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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2007年03月14日

陸域での生産活動の限界に「海洋の大規模利用」とその影響を考える取り組み(2007.03.14)

水・資源のこと
 
昨年暮れに、「海洋の大規模利用に対する包括的環境影響評価研究委員会(通称IMPACT研究委員会)」との意見交換をさせていただく機会がありました。図表はお伝えできないのが残念ですが、その目的や活動内容についてまとめた論文をご紹介します。 なお、詳しくお知りになりたい方には、文中にも出てきます中間報告書のCD-ROMを送ってくださるとのこと。申込先の情報をこの論文のあとにつけておきますので、ご興味のある方はぜひどうぞ! 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここから引用〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 (メール文での読みやすさのため、改行を入れさせていただいています) 海洋の大規模利用に対する包括的環境影響評価研究委員会
(通称IMPACT研究委員会)の目的と活動内容 1.人口爆発と地球環境問題 紀元には3千万人程度であった地球人口は,産業革命時代に10億人を突破し,2006年には65億人に達している.近年人口増加率は徐々に減少しているとは言え,図1に示すように,2020年には80億人程度になると予想される. 現在の飢餓人口8億人,飲料水不足人口11億人(衛生設備不足人口を含めると水不足人口は37億人)は,資源の不均一な分布と分配が主たる原因であるが,世界人口が80億人に達すれば,総量として資源が不足することも十分考えられる. 図2は,食糧の地球規模での供給限界に関する分析結果である.図中の穀類消費とは,肉類や魚類などの食品も全てそれが生産されるために使われる穀類に換算した値(穀類間接消費)を表している. 穀類間接消費は食生活のレベルを表す指標として用いられているが,そのレベルは地域格差が大きく,アフリカ地域の平均値(200kg/人/年)は,アメリカの平均値(800kg/人/年)のわずか1/4にすぎない.横軸は仮想人口を表しており,各直線はそれぞれのレベルで仮想全人口が同じ食生活を行ったときの穀類間接消費量を示している.図中の2200Mt/年の線は現在の世界全穀類生産量を示しており,世界人口が80億人になると予想される2020年でも,穀類生産量の増加は2400Mt/年までに留まると予想されている. したがって,アメリカやヨーロッパレベルの食生活では,到底現在の人口(65億人)を養うことができず,日本人レベルの食生活でも2020年(80億人)には不足することになる.アフリカレベルであれば100億人でも養えることになるが,当地では飢餓人口が集中し,平均余命は50歳程度となっている. 産業革命以降,人口増加と経済発展に伴う水,食糧,エネルギーの急激な需要増大に対しては,石炭・石油を中心とする化石資源の大量消費により賄われてきた.図3はそのような人間活動が地球環境へ及ぼす影響を概念的に示したものである. 人間活動を支えていくために必要な水,食糧,エネルギーは,主に陸域で化石資源を利用して生産され,そのために陸域の環境や生態系へPressureを与えるとともに,海洋の環境や生態系に対してもPressureを与えている. 地下水の枯渇や,やせ土地の増大,気候変動による生産力の低下など,穀類生産の現状を眺めるだけでも,陸域での生産活動は,持続的な資源利用可能領域を超えて,生産活動そのものへ影響を及ぼしている(Reaction)ことが理解できる. つまり,急激に増加する人口を養うためには,水,食糧,エネルギーのさらなる生産拡大が必要であるにもかかわらず,化石資源大量消費を基礎とする陸域での生産活動は限界に達しているというのが現状なのである. 2.海洋の大規模利用の必要性 図4は,地球上の高さ(深さ)の分布を示している.地球の表面積のおよそ7割が海洋で占められていることは広く知られているが,資源の持続可能性に大きく関係する空間的な分布については案外議論されることが少ない. 陸域の1/3は山地であり,残りの平地のうちでも生産活動が行われている場所は限られている.農業生産の源となる土壌の層は,平均すればわずか20cm程度であり,いかに狭い空間で食糧生産活動が行われているかがわかる. 一方海洋は平均水深が3.8kmもあり,桁違いの空間を持っている.しかも魚類の99%は,海洋全面積のわずか7.5%のである沿岸域で生産されており,持続的生産が可能な未利用資源は多く残っていると考えられる. 水,食糧,エネルギーの生産拡大が急務である現在,図5に示すように,化石資源大量消費を基礎とする陸域での生産活動を抑え,海洋での生産に移行していく必要があると考えている. 水,食糧,エネルギーの持続的生産,あるいは地球温暖化対策としての二酸化炭素排出抑制などに対する海洋の大規模利用技術については,海洋深層水利用,CO2海洋隔離,海洋エネルギー利用など,様々な技術が提案され,基礎研究が進められているが,自然保護,環境保護を謳っている団体のみならず,一般市民や科学者,技術者からも,海洋環境・生態系への影響を理由に利用概念そのものを否定する意見が少なからず出されている. しかし,このような海洋利用は,そもそも化石資源消費の抑制や負荷軽減を目的としているのであるから,現状の化石資源消費,陸域での食糧生産やエネルギー生産などによる環境影響との量的な比較がなければ,議論自体が著しく公平さを欠くことになる. またその結果,利用概念そのものが否定されることになれば,予測されている世界規模の危機に対する回避策の大きな部分を失うことになる.重要なことは,このような海洋の大規模利用技術が本当に現行技術の代替策として有効であるか,技術の導入による地球環境への負荷は本当に持続的資源利用可能領域の範囲に収まるかなどを,定量的に評価できるかどうかである. 3.IMPACT研究委員会の活動概要 日本船舶海洋工学会(旧日本造船学会)は,このような海洋の大規模利用による地球規模での環境へのインパクトを,陸域,大気,海洋の区別のない包括的で公平な統合指標を用いて評価することを目的として,2002年7月に「海洋の大規模利用に対する包括的環境影響評価に関する専門委員会(Inclusive Marine Pressure Assessment & Classification Technology Committee,通称IMPACT専門委員会)」を立ち上げた. その後2005年6月に行われた三学会統合(日本造船学会,関西造船協会,西部造船会が統合され,日本船舶海洋工学会となった)と研究組織体制の見直しに伴い,IMPACT研究委員会を新たに設置し,3年間の時限研究として調査研究活動を継続させた. 表1は,これまでのIMPACT専門委員会およびIMPACT研究委員会の活動内容をまとめたものである.当初は,海洋深層水利用,CO2海洋隔離,海洋滋養など海洋の大規模利用技術とその環境影響評価に関するレビュー,ならびに陸域(農業による環境影響),大気(気象コントロール),沿岸域(埋立て等の沿岸開発)における環境影響評価手法のレビューを行った. 2004年の後半からは,グローバルな環境問題の現状とその評価手法を学ぶため,順応的管理,エコロジカル・フットプリント,環境リスク/リスク管理等の調査を行った.2005年1月に開催された第18回海洋工学シンポジウムにおいて,第1回IMPACTセッションを行い,「海洋の大規模利用は是か非か?」というテーマでパネルディスカッションを行った.このとき招いた各分野の第一人者の方々(表2参照)には,その後もアドバイザーとして助言いただくこととなった(同志社大学和田助教授には別途2006年2月から加わっていただいた). 前述のように,2005年6月,IMPACT専門委員会からIMPACT研究委員会に衣替えしたが,その初年度には,1節,2節に一部紹介したような,水・食糧・エネルギーに関する地球規模での供給限界の分析,海洋利用技術の社会受容性評価に関する検討を開始するとともに,旧委員会の研究成果を取りまとめる作業を行った. なお2006年3月に完成した中間報告書のCD版は,広範囲の研究者に無料で配布している.中間報告書発行の後,これまでの検討結果を基礎として,本格的に包括的環境影響評価指標の具体的検討を開始した. 2006年10月に開催されたテクノオーシャン2006/第19回海洋工学シンポジウムでは,第2回IMPACTセッションを行い,後述する包括的環境影響評価指標の提案を行った. 2007年3月には,表3に示す内容の第1回IMPACTシンポジウムを開催し,現時点での重要検討課題である生態リスク評価ならびに順応的管理の統合方法について学ぶとともに,我々が提案している包括的環境影響評価手法の是非ならびに課題について討論したいと考えている. 3.包括的環境影響評価指標の提案 地球規模での環境影響評価指標としては,エコロジカル・フットプリントや環境リスクなどがある.このうちエコロジカル・フットプリント(EF)は,1990年代にブリティッシュ・コロンビア大学のウイリアム・リース教授と当時博士課程に在籍していたマティス・ワケナゲル博士によって開発された指標で,人間経済活動による資源やエネルギーの利用,廃棄物の処理などに必要な生態系の生産(処理)能力を,生産性のある土地(耕作地,牧草地,森林地,生産力阻害地,生産力のある海域)面積に換算した値で表される. したがって,実際の地球の生産(処理)可能容量(バイオキャパシティー)を生産性のある土地面積に換算した値と比較すれば,人類の持続可能性を測る物差しとして用いることができる. 世界最大の自然保護団体WWF(World Wide Fund for Nature,世界自然保護基金)では,隔年で発行している「生きている地球レポート(Living Planet Report)」の中で,人類全体のエコロジカル・フットプリントの経年変化を紹介している(図6参照).図を見ると,人間活動による生態系の消費は,1980年代に持続可能な経済活動の限界である地球1個分を超え,2001年には1.2個分となっている. このように,EFは土地面積という非常に単純でわかりやすい指標となっているため,ヨーロッパ連合(EU)をはじめ,多くの国・自治体で現在急速に普及しつつある.しかしながら,EFは基本的に現時点での統計データを基礎として計算されるため,将来的な価値や寿命,技術革新などが反映されていないという問題を抱えており,意思(政策)決定に用いる際には,長期的な観点からの比較評価をどう取り入れるかが課題となっている. 一方環境リスク論は,1990年代に東京大学の中西準子教授(現(独)産業技術総合研究所化学物質リスク管理研究センター長)により体系化された概念で,地球温暖化や化学物質の人体への影響などに代表されるような,広域的,長期的環境影響問題に対して,多面的な環境影響評価を行い,リスク・ベネフィット原則により意思(政策)決定を管理するという方法論である. 環境リスク論では,環境影響として現在および未来の経済損失(P1,F1),人の健康への影響(P2,F2),生態系への影響(P3,F3)が,資源消費として現在および未来のコスト(P4,F4)が,ベネフィットとして現在および未来の利益(P5,F5)が,それぞれ環境影響評価の際考慮すべき項目として挙げられている(表4参照). これらは,コスト(C),人の健康リスク(HR),生態リスク(ER)に集約され,最終的にベネフィットとリスクの比(⊿B/⊿R=見返りとしてもたらされるベネフィット/受忍するリスクの大きさ)で一元的に評価される.なお,HR,ERとCの換算に際しては,VH(Value of human life),VE(Value of ecology)が用いられるが,VEの算定には課題が多いことが指摘されている. 前述のように,EFを意思決定に用いるためには,将来的な不確実性をどのように繁栄させるかが課題となっている.リスクは,未来を含む負の価値を確率と事象の大きさの積で表したものであるから,リスクをうまく統合することができればEFに長期的な観点が加わることになる. 一方,環境リスク論では,ERをどのようにコスト換算するかが課題となっている.未来を含む生態系の価値は根本的に人間の経済価値で評価することが難しいが,生物生産量を基本的な価値として考えれば,フットプリントとして換算することが可能となる.すなわち,リスクのうちERはEFに統合可能で,そうすることによりEFに長期的観点を加えることができる. 生態系の視点でのみ評価するのであれば,上記の指標で十分であるといえるが,本研究の目的である意思(政策)決定の判断基準に用いるためには,HRや従来型の経済価値評価を無視することはできない. ところが,HRはVHによってCに統合可能であるので,ERを統合したEFとHRを統合したCの換算が可能であれば,全てを包括した統合指標を作ることができる.そこで,世界の総EFと総GDPの比(ΣEF/ΣGDP)を換算係数として導入することによって,以下のような統合指標Inclusive Impact Index(III, トリプルI)を提案する. III = (EF + αER) + (ΣEF/ΣGDP)(βHR + C) (1) ただし,αは生態リスクのEFへの換算計数,βは健康リスクのコストへの換算計数(= VH)である. 表5に,様々な海洋の大規模利用技術に対する,トリプルIを考える上での項目例を示した.各技術ともに,消費するEF(正で計算)は,CO2の排出と海面の占有面積で計算される.海洋肥沃化,CO2海洋隔離,環境修復技術に関しては,それぞれ湧昇域の創出,CO2の大気中からの削減,生物生息場の創出というバイオキャパシティーの増加(負のEFで計算)が見込まれる.ERおよびHRは,現状(何もしなかった場合)からの増分が正で計算される. したがって,何もしない場合のリスクが問題となるCO2海洋隔離,環境修復技術に関しては,技術を適用したときのリスク軽減が負のERとして加算される.ベネフィットは負のコストとして計算できるが,環境修復技術に関しては,水産物の売上げなどの直接的利益がない場合もある. 比較対象としては,海洋肥沃化については養殖,畜産,養鶏など,海洋エネルギーについては化石燃料,原子力,陸上の自然エネルギーなど,海底鉱物資源開発については陸上鉱物資源開発など,海洋輸送については自動車輸送,鉄道輸送,航空機輸送などとなる.CO2海洋隔離と環境修復技術については何もしなかった場合が比較対象となる. 以上のように,海洋の大規模利用技術に対して,従来の資源・エネルギー生産との公平な比較検討ができる包括的環境影響評価指標として,エコロジカル・フットプリント(EF),生態リスク(ER),健康リスク(HR),およびコスト(C,利益を含む)を統合した,Inclusive Impact Index (III, トリプルI)を提案した.この指標は,ERを直接フットプリント換算するとともに,HRを統合したコストをフットプリント換算するために,世界の総EFと総GDPの比を用いたことに特色がある. 今後,この指標を用いて各種技術・生産活動の比較評価を行い,指標そのものの有効性を確かめるとともに,問題点の抽出を行い,より信頼性の高い指標に発展させるべく検討を重ねる予定である. 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜引用ここまで〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 CD-ROMをご希望の方は、大塚先生までご連絡ください。 〒599-8531 大阪府堺市中区学園町1-1
大阪府立大学大学院工学研究科
海洋システム工学分野 大塚耕司
TEL:072-254-9339,FAX:072-254-9914
E-mail:otsuka@marine.osakafu-u.ac.jp なお、文中にも出ていましたシンポジウムが来週開催されます。ご興味のある方、直接研究者の方々のお話を聞いたり、議論をしたりする機会です。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここからご案内〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 (社)日本船舶海洋工学会 海洋の大規模利用に対する包括的環境影響評価委員会(通称IMPACT研究委員会)では,これまで,海洋の大規模利用による地球規模での環境へのインパクトを,陸域,大気,海洋の区別のない包括的で公平な基準を用いて評価することを目的として活動して参りました. 今回,包括的環境影響評価を行う上で重要な役割を担う「生態リスク」と「順応的管理」について,その最先端でご活躍の研究者を招いてご講演いただくとともに,現在IMPACT研究委員会で行っている包括的環境影響評価の試みについてご紹介し,ご批判,ご助言をいただくことを目的として,下記のようなシンポジウムを企画いたしました. 水・食糧・エネルギーの地球規模での不足が間近に迫っている今日,海洋の大規模利用とその環境影響評価の重要性が増してきております.この機会に,多くの皆様にぜひご参加いただき,ご意見を賜りたく,ご案内申し上げます. 「IMPACTシンポジウム-海洋の大規模利用に対する包括的環境影響評価の試み-」 主 催:(社)日本船舶海洋工学会 海洋の大規模利用に対する包括的環境影響評価研究委員会(通称IMPACT研究委員会)
日 時:2007年3月20日(火)13:00〜17:00
場 所:東京大学本郷キャンパス 山上会館
参加費:無料 プログラム: 13:00 開会挨拶(趣旨説明)
〜13:10 大塚耕司(大阪府立大学大学院工学研究科助教授)
13:10 基調講演1
〜14:00 「包括的生態リスク評価の考え方と可能性」
田中嘉成(国立環境研究所環境リスク研究センター生態リスク評価研究室長)
14:00 基調講演2
〜14:50 「順応的管理と水産資源管理への応用」
勝川俊雄(東京大学海洋研究所海洋生物資源部門助手)
15:00 IMPACT研究委員会報告
〜16:00 「海洋大規模利用の必要性と包括的環境影響評価III(Triple I)」
大塚耕司(前出)
「CO2海洋隔離のIII」
大宮俊孝(東京大学大学院新領域創成科学研究科M2生)
「メタンハイドレート開発のIII」
野尻智洋(東京大学大学院新領域創成科学研究科B4生)
16:00 総合討論
〜17:00 「包括的環境影響評価手法のあり方」 17:30 交流会(参加費:4,000円/人)
〜19:30 参加申込は下記のWEB上からお願いいたします.
http://www.fluidlab.naoe.t.u-tokyo.ac.jp/~buchi/IMPACT/index.html 問い合わせ先:
大塚耕司
大阪府立大学大学院工学研究科
TEL:072-254-9339 FAX:072-254-9914
E-mail:otsuka@marine.osakafu-u.ac.jp
 

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