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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年04月27日

「社会の中で、社会とともにつくるこれからの組織戦略」〜研究開発部門における事例 その2(2007.04.27)

新しいあり方へ
 

(前号からのつづきです)


日常の人間行動の観察とモデル化を通じて、全体的な欲求・動機というものがどんどん見えるようになってきた。最近のサービス産業で非常に成功事例のGoogleで何ができるか。私も1日何十回もGoogleにアクセスして、いろんなものを検索する。そしていろんな情報を得る。

つまり、検索というサービスをどんどん提供しながら、彼らは別のところで――われわれから見たらGoogleは便利なツールですが、Google社側から見たら、私たちの趣味・趣向を一生懸命計測していると。つまり、私の趣味は何か大体、Googleはわかっているんですね。このパソコンが何を検索しているかでわかってしまう。そうすることで、別のところでマーケティングという新しいサービス提供を行っている。

同じようにSuica。私も今日、Suicaでここまで来ましたが、とうとう営団地下鉄までSuicaが使えるようになった。これは便利ですよね。それによってJRは、どんどんいろんな運輸サービスの高度化を図っている。

ただし、これはJRから見たら何が見えるかといったら、JRは私たちの行動をずっと追跡している。つまり、私たちが何か犯罪をやったとき――皆さん、多分やらないと思いますが、アリバイ工作はほとんどできないようになると思います。Suicaとクレジットカードとケータイのアンテナで、大体行動が見られてしまう。

今後10年間、多分、JR東日本は日本最大のマーケティング・カンパニーになってくるんじゃないかと思います。なぜかというと、たとえば50代のおじさんが昼の3時に最もたくさん集まる場所はどこか。普通はオフィスだと思いますよね。でも、それ以外の場所はどこかというのは、誰がいちばんよく知ることができるか。

これはJRです。なぜかと言うと、Suicaをどういうふうに使っているかによって、どういう属性のどういうタイプの人間が、どういうところに集まるかというのは、Suicaが運輸鉄道という事業を行いながら、こちらのほうでどんどん新しいビジネスの種をつくり始めた。

その結果、最近起こったのは、たとえばこれまで通過点であった駅が、今度ゴール、つまり駅を目的地化して、最終的に駅中のビジネスがどんどん発展してきた。

Googleの最大の競争相手は誰かと考えたら、私は「日本で言いますとJR東日本です」と最近言うようになったのは、こういうことが最近起こり始めていると。

もう少し、人間の行動から何がわかるか。これはビジネススクールで教えてくれないものですが、たとえば「コンバージョンレイト」です。これは来店者が購入者に転換する割合。これは本来、非常に重要なこと。われわれは売り上げとか利益率とか、特に会社の経営者は知りたいと思いますが、もっと重要なのは、たとえば何%の来店者がモノを買っているのか。コンビニの場合ほぼ100%です。たとえば洋服屋は、何%か知らないですから。お店の滞留時間が長いほど、人は多く買っているというのは、れっきとした事実です。

ということは、いかに買ってもらうかというよりも、今後の焦点は、いかに長くいていただくかということを考えなきゃいけない。

もうひとつ面白い事例で、ある本に書いてあったのですが、駐車場からお店に入るときに歩くスピードを極端に遅くしないといけない。当然、駐車場で歩いている速さと、ショッピングする歩くスピードは全然違う。その間に、徐々にスピードを落としていくトランジッション・ゾーンというのがあるようですが、その間にモノをどんなに置いても、モノは売れない。つまり、いかにスピードを遅くする距離を短くするか。そうすることによって、お店のなかの購買面積が決まっていくと。

こういうようなことというのは、われわれほとんど知らない状態で、実を言うとビジネススクールはただ単に利益とか売り上げとか、そういうことばかり考えている。

これはひとつの事例。これはわれわれの大学のすぐ近くにある「柏の葉ららぽーと」です。これは面白いですね。「ららぽーとカーニバル」と書いてある。こういう見出しは、果たして昔のデパートにあっただろうか。これは何を意味しているかと言うと、最近のショッピングセンターというのは、行く所からとどまる所へ変化し始めた。そして、買う所から遊ぶ所へ変遷し始めたということです。

何が言いたいか。いまの家庭はほとんど共働きになってきた。ということは、週末に家族全員でしか、買い物できなくなってしまった。当然、お財布を握っているのはほとんどがお母さん。そうした場合、お母さんは一生懸命買い物をしたいんだけど、だんだんお父さんは飽きてきて、子どもは飽きてきて、「早く帰ろう、帰ろう」と言い始めると。

そうしたときにららぽーとは何を考えたか。できるだけ長くいていただくために、たとえば子どもが遊ぶ場所をつくった。スポーツクラブ、映画をつくって、お父さんがあちこちゆっくりできる所にしようというようなことを考えた。可能な限り長くいていただく。そうすることによって、少しでも売り上げを上げていこうと。これこそ、人間の行動から全体的な要求を知ることによって成功した、ひとつのビジネスであると。

このように考えていくと、先ほどの理想型の研究はプロトタイプを出し、社会で実際に使っていただきましょうと。さらに、人間の行動をもう少し研究法にフィードバックをかけることによって、何を研究していったらいいのかということがわかる。

つまり、これをもうちょっとまとめかすと、研究者はつくってみましょう、社会で使ってみましょう、使った様子を観察してみましょうと。それをモデル化することによって、このループというものを通していく。

いままでの研究というのは、勝手に社会に論文を放り投げて、「使わないあなたがおかしいのよ」と言っていた。社会は、研究とどのように接していいかよくわからないという状態だったものを、もう少し社会のなかで、社会とともに研究が存在できるように、こういう構造をしっかりつくっていくということを目指す。

われわれの産業技術総合研究所では、ひとつのキャッチフレーズとして「技術を社会へ」を持っています。ひとつの実践の場としてのわれわれの研究所ですが、設置は平成13年4月。実を言うと、われわれの組織の憲章は「社会のなかで、社会のために」です。
 
私どもの研究所におけるひとつの事例として、たとえばセラピー用のロボット。これはぬいぐるみでなくてロボットですが、いままでただ単に、たとえば「セラピー効果を高めるにはどうしていったらいいんだろうか」とか、「ロボットをつくるにはどうしていったらいいんだろうか」ということをバラバラに考えていたものを、実際につくってみる。

それをさらに今度、これはついこのあいだプレス発表しましたが、老人ホームに実際、持っていってみて、認知症の老人に実際に使っていただいて、その効果を確かめる。

研究者は何をやるかと言うと、思いもよらない行動を老人が取ることによって、さらに新しい技術開発が進んでくる。つまり、社会のなかで進化する研究というものが、社会とともに研究することによって、実を言うと、これは別に社会のために奉仕するということではなくて、結果的に自分たちの研究がどんどん進化していく構造を持つようになる。

もうひとつは、お母さんたちも関心があると思いますが、子どもの事故。子どもの事故が非常に多い割に、ほとんど出てこない。なぜかというと、大体お母さんたちは自己責任を感じてしまって、「自分が悪かったから」と言って内に秘めてしまう。それをあえて、子どもの動きを計測して、事故の結果と併せて、ひとつのシミュレーターをつくる。これをわれわれはある企業と共同でホームページに公開しました。

その結果、何がわかってきたか。そのホームページに公開する。あなたの子どもは何カ月ですか、何歳ですか、ハイハイしますか、歩き回りますか、走り回りますかということを入れていただくと、結果的にお母さんたちは、自分の子どもが抱えているリスクがよくわかってくる。そういうホームページをつくっている。何がわかってきたか。

実を言うとわれわれ、いままで、平均して何カ月で赤ちゃんがハイハイを始めるとか、何カ月で歩きだすのかというデータはほとんど取っていない。唯一あったのが、アメリカの百数十件やったデータだけだった。

それが実を言うと、われわれは、そういうホームページをつくることによって、実際にそういうサービスを提供した。そのサービスを提供することによって、お母さんたちはどんどん自分の子どもの情報をそこに入れる。その結果、子供状況にあったいろんな情報を得るんですが、われわれのほうは逆に言うと、こういうデータを有することによって、赤ちゃんがどういうふうに行動しているのかということが、逆にわかってくる。

これこそが、実は社会のなかで研究することによって進化し続ける研究である。こういうことがわかってくると、実はいろんなことがわかってくる。たとえば、いまのように、子ども、安全みたいな、赤ちゃんの行動モデルがわかってくると、あのデータをおむつメーカーが使ってみたり、おもちゃ会社が使ってみたり、いろんなところに応用できる。

先ほど言いましたSuicaというのも、青少年、壮年の行動モデルが実は駅中ビジネスへどんどん展開し始めた。Googleはマーケティングでやっている。私がいま注目しているのはゲームメーカー。ちょうどうちの子どもが使い始めたところですが、あれはゲームだと思っている方が多いと思いますが、あれは明らかに教育ツールですね。脳を鍛えるとか、レシピを集める。

私は、ゲームメーカーほど、人間のモチベーションがよくわかっていると感じています。従って、子供が最もやりたくないであろう勉強をやってもらうための方法論をいちばんよく知っているのは、文部省ではなくてむしろゲームメーカー。

もうひとつ重要なのが、社会のなかでといっても、結局最後は、すべての研究をやるのは人間である。そういうようになったときに、われわれがひとつ工夫しているのは、まじめな雑談をする空間をつくっていこうと。

これは私どものある研究センターのなかのひとつの写真ですが、どんどん研究を行うのは人間である。研究した成果を使うのも人間であるというふうに考えたときに、もっともっと自由な発想で働けるような職場環境にする。そういう意味で、こういうオープンなスペースと、静かな研究ができる小さな個室スペースをつくる。

ここで働いている研究者が言っているのは、トイレに行くのにも人の脇を通るようにしよう。人と人の接点がどんどん増えていけば、そこにコミュニケーションが始まる。コミュニケーションが始めれば、どんどん新しいアイデアが生まれる。どんどん新しいアイデアが生まれれば、どんどん研究が進んでいくと。

そういう意味では、ホワイトボードを置き、机を置き、そうすることによってどんどん、まじめな雑談を仕組んでいく。

このぐらいですと、いろんな所でもやっていると思いますが、ここで重要なのは、議論するときホワイトボードに取りあえず書く。何か字が書いている。字が書いてあって、どんどん議論してホワイトボードに書くけど、終わった後消さない。なぜかと言うと、また次の議論でこれを使うかもしれない。

実を言うと、まじめに雑談をしようとか、コーヒーメーカーをどこかに置いて、そこで議論できるようにしようと。これもいくらでもあると思いますが、もっともっと人間的側面を重要視していくことによって、実はこういうまじめに雑談することによって、研究がどんどん進んでくるというのを、われわれは現場で多く学んできています。

まとめますと、人間一人ひとりの行動条件の集積が、新たな製品サービスへ展開していく。これまでの工学は、私たちの研究センターもそうですが、いかにつくるかという「製造の学」であった。これから必要な工学というのはむしろ、われわれがほとんど知識を持っていない、使う側の「人間の学」です。

たとえば自動車会社は、壊れた自動車は知っているけど、どういうふうに使って
こう壊れるかを知ることができない。従って彼らは、インターネット接続、カーナビを使って「どうぞ、どうぞ」「これをサービスで提供しますから、どうぞ使ってください」。彼らがほんとに知りたいのは、どういうふうに使われているかを知りたいはずです。そういうものをカーナビで、インターネット接続で車の動きを知るということです。

つまり、人間一人ひとりの行動で、産業や社会の革新につながっていくと。これまではB to C という議論がたくさんありました。Business to Consumerで、企業が個人に対してどういうサービスや製品を提供するか。今後はC to Bで、個人の行動が社会や産業界の革新につながっていくという本当の意味での「買い手市場」の時代になり始めたというのが、21世紀に入ってからの社会のシステムの変換であるということで、私の今日の話を終わりにしたいと思います。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


[No. 1300] に一部ご紹介していますが、内藤さんのご本と重ねて読んでいただけたら、より「なるほど!」が得られるのではないかと思います。

『「産業科学技術」の哲学』
吉川 弘之 (著), 内藤 耕 (著)

この会では、私も「NGOにおける事例」として、自分が共同代表を務めているJFS(ジャパン・フォー・サステナビリティ)の事例をもとに、お話ししました。そちらの内容もまた、お伝えしますね!

 

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