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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年08月22日

『月刊フラワーデザイナー』のコラムより(2007.08.09)

食と生活
 

今年、社団法人日本フラワーデザイナー協会が発行している『月刊 フラワーデザイナー』に、コラムを連載しています。

フラワーデザイナーの方々や、お花の好きな方々に、エコについてお伝えする機会として書かせてもらっているこのコラムから、3回分をご紹介しましょう。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

★エコロジカル・リュックサック


突然ですが、金の指輪1個の重さはどれぐらいか知っていますか? そう、10グラムとしましょうか。では、10グラムの金の指輪をひとつつくるために、どのくらいの土を動かしたり、資源を使っているのでしょうか? 

なんと6トンだそうです! 10グラムの金の指輪を恋人に贈るために、世界のどこかで、金を採るために鉱山を爆破したり、川底から土砂をすくい上げたりして、6トンもの土が動かされているという事実を知っている人はほとんどいません。

そうやって採掘された金も、そのままでは混ざり物が多すぎて使えませんから、精製して純度を高めます。そして、金の指輪に加工して、そして日本に運んできてお店に飾って、私たちが買う……その過程のそれぞれで、膨大な資源やエネルギーが使われているのですね。

指輪でも何でも、それをじっと見ても、その姿になるまでに膨大な資源やエネルギーが使われたということはわかりません。でも、コップでも何でも、私たちの身の回りのものは、それが作られるまでに多くの資源やエネルギーが使われているということを、「エコロジカル・リュックサック」という考えで示すことができます。

指輪でも何でもモノを見たら、「そのモノはそのために使われた資源や、その過程で排出された二酸化炭素などの環境に対する影響をリュックサックのように背負っている」と想像してみてください。モノによって大きなリュックサックもあれば、小さなリュックもあるでしょう。同じトマトでも、露地栽培のトマトと温室栽培のトマトでは、リュックサックの大きさが違います。また、地場野菜と輸入野菜も、輸送のためのエネルギーを考えれば、やはりリュックサックの大きさが違うのです。

フラワーデザイナーの皆さんが扱うお花も、それぞれエコロジカル・リュックサックを背負っています。お庭のお花や野に咲く花もあるでしょう。アフリカや南米で栽培され、空輸されてきたお花もあるでしょう。どのような土地で、どのような方法で、どのよう農薬や肥料を使って、どのぐらい水を使って栽培されているのかによって、それぞれの花のリュックサックの大きさは異なります。

お花を買うとき、お花に向き合うとき、「このお花はどれぐらいのリュックサックを背負っているのかな?」とちょっと思いをはせてみてくださいね。目の前のお花から、世界への扉が開くことでしょう。

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★そのバラはどこから来たのでしょう?

バレンタインデーの贈り物に、特別な日のプレゼントにと、世界中で好まれている美しい紅いバラの花束。紅いバラは、昔から愛と情熱の象徴なのですね。フラワーデザインで使うその一本の花が、どこでどのように育てられ、どうやって運ばれてきているのか、思いを馳せてみませんか? ふつうでは見えないものが見えるかもしれません。

今回は、ケニアまで思いを馳せてみましょう。

ケニアには雄大なリフトバレーという場所があります。その中心にあるのが、広大な水をたたえ、かつては野生動物の宝庫であったナイバシャ湖です。でも今日、湖の周辺には動物の姿はなく、温室だらけだそうです。このナイバシャ湖は、遠い市場向けのバラの栽培地の中心地なのです。

従来の経済の考え方からすると、ケニアでの花卉栽培ブームは国にとって歓迎すべきことでしょう。とても大きな輸出ビジネスに成長し、大量の雇用を生み出していますから。ここで栽培された花は毎日ヨーロッパに空輸され、オランダのオークションで取引され、欧州各国の生花店やスーパーで売られています。

通訳者だったころ、私は花卉市場での商談通訳に行ったことがあります。美しい花がところ狭いしと並んでいましたが、「多くはジャンボジェット機に乗って、遠くから来るんだよ」と。ケニアからのバラもあったのかもしれません。

このようにして、ナイバシャ湖周辺の湿地帯は、「園芸産業の一大生産地」に変貌しました。その結果、さまざまな影響が出ています。温室栽培のために、湖から大量の水を汲み上げていますから、水不足や水をめぐる争いに発展する危険性もあります。

また、バラ栽培のための肥料や殺虫剤が温室から流出する水に混ざって湖に流れ込んだため、魚のエサとなるプランクトンが生息している場所が破壊され、魚の数が大きく減ってしまいました。いまでは害が少なくてすむ生物分解性の農薬が使われるようになっていますが、それでもやはり膨大な温室がありますから、ナイバシャ湖の状況は依然として悪化しているといいます。

フラワーデザインは、その花々がつくりだす世界を楽しむアートですよね。「その花々はどんな世界からやってきたのか」にも思いを馳せてもらったら、一段と深みのある世界が創り出せるかもしれません。

今度お花を買うときに、「このお花はどこでどのように栽培されたのかなあ?」と思いを馳せてみませんか。

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★お花の認証プログラム

日本の花き市場は、世界第2位のマーケット規模だそうです。でも、そのうち70%は冠婚葬祭などの業務用。個人としてお花を買って楽しむ人は10人に3人か4人しかいないとか……。
 
切り花で言うと、現在、約4分の1が輸入なんですって。輸入の割合がどんどんと増えているそうです。でも、お花屋さんに買いに行っても、国産の花なのか輸入の花なのか、わかりませんよねえ? それに、農薬などをできるだけ使わない「環境に優しい花」なのか、そうでないのかもわかりません。でもいま、その状況が変わりつつあります。日本でも、お花の認証プログラムがスタートしたのです。
 
口に入る食品は安全性への意識が高く、さまざまな認証制度があります。でも、お花はこれまでそれほどお店も消費者もそれほど意識が高くはありませんでした。しかし、オランダで始まった「MPS」というお花のエコ認証のシステムが日本でも始まったのです。2006年8月には、MPSを運用するための会社、MPSフローラルマーケティング株式会社も設立されました。
 
生産者は、農薬や化学肥料、燃料の使用量のほか、排水の処理やごみの再資源化、分別などについてデータを提出し、審査を受けます。認証を受けたお花は、花き産業総合認証プログラムのラベルを包装や鉢などにつけて出荷することができます。
 
この認証システムによって、農薬や化学肥料、燃料等をできるだけ減らしていくプロセスができるので、環境への悪影響が継続的に減っていくことが期待できます。お花を買う側からすれば、安心・安全につながる環境配慮のマークであり、また、国産のお花であることもわかります。
 
一方、生産者は、自らの栽培管理を見直すことができます。オランダでは、農薬は25%、エネルギー使用量は22%削減できたとか。生産農家にとっても、コスト削減につながる頼もしい味方なのですね!

現在、国内の37生産者が認証プログラムに参加をしており、この夏には100生産者ぐらいまで増えるとのこと。日本には9万もの生産者があるそうですが、「まずは1%の1000生産者に広げたい」とMPSフローラルマーケティングの松島社長。
 
来年1月には、この認証マークをつけたお花がお目見えするはず。お花を買うときには、見栄えだけではなく、地球や環境にもやさしい、本当に美しいお花をぜひ選んでくださいね。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

お花の認証制度やMPSフローラルマーケティングについては、こちらをどうぞ。


農産物や水産物、木材・紙などにも認証制度がありますよね。認証制度やそのマークは、私たち消費者に「選ぶ知恵」を与えてくれるものです。私たちの持っている「選ぶ力」を意識して、「買い物をするときのパワー」を活かし、世界を望む方向に向けていきましょうね。

「あれを買うか、それとも、これを買うか」によって、地球環境や途上国や将来世代の人々、人間以外の種への影響が、よい影響だったり、悪い影響だったり、その悪い影響も大きかったり小さかったりします。

「見えないものを見る力」「思いを馳せる力」をはぐくむとともに、「選ぶことの力」を大事に活用していきたいですね。

 

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