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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年04月27日

「社会の中で、社会とともにつくるこれからの組織戦略」〜研究開発部門における事例 その1(2007.04.27)

新しいあり方へ
 

先月、東京大学人工物工学研究センター主催の「第14回人工物工学コロキウム〜社会の中で、社会とともにつくるこれからの組織戦略」に参加しました。

> 人間が自然と共生し持続可能な社会をつくるという課題も、企業が直面している
> 新しい事業を開発するという課題も、大きく複雑なものです。このような課題に
> 取り組むとき、最適な解をロジカルに見出すことは容易ではありません。しかし、
> ここ数年、組織や個人が社会と積極的な相互作用を通じて、社会の中で、社会と
> ともに解を見出したり作りだしたりするプロセスが有用であることが明らかになっ
> てきました。
>
> 人間・人工物・環境の新たな関係を追求する東京大学人工物工学研究センターで
> は、第14回コロキウムにおいて、この新しい方法論を実践している産業界、NGO、
> 研究開発部門の先進事例を紹介し、これから求められる組織戦略を議論します。

話題提供セッションで、「研究開発部門における事例」としてお話になった内藤耕さんが、そのときのお話をメールニュースでお知らせする許可をくださったので、お届けします。内藤さんのお話はいつもとっても面白く、笑いながら考えさせられちゃうのです。では2回に分けてお届けします。どうぞ!

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

どうもありがとうございます。ご紹介にあずかりました内藤です。本業は、ここに小さく書いてありますが、産業技術総合研究所で、現場の研究者ではなく、研究組織の事務をしています。今後どういうふうに研究をやったら良いのかということを、一生懸命机にかじりついて仕事をしているというのが、現在の私の仕事です。

このような仕事を一生懸命してもしょうがないので、その一部をもう少し深めることができないかと思って、現在、東京大学の人工物工学研究センターで研究して、その成果の一部を今日、こちらでお話ししたいと思っています。

ところで、研究室で東京大学のホームページを見ていたとき、宇宙飛行士の野口聡一さんが凱旋したところが紹介されている写真を見かけました。「科学技術というのはすごいな」「日本人が宇宙まで行くんだ」と思いながらホームページを見ていると、ふとあるところに目が行って、そのまま1時間、ずっと見入ってしまいました。

それは何かというと、野口聡一さんの背後でケータイを使って写真をとっている人がいたのです。このような話を聞くと皆さんはきっと、「野口聡一さんが来たから、一生懸命ケータイで写真を撮っている」という身近な光景を思い浮かべるに違いありません。

ただ、このホームページを見て非常に不思議だったのが、野口聡一さんの背後ということは、野口さんの後頭部を撮って何が面白いんだろうと考え始めたのです。これは非常に日常的な写真なのに、非常に不思議ですね。

つまり、ここで私が言いたいのは、野口聡一さんの科学技術の素晴らしさではなくて、実を言うと、もともとあったフィルムで写真を撮って現像するという文化が、携帯電話とCCDという新しい技術がくっついたことによって、新しい文化が生まれ始めたということです。

かつ、その文化というものが、これまで研究者がまったく想定しなかった方向に技術が使われるようになってきた。つまり、今はどうつくっていいかわからない時代だけではなくて、実を言うとわれわれは、つくった技術がどう使われるかわからなくなってしまった時代になってきたということが、この写真から読み取れるということです。

研究と社会の関係を見たとき、企業で何が起こっているかというと、事業部というのがこのようなものを作って欲しい、この問題を解決して欲しいと研究部門に要請する。ただし、いろんな企業に行くと聞こえてくるのは、研究部門の成果がどこかに行ってしまう。つまり、研究部門はどこかで研究していて、なかなか事業部に貢献してくれないと。

もうひとつ、これまでの研究機関、たとえば私たちの研究所もそうですが、社会は何を考えているか、さらに研究はどうなっているのか、そもそもループがつながっていない。お互いに勝手な方向を向いている。多分、大学などもそうだと思いますが、こういう構図を持っているのです。

もうひとつ、最近はやりのイノベーション。これはいま、私の同僚が奥さんから「イノベーションは何?」と言われるぐらい、イノベーションというのが日常的な言葉になってきたと思いますが、これは意外と知らない方も多いかと思いますが、新しい研究成果が社会に入ってくる。それによって社会が変わってしまう。ただ、初期の段階というのは、実は社会はそういう技術をどう使っていいかわからない、というものが実はイノベーションです。

われわれが目指そうとしているのは、研究と社会が、要請と成果がお互いにつながり、循環していくシステムというのを、果たしてつくれるのだろうかということです。

たとえばロボットの研究というのは、あ、ここには鉄腕アトム世代が圧倒的に多いと思いますが、何となく「ロボットってすごいな」と思っても、実際、身近な生活のなかにロボットが入ってきたときに、どういうふうにロボットと接していったらいいか。どういうふうにわれわれ、ロボットを使っていったらいいのか、わからない。だからなかなかロボットは社会に出ていけないのです。

私たちが抱えている大きな問題は、そもそも新しい技術というものは、社会のなかでどういうふうに使っていったらいいのか、それをどういうふうに知ることができるのであろうかということです。

もうひとつ、もっと大きなジレンマというのは、実を言うと、われわれは社会の要請をどのように知ることができるのかということです。皆さん、将来、サステナビリティにはどうしていったらいいんだろうかというふうに聞かれても、なかなか答えられない。

「ニーズを知って商売しましょう」とよくいわれます。「ニーズを知って今日の献立を考えましょう」と言われても、たとえば私も、「今日の夜、何食べたい?」と言われても「うん、何でもいいよ」というのが大体の夫婦ゲンカの始まりです。ニーズを知るということがいかに難しいか。

こういうように、社会の要請をどのように知ることができるのかというのが、実を言うと、われわれ研究現場が抱えている、非常に大きなジレンマであるということです。これについて、これから少しお話ししていきたいと思います。

ひとつは、たとえば研究者が何をやっているか。何か一生懸命、実験室にこもって実験する。その結果をどこかに論文を出す。これで研究は終わったと思われる方が多いかと思いますが、われわれはさらにそれを一歩踏み出そうとしています。

ひとつは、使えるものをつくって使っていただきましょうと。これがすごく重要です。つまり、難しい言葉ですが、「プロトタイプ」というふうにいわれています「試供品」とか「試作品」という言葉でも言えるかと思いますが、研究者は多くの場合、論文という情報しかつくっていない。それに対して、私どもの研究所では、使えるものをつくりましょうと。

そういうものを社会が使うことによって、たとえば日常の社会生活のなかで評価しよう。または、たとえばまったく研究開発と関係ない方が使うことによって、これまでは一生懸命研究した成果を「説明」していたものを、研究した成果を「対話」のなかに持ち込みましょうと。お互いに対話をしましょうと。ある共通の試作品をつくることによって、それをコミュニケーションツール化していきましょうと。

もうひとつは、これをつくることによって、実は研究がさらに進むという事例がありますが、使えるものをつくることによって、逆に言うと、何が不足してくるのかが見えてくる。

たとえば、あるものをつくろうと思った場合、「この理論を発展させればこういうのができます」ということを考えることは非常に楽ですが、逆につくることから考えてみると、実は足りない部品がたくさん見えてくる。そうすることによって、研究というものはどんどん進んでいく。

つまり、使えるものをつくるということが、実は研究開発にとって、ただ単に研究した結果を評価する、社会のなかで評価する、特に日常の社会のなかで評価するだけじゃなくて、むしろ、その技術の発見と学習によって、イノベーションというのは進んでいくということがわかってきています。

もう一点。自分たちの日常を知ると。意外とわれわれは、自分たちの日常を知らない。たとえば、朝平均して何時に起きて何時に寝ているのかというぐらいは、体験を通じて知ることができるかと思いますが、たとえば自分の子どもが自分の目の届かない所で何をやっているかということは、意外と知らない。

そういう意味で、われわれはもうひとつやらないといけないのは、自分たちの日常を知る。われわれ研究者というのは、実験室に入っていろいろな実験をやっています。たとえば人間を対象とした研究でも、たとえば実験室のなかに来ていただいて、歩き方を実験してみるとか、いろんな研究をやっていますが、むしろわれわれが知らないといけないのは、実験室のなかで非常に質の高いデータを追うよりも、われわれはもっと知らないといけないのは、実験室のなかでわれわれの日常を知っていくということ。

そういう意味で、人間と製品の相互作用によって得られた、いろんな行動データを分析して、製品の再設計をして、既存の産業がどんどんよくなっていく。こういう改善のサイクルをぐるぐると。

これは企業にとっては非常に当たり前で、たとえば何か商品を出して使っていただいて、その結果のフィードバックを得る。そのフィードバックによって製品をさらによくする。たとえば最近、家電製品の修理が無料になったのも、実はこのサイクルを回すためです。

こういうことをぐるぐる回していくと、実を言うとわれわれは無意識のうちに別な行動も、多くの企業はやり始めている。これは何かと言いますと、いろんなデータを集積し始めた。たとえばそうすることによって、これまで顧客満足とか接客構造のデータは、ある種,瞬間のデータがむしろ、このデータが集まることによって、その構造に至ったプロセスの情報がどんどんわかるようになる。

たとえば、コンビニエンスストアに行ってどういうものを買ったかというものは、現在のポスデータシステムによって、コンビニエンスストアというものはものすごくわかるようになってきた。そうすることで、コンビニエンスストアは、どんどんと在庫管理を圧縮することによって、たとえば大規模にモノを売っているスーパーは商売で苦戦し、逆に、定価で小規模に売っているコンビニエンスストアが非常に大きな利益を上げているというところもわかった。

そういうようなデータ集積をすることによって、潜在的な要求をさらに推定し、新しい製品設計を行うことによって、新しい産業が生まれてくる。

つまり、こういうサイクルを回すことによって、新しいステージに、新しいサービスが生まれ、どんどん新しい産業が生まれ始めた。


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