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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年05月14日

レスター・ブラウン「値上がりする世界の食糧-自動車の燃料に大量に転用される米国の穀物」(2007.05.13)

食と生活
 

レスターの研究所をはじめ、世界のあちこちで、最新の動向や新しい考え方、進捗などの情報が書籍や雑誌、ニュースレターなどの形で次々と出されています。その多くが英語で、日本には入ってきていないものがほとんどです。日本から世界への情報発信も重要なのですが、まだまだ世界から日本に伝えたいこともたくさんあります。

翻訳したい情報の量 > 翻訳できる翻訳者の数

という状態を何とかしたいと、「正確さだけではなく、読みやすい和訳力を身につける」通信講座 Next Stage を始めて、ちょうど2年になりました。

日本にも翻訳者をめざしている人は多いのですが、「ただの訳」と「読み手を動かせる訳」には大きな違いがあります。必要に迫られて読みにくい直訳でも読まなくてはならない、という場合をのぞけば、訳の正確さだけではなく、読みやすさや「先を読みたい!」と思わせる表現力が、その情報やコンテンツが伝わるか、伝わらないか、人々の行動を変え、まわりの人にも伝えたいという気持ちにさせるかどうかの鍵を握ります。

2年間で200人を超える方々が Next Stage を受講し、和訳力に磨きをかけています。

また、この通信講座は、翻訳者としての大事な資質である「自分マネジメント力」も鍛えるコースでもあります。(長期間にわたる翻訳を、パフォーマンスレベルを落とさず、じょうずに自分をあやしたりなだめたり励ましたりしながら続けていく必要があるためです)

いま調べたところ、これまでに受講期限を迎えた受講生のうち、最後まで課題を提出し、通信講座を完了した割合は84%でした。他の通信講座に比べると、驚異的な完了率ではないかと思います。

(よく修了生から「これまでは最後まで続けられたことがなかったが、これは終えられてうれしい」と言ってもらうのですが、講座に盛り込んでいる「続ける力をつけるくふう」の効果が出ているとしたら、私もうれしいです!)

修了者を対象としたNext Stage Club メンバーには、トライアルに合格して書籍やニュースレターなどの翻訳に参加してくれているメンバーも出てきています。

この精鋭ぞろいの実践和訳チームの訳してくれたレスター・ブラウン氏の最近のニュースレターをお届けします。レスターが数年まえから「警告」していたことが、現実となりつつあります。

実際のお届けのまえにちょっとCMですが(^^;)、6月10日に、翻訳という仕事や勉強方法についてのお話と、この通信講座 Next Stage の内容を体験できるセミナーを開催することにしました。英語や翻訳にご興味のある方、よろしかったらお申し込みください。ご関心のありそうなお知り合いがいらしたら、ご案内ください〜。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

アースポリシー研究所
エコ・エコノミー最新情報2007年第3号
2007年3月21日

値上がりする世界の食糧-自動車の燃料に大量に転用される米国の穀物

レスター・R・ブラウン

もしあなたがスーパーマーケットでの支払いが毎週増えていると感じるなら、それはおそらく当たっているだろう。米国で収穫される穀物は、エタノール工場にますます流れてゆき、世界の食糧価格の高騰に拍車がかかっているのだから。

トウモロコシの価格は去年1年で2倍になった。小麦の先物取引もこの10年間の最高値だし、コメの値上がりも続いている。加えて、大豆の先物価格は5割の上昇だ。ブルームバーグ(訳注:金融、経済情報をはじめ様々な情報を提供するサービス会社。その分析には定評がある)は、エタノール燃料用の原料としてトウモロコシの使用が急激に増えた結果、世界の食の流れに思わぬ事態が生じていると分析している。

食糧価格の高騰によって真っ先に打撃を受けるのは、トウモロコシを主食にする国々である。そうした国は20カ国を超えるが、その中の一つメキシコでは、トルティーヤの値段が60%値上がりしている。腹を立てた7万5,000人ものメキシコ国民は街頭で抗議デモを繰り広げ、政府はトルティーヤの価格統制をせざるを得なくなってしまった。

中国、インド、米国はこの3国で世界人口の40%を占めるが、ここでも食糧価格の上昇が続いている。これらの国ではトウモロコシを直接口にすることは比較的少ないが、中国、米国はいずれも、結果的には食肉や牛乳、鶏卵という形でトウモロコシを間接的に大量に消費しているのだ。

中国では穀物や大豆価格の高騰が食肉や鶏卵の価格を押し上げている。1月の豚肉価格は前年より20%高く、また鶏卵価格は16%上昇している。穀物の依存度が豚肉ほどではない牛肉の場合も、6%値上がりしている。

インドでは、2007年1月の食糧全体の物価指数が、前年同月比で10%上昇した。インドの北部で主食とされている小麦の価格は11%も跳ね上がっており、世界の市場価格を上回っている

米国農務省は、国内の2007年の鶏肉の卸売価格は、前年よりも平均10%、鶏卵1ダースはなんと21%、牛乳は14%高くなるだろうと予想している。だがこれは前奏曲に過ぎない。

過去には、食糧価格の上昇は天候に左右されるというのが常識で、それも常に一時的なものだった。それが今回は違う。エタノール工場がどんどん建ち並ぶにつれ、世界の穀物価格は石油価格に追従するかたちで上昇し始めている。穀物価格は、これから長期間にわたって上昇していくだろう

かつては切り離されていた食糧経済とエネルギー経済が、今やひとつの経済として形成されつつある。この新しい経済では、穀物の燃料としての価値が食物としての価値を上回ると、市場では穀物がエネルギー経済に流れるだろう。石油価格が上昇すれば、食糧価格も上がることになる。

2006年には米国の穀物収穫量の約16%がエタノールの生産に使われていた。現在、約80のエタノール工場が建設中であるが、その生産能力は現在の2倍を上回るため、2008年には穀物収穫量のほぼ3分の1がエタノールに回されてしまうだろう。

米国は世界最大の穀物輸出国で、その輸出高はカナダ、オーストラリア、アルゼンチン3国の輸出量をあわせたよりも多い。そのため、米国の穀物収穫量の動向は世界全体に影響を及ぼす。大量の穀物を自動車の燃料生産に転用すると、輸出量は減少するだろう。今や世界の穀倉地帯は米国の燃料タンクへと急速に変貌しつつあるのだ。

1990年代後半には、それまで数十年間減少傾向にあった飢餓人口が増加に転じた。現在、国連が緊急食糧援助国として挙げている国は34カ国。チャド、イラク、リベリア、ハイチ、ジンバブエなど、こうした国々の多くは、破綻国家もしくは破綻寸前の国家と見なされている。通常、食糧援助プログラムの予算は決まっているため、穀物の価格が2倍になると、食糧援助は半減してしまう。

メキシコなどの低中所得諸国では、食糧価格の上昇に対する都市部での抗議デモが政情不安につながる恐れがあり、結果的に破綻国家や破綻寸前の国家の数が増えてゆくだろう。政治不安の拡大は、ある時点で、世界の経済進歩を妨げかねない。

こうした背景があるにもかかわらず、米国政府は「エタノール・ブーム」に浮かれている。ブッシュ大統領は、一般教書演説で2017年の代替燃料の生産目標を350億ガロンに設定した。これには、穀物由来及びセルロース系エタノール、液化石炭が含まれている。

セルロース系のエタノールを競争力のあるコストで生産することは今のところ困難だし、ガソリンよりも炭素含有量の多い液化石炭に対しても市民の反発が高まっていることから、この目標を達成するためには、燃料の大部分を穀物に依存しなければならないだろう。収穫された米国の穀物の大半が燃料に奪われ、食用に残るのはわずかとなり、数百カ国の穀物輸入国の取り分はさらに少なくなる可能性がある。

今後、自動車を所有する8億人と世界で最も貧しい20億人が、穀物をめぐって真っ向から争うことになる。食糧価格の高騰により、世界経済の「はしご」の低い段にいる数百万人が、生きていくために必要な消費量を下回る食糧しか手に入れられず、はしごから落ち始める危険性がある。

2007年2月に世界食料計画のジェームズ・T・モリス事務局長が行った報告によると、現在、毎日1万8000人の子どもたちが飢えと栄養失調で死亡しているという。この一日の死亡者数は、対イラク戦争における過去4年間の米軍戦死者数の6倍である。

この恐ろしいシナリオにも、代案はある。自動車の燃費基準を今後10年間で20%段階的に引き上げれば、米国で収穫される穀物をすべてエタノールに転換した場合と同量の石油を節約することができる。

そのための有力な選択肢となりつつあるのは、プラグイン・ハイブリッド車への移行である。ガソリンと電気のハイブリッド車に、コンセントから夜間に充電できる二次電源を搭載することによって、日々の通勤や買い物などのごく短距離の移動を電力でまかなえるようになる。これに、安い電力を送電網に供給できる多数のウィンドファームへの投資を行えば、ほとんどの場合ガソリン1ガロン(3.785リットル)あたり1ドル程度の電力で走行できるようになるだろう。

心強いことに、トヨタ、日産、GMの自動車メーカー3社はプラグイン・ハイブリッド車の発売計画をすでに発表している。プラグイン・ハイブリッド車への移行キャンペーンを全米に呼びかけているプラグイン・パートナーズにはすでに、電力事業者や企業、州・市政府、農業団体や環境団体など、508のパートナーが参加している。

急速に増えるパートナーのリストには、米国公共電力協会、米国電力研究所、米国風力エネルギー協会、米国コーン生産者協会、およびロサンゼルス、ダラス、シカゴ、ボストンの各市が名を連ねている。数多くのパートナーがすでに、プラグイン・ハイブリッド車が発売され次第、合計8,000台以上を購入する意向を表明している。

エタノール・ブームは政策として十分に考慮された代替案ではない。ますます多くの穀物に由来する燃料製造業を助成する現在の政策を継続するか、より燃費の良い自動車やプラグイン・ハイブリッド車と風力電力を軸とする、新しい自動車燃料経済への移行を奨励するか、米国政府が決断すべき時が来ている。

これは、世界的に食糧価格が上昇し、飢餓が広がり、政治が不安定化する未来か、それとも食糧価格の安定と石油依存度の低下、および二酸化炭素排出量の大幅削減を可能とする未来のどちらを選ぶかの問題である。


(翻訳:酒井、木村、小林)

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

これまでは別々だったエネルギー経済と食糧経済がお互いに強い影響を及ぼしあう、つながったひとつの経済になりつつある......。そして、その現れのひとつがスーパーの食品価格の上昇なのだ......。

システム思考では、私たちは「目の前のできごと」(例:売上が下がった、イベントに思ったように人が集まらなかった)に一喜一憂したり右往左往したりしがちですが、そのような「できごと」は氷山の海の上に出ている部分にすぎない、その下には、そのできごとを生じさせている「パターン」や、そのパターンをつくりだしている「構造」がある、と考えます。

レスターの上記の分析は、「食品の値上がり」という「できごと」から、その奥底にある「構造」を浮かび上がらせるもので、いつもながらさすがだなぁ!と思います。レスター・ブラウンが卓越したシステム思考家であることは間違いありません。

余談ですが、まえに「どうして、ふつうの人には見えないつながりが見えるの? どういうときに見えるの?」と聞いたことがあります。

彼は毎週あちこちから届く膨大なデータ(世界中の国の人口の変化、各地の食糧生産量の週報その他)に目を通しているのですが、「ああいうデータを頭の中で転がしながらジョギングしているとき、かな」と。「走るシステム思考家」なのですね!

走らなくてもよいですが(^^;)、システム思考家に近づきたい!という方へ。

6月12日 ビジネス向けトレーニングコース
http://change-agent.jp/news/000079.html

7月14日 入門セミナーと自分の成長をシステム思考で考えるワークショップ

がありますので、ぜひどうぞ!

ついでに、あと2つご案内を。

★5月21日「サステナビリティ総合力アップ講座」(札幌)

温暖化でも何の問題でも、「持続可能な社会」をつくっていくためには、
(1)「持続可能」というほんとうの意味がわかっている、 
(2) 複雑な状況を理解する力がある
(3) 差異を認めつつ問題解決に向けての対話ができる
必要があると考えています。

この3つの力を総合的に高めるための「サステナビリティとシステム思考を組み合わせた新しいコース」を札幌で開催します。

今回の新コースでは、「サステナビリティの基礎」「システム思考」「対話力」の3つのモジュールを組み合わせて、1日のワークショップを通して身につけていきます。体を使ったり、学習のための作られたゲームをやったり、座学だけではなく、演習をふんだんに採り入れた楽しいコースです。

すでに本州からの参加者もいらっしゃいます。道内はもちろん、道外からもぜひご参加下さい!

★5月25日より「骨太の枠組みをつくるための環境必読書を読む講座」

環境問題を考えるうえで、自分なりの枠組みを作ることが大切です。そのために必要なひとつのものは、サステナビリティ(持続可能性)に関する原理原則をしっかりと学ぶことです。この講座では、「これだけは必ず読んでおきたい」環境問題を考える上でのバイブルともいえる本を厳選し、読みながら考え、自分の身につけていきます。

環境問題をしっかりと勉強をしてみたい、という方、是非ご一緒しませんか。


5回シリーズですが、参加できないときは代理の方に来ていただくか、その回の資料と音声テープをお送りすることもできます。

「この5冊」を読む講座は今回かぎりですので、よろしければぜひごいっしょに。

 

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