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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年05月01日

「社会の中で、社会とともにつくるこれからの組織戦略」〜NGOにおける事例 その2(2007.05.01)

新しいあり方へ
 

(前号の続きです)

ほかのNGOも同じかもしれませんが、私たちがやっているJFSって何だろうなと思ったときに、「思いのプラットホーム」なんだろうなと、最近思っています。

JFSというひとつのプラットホーム、場があって、そこにスタッフやボランティアやサポーターの方や法人会員、それからさまざまなほかの方々が、「自分たちがやっていることで、日本の情報で世界と日本を動かしたい。いいことをやっているんだから伝えたい」という思いを持ち寄る。プラットホームなので、誰でも乗ることができます。ここのところは、会社とか行政とはかなり違うイメージかもしれません。

「社会とともに」というのが今回のテーマですが、何となくいつも企業や行政、もしくは大学などと話をしていると、「社会とともに」とよく言います。そのときに、あたかも社会が外にあるかのような感じで言っているように聞こえることがあります。「自分たち」と「社会」を分けた形で、でも手をつなぎましょうと。そういう発想で話されることが多いような気がしています。

それに対して、NGOというのはもともと社会のなかにあります。ですから「私たちが社会だ」と、多分NGOの多くが思っているし、私もそう思っています。なので、「社会とともに」というと、あまりピンときません。私たちが思うことが社会の思うことだと、少なくとも社会の一部が思うことだと、思っているからです。

少し、NGOの背景について話をしておくと、アメリカなどでは非常に大きな雇用を生み出しているのが、このNGOのセクターになります。特に、この20〜30年、大きくなってきています。その理由は、自分たちの暮らしや地域は、自分たちでコントロールしたい。自分たちの手綱は自分たちで握りたいという思いが、世界各地に広がっていることと、政府に頼ることは、全部は無理だろうという意識です。これは日本も広がっていますね。

特に、社会が急激に変化しているときは、やはり政府の対応を待っていては間に合わないので、いちばん現場に近い自分たちが、いちばん早く動いていったほうがいいと。こういった思いで広がっているんだと思います。

では、NGOを運営するってどういうことなのか。ここにはきっと、企業や研究機関とまた違う面があるのではないかと思います。

大体のNGOは「熱い思い」で始まります。「この川をきれいにしたい」、もしくは「この問題を何とかしたい」など。

ただ、熱い思いだけでは続きません。常にビジョンを持っていることと、ちゃんと回していくためのシステムを持っていないと、熱い思いが消えてしまったときに、NGOの活動は止まってしまう。もしくは、人がなかなか集まってこないということになります。

NGOを考えるときに大切なポイントは3つあって、「どうやってお金をつくるか」「どうやって組織をつくるか」「どうやって人をつくるか」です。NGOの人とよく話をしますが、やはり「人づくりがいちばん難しいね」という話になります。これは企業でも同じかもしれません。

お金の話を最初にすると、日本で特に大きな誤解があるのは、NGOとかNPOは儲けてはいけないという意識がとても強いことです。少しずつ変わりつつありますが。NPOは特にNonprofit Organization、Nonprofit なんだから儲けちゃいかんと。そうするとNGOやボランティアというのは、霞を食って生きていかなければいけない。これはNGO側にもそう思う人もいるし、一般の人もそう思っている人がけっこういます。

ですから、私たちがNGOとして何かサービスを提供したときに対価を求めると、「NGOなのにお金取るんですか?」と、いまでもいわれます。私はいまあちこちで「NGOは儲けなくちゃいけない」といます。やっぱりお金がないと、霞を食っていてはNGO活動もできないですから!

Nonprofitってどういうことかと言うと、利益が上がったときに、それを自分たちで分けないという意味です。次の事業で使うために利益を上げるのは、全然問題ないです。ですから、Nonprofitの意味がきちんとわかっていないで「儲けてはいけない」と思っている場合があります。儲けないと持続することはできません。

ただ、日本の多くのNGOを見ていて、時々危ないなと思うのは、お金がないと組織が維持できませので、組織を維持するためのお金をどこかから持ってこようと思う。助成を出してもらうとか、補助金を出してもらうとかやっているうちに、もともと自分たちがやりたかったことと、ちょっとずつずれていってしまう。それで苦しくなってしまうNGOもあります。

JFSは法人会員、今日来てくださっているなかにも会員の会社の方がいらしていると思いますが、法人会員の支援、それから個人サポーターの支援をいただいています。それから、私たちは環境コミュニケーションと英語の専門家が集まっているNGOなので、これはビジネスとして環境コミュニケーションのサポートを事業としておこなっています。このあたりで財政基盤を築いています。

法人会員のリストですが、環境に関心のある、もしくは熱心に活動されている企業は、大体入ってくださっているのではないかと思っています。いま76社ほど入ってもらっています。

「社会とともに」とNGOを考えたときに、社会の思いを形にするのがNGOのひとつの形です。ただし、そのときに思いだけではなくて、社会のお金もついてこないと、やはり回らないのです。

たとえば、アメリカには、「去年1年間に環境NGOに寄付をしたことがありますか」というアンケートに対して、40%以上の人が「Yes」と答えているという統計があります。日本でそれを聞くと多分、数%いくかいかないかではないかと思います。

自分たちの思い、自分たちがやらなきゃいけないと思っていることを代わりにやってくれているんだから、お金は当然出すと。それは「かわいそうだから」とか「めぐんでやる」とかではなくて、「やってもらっているから出す」というのがごく普通の考え方ですが、なかなか日本はそこになっていない。

もうひとつ、NGOの場合、特に環境NGOの場合難しい点があります。企業であれば、この商品に対する対価、このサービスに対する対価、割と分かりやすいです。ただ、私たちの活動は、受益者が時空を超えることがよくあります。私たちがいま、一生懸命情報を発信しているのは、30年後の地球を少しでもよくするためだったりするわけです。

そうすると、いま情報を受けている人が直接の受益者ではないかもしれない。未来世代だったり、地球の裏側の人々だったり、アマゾンのジャングルのなかの動物だったりするわけです。

そのように「受益者が時空を超える活動」を、いまの経済の仕組みのなかでどうやって回していくのか。これはNGOであればやはり悩んでしまうところですし、社会の側でもここを理解して進めていく必要があると思います。

最後に少し、人づくりの話をしておしまいにします。これは新刊『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?―小さな力で大きく動かす!システム思考の上手な使い方』にも書いたことですが、組織をつくるときに、自立的に回る組織をつくる必要があると思っています。

「学習する組織」という考え方があります。日本ではまだあまり広がっていませんが、世界的に学習する組織というのが広がっていて、私はジャパン・フォー・サステナビリティのNGOを立ち上げた時に、ボランティアの組織を、「自己組織化する組織のデザイン」をできるだけ組み入れた形でつくりました。

これは具体的に言うと、さまざまなチームがありますが、それぞれジャズプレーヤー型組織と言っていて、たとえばプロジェクトごとにチームをつくります。「じゃあ、これやるよ」「出版やるよ」「やりたい人集まれ」という形で集まってもらう。そのプロジェクトが終わったら、チームは解散します。

そういった形で、組織維持のための活動はほとんどしていません。常に必要な活動だけをする。そしてそれぞれのチームが、お互いにいろいろマニュアルをつくったり、新人研修をやったり、それぞれのチームのやり方を発展させながら、全体としてJFSをつくっている。

今日、詳しく話はできませんが、もしこのジャズプレーヤー型組織のJFSの組織論にご興味があれば、これもそこに何冊か置いてもらっていますが、JFSの本の2冊目『がんばっている日本を世界はまだ知らない vol.2』に、JFS組織論を私が書いているので、見てください。

最後に、NGOを運営していくうえで、もしくは社会のなかでやっていくうえで大切だと思っていることをお話しします。

それは「思い」のマネジメントです。さっき、「思いのプラットホーム」という話をしました。思いというのは、お金よりも強いです。私たちJFSの組織は、予算規模でいうととても小さいです。でも、やっている活動は結構大きいと思っていて、企業の人と話をしていると、「これだけの活動量を、このスタッフとこの予算でやっているのは信じられない」とよく言われます。それは、思いをみんなが集めてくれているからです。

ただお金を払っているわけではないし、何の義務も契約もありませんから、思いをどのように集めて、重ねて、温めて、維持するか。これがうまくできないと、NGOとして活動を続けることができなくなります。

そのときに大切なポイントが3つあると思っています。1つは「使命感」。私たちのNGOは何をするためのNGOなのか。それを繰り返し繰り返し確認してもらうこと。そして、「達成感」それに向かって自分がお金なり時間なりスキルを提供したことが、何につながっているのか。それが感じられるように。達成感を感じてもらうにはどうしたらいいか。

さっき言ったように、世界からのフィードバックを日本語にして、各チームに配ってもらっているのは、達成感を感じてもらいたいという思いです。

さらに「自己実現の場」であること。JFSに参加しているから、たとえば英訳チームに入ったらTOEFLが30点上がった、という人がいます。だって、ネイティブが全部チェックしてくれますから、英作文の無料添削を受けているようなものです。もしくは、情報検索チームに入ったら、前よりも新聞が面白くなった、世界が広がった。そういう方もいます。

こういった自分にとってのプラスが何か。このあたりを常に感じてもらいつつ、私たちはJFSとしてどこに行きたいか。そして、その活動の延長線上として、世界をどういうふうにしたいのか。それをみんなで確認しながら、それを訴えながらやってきています。

あと、実際の運営等について、またパネルディスカッションで話ができればと思っています。ありがとうございます。


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