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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年06月12日

AFCSR2006に見るアジアのCSRの新しい流れ(2007.06.10)

新しいあり方へ
 

『グローバルネット』2006年10月号(191号)より、これも大切なレポートをもうひとつ、許可を得てお届けします。
http://www.gef.or.jp/activity/publication/globalnet/index.html


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

AFCSR2006に見るアジアのCSRの新しい流れ
(財)地球・人間環境フォーラム客員研究員、(株)レスポンスアビリティ代表取締役
足立 直樹

 フィリピンのアジア経営研究所(AIM)が主催するアジアCSRフォーラム(AFCSR)はアジアを代表するCSRの国際会議であるが、今年は参加者が528人と昨年から約100人増え、さらに大規模なものに成長した。

■パブリックセクターとの協働がテーマ
 昨年のジャカルタでの会議では、CSRを推進するにあたって企業とNGOがどう協働するかが大きなテーマであった。その1年後の9月にマニラで開かれた今回は、行政や国際機関などのパブリックセクターとの協働に焦点が当てられた。

これは一つには、今回の会議が国連との共催であり、UNDP(国連開発計画)をはじめとする国際機関からの参加者が多かったことによるかもしれない。しかし、やはりこのことは、それだけこうした国際機関もCSRに、いや企業の力に大きな期待を寄せているということの表れであろう。

 そのような背景もあり、今回の講演で多く取り上げられたテーマは、教育、貧困削減、HIV/AIDS、そして汚職防止であった。最初の三つは、日本では企業ではなく行政などの公的機関の仕事と位置づけられているものである。

しかし、アジアにおいては、これらこそが企業の力が期待されている分野なのである。社会が必要としている課題を、行政だけでなく、企業、市民社会が協働して解決していくという新しい枠組みが、確実に動き始めていることを感じさせる。フィリピンを代表する財閥であるアヤラの社長であるフェルナンド・ゾベル・デル・アヤラ氏が、CSRは選択肢(option)ではなく、必然(necessity)であると述べたことは、まさにこのことを反映している。

■貧困層を顧客に?
 こうした流れの必然的結果と言えるのかもしれないが、今回はBOPという言葉もよく聞かれた。BOPとはBottom of the Pyramid、すなわち「ピラミッドの底辺」を指す用語だが、ここでいうピラミッドとは収入で分けた世界人口の構成のことである。

収入が多い人は世界人口のごく一握りであり、ピラミッドの頂点に位置する。収入が減るに従って人口は増え、最も人口が多いのは貧困層である。日本の1人あたりのGDPは3万ドルを超えているが、世界人口の4割強は、1日2ドル以下の収入しかないと言われている。

 しかし、先進国の市場はすでに飽和しており、今後大きな成長は期待できない。むしろBOPこそがこれから急速に拡大する市場であり、彼らを「顧客」に変えようというビジネス戦略がしばらく前から話題になっているのだ。このえげつないとも言える戦略が先進国の経済学者や経営コンサルタントの頭の中だけにある理論かと思いきや、今回のホスト国であるフィリピンではそれがすでに実践されていたのだ。

 AFCSRの初期からの熱心なメンバーであるフィリピンのアヤラグループとロペスグループは、いずれもフィリピン経済に大きな影響力をもつコングロマリットである。両者とも古くからフィランソロピーや社会貢献に力を入れ、いくつもの財団を持ち、活発な行動を続けてきた。そして、最近では教育、水道、あるいは通信などの公的な性格が強い分野に「ビジネス」を拡大したのである。

例えばフィリピンで水道事業が民営化された1997年当時、常時水道水を利用できたのはマニラの人口の26%でしかなかった。それが今や97%の人が、24時間、365日水道が使えるようになったという。事業を効率化し、料金徴収方法等を工夫することで、ビジネスとして利益を出しながら、BOPの生活レベルも改善したという説明であった。

 他にもプリペイド携帯で、誰もが比較的安価に携帯電話を使えるようにしたり、へき地の学校を私企業が運営したりといった事例が報告された。確かにこれらはBOPの生活の質を改善しているように思えるが、その一方、こうした動きはビジネスがBOPを食い物にしているとか、人間の生活に絶対に必要な水という資源まで売り物にしているという批判もある。そのことについて今回の会議で議論がなかったことは、残念であった。

しかしながら、タイで古くから地域開発を進めているNGOのPDA(Population and Community Development Association)創設者で会長のメチャイ氏は、企業はBOPでビジネスをすることを最初に考えるべきではなく、BOPに位置する人たちが収入を得て、それを教育や医療などに使えるようになることをまず手助けするべきだとクギを刺していた。

もちろん、単なる慈善活動だけではBOPの生活向上は継続的に行えないし、そのことはメチャイ氏自身も繰り返し主張している。そこで、まず利益を上げることを考えるのか、人びとの自立を考えるのかである。CSRは、本業以外のオプションではなく、本業での貢献こそが本質であると言える。しかし、本業で貢献すれば自動的にそれが素晴らしいCSRになるわけではない。そこに相手を人間として思いやり、尊敬する気持ちが含まれているかどうかこそが問題であろう。

■中国で加速するCSR
 今回の会議でもう一つ目を引いたのは、中国のCSRの進展である。本会議でも中国の例が紹介され、中国でもCSRが本格的に動き始めていることを感じさせた。コカコーラ・チャイナは中国の代表的な教育NGOであるCYDF(中国青年開発財団)と協力して、中国全土で52校の「希望小学校」を建設している。中国で奥地に住む人びとは、コカコーラと言えば学校のことだと思っている人がいるという笑い話のような逸話も紹介された。

そして中国にここ数年で一気にCSRが広がった理由もまた、政府の企業に対する熱い視線である。NGO、企業ともに社会を構築するための役割が増しており、中国のCSRは加速的に進展する新たな時代に入ったのだという。

■求められる日本企業のプレゼンス
 このようにアジア各国では、企業の力が日本とは比べられないぐらいに強く求められているし、企業もそれに応えている。CSRは社会貢献ではなく、企業と行政や市民セクターの協働による社会構築活動へと進化していると言えるだろう。

そのような流れの中で日本の存在感はと言えば、残念ながら今回もきわめて薄かったと言わざるを得ない。日本からの参加者はほんの数人であり、発表したのは筆者ぐらいであった。アジア各地でも知名度の高い日本企業が、何を目指し、どのような活動をしているのか、自ら示して欲しかった。

 会議の最後には、コラソン・アキノ元フィリピン大統領を迎えて、アジアCSR大賞の授賞式が行われた。今年はいくつかの部門でパキスタンの企業が受賞し、来年のAFCSRはインドで開催されることが決まっている。アジア各地でCSRが年々盛んになっていくことは嬉しいことだが、これが新たなジャパン・パッシングとならないように、日本企業がもっと積極的にこうした会議に参加し、自らの行動を語り、新たな協働の機会を探して欲しいと強く感じた。

アジアの経済は利益を求めるだけのビジネスから、社会を発展させるための協働プロセスに、確実に変化している。その流れを見落とし、乗り遅れることがあってはならないだろう。

(おわり)

 

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