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エダヒロ・ライブラリー環境メールニュース

2006年12月05日

「報告書:スウェーデンにおける環境税導入の評価」その1(2006.12.04)

コミュニケーション
 
国際NGO ナチュラル・ステップ・インターナショナルの日本支部の高見幸子さんから、大変に重要な調査報告書をいただきました。使ってください、と言ってくださいましたので、ぜひみなさんにも知っていただきたく、何回かにわけて、ご紹介していきます。 ナチュラル・ステップについては、こちら。 ナチュラル・ステップのフレームワークには、「バックキャステイング」「4つのシステム条件」など、だれでもぜひ知っておいていただきたいものがあります。
http://www.tnsij.org/about/flame/f_01.html さらに、ナチュラル・ステップの考え方や活動、事例などは、こちらのブックレットにわかりやすく読みやすくまとめられています。ぜひお勧めします。 『日本再生のルール・ブック ナチュラル・ステップと持続可能な社会』
高見幸子著(海象社)定価1000円
http://www.amazon.co.jp/dp/4907717873?tag=junkoedahiro-22&camp=243 目次 はじめに  2 持続可能な発展のルールとは  6
環境問題 新しいゲームの「ルール」...............6
「漏斗」になった私たちの社会...............7
漏斗の壁を避けることによる利益...............10
自然循環について...............13
地球環境樹の幹と枝と葉とは?...............19
持続可能な社会の基本原則...............26
組織や企業の持続可能性の究極の目的とは?...............29 [4つのシステム条件]を導入する  39
[4つのシステム条件]は意思決定のためのガイダンス...............39
ナチュラル・ステップのフレームワーク(枠組み)...............41
地元産か、輸入オーガニックトマトか?...............45
ナチュラル・ステップのフレームワークと環境対策の位置づけ...49 自然循環型社会  57
循環型社会と自然循環型社会の違い...............57
自然循環型社会構築へのチャレンジ...............60 [4つのシステム条件]の活用成功例・・67
イケア社の事例...............67
日本の事例...............78
環境対策のWhyよりHowを早く導入する日本企業...78
ナチュラル・ステップのルールを使った持続可能性分析と第三者意見報告書のニーズ...82
CASE1-松下電器82/CASE2-業種の異なる3企業91
自治体の事例...100
CASE-市島町100 おわりに  104
日本再生、成功への鍵...............104
結論...............106
参考文献 さて、ご紹介が長くなりましたが、今回いただいたのは「スウェーデンの環境税についての調査報告書」です。 図はお見せできないのが残念ですが、私たち日本が真剣に考えるべき内容ですので、ぜひ読んでみてくださいね。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ここからご紹介〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 報告書:スウェーデンにおける環境税導入の評価
2006 年1 月 国際NGO ナチュラル・ステップ・インターナショナル日本支部 高見幸子 <報告書の概要>
スウェーデンは、世界一税金が高い国として知られている。また、望ましくない社会現象を軽減するための誘導政策に税金を最も使っている国だとも言われている。典型的な例が、非常に高いタバコ税と酒税である。その結果として喫煙者率は、長年低いレベルを保っている。アルコール患者の問題は残っているが、酒税によってアルコール患者の増加が抑制されている。 また、今年1月3日より、ストックホルム市内の渋滞問題を解決するために、渋滞税の実験が始まった。市内に車を乗り入れると時間帯によって75 円―300 円の間でとられることになった。すると、市内の車の数が25%減ったという結果が出ている。 こうした背景を考えると、スウェーデンがデンマーク、ノールウェーとともに、地球温暖化問題の解決のために、問題が明確になった1990 年代のはじめに世界に先駆けて炭素税を導入したことは自然な成り行きだったと思う。 地球温暖化政策としての課税には、炭素税、エネルギー税のほかに、メタンガスを減らすことを目的として2000 年に導入された埋め立てに対する課税もある。また、硫黄税や、原子力発電所による発電にかかる税金など様々な税金がある。 今回の報告書では、それらの環境税の中で、日本でも導入の議論がされており、関心が高い炭素税とエネルギー税と車両燃料に関する課税に焦点をしぼった。そして、政府と企業と国民が地球温暖化政策として導入された環境税をどう評価しているかを調査した。 <調査報告の内容項目>
1.スウェーデンの地球温暖化防止戦略と成果
2.政府による環境税の評価
3.企業による環境税の評価
4.国民による環境税の評価
5.エコカーの普及、拡大政策に関する最新の動向
6.バックキャステイングについてのスウェーデンと日本の差異の分析 <調査方法>
環境省から発行されている地球温暖化対策とその成果についての報告書
環境雑誌の記事
環境保護庁の環境税担当者への電話インタビュー
ボルボ社の副社長への電話インタビュー
自治体のエネルギーアドバイザーへの電話インタビュー
NGO ナチュラル・ステップ創設者へのインタビュー この報告書は、「環境を考える経済人の会21」の助成によりナチュラル・ステップが作成した。 <1.スウェーデンの地球温暖化防止戦略と成果> スウェーデンの地球温暖化防止戦略
スウェーデンは、2002 年に国会で京都議定書の批准を決定した。その内容は、2008 年―2012 年の間に温室効果ガスの排出量が1990 年のレベルの104%以上を超えないということだ。(4%増えても良いという理由は、図にもあるようにスウェーデンは既にかなり脱化石燃料社会を築いてきている状態であることと、原子力発電所を廃止していく方針があるため、EU 全体の中での割り当てで、+4%ということになった) 同時に、現在のスウェーデンの地球温暖化防止の短期戦略・長期戦略も導入された。短期的な地球温暖化防止の目標は、2008年―2012 年の間に、温暖化ガスの排出量を1990 年のレベルより少なくとも4%低くすることだ。それは、森林による吸収(3%)と排出権取引のメカニズムに頼らないで達成するとしている。 長期的なスウェーデンの目標は、京都議定書に書かれているように、6つの温暖化ガスの大気中の濃度を550ppm より低いレベルに安定させることである。スウェーデンは、グローバルなレベルでこの目標が達成できるように国際的にリーダーシップをとって活動すると宣言している。 そして、その長期的目標を達成するために、2050 年までには、国民一人当たりの温暖化ガス排出量を二酸化炭素に換算して、年間4.5 トンにし、その後、さらに減らしていくべきだとしている。そして、そのためには、国際的な協力が必須な要素だとしている。それゆえに、EU と国際的な舞台で、コミットメントをしていくことを戦略としている。 2002 年に打ち出した地球温暖化防止戦略によると、国の目標と具体的な施策は、常にチエックし、2004年と2008 年に評価し報告することが決められている。 1990 年―2005 年に導入されたスウェーデンの地球温暖化防止政策の重要なツール
・エネルギー税と炭素税
・再生可能なエネルギー源による発電への補助
・1998 年―2002 年省エネ対策への補助
・地方自治体の環境対策と雇用増大対策への助成金
・廃棄物処理に関する規制と課税
・エコカーと交通輸送用のバイオ燃料の免税
・2002 年―2003 年国民への地球温暖化の啓発・情報キャンペーン
・自治体の地球温暖化対策支援
・2003 年 電力認証制度導入
・2002-2007 年省エネ対策への援助
・京都議定書の排出権取引とEU の排出権取引をリンクする
・2004 年 エネルギーを大量使用する業界の省エネプログラム 京都議定書に批准した国は、どの国も目標達成の困難さに直面している。現在のところ、京都議定書の中で決められた自国の温室効果ガス排出削減の目標値を達成できると予測されているのは、英国とスウェーデンだそうだ。 スウェーデン政府は、スウェーデンが京都議定書の目標を達成できるのは、1990 年から2005 年の間に導入してきた政策の成果だと評価している。そして、国際的に、スウェーデンの経験を参考にしてもらおうと、2005 年の秋のカナダで行われた地球温暖化防止会議に向けて、スウェーデンの地球温暖化防止対策とその成果を報告書「The Swedish Report on Demonstrable Progess」Ds2005:57 にまとめた。 全体的な評価同報告書では、総括的な評価として以下の6点が挙げられている。 ①GDP と温暖化ガスの排出量は比例しないことを実証した。総括的に見ると、重要な成果は、GDP と排出量が比例しないことを実証したことだ。 例えば、1990 年―2003 年までの間にスウェーデンのGDP は平均1.9%成長した。1990年代の初期にはGDP は下がったが、1994 年から平均3%で成長している。このように、スウェーデンでは経済が成長したにもかかわらず、温室効果ガスの総排出量は増えていないのである。つまり、この事例は経済成長すると排出量が増加するという伝説を否定したといえる。 ②排出量を最も多く削減できたセクターは、住居・サービスセクター(民間施設、病院、保育園、高齢者福祉施設など)と農業セクターと廃棄物セクターだった。排出量が増えたのは交通輸送セクターだった。 住居・サービスセクターにおける二酸化炭素排出量の削減は劇的である。1990 年-2003 年の13年間に、40%(年間430万トン)削減できている。この削減の傾向は既に70年代から始まっている。 削減対策としては、各建物にあった石油ボイラーの地域暖房システムへの切り替え、ヒートポンプの使用の拡大、そして木質バイオマス燃料の小規模暖房施設の増設が挙げられる。この期間には、地域暖房が劇的に増えたにも関わらず、地域暖房の熱生産における二酸化炭素の排出量は減っている。これは木質バイオマス燃料の使用が急増したことによる。 ③発電と発熱による温室効果ガスの排出量が年によってかなり変化している。 例えば、1996 年と2003 年の温室効果ガスの排出量が多い。その理由は、その年は、雨が極端に少なかったため水力発電による発電量が減少し、火力発電を増やしたため温室効果ガスの排出量が増えたためである。 ④工業用の熱とプロセスにおける排出量には変化がない。温室効果ガスの排出量のほとんどが、少数のエネルギーを大量に使用する鉄鋼業によるものである。 ⑤交通輸送セクターにおける排出量は継続的に増えており、1990 年と比べると10%増えている。 増加分のほとんどが、重量トラックの運送距離の増加に起因している。背景には、産業界において、貿易が増え、生産が一箇所に集中し、また特殊化していっていることが挙げられる。 自動車交通における排出量は、重量トラックほど増えておらず、1990 年-2004年の間で約4%増加したにすぎない。交通移動距離が増えたにも関わらず、自動車からの排出量が低かったのは、自動車の燃費が良くなったことと、過去2-3年に、バイオ車両燃料が使われるようになったことが理由である。 ⑥農業からのメタンガスと亜酸化窒素が約9%削減した。理由は、家畜農家が減ったことと、化学肥料と家畜屎尿の使用が減ったことである。 ごみ埋立地からのメタンガスが32%減ったのは、既存の埋立地から発生するメタンガスを利用するようになったことと、生ごみの埋め立てが激減したことによる。 総括的な成果 スウェーデンの地球温暖化防止政策の総括的なアセスメントによると、もし、現在の政策が取られていなかったとすると、2010年において、温室効果ガスの排出量は20%増えることになる。 スウェーデンは、森林の二酸化炭素吸収率3%を除外しても京都議定書の目標値を達成することができる。スウェーデン政府は、この成果を地球温暖化防止戦略と誘導政策の成果だと評価している。 しかし、将来の予測によると、2010年以降に、更なる誘導政策が導入されなければ、高い率で排出量が増えることになる。主な理由は、スウェーデンの原子力発電所が40年の寿命を迎え、減少した発電量を天然ガスで代替することが予測されるからである。また、重量トラック輸送が増え続けることも予測されている。京都議定書の次の対策は、大きなチャレンジとなっている。           <   つ   づ   く   >
 

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