズのウェブサイト
( ) e. 職場・知人・友人からのご紹介
( ) f. その他 (          )

++++++++++++++++++++++++++++++

●お問い合わせ
有限会社イーズ
e-mail: info@es-inc.jp
Tel:044-922-6130 Fax:044-930-0013
担当:飯田、星野


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ご案内ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

さて、個人レベルでの「スローダウン」についても考えています。(^^;

私は幸い、「バーンアウト(燃え尽き)状態」になったことはないですし、なりそうにない気がしていますが(^^:)、この数年間特に、講演などの依頼を多くいただくようになり(いまでもご依頼の半分以上はお受けできずに辞退させていただいています)、取材を受けたり記事を書いたり、本を翻訳したりという仕事も多く、なかなかまとまって考えたり新しいことを勉強する時間がとれない、という状況は「なんとかしなきゃ」と思っていました。

バラトン合宿でアランたちと話している中で、改めてそんな状態を変えたい気持ちが強くなり、ちょっとだけ変えてみることにしました。うまくいくかなー。(^^;

欧米の大学には「サバティカル」という制度があります、ある条件を満たした教授たちは、1年ほど大学を離れて、自分の研究に没頭したり、別の国で過ごしたりしてリフレッシュするのですね。

というわけで、1年間は無理だと思うので、せめて1ヶ月の「サバティカル月」を設けようと思いました。来年3月までは予定がけっこう入っているので、2008年4月を「サバティカル月」にします! すでに入っている予定以外は、1ヶ月じっくり考え、勉強する月にしようと思っています。

というわけで、もし講演依頼などをお考えの場合は、2008年4月以外にお願いいたします〜。(^^;

 

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